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ニューノーマル時代を切り拓く「新・キャリア発達モデルの研究会」~一緒に考えませんか?~ Vol.1

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2021.4.30


【研究会の目的】
新たな「キャリア発達モデル」の仮説提唱
2021年3月31日に第1回目の研究会会合を行いました。
参加者は社外専門家として高橋浩さん、伊達洋駆さん、齊藤光弘さん、酒井章さん。社内メンバーとして私、水野みちをはじめ、嶋美乃、和泉浩宣、緒方雪絵、荒木美玄が参加しました。
研究会メンバーの一覧やプロフィールは、ページ下部にあります。

ニューノーマルの時代のキャリア発達モデルの必要性

コロナ禍を経て、ニューノーマルの時代が来たと言われています。みなさんの実感値としてはいかがでしょうか?ダボス会議で提唱されるグレートリセット、この際、環境改善も図ってしまおうというグリーンリカバリー、経営心理学者たちの提唱するマインドシフトなど、新たな言葉も世界的に出現しています。その背景にあるのは、大きな変化を迎え、世界が復興するならば同じ形に戻すのではなく、新たな発展を目指したいという進化への願いです。
私たちは何を学び、どう進化したのか?「キャリアのこれから研究所」では、キャリアの発達を研究しながら、この大きなうねりも客観的に捉え、俯瞰的・複合的な視点を持ちたいと考えています。
今、日本のキャリア支援の現状はどうなっているのでしょうか?2021年3月末に「第11次職業能力開発基本計画」が発表されました。国が指針とする今後5年の計画です。そこには、自律的・主体的、キャリア形成支援、キャリアコンサルタント、キャリアコンサルティングという言葉が散見されました。人口減少・少子高齢化、産業構造の変化や雇用の流動化、IoT/AIビッグデータなどの第4次産業革命、DX化など、様々な課題対応の一つとしてキャリア形成支援に期待が集まっています。

日本社会にあったモデル

課題や方針は分かりましたが、日本社会の現場の様子はどうでしょうか?例えキャリア支援の先進的な取り組みをスタートした会社であっても、現場社員から次のような生々しい言葉を聞くことはめずらしくありません。

「自律っていうのは分かった。でも、どうふるまったら自律人材になれるの?」
「自律人材を育成する新人事制度って言われても、結局は体のいい人減らしでしょ?」
「会社都合で突然ルールを変えられて、自分たちは被害者だ」
これらの言葉を聞いてどう思われますか?人事の方々には直接届きにくい声かもしれませんが、日本社会のリアルです。「枠組み(仕組み・制度)」を取り入れても、現場ではハレーションが起こるということが分かります。ただ、それが悪いわけではありません。大切なのは、手段に囚われすぎるのではなく、目標とする姿に近づけているかを観察する視点です。そのためにも、目標とする個人と組織の姿を私たちは地に足の着いた形でイメージ出来ているかということに注目したいと考えています。
今回、キャリア発達モデルを考えるにあたり、各種ジレンマに振り回されないようにするためにも、以下のステップを先行研究や事例を調査しながら歩むことにしました。
1. 現状を観察する(歴史も含めて):
 ①日本の歴史や文化、雇用慣行
 ②成人の発達理論・キャリア発達理論モデルの実態と効果・今後の課題
 ③組織の成長の実態と効果・今後の課題 ~組織開発の視点から~
2. キャリア発達の姿を描く:日本におけるこれからの個人と組織の発達を描く
3. 現状から発達に向かう上で必要な要素を洗い出す
今回は、1-①である「日本の歴史や文化、雇用慣行」を中心に議論しました。研究員の発言や論旨をふまえながら、解説を加えています。
齊藤さん:「日本型雇用、歴史的背景、文脈、これらはとても大切で、私の専門とする組織開発の中でも、今起こっている不都合な状況を単純に変えるのではなく、どんな必然性があってそうなっているという視点をたどることをとても大切にしています。そんな中で、改めて今問うてみたいのは、新しいキャリア発達のモデルを考えていく上で、どういうふうに考えると皆さんがキャリアを構築しやすいか?ということです。国民性、日本人が元々持っているメンタリティ、時代の変化を活かしたキャリアとは?にもつなげていけるといいですね。」

日本はどういう文化性を持つのか?

