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メタバース空間に「学習する組織」をつくる~Hanwa Business Schoolの事例から学ぶ~【前編】

インタビュー

企業

2022.12.19


社会人や企業人の学びの潮流を俯瞰するとともに、新たな学びに挑戦する現場のレポートを行い、これからの働き方やキャリアの道筋を描く上で「本質的に考えるべきこと」を解明していくことを目的としてスタートしたシリーズ「学びのこれから」。
第4回は、阪和興業株式会社が本年2022年6月に立ち上げた企業内大学「Hanwa Business School」の事例を取りあげます。阪和DNAを学ぶ文学部、投資判断に必要な理論と実践を学ぶ経営学部など8つの学部に分かれ多様なカリキュラムが組まれていますが、その最大の特徴はメタバース上にあること。社員一人ひとりのアバターがメタバース空間の中で講義や研修、イベント等に参加します。
このビジネススクールの立ち上げに関わった堀良行様に、その経緯やプロジェクトにかける想いをお聞きしました。
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Q1: まず、堀様のご経歴をお話し頂けますか?

オンライン取材にご協力くださった阪和興業株式会社 堀様
1995年の4月に阪和興業に入社しました。そこから13年間、名古屋支社で冷凍エビの輸入業務に携わってきました。入社して数か月後には、ひとりでパキスタンとインドに1ヶ月半ぐらい出張に行ってエビの買い付けをしました。もうOJTの究極です。現地に行って、エビの品質チェックも相場の見通しも貿易も何もかもひとりでやりました。英語もインド人から習った(笑)キャリアのスタートでした。
2000年代に入るとそれまで右肩上がりだった輸入量が減少傾向になり、水産物の原料ビジネスに少し翳りが見え始めてきました。なぜかというと、人々の生活スタイルが変化していき、共働きや家で料理をしなくなる人が増えてきたんですね。
いわゆる「中食(惣菜などを家で食べること)」も増え始めてきましたので、当社も原料だけではなく加工品の扱いも必要になりマーケットが変わってくる中で、自分の中で勉強しなければいけないという思いが高まり、自腹で国内のMBAに行きました。当時は単身赴任で大阪にいたのですが、1年半、週末は名古屋に戻ってビジネススクールに通いました。今考えたら、よく家族は許してくれたと思います。
そして、2010年から2016年にかけてアメリカのシアトルにある販売子会社にてヴァイスプレジデントになりました。大体20人ぐらいの会社でしたが、日本人は私ともう1人だけという環境で実践的に経営を勉強した、という感じです。アメリカには小学2年生と4年生の子供を含めて家族全員で行き、現地での教育にも苦労して、現地の教育システムを子供を通じて体得することになりました。
日本に帰任後は、2年間食品部でエビや鮭などを担当していましたが、全社的な人材戦略をやってみたいという希望を出して、2018年4月に人材開発課に異動し、現在は採用や研修の責任者をさせていただいています。

Q2:アメリカの教育システムについてお子様を通じて体得された、という点をもう少し詳しくお話し頂けますか?

すごいのは「マイナスをプラスにする」ではなくて「プラス面をすごく伸ばす」という発想です。留年や落第が当たり前で、わからなかったら何回も勉強すればいいし、できる子はガンガン飛び級すればいい。能力に応じて数学は5年生のクラスで学び、国語は1年生のクラスで学ぶ子なんてざらにいます。
中学校でも高校の単位を取れるし、小学校で中学校の単位を取れるしどんどん飛び級していくので、16歳や17歳で大学に入ることができる。授業も一人ひとりの能力や個性に応じて設計されています。中学校から、大学のような感じで自分のカリキュラムがあって、先生がいる教室を生徒の方が廻る方式です。
また、親との面談もあって子供の能力や個性に応じてカリキュラムをカスタマイズしていきます。あとは「ギフテッド」と言われる天才を見つけます。数学の超難問のテストで100点を取るけれども他の科目では0点の子がいる。このギフテッドを見つけて、専用の学校で数学の超スペシャリストに鍛え上げる。興味があることを徹底的にやらせることで若くして優秀なプログラマーが生まれていく社会の構造です。すごく斬新で強烈な経験でした。
社会人の教育も授業参加型ではなく試験合格型にして、合格したらその授業は免除するぐらいのことをしていかないと、社員も会社もお互い学んだことが無駄に終わるんだろうなと感じました。

Q3: アメリカでのご経験が人材教育に対する考え方の原点になったわけですね。では、ここからはHanwa Business Schoolについてお話を聞かせていただきます。まず設立の背景と経緯についてお話し頂けますか?

