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キャリこれ

社会人よ。会議室から出て「社会実践」してみよう!(後編)

インタビュー

個人

連載記事

2022.10.20


社会人や企業人の学びの潮流を俯瞰すると共に、新たな学びに挑戦する現場のレポートを行い、これからの働き方やキャリアの道筋を描く上で「本質的に考えるべきこと」を解明していくことを目的としてスタートしたシリーズ「学びのこれから」。
第3回は、未来をつくるために必要な社会人・企業人の学びの在り方について考察していきます。
■記事前編は、こちら
■今回お話を伺ったゲスト
山﨑 和彦先生
(武蔵野美術大学教授、Xデザイン学校共同代表)
*プロフィールはこちら*

Q: 次に、これから社会人がクリエイティブになるために必要な学びについてお聞かせ頂けますか。
特に、先生が交流されているイタリアでは「その人自身がやりたいこと楽しいこと、そして社会にもいいこと」という思想によってクリエイティブになるための学びを実践していますね。

ある会社の役員向けの研修で「本来自分のやりたいことはなんですか」と役員に書いてもらったんです。そうしたら、「ゴルフで何かしたい」「やりたいことよくわかりません」といった答えが返ってきました。
日本人は、これまで自分が何をやりたいのかは聞かれてこなかったのです。とりあえず親も知っている名前の会社に入って「何をするか」は会社が教えてくれるでしょうみたいなこともあったと思います。
ただ、自分自身のやりたいことがはっきりしていなくても、社会に良いことは、喜んでもらえるのでやっていて楽しいわけです。例えば、ビーチクリーンは別にやりたかったことじゃないけれど、おばちゃんたちと一緒にやって一緒に喜ぶ、という経験を得ることができます。そういう意味で「社会のために良いこと」からスタートするというのは悪いことじゃないと思います。
さきほど話に出たイタリアは元々都市国家で、「国」という存在よりも「自分たちの地域」に住んでその地域を良くしたい、という地域共同体的な意識が強いので、社会意識が元々芽生えている部分があります。何よりも、彼らは人生というものを謳歌しています。

Q: 最近は「ビジネスパーソンからヒーローを生む」ということを提唱されていますね。

ビジネスを楽しんでやっている人たちが、もっと世の中の表に出てくると社会が変わるのではないか、普通のビジネスパーソンがヒーローになっていったら世の中が面白く変わっていくんじゃないかと思っています。
これにはイタリアのボローニャという街の事例があります。ボローニャは織物の産業が盛んで、それに必要とされる機械の工場やパッケージの会社など、いろいろ生まれています。そこでは、街をあげて機械技術者をすごく大事にしています。ボローニャ産業博物館に行くと、機械を作った人の顔写真と名前が書いてあって彼らをヒーローにしています。
そういうことが文化を作っていく。
僕はいま、ビジネスをやっている人たちがヒーローになるための支援を、大学でもデザイン学校でもやっていきたいと思っています。でも、ヒーローをつくるためには「舞台」が必要になります。
歌謡コンテストにはステージがあるし、アートには美術展があるように。僕はビジネスマンがヒーローになるためのステージとして「本」を考えていて、出版社を作る準備をしています。

Q:Xデザイン学校でも学生にブログ(note)に書いてもらってそれを1冊にすることを試みられていますね。

noteで書くこと自体がヒーローになることの始まり、自分の発信をすることがヒーローになる第一歩だと思います。

Q:あるいは「子供から学ぶことの意味」も唱えていらっしゃいますね。

これはすごくシンプルです。子供はみんなクリエイティブなんです。
小さい頃は誰に言われなくても絵を描くし、工作も作るし、子供って元々クリエイティブなんです。でも、大人がそんなやり方じゃ駄目だとか、勉強しなさいとか言ってずっと抑えてしまう。
「クリエイティブになるということは子供心になることだ」と、僕が尊敬するブルーノ・ムナーリ(イタリアのデザイナー、教育者、絵本作家)も言っています。それを知る一番良い方法は、子供と一緒に同じものを作ることです。
大人が、子供の方が凄いことを学ぶ。「子供が、素敵なものを素早く目の前でつくる」という現実を体験したら、子供に教えるって何?いやいや子供から教えてもらうことが大事だということに気づくはずです。

Q:先生も、この「こどもから学ぶ」取り組みをされていますね?