欧米のものを単純に輸入しても上手く行かないと言われる背景として、日本文化の特異性が語られます。日本はどういう文化、性質を持つのでしょうか?日本人について書かれた様々な文献で主に紹介されるのは、次のような特徴です。
・礼儀正しく規則を守る、秩序がある、実直、仕事熱心
・新しい物好き(ミーハー)、他から学習し自らに適応させる能力が高い
・世間や面子を気にする、集団帰属意識が強い、周囲に合わせることを良しとする(右にならえ)、他人に迷惑をかけたくない、恩の貸借(恩返し、恩に報いる)
・階層への信頼(タテ社会)、「場」「直接接触」を重んじる
・内と外でダブルスタンダード(二面性)がある
・母性社会(理や正義より情やつながり)        …など
あくまでも傾向という視点ですが、そうかもしれません。また、河合隼雄先生は、日本を「中空構造」と表現しました。八百万の神がいる日本では、一つの思想や考えの統合よりも、対極による均衡を維持してきたという考えです。ある種の「あいまいさ」が均衡を保っているというのです。強い決断者がいない、責任の所在が分からない、コンセンサスの社会(印をつく人が多い)、ダブルスタンダードの社会と言われる由来かもしれません。
精神科医である土居健郎先生は1971年の著書『「甘え」の構造』で、日本人は周囲の人に好意を持ってもらいたいという他者依存が強いことを指摘しています。
本来とても甘えたい。他者に説明しなくても「分かってもらいたい」意識が強いこと、「すねる、ひがむ、ひねくれる、うらむ、たのむ、恐縮する、とりいる、気がね、すまない、くやむ、なめる、くってかかる」が甘えの構造をはらんだ日本特有の心理であることを指摘しました。
日本は母子未分化な国民性を持つと言われると、考えさせられますね。確かに、「そんなにすねるなら、はじめから言えばいいのに」という現象は日本的な気もします。また、土居先生は「甘えと自由」「内と外」、「罪と恥(欧米は罪の文化で日本は恥の文化)」など、現代でも色あせない日本人論を展開しています。改めて、日本人にとって集団から反して孤立することは、それこそ皮肉にも「自分を失くす」ことになるので、「小我」を捨てて「大我」を取るという選択をしてきたという土居先生の説明は秀逸です。
ちなみに、これって当たり前じゃないかという人のためにお伝えすると、西洋では、集団に属さずとも、個人は確実な所属観を持てると言われています。その理由として宗教観や正義観にまつわる考え方の違いを説く人もいれば、西洋の方が激しい動乱を経たことから自分で自分を守ることに徹するようになったという説もあります。もちろん実際には西洋人でも内心「自分がないな」と感じている人はたくさんいて、それでも自分があるかのように堂々したふるまいを求められるという違う課題があるようです。
さて、自分の欲求の主張を良しとしない、そんな日本文化では、キャリア形成の方法が異なってきそうなことはなんとなく分かります。
自然災害の多い島国という地理的特徴が作り上げた文化もあると考えられています。農耕と漁業で生活し、集団行動が必須である小さな島国では、自分の属するグループの信頼を損なうことを強く恐れます。また、震災が多いことから、あきらめる、長いものにまかれるというように、適応という選択を強いられた環境もありそうです。

日本の雇用慣行とは?

「終身雇用」「年功序列」「労働組合」は日本の雇用慣行の3種の神器と言われてきました。しかし、この崩壊が進んでいることは皆さんもご存知のことと思います。成果主義、MBO制度、コンピテンシー、職能給から職務給へ、ジョブ型など、様々な仕組みが現れました。
伊達さん:私の経営するビジネスリサーチラボでは、「ジョブ型雇用の心理学」というセミナーを2020年9月に開催しました。ジョブ型雇用が話題になっている中で、特にジョブを記述することが従業員の心理や行動にどのような影響を与えるのかを研究知見をもとに検討しました(なお、職務記述書の記述はジョブ型雇用の特徴の一つにすぎず、職務記述書を作成しただけで、ジョブ型雇用になるわけではありません)。
メンバーシップ型雇用だと言われてきた日本が今、ジョブ型雇用にシフトしようとしている背景には以下の点があるようです。
①産業構造の変化
メンバーシップ型雇用では、未経験で若手を採用し、企業で育成するモデルが主流でした。採用においてはポテンシャルを見極め、「OJT」で教育します。若手に対し、やさしい仕事から与えて、徐々にレベルアップするように構造化されています。しかし、産業構造が変わり、むしろ若手の能力が競争優位に影響するなど、技能継承の逆転が起こり始めている領域もあります。優秀な人材を獲得・維持する上で、メンバーシップ型雇用の限界が目立つようになってきたわけです。
②中途人材の確保
労働力人口が減少していく中、多くの企業に必要とされる人材の価値は増すばかりです。中途採用を支援するサービスもかつてより拡充してきています。会社の未来を担う人材を中途で採用する際に、年功をはじめとしたメンバーシップ型雇用の考え方がうまくフィットしない場合があります。今まで以上に、中途社員を採用・評価・育成・配置する仕組みが求められています。
③人件費の限界
人件費の増大への対応が必要になってきました。
年齢を取れば取るほど給与があがる制度が有効に機能するには、年齢とパフォーマンスが相関することや、若手の人数が十分にいることなどが満たされている必要があります。こうした前提が崩れ始め、また、不況の波にさらされる中で、メンバーシップ型雇用の限界が指摘されるようになっています。

