MENU

キャリこれ

「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」対話会~組織人事編~ 【後編】

調査研究

研究

2021.12.13


■テーゼ1~4をご紹介する記事前編は、こちら

2021年9月、キャリアのこれから研究所では、「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」を発表しました。
そして先日、企業人事部の3名にお集まりいただき、キャリこれ研究所所長の水野さんから9つのテーゼをご紹介。人事やキャリア支援の最前線にいる方々に、9つのテーゼをどう感じたのか、率直なご感想を伺いました。
対話会を通して見えてきた “組織でのキャリア支援課題・これからのキャリア支援の在り方” 後編をお届けします!
【 対話会にお集まりいただいた3名 】
〇加藤陽介さん (株式会社千葉興業銀行 人事部人材開発室)
〇上條昌彦さん (リコークリエイティブサービス株式会社 リコーキャリアサポート室室長)
〇Kさん (IT企業・人事本部・キャリアカウンセラー)

9つのテーゼの解説(http://career-development-model.com/)も適宜参照しながら、お読みください。

テーゼ5 :生産性と人間性を両立させよう

Kさん:「ここで挙げられている生産性と人間性は、“両立“より “両方大切”と言う方がしっくりくる印象がありました」
水野:「そうですね。例えば、銀行で働く人が、笑顔を大切にしているとします。お客様に常日頃からほほ笑みで接し、そのパーソナリティが見えることでお客様が安心して窓口に足を運ぶことがあると思うのです。その人が、スピード重視でお客様の目も見ないで仕事をこなすとどうなるでしょうか。
自分を殺して生産性をあげていくのではなく、自分の人間性を活かして、生産性を高めるといった、両立の姿が大切なのではないかと思っており、それを個人も組織も探求していけないだろうかというメッセージも含んでいます」
「生産性」と「人間性」という言葉は、相反するものとして並ばないイメージがあるかもしれませんが、こちらのテーゼには、どちらも成立していくことができるのだというメッセージが込められています。また、私たちの研究所では、持続可能な社会を目指す中での生産性とは何なのか?という問いを持ち続けたいと考えています。

テーゼ6 :あるべき自分とありたい自分の両方を意識しよう

「テーゼ6は、実際のキャリア支援の場で私がいつも意識していることです」と言ってくださったのは上條さんでした。
上條さん:「面談をしていくと、この『あるべき自分とありたい自分』というところに関わってきます。将来の自分のことを『あるべき自分』に縛られず『ありたい自分』として捉えると、モチベーションが湧いてくると言われるので、とても有効だなと感じました」
一方、加藤さんは、課題感と重ねた話をしてくれました。
加藤さん:「他の業界もそうかもしれませんが、銀行においても、私が入社した頃と今の入社1年目では、明らかに求められているものや仕事の質が違います。働き方改革で残業もできませんので、決まった時間内に質の高い成果を出すという、レベルが高いものを求められています。“ありたい自分”の話をしたときに“それって理想論ですよね”という反応が返ってくることも多いです」
キャリア支援の現場において、このテーゼに関する共感と、そして現在起こっている課題との重なりが垣間見えました。
水野:「だからこそ、“あるべき自分”と“ありたい自分”の両方を大切にしたいと感じています。どちらかではなく。
はじめは他者からの期待や求められる役割として、評価・報酬・生活のためにやっていたとしても、人によっては、出来ることが増え、有能感を持ちはじめ、他者からのフィードバックを受け、感謝され、やらされ感でやっていたことに対してやりがいを感じはじめるということもあります。自分ごと化のプロセスです。
もちろん、そうならないこともあります。その時には、何が好きで嫌いで、得意で不得意で、何に対して興味・不満があるのかが見えてきている可能性があります。“やりたいことが分からない”という人は、まずは与えられた役割をやってみることを選んでみてはというご提案です。そして、経験を代謝していくのです。」
この視点の切り替えや、「あるべき」と「ありたい」を行き来する過程が自己変容につながっていくのかもしれません。