はい、VIVITA(https://vivita.jp/)という会社と一緒に取り組んでいます。
この会社は孫泰蔵さんという方が作った会社で、先生はいないしやり方も教えない、やりたい人が来るという学校を目指しています。そして、子供たちがやりたいことを大人が支援することを実践しています。
そうした取り組みをしている理由は2つあります。
まず、今から20年後に新しい職業が半分以上できてくると考えた時に、今の子供たちが新しい職業を作る人たちだということです。彼らの感受性の中に新しい職業を作るヒントがあります。彼らがやりたいことやっていたら、それが新しい職業になる。
もう一つの理由は、未来のスタートアップは彼らから生まれるということです。
その二つの理由から、子供たちと一緒に学ぶクリエイティブなスペースを作っているVIVITAとうちの学生が共創やワークショップをやっています。

Q:それは「パフォーマンスを上げるのは不真面目な人」という点と共通していますね。

真面目な人というのは従来のフレームワークをちゃんとやる人です。
従来のフレームワークから飛び出さないと新しいものを生み出すことはできません。だから新しいものを生み出すためには、不真面目というか・・・従来のフレームワークじゃないことをやる人が今、すごく必要になってきているわけです。
そして、この新しいことをやる人は社会から外れるわけですよ。それを僕は「アングラ(アンダーグラウンド)」と呼んでいます。会社の中でアングラ的な活動をする人がいないと、その会社はいつか滅びてしまうのではないでしょうか。
例えば、最近のメガベンチャーと言われるマネーフォワードやメルカリといった会社は、「アングラな人たち」が居心地いいように働くことができる文化づくりを行っています。

Q:先生は「組織文化」も非常に重視されていますが、これを重視される意味や必要性をどのようにお考えでしょうか?

組織に所属している人は、その組織の文化に知らないうちに強い影響を受けています。
でも、文化は見えない部分で、家で言えば土の中にある土台のようなものです。表面に見える建物の前に、土台の部分をどうするのかを考えなければいけない。それが文化です。
土台となる文化を無視して、いくら綺麗な家を建てようとしても、ひっくり返ってしまいます。一方で「今までの文化で良かったのか」という視点も必要です。場合によっては文化を変えていくことも必要だと思います。

Q:最近の問題意識として提言されている「テンプレートではないデザイン思考」の必要性についてお話しいただけますか?

最近では、企業でデザイン思考が大事だといわれるようになっていますが、ともするとデザイン思考が少し日本流の改善運動と同じになってしまっていることもあると思います。
つまり、道具やメソッドがあって、それを覚えて改善運動するかのようにデザイン思考を捉えるようになっています。
01を生み出すにはデザイン思考は非常に難しいとも言われています。ではどうやって01を生み出すのか。その点では、アートの方が近いのではないかと考えていて、01を目指すための方法を研究したり実験したりしています。

Q:最後に、今後研修会社に期待されることをお話し頂けますか

まず「研修会社はこうあるべき」という従来のマインドを1回捨てるということではないかと思います。
自分たちはそもそも何をする会社なんだろうか。例えば企業の社員をどうしたいのか、何をどうしたいのかを考えて、やるべきことをもう1回リセットして考えていく、始めていくのが良いのではないでしょうか。これからはもしかしたら「ツアー会社」になるかもしれないし「販売会社」になるかもしれないぐらいの発想をしてみる。そして、考えたことをまず自社内で実験してみることをおススメします。
研修会社には、めちゃめちゃ可能性があるのに、気づかれていないような気がします。研修会社とはこういうことやるものだ、という枠に囚われていると勿体ないですし、研修会社に対するcredibility(信頼)の問題もはらんでいます。なぜなら「これからの教育や研修はこうあるべき」と教えておいて、自社がそれを実践していないと矛盾しますよね。「教えるべきことをまず自分から実験してみる」と考えるのが必要だと思います。
山﨑 和彦(Kazuhiko Yamazaki)
武蔵野美術大学教授、Xデザイン学校共同代表
京都工芸繊維大学卒業後、クリナップ株式会社[IY1] 、日本IBM株式会社、UXデザインセンターマネージャー(技術理事)、千葉工業大学デザイン科学科/知能メディア工学科教授を経て現職。日本デザイン学会理事、日本インダストリアルデザイナー協会理事、グッドデザイン賞選定委員、経済産業省デザイン思考活用推進委員会座長、人間中心設計機構副理事長など歴任。神戸芸術工科大学・博士(芸術工学)授与。
著書多数。デザインの実践・研究・教育とコンサルティングに従事。

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