ジョブ型の問題

伊達さん:メンバーシップ型雇用に修正を加えていくと、「誰がどのように育成を行うか」「知識や技術をどのように引き継いでいくか」など、本格的に考えるべき論点が生まれてきます。これから様々に変動していく雇用環境を前提に、キャリア発達のことを検討できるといいなと思いました。
酒井さん:日本は世界の中で見ても歴史の長い企業が多い国です。中長期的志向があったので、終身雇用が適していたと言えます。しかし、グローバル化×デジタル化は短期志向になりがちです。その変化にどうフィットしていくか?日本が培ってきた良いものを残し、変わる必要のあるところは何かを考える必要があります。

これからのキャリア発達に必要な視点

これからの日本のキャリア発達に必要な視点は、何でしょうか?
まず、私たちを取り巻く大きなうねりや構造に対し、翻弄されつつも、しっかりと捉える視点は大切だということが分かってきます。中長期的、多面的な客観視とも言えます。
酒井さん:結局、自分で意思決定しているようで、その時々の環境に動かされてるんですよね。相対的に。そういうことをメタ的に認識する必要があるんじゃないかなっていう気もします。やっぱり経営が社員にしっかりとコミュニケーションを取る必要があると思います。私は人事部門で説明する立場だったんですけども、経営企画だとか人事が説明しているつもりでも社員は嫌な情報を受け取ってくれないジレンマもありました。認知されないので、それのコミュニケーションギャップが生まれてくるんですよね。
もちろん日本だけの話ではありませんが、バブル崩壊後、私たちは激しい環境変化にさらされてきました。そんな中で改めてアップデートが必要だと思われるのは、「葛藤や失敗を恐れない」という視点です。組織でも個人でも、葛藤を恐れると気持ちが萎縮し、停滞や思考停止を生みます。「どうせ…」「やっても無駄」という声です。本来、葛藤や失敗には寛容な母性文化であるはずの日本でも、今では社員の心は恐れが多い気もします…みなさんの会社は大丈夫でしょうか。成果主義が減点思考、ギャップアプローチを生んでしまったことや、長引く業績低迷が寛容さをなくさせてしまっているのかもしれません。
いみじくも、最近「心理的安全性」に注目が集まっていますが、エイミー・エドモンソン博士も、心理的安全性が高い組織は葛藤のない組織なのではなく、葛藤を恐れる必要のない組織だと言っています。「良い失敗」の存在を認めましょうと。
伊達さん:これまでもこれからも、理想の制度が安定的・恒常的に存在しているわけではなく、細かく修正を加え続けていく必要があります。色々なことを試みながらも、うまくいかないことは多々あるでしょう。しかし、気を付けなければいけないのは、「これを導入すれば解決する」という幻想に絡め取られない点です。雇用をめぐる状況は流動していきます。かつて交わした約束は、どこかの時点で更新されるかもしれません。そのような中で、キャリアをどのように育んでいけばいいのか。こうした問いに対応するキャリア発達モデルになるといいと感じました。
約束が変わる約束。ルールが変わるゲーム。これは、会社が発展していく以上、避けられないことで、ぼんやりしていられないということは分かります。また、「リスキリング」や「学びなおし」の重要性も実感します。
高橋さん: 「心理的契約」という言葉がありますけど、そこをうまく両者にとって良い契約に変えていく。そういう双方の努力(歩み寄り)が必要となる気がしています。キャリア理論は個人に焦点が当てられやすくて、欧米の理論は個人がどうするかという話が非常に多いと思います。
それを踏まえると、今の日本にとって参考になるキャリア理論は、個人視点だけではなく、職場と相互に、うまく調整し合っていく姿っていうのが必要だと思いました。
伊達さん:確かに欧米の議論はキャリアに限らず、個人の確立から立ち上げるものがありますね。例えば、組織市民行動という概念があります。組織を良くする役割外の自発的な行動を意味するんですが、これはまず個々人に役割が振り分けられた上で、それを超えた行動をとるという考え方です。典型的な日本企業の職場のように、それぞれの役割が不明瞭でありながらも、相互に調整をしている場において、組織市民行動とは具体的に何を指すのかという話にもなります。
これは、先に述べた日本文化の中空構造の話にも通じると感じました。河合先生は中空構造の悪い面も指摘しています。それは、おかしいなと思っても、耐え忍ぶ個人がいるため、気づいたら全員がたどり着きたくないところに来てしまうという弊害です。日本文化の危うさです。
伊達さん:ただし、環境と個々人が相互作用しているというのは、環境が一方的に個々人に影響するばかりではありません。個々人もまた環境に働きかけることができる。この両面を考慮したキャリア発達モデルを作ることが求められますね。
個人の願いが埋もれない組織と会社の生産性が両立されるには、やはり個人は自分がどうしたいのかに自覚的になり、会社も個人とコミュニケーションを取っていくことが大切だと感じました。

