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マーク・サビカス博士「コロナ禍におけるキャリア支援」 オンラインインタビュー(前編)

インタビュー

個人

2020.10.30


マーク・サビカス博士は、ナラティブアプローチ・社会構成的キャリア理論で有名な21世紀を代表するキャリアの理論家です。
・オンラインインタビュー日:2020年8月27日 日本時間21:00~
・インタビュアー:水野みち、五十嵐賢、
・翻訳:水野みち
※インタビュー映像は、JCDAと共同で11月中旬に無料視聴できるように編集中です。
水野:今、コロナ禍において、人々の働き方や生き方が大きく変化しています。今日は、ぜひ、このような状況の中で、キャリアカウンセラーとして何を大切にし、クライエントにどのような支援を提供すべきか、先生のメッセージをいただきたいと願っています。
JCDAがコロナ禍(2020年7月)に行った会員への調査によると、前年比で増加したキャリア相談のうち、特に今回注目したいのは以下の3つです。
1.孤独や不安などのメンタルヘルス 28%
2.生活困窮 20%
3.夫婦関係、親子関係、介護など 12%
相談の傾向が日本の現状を物語っています。アメリカでも同じ状況かもしれませんが(サビカス:そうですね)。日本のキャリア支援者へメッセージをいただけますか?

「不安」に名前をつける

サビカス:具体的な話になる前に、一般的に「不安anxiety」について触れておきましょう。不安は恐怖(fear)とは違います。「恐怖」は、何かが起こると分かっていて、その影響を分かっている状態です。「不安」は、それよりも良くない状態です。不安は、未来が来るのは分かっているのに、そこに何が起こるのかという予測がつかないときに起こりがちです。対象がなく、漠然としており、様々な場面で影響を及ぼします。家族や友人とのコミュニケーション、睡眠、など。聖書の創世記に扱われている話に、このようなものがあります。エデンの園にて「人」が誕生した際、神が最初に与えた仕事は「動物に名前をつけなさい」というものでした。そうすることで、彼らを統治することが出来ると言いました。聖書の話ですが、人が最初にやるべきことは、名前をつけるということだったのです。そして、未来の「(得体の知れない)動物」に名前をつけるということは、キャリアコンサルタントの支援に通じます。不安を明確にし、言語化するのです。何が未来に起こりえるか。言葉が見つかれば、対応、適応できます。言葉でナラティブにすることで、得られる効果があります。
人は具合が悪くなった際に病院に行きますが、その時欲しいのは「診断名」です。言葉が欲しいのです。(得体の知れない)動物に名前がつけば、対応しやすくなります。
もし、支援者がインターネットなどで個々人に対応できるのであれば、積極的傾聴を通じて、不安を言葉にできるよう支援をしてください。すると、不安に対しての対応が見えてきます。特に新しい手法ではないのですが、私たちが出来る最善の仕事です。調査で「不安」が最初に掲げられたので、お伝えしました。
不思議な表現に聞こえるかもしれませんが、もし、「不安」を「恐怖」に変えられたのならば、それそのものが支援になり得るのです。恐怖や恐れには対象があります。具体的な敵や、動物が。一方で不安は、ただあちこちに漂い、厄介です。未来に対する言葉がない、未来の概念がないということになります。ですから、最初のステップは、とても大切なことですが、15分~1時間ほど、積極的傾聴をすることです。これは、みなさんに通じますか?

生活困窮の相談には勇気付けを

2つ目は何でしたか?「生活困窮」ですね。生活困窮は、生存の欲求に通じることです。キャリア支援者にとっては対応しにくい課題もあるでしょう。社会福祉やソーシャルワーカー、行政の手を借りる必要もあるでしょう。求職活動の支援ができても求人がなければ打つ手がない。
今、日本のコミュニティでどのような資源があるのか分かりませんが、私のコミュニティでは、支援が必要な人が適切な支援を受けられるように「つなげる」ことが大切になっています。生活困窮に向き合うには、勇気が必要です。そこには、恐れる対象があるのです。不安とは違います。私が大切だと思うのは、励ましと勇気付けです。おびえて、自身を恥じ、閉じこもったり、隠れたりしないでほしいのです。コミュニティに一歩出て行く勇気を出してもらう支援が必要です。
「助けてほしい」と声をあげる勇気を出すことが大きな一歩です。多くの人にとって助けを求めることはとても難しいことです。Courage(励ます)という言葉の語源はフランス語で、「心臓」という意味があります。励ますと、脈が速くなり、心臓が活発に働きます。一方で、Dis-courage(打ちひしがれた)という言葉は、心臓の前に「Dis」とつくので、心臓が弱くなる状態です。恐れによって手足が冷たくなります。
みなさんの納得の行く知恵になるか分かりませんが、不安に対しては共感や積極的傾聴をお勧めします。生活困窮に対しては、第一のアプローチとして勇気付けが必要です。勇気付けとは、相手が行動を起こす勇気を持てるように、励ましの言葉を伝えることです。何かに挑戦する意欲を持てるようにすることです。後で参考になりそうな資料をお送りしますね(参照:10 Encouraging Sentences Tom Sweney)。希望を持ってもらえる10の文章が書かれています。