テーゼ7 :ビジョンとリアリティの両感覚を磨こう

加藤さん:「ひと昔前はキャリア研修でも“ビジョン”を必ず設定するよう伝えていました。しかし今、ビジョンが描けずに頭を抱えている社員の多くが、目の前の“リアリティ”が大変なのです、と訴えています。
この声には皆が頷き、多くの企業でビジョンを持つことを難しく感じていることが分かりました。
水野:「心身が疲れていては、ビジョンは描きにくいかもしれません。ビジョンというのは、そこに向かう道のりを楽しむ感覚を持てることで初めて活かされるものです。リアリティとビジョンのギャップがあるから、頑張ろうと思える、埋めていけると感じられる、という意識です。また、ビジョンは縛られるものではなく状況によって柔軟に変わるものだと考えています。
そして、“リアリティ”は“現在地・現状把握”という感覚に近いものです。描く未来に向かって、今自分はどこにいるのか。何が満たされていて、何が不足しているのか。
ビジョンという目的地があるからこそ、現在地を冷静に見つめ、オーナーシップをもってこれからのキャリアに臨んでいくーーそんな姿勢につながってほしいと願っているテーゼです。」

テーゼ8 :こころの成長痛(葛藤や違和感)を大切にしよう

Kさん:「このテーゼを見て、私自身がキャリアコンサルタントとして社員の悩みや葛藤を聴くなかで、その課題を解決してあげたいと考え、解決するための情報提供をしたりして、答えを急いでしまう自分がいたことを思い出しました。でもその葛藤を抱えている状態もすべてが悪いことではなく、成長の過程ですよね。キャリア支援者の一員として、当事者の“葛藤という成長に繋がる状況”を奪わずにいられるよう意識しなければ、と思いました」
キャリアコンサルタントとして現場に向き合うご自身の経験を通し、感じたことを話してくれたKさん。このテーゼが、ご自身のスタンスを改めて見つめるきっかけになったようでした。もちろん、葛藤があまりにも大きい場合、とりあえず出来る対処をする、ということも大切です。しかし、葛藤は、自分にとって大切なことは何かを気づかせ、選択するきっかけを与えてくれる成長機会でもあるのです。

テーゼ9 :計画しつつもアジャイルな行動をとろう

こちらのテーゼについては、みなさんから「これからのキャリアに必要な概念だ」と共感するお声をいただきました。
〇「複雑性・曖昧性の高いこの時代とも合っていて、とてもしっくりきています」
〇「“アジャイル”と言う言葉はIT業界でもよく言われているキーワードでもあるのですが、これがキャリアにも当てはめられるということは、とてもおもしろいと感じます」
〇「計画してもその通りにいくことも少なくなってきています。やってみて理解できることも多くなってきているので、この“アジャイルな行動をとろう”という言葉は理解できます」
キャリアに正解はありません。緻密に計画を立て実行して積み上げていくものだけではなく、まずはやってみる、動いてみて掴みとるキャリアもあるでしょう。考え過ぎて動けないよりも、行動しながら考え前に進むという動き方が、これからの時代に合致していくのだと思います。

人と組織の目線が重なる「これからのキャリア発達モデル」

ゲストの皆さんには、最後に、「これからのキャリア発達モデル」がどのような存在になりそうかも伺いました。
●「これまでのキャリア理論の多くは個人視点のもので、経営層・経営者側の視点と合いにくいものもあります。個人のキャリアももちろん大切です。しかし、組織にいる以上、組織と折り合いをつけベクトルを合わせるという組織目線も必要であり、それが今回見えたように思いました」
●「キャリア支援の現場で、日本の会社のリアリティに合うような理論はないだろうか?と考えていた矢先だったので、素晴らしいことをやっていると感じています」
●「他者のキャリアに関わるのであれば自分のキャリアも深める必要があり、自分自身も9つのテーゼを理解し、これをきっかけに自分のキャリアも考えてみたいと思いました」
水野:「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」は、キャリアのこれからを考え、創っていく人に響くものにしたいと願っています。そして個人の成長・発達が、組織の成長・発達に重なり繋がっていくことを望んでいます。一言で表すと、「ゆらぎを良しとするモデル」とも言えるので、ここから生まれる対話こそに価値があるのではないかと思います。
3人の感想を聞き、水野さんは、こう対話会を締めくくりました。
「これからのキャリア発達モデル~9つのテーゼ~」に関する対話会は、今後も、色々な属性の方をお招きして、開催していきます。
対話会の内容は、随時、当サイトでご紹介します。どうぞ次回もお楽しみに!