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【中編】中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~

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2022.4.22


この記事では、前回に引き続き、2021年12月1日イベント「キャリアの発達を通して実現できる人と社会の成長とは~新・キャリア発達モデル『9つのテーゼ』のご紹介~」から、中原淳教授の講演の一部や、研究員のコメントをご紹介していきます。今回中編は、テーゼ5~9を取りあげます。
【記事作成・編集】 海野 千尋(NPO法人ArrowArrow代表)・水野みち(キャリアのこれから研究所所長)
■前編:中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~ こちら
■後編:中原淳教授と語るこれからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ(5月上旬掲載予定)
5つ目のテーゼは、「生産性と人間性を両立させよう」です。生産性とは何か?人間性とは何か?これについてはみなさん色々なイメージを持たれることと思います。
水野:「キャリアを考える際に欠かせないのは、人間性の部分、つまり自分らしさの発揮や、自分がやりたいこと・好きなこと、自分が大切にしていることを探求していこうという方向性です。しかし、同時に仕事には会社としてのミッションやゴールがあり、与えられた仕事から成果を出していくという生産性の視点もあるわけです。これまで、この2つは対立的に描かれることが多かったようです。しかし、AI化が進むこれからの時代において、この2つは対立するものではなく、両立させるものとなりつつあります。
つまり、人は機械的な働きを期待されているのではなく、自分の人間性を表現し、創造していくことが、生産性の高い仕事につながるという視点が主流になってくると考えます。これが5つ目のテーゼです。中原先生は、このテーゼについてどのようなことをお考えでしょうか?」
中原教授:「一番大事なことはその人の『Being(存在)』を活かすことではないでしょうか。今後、さらに機械化・自動化が進み、人工知能が発展していく中で、私たちは代替されない仕事を探していくでしょう。なかなか機械に代替されない仕事とは、私たちの「存在」を活かす仕事です。私たちが「自分」という身体・キャラをもち、人とやりとりを行い、即興的に物事をつくりだす仕事が、最も代替されないでしょう。
そのような仕事において大切なのは『この人と一緒に働きたいな』という人間であるかどうかではないでしょうか。その人の在り方である『Being』に共感が集まるかどうかが、重要なのではないでしょうか」
水野:「『Being』を大切にする、いい言葉ですね。まさに人間性の部分ですね。ちなみに、中原先生ご自身はBeingを大切にするために、どのようなことを心がけていらっしゃいますか?」
中原教授:「成長のための鏡を持っています。これを別の言葉に置き換えると、フィードバックを受けるようにしている、ということです。自分のことは自分では分からないからこそ、耳の痛いことであったとしても他者から『あなたはこんな風に見えていますよ』と言われたり、『どうしてそれをするんですか?』と問われたりした方がいい。年齢や役割がついていくとフィードバックをもらえなくなってくるんですよね。だからこそ鏡を持つ意識をすることが必要に感じます。私は今まわりからどんな風に見えているか?私がおこなった仕事はどんな結果となり、どんな影響を及ぼしているか?を意識するのです。」
ロボットに代替される仕事が増えるからこそ、私たちの「Being(人間性・在り方)」は大切になってくると言えます。そして、そのBeingは、意外と自分だけの視点では偏りがあったり、気づけなかったり。だからこそ、自己認識に頼るだけではなく、他者からのフィードバックや客観的視点を歓迎し、Beingを磨いていく、発見していくということが大切だということを中原先生の言葉から考えさせられました。
みなさんはご自身の人間性ーBeingと生産性をどんな風に捉えていますか?
6つ目のテーゼは、「あるべき自分とありたい自分の両方を意識しよう」です。これもまた広い概念です。
中原教授:「かつて、あるビジネスパーソンがこんなことを言っていました。『やりたいことは何ですか?』と聞かれますが、そんなものはありません。やらなきゃならないことが仕事でしょう?と。それを聞いて、もしかしたら、多くの人にとって自分のありたい姿を考えることは苦手なのではないかと思いました」
中原教授:「自分の目の前にやってきた仕事も、『こうあるべき』『こうやるべき』だけで留めずに、自分はなぜそれをやるのか、という側面で考えることは必要なのかもしれません。私も仕事の依頼を引き受ける際、あるべき・ありたいを含めて『なぜ自分がやらなきゃならないのか』ということを考えます。もっと私よりも優秀な人・スキルを持っている人もいる。でも、この仕事を自分がやるのはなぜなのか。そんな風に目の前の仕事から捉え直すことも必要だと思います」
水野:「キャリア形成においても、他者からの期待や社内での役割によって『あるべき自分』を求められることは多いと思います。一方、心の内から沸き起こる『ありたい自分』の存在があるのも確かだと思うんです。この両側面があって、自分自身の発見や、キャリアを築くプロセスに繋がっていくのだと感じています」
あるべき自分は他者や求められること、という外側の視点だとすると、ありたい自分は自分の内なる視点。その双方の視点があることで、ある種のイノベーションが生まれるとも言えます。
ありたい自分の姿、みなさんにはどんな風に見えていますか?

