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挑戦するパナソニック コネクト株式会社と考える「ジョブ型とは何か」(前編)

インタビュー

企業

2022.10.17


いま急速に関心が高まっているジョブ型雇用。その現象を多角的に検証し、その本質を考えていくことを目的としてスタートした本連載。最終回は「総括」として、現在進行形でジョブ型制度の導入を推進していらっしゃる企業から見た「ジョブ型とは」について、連載で扱った様々な視点から検証していきます。
お話し頂くのは、本年2022年4月に設立されたパナソニックグループの新会社・パナソニック コネクト株式会社の新家伸浩様(執行役員 常務/CHRO/人事総務本部長)と中島好博様(人材・組織開発部長)。
対談には日本マンパワー社長の楠木賢治も加わり、「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスのもと改革に猛スピードで取り組まれている現場の視点と、業種横断の俯瞰的な視点の両面から「ジョブ型のリアル」を解き明かしていきます。
※過去の「ジョブ型雇用とキャリア」連載記事 こちら も、ぜひ合わせてご覧ください!

「コロナ」で何が変わったのか?

Q: 新型コロナによって、御社の中でどのような働き方の変化がありましたか?
新家様(以下新家):はい。コロナによってTeamsやZoomのようなツールを使って在宅中心での働き方ができるんだと気づいたことが一番大きいのではないか、と思います。それまでは、決して自分たちの働き方を変えようという気持ちがなかった人もいましたが、コロナ禍で「そうか、できるんだ」ということが全員の共通認識になったことが大きいですね。
中島様(以下中島):コロナが流行しはじめて半年から1年間ぐらいは、加速するオンライン環境の中で「何でもできるんだ」といったことが関心事でしたが、時間が経つ中で、人の成長にとって何が大事なのかを、企業も個人も突き付けられていったと感じています。
ではリアルでやらなければいけないことは何か。それを会社も社員もお互いに考えたことがすごく良かったのではないでしょうか。
「生産性」や「やりがい」という視点で人間関係を大事にしながら新しいワークスタイルをつくっていこう、というのが今のフェーズなのかな、と感じています。
楠木:国も一生懸命リモートワークを推奨してきたものの、なかなか日本の企業の中では定着しなかったわけですね。 それがこういった外部環境の大きな変化によってリモートワークが展開していく経験をしたことが、一番大きかったのではないかと思います。
またリアルでやることとオンラインでやることの違いは何かを、改めて深く問われたり考えたりする機会にもなりました。 私どもがお手伝いしている研修も、今までリアルを大事にして展開してきましたが、コロナの流行によって企業様から「オンラインでできないか」という要請を頂いたことからオンライン研修が始まりました。
コロナをきっかけにして当社社員全員が「リアルとバーチャルでできること」を真剣に考えたことは大きな変化だったと実感しています。

どのような「事業環境の変化」が起こっているのか?

Q:コロナによって働き方が変わったわけですが、加えて事業環境の変化も拍車をかけています。
御社は本年2022年4月にホールディングス制に移行し、貴社も事業会社の1つとして会社を設立されたわけですが、そこに至る事業環境の変化はどのようなものだったのでしょうか?
新家:当社としては、元々コングロマリットディスカウント(=多くの事業を抱える複合企業の企業価値が各事業の企業価値の合計より小さい状態)のような状態でしたが、それでは良くない、それぞれの事業を成長させ企業価値を高めていかなければいけないという判断のもとに事業会社化しました。
その直前にコロナを経験して事業環境が更に大きく変わったと感じています。特にアビオニクス事業(機内の映像機器を航空機メーカーに納めている事業)はグローバルシェアが非常に高く、収益性も高いのですが、当社がメインターゲットとしてきた大型機の運行機体数がコロナ禍で一時的に減少するといった経営環境の変化が起こりました。
その時に、アメリカにあるアビオニクス事業の本社が大胆な改革を断行しました。経営者も代わり、ものすごいスピードで事業戦略を建て直し、人材も入れ替え、そこに大型機の運行機体数も順調に回復してきたことも相まって現在は着実なアウトプットを出しつつある状況です。
また、社長の樋口が、日本企業とアメリカ企業の生産性を比べると、そのレベルが段違いだということを自身でも経験してきたことからも、このたびいわゆるジョブ型の人事制度を考える必要があるという判断になりました。
しかしそれは単純に「人を入れ替える」などということではありません。根底には、日本においてメンバーシップ型の働き方が高度成長期からバブルまでの幻想のようなこともあったのではないか、いま一度、生産性を追求するモードに日本企業が変わらなければいけない、という危機感があります。
この危機感が企業変革に繋がり、当社では「新人材マネジメント」と呼ぶジョブ型の制度導入につながっていきました。つまり当社の場合は、コロナ禍やそれによって事業の変革に着手せざるを得ない状況になったことによって事業会社化が一気に加速していったということになります。
中島:我々は「パナソニック株式会社内はほぼ同じ人事制度」でやってきましたが、事業会社化となり、「我々自身ですべて決めていく」という覚悟のもとスタートしております。これを機会に社員も含めてこの会社を成長させていくんだ、という人事としての方向性を出したわけです。
この変革は社員の皆さんにとっては本当に大変なことだと思います。しかし、それを乗り越えた先に、私達がプロフェッショナルとなって会社の未来をどう打ち出していくかが大きなテーマだと思います。
Q: 楠木さんは多様な業種の企業様とのお付き合いがあると思いますが、企業を取り巻く事業環境変化についてどう感じていらっしゃいますか?
楠木:ジョブ型の導入を検討されたり既にスタートされたりする企業は、様々な事業環境の変化があって移行されているのは確かです。連載記事でお話をお伺いしたオリンパス様もパナソニック コネクト様どちらも、「グローバル一体化経営」をどんどん突き進めた結果として、「世界共通でのフェアな評価・処遇・採用」がやはり必要だというお話になってきています。
事業環境変化のキーワードとしては「グローバル化」でしょうか。次に来るのが、DXの領域に代表されるプロフェッショナル人材・専門職人材不足といった問題。加えて、多様な働き方がどんどん進む中、業務の生産性をどうやって評価したら良いのかといった問題があると思います。ジョブ型導入の背景には、そういった複合要因が組み合わさっていると感じています。
しかし、いずれの動きもグローバル化の流れに含まれると考えればそうであり、共通したキーワードはやはり「グローバル化」になると思います。

