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越境リーダーズキャンプを通して探る人的資本経営のあり方~リアルな地域課題に挑む中で、研修参加者のWILL・CANもより明確に!~

インタビュー

企業

2022.8.22


越境経験を通じた次世代リーダー育成を手掛けるみずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の田中さんに、2021年から始まった「越境リーダーズキャンプ」についてお伺いしました。
ゲスト
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム 雇用政策第1 課課長 田中文隆様
*田中様プロフィール詳細は、こちら
インタビュアー: 株式会社日本マンパワー 取締役・マーケティング部担当 金子浩
編集: 株式会社日本マンパワー 人材開発第2営業部関西支社 浅香孝平

Q:田中さんのご経歴を教えてください

私は、現在、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社の社会政策コンサルティング部・雇用政策チームに所属しています。
当チームは、官公庁の調査研究業務や社会実証事業の事務局業務を行っています。また、これまで得られた知見を活かしながら、民間企業向けに社会課題の解決支援に関するサービスの提供に着手しています。
私は、かつて大学院で国際関係学を学んでいたのですが、その中で日本国内の問題にも目が向くようになり、社会に対して働きかける存在になりたいと思い、今の会社(前身の富士総合研究所)に入社しました。
これまでの仕事では、厚生労働省に出向して「労働経済白書」の執筆に携わったり、プロフェッショナル人材事業の全国事務局業務の立上げに関わったりしました。
労働経済白書の執筆は、ちょうどワーキングプアや請負労働、フリーターなどの問題がクローズアップされていた頃だったので、自身のキャリアの中でも忘れられない経験です。
直近では、ビジネスと人権や、人的資本、越境学習などのテーマに取り組んでいます。特に、人的資本経営はより詳細に学びたいと思い、2021年度に、ISO30414に関するリードコンサルタント・アセッサーの資格を取得したところです。

Q:「人的資本経営」は、今年2022年、HR業界で一代ブームを巻き起こしました。今後、企業が人的資本経営をどのように捉えていくのが望ましいか、田中さんの考えをお聞かせください。

人的資本経営は、そう新しい言葉ではないように思います。「企業は人なり」と昔から言われてきましたし、経営にとって人が大事なのは疑う余地のないことだろうと思います。
これまで人に関する議論は、各々が持つ経験や勘で進行してしまうことがありました。
しかし現在、HRテクノロジーなどによりIT化が進んでいます。今後はデータなどのエビデンスをもって合理的な意思決定をしていくことが、「企業は人なり」をさらに適切に実施していくことにつながると思います。
また、単純にデータだけですべて充足するわけではなく、ストーリーとデータの両方の観点から取り組んでいくことが重要だと思います。
データについては既にいろいろな人事戦略に関するデータが蓄積されていると思います。
加えて、企業がどんな指標を大事にしていくかというストーリーも重要で、この2つの観点から取り組んでいくのが望ましいと考えます。

Q:企業経営の観点から注目されている「ISO30414(人的資本開示ガイドライン)」については、どのように捉えていらっしゃいますか。

このガイドラインを紐解きますと、11の項目と58の指標が設定されています。大事なポイントは単純に社外へ開示するだけではなく、社内への開示を含めてガイドラインが整理されていることです。また大企業、中小企業の規模別に推奨される項目が設定されています。
社外への情報開示も重要ですが、ISO30414を社内で議論していく材料として使うのも良い使い方になると思います。
会社毎に何を指標としていくか、経営戦略と連動した人材戦略ストーリーを立て、その裏付けとして各指標の設定・検証をしていくことが重要だと考えます。

Q:貴社は去年2021年、「越境リーダーズキャンプ」を立ち上げられましたね。その背景についてお聞かせください。

私たちのミッションは、世の中で求められていること、着手、導入した方が望ましいと言われているものを、国や自治体・企業等がどうやって実装していくか、そのヒントやノウハウを調査研究や実証を通じて提供していくことです。
実装の部分は机上の論理のみでは進みません。上流からの色んな議論をボトムアップ的なもの、モデル的な試行と結び付け、ケーススタディ(事例研究)をしながら捉えていく。そして分かりやすく、それに至る道筋を示していくステップが必要です。
越境リーダーズキャンプも、そういったケーススタディ(事例研究)の1つでもあります。
弊社は、国、地方自治体、国内の様々な企業と接点があります。
都市部大企業の持つ問題意識(キャリア自律、現場接点、SDGs感応、他流試合等)、地域の持つ問題意識(外部知見の活用、人材育成、社会課題解決、地方創生等)について、折に触れ伺う機会が多々ありました。
越境リーダーズキャンプは「双方が持つリソースを活かしあえば、お互いの問題を解決できるのではないか」との仮説のもとスタートしたものです。