<参考文献>
「ザ・ジャパニーズ」 エドウィン・O・ライシャワー
「『甘え』の構造」土居健郎
「中空構造日本の深層」河合隼雄
「菊と刀」ルース・ベネディクト

 

<研究員について>
研究員は、社外専門家と社内メンバーで構成しています。
【社外専門家】50音順
齊藤 光弘 氏(合同会社あまね舎 代表)
酒井 章 氏(株式会社the creative journey 代表)
高橋 浩 氏(ユースキャリア研究所 代表)
伊達 洋駆 氏(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表)
【日本マンパワー研究員】
水野 みち (株式会社日本マンパワー フェロー/キャリアのこれから研究所 所長)
荒木 美玄
五十嵐 賢
和泉 浩宣
大恵 英樹
岡島 克佳
嶋 美乃
【社外研究員のプロフィール】50音順
齊藤 光弘 (さいとう みつひろ)氏
合同会社あまね舎/ OWL:Organization Whole-beings Laboratory 代表。
組織づくりや人材育成の領域で、現場支援と研究を融合させ、組織のメンバーが持つ想いと強みを引き出すためのサポートに取り組む。M&Aのプロセスをサポートするコンサルティングファーム/ 投資ファンドを経て、東京大学大学院にて中原淳博士に師事し、組織開発・人材開発の理論と現場への応用手法を学ぶ。2020年3月まで國學院大學経済学部特任助教など、大学でのリーダーシップ教育/ アクティブラーニング型教育の企画・実施にも関わる。共著に『人材開発研究大全』。
酒井 章(さかい あきら)氏
株式会社the creative journey 代表。キャリアのこれから研究所プロデューサー。
1984年広告代理店に入社。クリエイティブ部門、営業部門を経て、2004年からのアジア統括会社時にアジアネットワークの企業内大学を設立。帰任後は人事部門でキャリア施策開発に携わる一方、NPO法人二枚目の名刺メンバーとして活動。東京汐留エリアの企業・行政越境コンソーシアム(LifeWorkS project Shiodome)を立ち上げる。2019年4月に独立し、㈱the creative journey設立。国家資格キャリアコンサルタント、青山学院大学社会情報学部プロジェクト教授、早稲田大学エクステンションセンター WASEDA NEOプログラム・プロデューサー、筑波大学大学院・働く人の心理支援開発研究センター 客員研究員。
アルムナイ研究所所長、武蔵野美術大学大学院修士課程(クリエイティブリーダーシップコース)修了
高橋 浩(たかはし ひろし)氏
ユースキャリア研究所代表。日本キャリア開発協会理事、法政大学および目白大学講師。
博士(心理学)。国家資格キャリアコンサルタント。1987年に弘前大学教育学部を卒業後、電子メーカーに入社し半導体設計、経営企画、キャリア相談に従事。2001年、CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)を取得し、2012年にキャリアカウンセラーとして独立。2016年~2017年、厚生労働省委託事業セルフ・キャリアドック導入支援事業推進委員会委員、2018年~2019年、厚生労働省委託事業セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業アドバイザーを務める。
伊達洋駆(だて ようく)氏
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役。
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近刊に『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)、共著に『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(ソシム)や『「最高の人材」が入社する 採用の絶対ルール』(ナツメ社)など。

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