仕事を失うことで他の大切なことまでも失わないように

3つ目は、人間関係、特に「夫婦関係、親子関係、介護等、家族に関する相談」でしたね。
はい。これはとても大切です。もし、うまくデザインされた人生があるとして、その要素は4つほどあるでしょう。
1つ目は、意味を感じられる仕事をしていること(それは、家の外でも家のことであっても)
2つ目は、遊び、友情、余暇、人間関係があること
3つ目は、家族や愛のある誠実な関係性があること
4つ目は、精神性(Spirituality)や信仰のコミュニティを持っていること
その4つが概ね揃っていれば、「良い人生」と言えるでしょう。いずれかが欠けていると、人生がどこか物足りなくなるかもしれません。
コロナや他の転機などで、仕事を失ったとしたら、一つの役割を失うことになります。
精神分析で有名なフロイトは、仕事は、「最も根本的な現実世界とのつながりだ」と表現しました。例え打ちひしがれた人でも、1人で仕事をすることは出来ます。危機的に感じるのは、人が仕事を失った時、実は打撃を受けるのは仕事以外の3つだということです。
中心的な役割、中心的なアイデンティティは、私たちに「出来る」という感覚や、うちの外でも中でも、大切なものやコミュニティに貢献できるという感覚を持たせてくれます。
今、私自身がコロナウィルスについて最も危険を感じる点は、仕事の役割の喪失が、無力感や怒り、フラストレーションにつながりやすいということです。すると、家庭内で怒りを爆発させ、防衛機制の働きから愛する人に暴言を吐くこともあるでしょう。そうしたくないのに。また、家族や大切な人を養えない自身を恥じるあまり、隠れようとするでしょう。
ですから、仕事の役割を失った際、どうか、残りの3つ(余暇、愛、精神性)を失わないようにベストを尽くして下さい。愛するパートナーと口論し、子供に嫌われるような行動をとらないこと。友達を避けたり、愚痴や不満を言い過ぎて「もうあなたとは話したくない」などという関係に陥らないように。家族との良好な関係を壊さないように。自分の精神性を失わないように。仕事を失うことで、他の3つまでを失わないようにして欲しいのです。
とてもシンプルに聞こえるかもしれませんが、JCDAやキャリアコンサルタントの皆さんも、様々なコミュニティにつながってください。この厳しい時代に1つの役割を失ったせいで自分を失くさないように。「De-story」しないように。自分の人生の物語を崩壊させないように。友人や家庭を壊さないよう、家族や友人達としっかりつながり、その上で勇気を出して外に出て行動し、希望が持てる未来を築きましょう。とにかく他の役割を失わないことです。役割の喪失は、自殺につながりかねません。多くを失いすぎてしまうからです。
これが、私がアンケートで判明した3つの悩みを見て考えることです。
不安には共感を。
貧困と戦う人には勇気付けを。コミュニティやリソースとつながって戦えるように。
色々な役割を活性化し、強化できるように。仕事の影響で、その他の役割までを失わないように。
無理に賛成する必要はありませんが、私の言わんとすることは伝わりますか?
水野:はい、すごく伝わります…すべての要素がつながっているのですね。
サビカス:そうです、、、(つづく)

今回はインタビュー前半をご紹介しています。
サビカス博士は、思慮深く、穏やかに愛情を持ってお話をしてくださり、聞いているだけで内省が進みました。途中でついつい「私もコロナ禍で子供にがみがみ言いすぎてしまいました・・・(><)」なんていう自分の打ち明け話までしてしまいました(笑)。世界中が大変な状況ではありますが、今回のような試みを思い切って企画できたことも、チャンスにつながるハップンスタンスでした。みなさまの心身の健康と、多くの方々への支援につながることを願っています。