7つ目のテーゼは「ビジョンとリアリティの両感覚を磨こう」です。

水野:「中原教授にとって、ビジョンとはどのようなものですか?」
中原教授:「私は2020年に立教大学で新しい大学院を立ち上げたんですが、その時は解像度の高いビジョンをイメージするよう意識しました。10年後にどういう卒業生が輩出されているか、日本の企業・人事部はどう変わっているか、研究者はどのように変わり、どのように育成されていくのか…」
中原教授の自己紹介時、新しくつくった大学院のことにも触れられていました
水野:「社員に将来のビジョンを描くことを推奨する会社も増えている中、なかなか描けなかったり、自分の願うビジョンではなくて上司の期待するビジョンを描いたりという社員が多いとお聞きします。ビジョンを描くのが難しいという声に対して中原先生はどう思われますか?」
中原教授:「大きなことでなくてもいいので、ビジョンを描いてみるっていうのは大切だと思います。やはり、自分がこの世界の一部をどうしたらより良くできるか、どんな風にアップデートできるか、ということを考えていくことだと思います。」
自分自身の内側からビジョンを生み出すことが難しければ、まずは自分が今存在している世界をどうしたら良く出来るのか、そのために自分は何ができるか、そんな問いかけから探求してもいいのかもしれません。テーゼ7では、ビジョンと同時にリアリティも大切にしようと言っています。今の状態や状況はどうなのかという「現実(リアリティ)」をしっかりと持つからこそ、スタート地点と向かう方向が明確になり、アクションが見えてくるのではないでしょうか。
みなさんにとってのビジョンはなんですか?リアリティも見えていますか?
8つ目のテーゼは「これはとても大事なことですね!」という中原教授の言葉から始まりました。
中原教授:「葛藤や違和感がゼロということの方が危険だと思うんですよ。最近さまざまなストレスに関する研究でも主張されているのですが、仕事・会社組織でのストレスにも2種類あると言われています。
1つは目標の達成を妨げるヒンドランスストレッサー(Hindrance stressor)というもの。ヒンドランスとは、障害という意味です。そしてもう1つはチャレンジストレッサー(Challenge stressor)という、挑戦やチャレンジをするときに感じる成長痛のようなもの。適度なチャレンジストレッサーはポジティブな成果をもたらすとも言われています。
高く跳躍しようとするとき、どうしてもストレスを抱えモヤモヤしたり違和感を抱いたりすると思うのですが、それは自分の内面を成長させたりスキルを高めたりすることにつながるんです。」
水野:「葛藤の渦中にいる人にとっては大変だと思いますが、それが成長につながるというのは、勇気づけられる言葉ですね。ストレスは全て悪いものだと思ってしまうと、当人も周囲もなるべく早く取り払ってしまおうと考えがちです。でも、いい成長痛を感じているな、なんていう発想を持つと悩みへの見え方が変わりますね。逆に、葛藤のない時は自らチャレンジに乗り出すタイミングかもしれません。」
中原教授:「私は、学生の成長を促すために2つのことを伝えています。まずは舞台に上がろうと。そして一生懸命演じてみようと。なりたいものをイメージして演じるということは、大事です。自分が演じた先にあるものにしか、自分自身がなれないからです。舞台に上がることは、とても緊張すると思います。でもね、緊張しても葛藤してもいいんですよ。チャレンジストレッサーは成長につながるのだから」
キャリア支援者にとっても、葛藤や違和感の中に居続けることを恐れないというスタンスが大切だと言えます。この葛藤・違和感は、どんな気づきをもたらそうとしてくれているのか?そんな風に視点を変えて見つめることができるかもしれません。
あなたは今、こころの成長痛を感じていますか?
9つ目のテーゼは、「計画しつつも、アジャイルな行動を取ろう」です。
水野:「キャリアにおいては、慎重に周りを埋めていかないと一歩を踏み出せない人や、しっかりと計画通りに進めたいという人も多いと思います。それも大切ですが、これからのキャリアは予測不能で、変化が激しいとも言えます。計画しても突然がらがらと状況が変わっていく。そのため、小さな1歩をアジャイルに踏み出し、小さなお試し行動に取り組んでみるということが必要だと感じています」
中原教授:「そうですね、『わかる』から『やる』のではないんですよね。『やる』『やってみる』からはじめて『わかる』ということに繋がっていくことがあります。
学生からもよく『先生、最初に全体像を教えてください』と言われるんですが、『知りません』と伝えます(笑)。行動が先にあって、全体像が見えるのは後なんですよね。今日何度も触れていますが、とにかく、行動すること。これが一番大事だと思います
変動が大きい社会状況では、計画を立てて全体像を想定し進めていくことそのものが難しくなってきています。だからこそ、分からなくても「やる」「やってみる」。IT業界では馴染み深いアジャイルという言葉ですが、キャリアにおいても、すばやく動くことをも兼ね備えることでキャリアの構築に繋がっていくのかもしれません。
みなさんは今、自身のキャリアに対してどんな行動を起こしていますか?

「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」の実践者・体現者でもある中原教授は、教育者としても多くの大切なメッセージやご自身の体験談をお話してくださいました。今回のお話が、今キャリアで悩んでいる人や日常に変化を起こしたい多くの人が、勇気づけられたり次の一歩につながったりと、参考になりましたら幸いです。
次回後編は、イベント当日に参加してくださった研究員の伊達さん、高橋さん、斎藤さんのコメントをお届けします!
■イベントの内容をダイジェストにまとめた グラフィックレコーディングデータ
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中原淳教授(なかはら じゅん 以下中原教授)

立教大学 経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。専門は人材開発論・組織開発論。
北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2017年-2019年まで立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム主査、2018年より立教大学教授(現職就任)

Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/
Twitter ID : nakaharajun

民間企業の人材育成を研究活動の中心に、近年は横浜市教育委員会との共同研究など、公共領域の人材育成についても活動を広げている。2021年より、文部科学省・中央教育審議会・臨時委員。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人 Educe Technologies 副代表理事、認定特定非営利活動法人カタリバ理事、一般社団法人ピアトラスト理事。
専門性:人材開発・組織開発  趣味:人材開発・組織開発
特技:人材開発・組織開発   大好物:人材開発・組織開発
「画狂老人」と号した葛飾北斎をリスペクトし、自らは「学狂老人」として一生涯、「学び」にまつわる研究を行おうとしている。現在は「学狂中年」。