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人と企業は「社会」と生きる~サントリーグループの取り組み事例から学ぶ~(後編)

インタビュー

2024.1.30


SDGsに代表されるように、企業が社会課題と主体的に向き合いながら事業を成長させる必要性が増し、それと共にステークホルダーとしての地方自治体と連携する重要性も高まっています。今回ご紹介するサントリーグループは「ペットボトルの100%サステナブル化」を掲げて果敢に環境問題の解決に取り組むと共に、多くの企業が抱える経営課題であるシニア社員活躍にもつなげています。この取り組みに携わっていらっしゃるサントリー食品インターナショナル 藤巻恒さんにお話をお聞きすると共に、取り組みを通じて生まれた社員のキャリアや生き方に対する想いについても語って頂きました。
後編では、地方創生人材の取り組みについてお伺いしました。

6.「地方創生人材」の取り組み:背景と概要
Q12:では、2番目の話題「地方創生人材」に入りたいと思います。このお取り組みの背景についてお話し頂いてもよろしいですか?
藤巻:
地方自治体の中でも人口10万人に達しない小さな自治体は、人材を確保する力が不足する一方、過疎化がどんどん進んでいます。田舎であればあるほど閉鎖的な状態で自治体運営をせざるをえないという悩みを抱えている状況です。一方、人生100年時代になっている中、シニアの活躍の場の一つとして自治体のようなところで、ご自身の力を発揮していただければ、自治体と社員双方にとって利のある話になるのではないか、ということで始めました。サントリーグループの価値観である「利益三分主義」における社会との共生の考え方にも通じるものです。
Q13:そのマッチングの仕組みはどのようなものですか?
藤巻:
内閣府の制度を活用して「民間の人材が欲しい」という応募を自治体がするわけですが、その中で特にサントリーの人材を欲しい場合は、その旨を記載して申請して頂きます。弊社にその情報が入った段階で社内で公募をかけ、毎年4月1日から着任してもらうよう人選を進めていくという流れです。

7.「地方創生人材」と「ひと」:見えてくるもの
Q14:お取り組みの実績や成果についてお話し頂けますか?
藤巻:
今、13人ほど出向しています。お役所の方々は、民間で働かれている方々と価値観や仕事の進め方そのものが違うということは、私も出向者にインタビューする中で感じるところはあります。例えば、ある自治体では「どのように『ふるさと納税』の収入増を実現するか」という課題に対して、弊社からの出向者がプランニングし、ユーザーにリサーチを行い、商品の本質的な良さを理解して品質の向上に繋げました。それによって、ずっと増えていなかった税収がたった1年で1.6倍になったという話もあります。
地元の方にとってはありふれたものが、外部から見ると、とても価値があるものだったりします。また、公務員の方々は、職務上、営業をしたり、利益を考えたりする機会がありません。
つまり、自分(出向者)にとって当たり前の話が、自治体さんからしてみたらイノベーションのように感じて頂けているのかもしれません。これも縁が取り持つものだと思いますので、そういう場を広げていければいいなと思います。
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Q15:みなさん、何を求めて応募されていらっしゃるのでしょうか?
藤巻:
「自分自身としてのキャリアを考えよう」ということに尽きると思います。
シニア層になると「会社を取りまく事業環境の変化に伴ってリスキリングやキャリアの見直しも求められる中このままでいいのか」と考えますよね。その思いに突き動かされて、自分自身の勉強のために行ってみようと思う人が多いのではないか、と思います。
Q16:応募者の中から選ぶ基準のようなもの、あるいは選ばれる人に共通したものはありますか?

藤巻:

まずは内閣府に届ける自治体が求める人材要件にその人が合っているのかどうかが第一です。人材的なところでいきますと、ホールディングスの人事の人が言っていますが、「“ではの守”になるな」と言います。つまり、「“サントリーでは”こうだ」「何でできないんだ」というようなことにならないと思われる人かどうか、を基準にはしています。
Q17:出向されている13名の方の職種はどのような内容ですか?
藤巻:
営業系、宣伝、SCM等、いろんな職種の方がいらっしゃいます。これまでは自治体からのお声がけを待っていたのですが、今年はこちらからも働きかけを行っているケースもあります。
Q18:このお取り組みも、サントリーグループさんの人に優しい企業風土に根ざしているとこもありますね。
藤巻:
そうかもしれませんね。弊社の人材が会社の外で活躍するということが、最終的にサントリーの企業価値への貢献につながっているのではないかと思います。
Q19:多くの自治体から喜ばれて出向延長の申し入れもあるとお聞きしましたが、どういった点が評価されたり喜ばれたりしていると思われますか?
藤巻:
お役所でも会社でも、その組織の中にいると見えない景色ってあると思うんです。それが出向という立場で、自治体の中にいながらも外から見るような客観的な見方を正しく伝えることは、行政を運営していく上でも良い効果がもたらされているのではないでしょうか。

