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「採用の今日的課題と今後に向けて~伊達洋駆氏に聞く~」イベントレポート

イベント

2021.12.6


※本内容は、2021年5月に行われたオンラインイベントの内容をまとめたものです。少し遅くなりましたが、ダイジェストをアップいたします。
組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供しているビジネスリサーチラボ 伊達 洋駆氏に、オンライン化をめぐる現状とオンライン化で変わったこと、それから今後の採用に向けてのヒント、最後にキャリア支援者に求められることの4点をお話しいただきました。
伊達 洋駆 (だて ようく)氏プロフィール
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。
2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。
著書に『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』『人材マネジメント用語図鑑』(共著:ソシム)など。

1.採用をめぐる現状

新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大後、採用の業界にも大きな変化がありました。それは、オンライン化です。今までは対面で行われていた採用が、半ば強制的にオンライン化することを余儀なくされました。インターンシップ、会社説明会、採用面接でもオンライン化が進んでいくこととなりました。
データを見てみると、2022年卒の学生において、72.7%の学生がオンラインのインターンシップに参加していました。また、学生に会社説明会の参加形態を聞いたところ、オンラインのライブ形式に参加した学生は87.8%に上ります。
更に、採用面接もオンライン化が進んでおり、2021年5月に面接を受けた学生のうち、オンライン面接の割合は82.7%でした。驚きの数字です。
採用のオンライン化は非常に大きな変化でした。これまでの採用は、対面で行うのが当たり前だったからです。

2.採用のオンライン化で変わったこと

採用のオンライン化で変わったことですが、一言でいうと「非言語的手がかり」が減りました。非言語的手がかりとは言葉以外の情報で、例えば、表情、声の調子、身振り手振り、服装、容姿、匂い、周辺の環境などを含みます。オンラインでは、言葉以外の情報がやや失われる傾向にあります。非言語的手がかりの減少が、採用に様々な影響を与えています。
非言語的手がかりが減ると、コミュニケーションの質が変わってきます。
第1に、「伝達感」が少なくなります
伝達感とは「理解し合えている感覚」を指します。より具体的に言うと、自分の話を相手に理解してもらえている感覚、あるいは相手の話を自分が理解している感覚のことを指します。対面の方がオンラインよりも伝達感が高いことが、学術研究の中で明らかになっています。オンラインでは伝達感が得られにくいのです。
第2に、「伝達度」が高くなります。伝達度は、実際に理解できている程度を指します。相手が自分の話を理解している程度、自分が相手の話を理解できている程度です。驚くべきことに、オンラインの方が対面よりも伝達度は高い傾向があります。伝達度が高いのは、非言語的手がかりが小さくなることで、話の内容に集中できるからです。
まとめると、オンラインは非言語的手がかりが少なくなるがゆえに伝達感は少なくなりますが、伝達度は高まるということです。
伝達感の低下と伝達度の上昇が、オンラインでの採用を対面とは異なるものにします。
一つは「見極め」、すなわち、候補者の適性の評価をきちんと行えるようになります。
伝達感が低いということは、感覚に惑わされずに評価できるということです。感覚はバイアスの源泉であるため、バイアスに惑わされにくくなります。この点は学術研究でも裏付けられており、オンライン面接の評価が高いほど仕事のパフォーマンスが高かったり、組織に定着しやすかったりします。
他方、オンライン採用は「惹きつけ」、すなわち、候補者の志望度を高めることを苦手とします。伝達感が低いので、感情が伝わりにくいからです。例えば、今まで対面では行えた、熱意に基づく説得が難しくなります。この点も学術研究で裏付けられています。オンライン採用になると、会話が円滑に進まなかったり、会話の内容を理解しにくかったり、面接官への好意度も低くなったり、と総じて惹きつけに悪影響が出ます。
これらのオンライン採用をめぐる特徴によって、オンライン採用で有利/不利な学生や企業を生み出します。
例えば、伝達感(理解しあえる感覚)を強みにしてきた候補者は、オンラインでは不利になり、伝達度(内容を伝えること)を強みにしてきた候補者は、オンラインでは有利になります
例を挙げてみましょう。面接では、外向性が高いほど評価が高くなります。外向性とは社交的で陽気で明るい性格のことを指します。外向性は非言語的手がかりによって判断されます。したがって、非言語的手掛かりが限られてくるオンラインでは外向性による評価の影響が小さくなり、伝達感が高い人にとって、オンラインは不利になるわけです。
逆に、内向性が高い人は、対面よりオンラインの方が面接評価が高くなるという研究結果があります。内向性の高い人にとっては話の内容に集中してもらえるので適切に評価してもらうことができ、オンラインになると伝達度が高い人が有利になります。
同じことは企業にも当てはまります。感覚を重視しながら採用を行ってきた企業はオンラインで不利になり、コンテンツ(内容)を強みにしてきた企業はオンラインでは有利になるでしょう。