Q:越境リーダーズキャンプの内容を教えてください。

越境リーダーズキャンプの対象は、30代前後の中堅社員、次世代リーダー候補層、新規事業開発・既存事業の変革を担う社員です。プログラムのコンセプトには、下記3つを掲げました。
1つ目 :ビジネスの力でリアルな地域課題に挑もう
2つ目 :アルムナイと対話し、未来のキャリアを考えよう
3つ目 :越境体験を通じて「いつもの仕事」をアップデートしよう
プログラムの全体像については、上の資料をご覧ください。座学とフィールドスタディを組み合わせた約2か月間のコンパクトな内容です。
フィールドスタディは2泊3日。短期間ながら、しっかりと現場接点をもち、現場に入り込んでいくために、事前にデザイン思考()等について学び、現地では地域コーディネーターに入っていただきました。
※ユーザー視点に立ってサービスやプロダクトの本質的な課題・ニーズを発見し、ビジネス上の課題を解決する
昨年2021年度は初年度のトライアル。フィールドスタディは、大分県竹田市において、市外から城下町にお客さんを呼び込む創出事業のプランニングを行いました。
https://www.mizuho-rt.co.jp/topics/2021/leader2112.html

Q:越境リーダーズキャンプの内容を拝見すると、新規事業をどう創出するかを学ぶカリキュラムであると同時に、人材開発の要素もかなり入っていますよね。カリキュラムを運営する中で、人材開発の点で工夫されたことはありますか。

参加者に期間中の内省を深めていただくため、葛藤や整理しきれない気持ちを書き留めていただく「内省ログ」を用意しました。
また「パーソナルビジネスモデルキャンバス」という、自身を一つの会社に見立て、自分のお客様は誰なのか、どういう価値を提供できるのかと、大きな視点から自分の未来を描くシートも用意しました。
そして、「仕事の再定義」「自分の強みや持ち味」「リーダーシップ」の3点について、キャンプ前とキャンプ後でアンケートをとり、その変化を計測しました。3つともポジティブな変化がありましたが、中でも「自分の強みや持ち味」は変化が特に強くあらわれました。

Q:参加者には、ポジティブな変化があったということですが、キャンプに参加者を送りだされた企業側では、どのような効果が出ているのでしょうか。

企業における効果はまだ測定中です。キャンプの参加者や、その上司の方々に追跡調査をしているところです。
効果の一端としては、キャンプ参加者が、自分軸でもう少し発信していくべきだという気づきを得て、発信や提案の機会を増やしているケースが見られました。
効果測定の一環として、当該フィ―ルドに対して、現職のミッションに照らしどのような事業提案が可能か、引き続き受講生へ課題を出され、その内容や質をモニタリングされている企業様もあります。
キャンプへの参加が、全ての誘因になるわけではないので、検証作業には限界がありますが、越境リーダーズキャンプが、事業提案や業務変革の面でどう資するのかモニタリングしていくことは重要だと考えています。

Q:越境リーダーズキャンプの醍醐味は何ですか。

先日、参加者を送り出した企業側から、「受講生が『現地の地域課題を解決するのだ』と当事者意識を持って研修に取り組んだことがよくわかり、心を打たれた」とコメントをもらったんです。
「あるべき論」だけでは腹落ちしないこともあります。リアルな環境設定の中でしか学べないこともあり、自身も当事者となる場・ミッションがあることが、この越境リーダーズキャンプの面白いところ・醍醐味ではないかと思います。
リアルだからこそ、How toを学ぶだけではなくて、What to do 何を自分がなすべきなのか、そして、何をしたいのかというWillの醸成がより強くなされるのではないでしょうか。
またWillはHow toを学ぶモチベーションにもなりますし、苦しい時を乗り越える力にもなります。