人材開発課に私が来た2018年の時は、予算がそこまで多くなくて・・・。他社さんは1人当たり30万円ぐらい年間予算を使っていたりしますが、当時我が社は数万円のレベルで、しかも全体の40%は新入社員にかけていました。
もう少し研修費をかける必要がある、ただし今までの研修を活かしながら何か新しい仕組みが欲しいねという話を人事内部でしていました。すると、2020年に発表された第9次中期経営計画の中で人財基盤の強化が謳われたんです。その中期経営計画策定部会より「企業内大学」が提言されました。
中期経営計画では、2030年の阪和興業のあるべき姿と2022年の現状、その質と量のギャップを埋めるために、教育と採用に注力すると言っています。時代の変化に合わせて今までの研修やナレッジを体系的に組み直して企業内大学を設立することによって2030年に向けての質的ギャップを埋める、というストーリーで設立準備をしてまいりました。

Q4: 質的ギャップについてもう少し詳しくお話頂けますか?

2030年に向けての質的ギャップとして、以下5つの人材面の課題があると考えています。第一に、関連子会社の裾野を広げるための経営人材の育成、第二に、より積極的なグローバル展開に向けてのグローバル人材の育成です。第三は女性活躍の積極的推進、第四にITリテラシー、第五がシニア人材の活用です。
企業内大学には、この5つの課題に対応する8つの学部を作りました。阪和DNAや当社の歴史を学ぶ文学部、会計やファイナンスの知識を獲得する商学部などのほか、一人ひとりの能力開発をカスタマイズするためのキャリアデザイン学部も設けています。

Q5: Hanwa Business Schoolの理念についてお話し頂けますか?

メタバース上にあるHanwa Business School
明文化はされていませんが、「自分たちで考えて自分たちで動く」という理念が独立系商社として当社では根底に流れているように思います。加えて、「このHanwa Business Schoolがなぜ必要なのか」のミッションを考える際に、社史などを調べていたところ、創業者の1人の「『汗』を伴った『知』」という言葉に出会ったんです。
足で稼いで得た知識こそが本当の果実を得るには大切であり、それがまさに現場主義だということです。この言葉にヒントを得て、机上の空論ではなく、明日から仕事に使えるような研修や知識、要は実学に基づいた知識をここでは勉強するべきだという想いに至りました。
酒井「実践知」ですね。
:はい。我が社は「業務優先」という考えが浸透しているため、研修は少し受け身でなおざりにされる傾向があるので、各自で自主的に映像を視聴してインプットしてもらい、アウトプットやアクションラーニングをするときだけは集まってもらうというやり方にしました。

Q6: 新入社員からの人材育成体系の中で、Hanwa Business Schoolはどういう位置づけになるのでしょうか?

仕事やキャリアに困ったら立ち止まって、勉強してまた現場に戻っていくような場所を目指しています。当社はメーカー系や財閥系とは違って独立系商社なので、仕事が自然に降ってくるわけではありません。
ただ口を開けていても、誰も餌を入れ込んでくれません。自分でお客さんの仕事を取りに行って自分で必要なリソースを入手しなければいけない。私も入社してすぐにエビを自分で買いに行って自分で売りに行きました。注文が入ってオーダーをこなすルーティン的な仕事などほぼなくて、自分で仕入れ先とも売り先とも関係性をどんどん作っていかなければならない。その分、めちゃめちゃ仕入れ先や売り先との関係性が濃いんです。
そして、自分から何かアクションを起こさないと何も与えてくれないのは、研修も同様だと思います。このビジネススクールのプラットフォームは24時間365日いつでも開いています。自分で勉強したかったら自分から出かけて行って、このプラットフォームを全部利用してもらう。現在コンテンツは900以上ありますが見放題です。
一般職・総合職関係なく全社員が見放題で勉強し、対面の研修ではビジネスモデルや事業化マネタイズやコーポレートファイナンスなどについて話しあうようなアウトプットを行います。日本では社会人が大学で学ぶことがまだ十分に浸透していませんが、海外だったら勤めながら普通に1-2年大学院に行きますよね。
それと同じように、このビジネススクールはいつでもコンテンツが見放題なので、必要な知識を自分でアップデートして現場に戻っていく。自分で仕事を取るように、自分で能動的に知識をアップデートしてもらうために、このプラットフォームはつくられた、というのが基本的な考えです。
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