3.今後の採用に向けてのヒント

このような変化の中で、今後の採用に向けて何が大事になってくるのかを考えてみます。 まず、採用ではこれまで標準的な型(デファクト・スタンダード)がありました。例えば、ナビサイトに登録して、グループ面接を行い、適性検査をして、個人面接を3回ぐらい実施し、最終面接で合格した人に内定を出して、内定後はフォローをする。承諾後に内定式を行って、内定者教育をして、そして入社してもらうという型です。
採用の標準的な型が業界において機能している状況において、採用担当者に求められる能力は、大きく2つあります。一つはコミュニケーション能力です。候補者とうまくやりとりする能力です。もう一つはオペレーション能力です。
ところが、採用がオンライン化されたことで、この標準的な型が大きく揺らいでいます。今は新たな採用の型を模索する時期だといえます。オンラインと対面では、面接一つとってもやり方が違いますし、効果的なポイントも違います。それぞれの企業に合った新たな採用の型を模索していく必要があるわけです。そのような中で、採用担当者に求められる能力も変わってきています。具体的には、「採用の設計力」が大事になってきます。
採用の設計力とは、自社に合った新たな採用方法を構想し、計画し、実行する力です。例えば、オンラインと対面をどのように組み合わせていくのか、どの段階でオンラインから対面にするのか、それぞれの面接は何回するのか、インターンシップはやるべきなのか、適性検査は本当に必要なのか、などを再設計する能力が必要になってきます。
実は、採用の設計力は以前から重要といわれてきました。特に採用の世界では、ひと握りの強者とそれ以外の採用に苦しむ企業という構図になりがちでした。ひと握りの強い企業は、採用のリソース(予算や人員など)が豊富で、なおかつ、候補者に対して名前が知れ渡っています。それ以外の企業は工夫せざるを得ず、採用の設計力が求められていたのです。
ただし実際は、自社が不利な戦いを強いられる標準的な型に乗っかってしまっていた企業が少なくありません。今、オンライン化という状況に直面する中で、採用の設計力を得るいい機会ではないでしょうか。
設計力を高めるためのポイントを、簡単にお伝えします。一つは、採用の施策ごとに「意図を持つ」こと。標準的な型があると、特別な意図を持たずともプロセス通りに進めればよかったのですが、これからの採用では意図が大切になります。
例えば、ある施策ではこういうことを狙いましょう、そのためにはこの手法を用いましょう、といった形で意図を定めましょう。意図があれば設計を進めることが可能になりますし、意図通りに進んだかを効果測定することもできます。

4.キャリア支援者に求められること

最後に、様々な悩みを抱える求職者に対して、どのようなキャリア支援ができるかを考えてみたいと思います。採用がオンライン化する中、求職者は二重に苦しい状況におかれています。
まず、そもそも就職・転職活動に不慣れであることです。新卒だと何もかも初めてという学生がほとんどです。転職活動も「慣れています」という方は少数派でしょう。それに加えて、オンライン化が到来しました。オンラインに非常に慣れている方も希少です。そのように二重に不慣れな状況において就職・転職活動にうまく取り組んでもらうためには、「自己効力感」が重要です。
自己効力感とは、特定の行動をとれる信念のことを指します。「この行動であれば、自分にはできそうだな」と思えるかどうかです。「オンライン面接であれば、自分はある程度はうまくやれそうだ」と自信を持っていれば、自己効力感が高いと言えます。
自己効力感は、心理学者のバンデューラが提唱して以来、30年以上にわたって様々な領域で検証がされています。仕事や医療など様々な領域で研究され、その有効性が検証されています。
キャリアにおける文脈でも、自己効力感の重要性が検証されています。例えば、キャリア探索への自己効力感が高い人ほど、面接がうまくいき、仕事を獲得しやすいという研究があります。自己効力感が高いと自信があるので、行動を起こしやすい。たくさん行動を起こせば、うまくいく可能性が上がるのです。
他にも、進路を決める行動に対して自信を持っている人ほど、就活開始時期が早く、職場訪問時期が早かったり、年長者と相談を行う傾向が高かったりといったことも分かっています。オンライン化をめぐって不慣れな環境にある求職者に対し、オンライン採用に対する自己効力感を高めるような支援が必要です。

自己効力感は、他者からの働きかけによって高めていくことができるものです。自己効力感を高める方法は、バンデューラ自身がいくつか挙げています。その中から3つ紹介しましょう。遂行行動の達成、代理的経験、言語的説得の3点です。
第1に、遂行行動の達成とは、成功体験を得ることです。小さなことでもいいので、オンライン採用に対する成功体験を得るように促していきます。成功体験があれば、「できるんじゃないか」と自信にも繋がりやすいですよね。例えば、模擬オンライン面接をやってみるのは有効でしょう。
第2に、代理的経験ですが、これは、その行動に取り組む他者の様子を見せることです。例えば、オンライン面接を先輩が受けている様子を見せて、「自分にもできそうだな」と思ってもらえると自己効力感が高まります。
第3に、言語的説得です。これは、励ましですね。例えば、「オンライン面接は準備すれば大丈夫ですよ」などと伝えてあげると、相手も安心して自己効力感を高めることができるわけです。
遂行行動の達成、代理的経験、言語的説得によって求職者の自己効力感を高める支援をすると、オンライン採用への自己効力感が高まり、求職者はオンライン採用に挑んでいけます。行動さえ起こせれば、あとは経験を重ねて、うまくいくようになっていくものです。
以上で本日のお話は終了となります。本日話していない内容についても、拙著オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)に書いていますので、ぜひ手に取っていただけるとありがたいです。
ご清聴いただきありがとうございました。