「ジョブ型制度」とは何か?

Q: 次に本題のジョブ型制度についてのお話をお聞かせ頂きます。連載の中でも、労働政策研究・研修機構(JILPT)の下村先生は「ジョブ型によって多様な働き方が生まれる可能性がある」、PwCコンサルティングの土橋様からは「いま本質的に求められているのは“人材マネジメント全体のエコシステム”」というコメントがありました。
御社ではどのような制度をどのようなお考えのもとに導入されようしていますか?
新家:一番大事なのは、土橋様が仰っていたように当社なりの「人事のエコシステムを構築する」ことだと思っています。
では、どのように変えるのか。ジョブ型人事制度などと言って、ある日突然切り替わりますという話ではありません。例えばある日、いきなり森ができました、ということはありませんよね。何にもない砂漠に草原ができて、木が生えてきて林になって山になっていくようなものです。
つまり「境目がなく徐々に変わっていく」というようなことです。
今後は、お客様に近い現場できちんと人事をするということが大事になっていきます。現場のマネージャーがそれを理解できるのか、行動できるのか。それは少し「ロングジャーニー」だと思っています。
制度自体は日を決めて変えますが、一定程度の時間をかけながら、ある程度目指す方向を意識しながら徐々に変えていく必要があります。なので、ジョブ型を導入すると何か特効薬のように突然何かが変わると考えてしまうのが一番の問題だと感じています。
中島現場に人事機能の大半を任せていくので、これまでは「人事がやってくれる」と考えてきた現場の責任者のマインドチェンジが一番大きなテーマになっています。現在、約1,400名のマネージャーに対して、来年2023年4月に向けた準備を研修という形で実施しています。
マネージャーの中でも今回の変化をしっかり受け止めている人と、「昔は良かった」と変化を受け止め切れないマネージャーもいますので、全員のマインドセットの醸成が大きなテーマとなるわけです。
Q: 「マインドセットの醸成」について、もう少し詳しくお話し頂けますか?
中島:例えば配置ひとつをとってもこれまで社命でやって来たものが公募型に変わっていきます。「自分が何をやりたいか」を考えていないと、いつまで経っても目の前の仕事を毎日こなすだけの仕事になってしまいます。
かたや、自分が将来どんなことをやってみたいかの見通しを持った人ほどチャレンジができます。キャリアの見通しがない人はどんどん置いていかれます。なので、マネージャーも社員もマインドセットを変えていくことが大きなテーマになります。
楠木:新家様の「ロングジャーニーになる。特効薬はない」というお言葉をお伺いして、「良い表現をなさるな」と感心するとともに安心もいたしました。
ジョブ型雇用は、本来なら経営トップや人事部門の責任者の方が熟考を重ね、プロセスをしっかり踏まえて、社内説明や啓発しながら進めていくものだと思います。
しかし最近は「ジョブ型なるものが良さそうだから」とキャッチアップ的に情報収集をされたり、成果主義・人件費抑制効果などと並列でジョブ型を導入しようとされたりする企業も増えています。「ロングジャーニーであり特効薬ではないんだ」というお話をお伺いするとなおさら、各社が今後どのようにこのジョブ型に対応されていくのか、非常に興味を持って見ているところです。
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