Q:田中さんが、今後チャレンジされたいことは何ですか。

まずは、今年度も越境リーダーズキャンプを実施予定なので、しっかりやっていきたいです。
新規事業創出やイノベーションに、多様性は欠かせません。多様性のある環境を活かしきるために異質な人材と異なる場で切磋琢磨しあう越境学習へのニーズは今後さらに加速すると考えています。
また、冒頭お話した人的資本経営も各企業がそれぞれ描くストーリー(経営戦略と人材戦略の連動)のもと、それぞれの温度感・スピード感で進んでいくでしょう。一方で、多くの課題を前にして何から手をつけていいか分からない、社内の合意形成に悩んでいる企業も多いので、そういった企業が一歩進むための後押しとなる簡易診断やスモールスタートに資する実装ソリューションにも今後は注力できればと思っています。
そして、まだ構想、いや妄想段階かもしれませんが、今後、ミドルのエンカレッジに何らかの形で貢献できればと考えています。企業が成長可能性を模索するように、従業員・個人の側も、自分がどこに立っていて、自分の成長可能性はどんなものがあり得るのか、まだまだ探索したいと思うんです。
実は、今回の越境リーダーズキャンプの着想は、前年度に実施したミドルのネクストキャリア研究会(弊社自主プロジェクト)から得たものなんです。研究会では、有識者や弊社メンバーにて大企業に勤めるミドル層が自律的にネクストキャリアを考え、実行していくことについて研究していました。その中で、ミドルは公私ともに忙しく、学びの時間がなかなか取れない、また自分自身の立ち位置、キャリアについて振り返る機会が少ないという声があがっていました。
自身のキャリアの振返りや今後の可能性について、経験豊かなミドルは、指導・管理的な関わりがなくても、共助・他流試合によって充分な気づきが得られるではないかという意見もあがり、そういった意見が昇華されて、越境リーダーズキャンプのプログラム構成につながっていったところがあります。

~金子より~

色々と貴重なお話をありがとうございました!これからの企業経営のあり方、働く個人のキャリア自律のあり方について、その問題意識・課題感について、本当に共感するところが多々ありました。
私たちの会社は、従業員のキャリア形成支援をお手伝いしています。最後のミドル層についてですが、ミドル層はキャリアプラトー(組織内での昇進・昇格の可能性に行き詰まり、モチベーション低下や能力開発の機会損失に陥る現象)を経験し、あきらめ感や停滞感を感じている方も少なくありません。
だからこそ、その停滞を乗り越え、イキイキと働いていただくためのご支援ができればと思っています。イキイキと働ければ、本人の幸福度があがりますし、組織を支える中堅であるミドル層は、周囲に与える影響力も大きい。
ぜひ越境学習という他流試合を通じて、自己を再認識し、成長への原動力としていただきたい。私ども日本マンパワーとしてもサポートさせていただきたいなと常々思っています。
今後はこのような領域で、御社と協力して価値創出にチャレンジしていければと思います。

■ゲストプロフィール
田中 文隆(Fumitaka Tanaka)
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
社会政策コンサルティング部 雇用政策チーム 雇用政策第1 課課長
地域雇用創出政策、産業人材政策(成長分野・グローバル等)、多様な働き方に関する政策等の官公庁関連の受託調査研究業務、民間企業との連携による実証事業等に多数従事。昨今は、大企業向け次世代リーダー育成プログラム 越境リーダーズキャンプを開発・実施 。ビジネスと人権、非財務価値の可視化(社会価値)や人的資本経営に関する研究を実施 。
ISO 30414 人的資本開示ガイドライン リードコンサルタント アセッサー 、 経済学博士
【関連講演・レポート 】
● みずほリサーチ&テクノロジーズ 地域金融機関向けセミナー「地域を活性化させる〈みずほ〉の非金融分野における取組みについて」『人的資本経営の新たな潮流―アルムナイ(中途退職人材)と拓く地域・企業のこれから―』(2021年11月18日、19日)
● みずほリサーチ&テクノロジーズコラム「人的資本経営の新たな潮流」(2022年1月19日)
● ハイブリッドキャリア協会主催第5回ウェビナー講演「人的資本経営の新たな潮流 知や経験の多様性を活かすには~越境経験を通じた次世代リーダー育成トライアルを踏まえて~」(2022年7月26日)
● 「人材支援を契機とした地域金融機関による息の長い事業者支援を考える」『monthly信用金庫』2022年5月号(発行:一般財団法人全国信用金庫協会)
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/contribution/2022/shinkin2205_01.html