8.「会社」と「人材」
Q20:社員の方々がこうした越境をしたことで、キャリアへの効果はありますか?
藤巻:
全く違う価値観に触れるという意味では、ご自身のキャリア形成に大きな影響を与えていることは確かだと思います。人生100年と考えたときに、定年は65歳ですが、まだまだ現役で働こうと思っている方もいらっしゃいますし、会社の中にいると会社組織の延長線上でのキャリアしか描けないですが、外に出ていろいろと考えることは、ご自身にとってはとても良い体験だと思います。長い目で見たときにキャリアオーナーシップを養うという点で意味があると思います。その人にとっての“やりがい”とは「必要とされている」ということだと思います。受け入れてくださっている企業さんのお声を聞くと、それなりに結果に結びつけるような活動をしてくれているようで嬉しいですね。
Q21:この取り組みに熱心に取り組まれる藤巻さんご自身の想いについてお聞かせ頂けますか。
藤巻:
弊社に限らず大手と言われるような企業に勤めているシニアの方々は、皆さん優秀だと思います。大企業ならではの教育も施されていますし、色々な活躍のチャンスがあるはずなのに、それに気づかずに、何となく会社・組織という「箱」の中で・・というのは正直「勿体ねえな」という想いはあります。自治体に限らず、民間でもスタートアップといった、まさしくこれから成長していかなければいけないのにその基盤が整っていないところ(組織)など、まだまだシニア人材が活躍できる場はあるんじゃないかなと思います。その結果、いい意味での人材の流動化が進んで社会貢献に繋がるのであれば、日本そのものに良い効果がもたらされるのではないでしょうか。
Q22:藤巻さんご自身のキャリアや仕事の中で「人」というものをどのように捉えられていらっしゃいますか?
藤巻:
前職の銀行時代を含めて、ずっと事業企画や経営企画といった方面の仕事ばかりやっていたのですが、どこか人を頭数(人件費)で考える傾向があったと思います。しかし、人に理解してもらって納得してもらって共感してもらって動いてもらわないと何も始まらないんだよな、と人事に来てから、より思うようになりました。
単純に「明日からこの仕事をしてください」と、その人なりの納得感ややりがいの可能性を無視して“あてがいぶち”で業務指示をしても絶対失敗するんですよね。難しいことですが、共感がないと「人」は動かないんだなと人事に来てからすごく感じています。
どの会社でも成長軌道から成熟軌道に入っていく状況を考えると、ずっと組織がキャリアを与えるというのは難しいことだと思います。しかし、ご自身のやりがいを見つけ出していけば、市場のニーズは必ずあるので、そこで「キャリア自律」と活躍の場を探す「探索活動」の2つをハイブリッドで進めていくのが良いのではないでしょうか。
Q23:お話を聞いて、「人は頭数ではなくて、その人のWill/Can/Mustが一致しないと次のキャリアに進んでいけないんだな」と改めて思いました。そういったキャリアの転機に立ち会われる際に気をつけていらっしゃることや心がけてらっしゃることはあるのでしょうか?
藤巻:
気をつけなきゃいけないな、と思いながらなかなかできないのが、自分の価値観を押し付けがちになってしまうことですね。そこは個人としては気をつけています。

〇インタビューを終えて
人的資本経営は、規定課題として有価証券報告書への数字の開示が求められるため、現状は数値達成が優先されています。その一方「自社ならではの人的資本経営の在り方は何か」を考え、つくりだしていくことも必要ではないでしょうか。サントリーは、環境問題という最も大きな社会課題に対応するため、人的資本経営が重視するステークホルダーとなる地方自治体との連携を進める一方、それをシニア人材の活性にも繋げています。また、自治体や地方の企業に出向する方々は短期的な研修に留まらない「越境学習」をすることで自身のキャリアへの大きな気づきを得ることができ、同時に地域の皆さんに刺激を与えることで「越境効果」をもたらしています。正にサントリーが受け継いできた「利益三分主義」を実践する“サントリーならでは”の在り方を実現していると言えるでしょう。加えて、その推進には想いを持った人が欠かせないことを藤巻さんのお話を通じて改めて認識することができ、「やってみなはれ」精神を学ばせて頂いたインタビューとなりました。

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