日本社会の高齢化に伴って、各企業においてもミドルシニア社員の生産性向上・活性化が重要な経営課題となっています。そこで、2024年1月23日(火)、ミドルシニア社員のキャリア自律支援に先進的に取り組んでいる株式会社IHI人事部人財開発グループの間所美帆様をお招きし、具体的施策などについてご紹介いただきました。
〇登壇者(写真右)
株式会社IHI
人事部 人財開発グループ
間所 美帆 様
(まどころ みほ 様)
株式会社IHI
人事部 人財開発グループ
間所 美帆 様
(まどころ みほ 様)
〇モデレーター(写真左)
株式会社日本マンパワー
黒田 留以
株式会社日本マンパワー
黒田 留以
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1.会社概要
(1) 会社概要
株式会社IHIは、1853年に創業した重工メーカーです。従業員はグループ全体で3万人弱です。全国に7工場、8支社を有し、海外事務所14ヵ所、関係会社199社(国内61社、海外138社)を擁しています(2023年3月31日現在)。
IHIグループの事業領域は、「資源・エネルギー・環境事業」「社会基盤事業」「産業システム・汎用機械事業」「航空・宇宙・防衛事業」の4つに分けられます。
IHIグループの事業領域は、「資源・エネルギー・環境事業」「社会基盤事業」「産業システム・汎用機械事業」「航空・宇宙・防衛事業」の4つに分けられます。
(2) 将来のありたい姿と経営理念・経営方針
IHIグループの将来のありたい姿は、「自然と技術が調和する社会を創る」ことです。その基盤となる経営理念は、「技術をもって社会の発展に貢献する」と「人材こそが最大かつ唯一の財産である」です。
直近のグループ経営方針は「IHIグループ経営方針2023」にまとめられています。その要点は、「ライフサイクルを通じた価値提供」「バリューチェーン全体の構築や価値向上」を経営戦略とし、既存の中核事業から、成長事業(航空エンジン・ロケット分野)と育成事業(クリーンエネルギー分野)という成長領域に経営資源を大胆にシフトし、持続可能な高成長企業へと飛躍していくことです。そして、それを実現できるような企業体質とするため、現在、「変革人財の育成・獲得」「デジタル基盤の高度化」を進めています。
これまでにない知見が必要な事業を進めていくうえで、前者の「変革人財の育成・獲得」は必須ですから、人への投資を積極的に行っています。そのためには、社員の自律的なキャリア形成を支援し、エンゲージメントとウェルビーイングの向上に向けた施策を展開する必要があります。それにより、環境変化が起きても持続的かつアジャイルに自己変革していく個の能力と企業文化の実現を目指しています。
(3) IHIグループ人財戦略2023
経営方針を実現するため、「IHIグループ経営方針2023」と連動する形で,「IHIグループ人財戦略2023」を掲げています。人財戦略では、事業変革と企業体質変革を実現するために“「良い+強い」会社”と“個人の「成長+幸せ」”を両立させることが重要だと考えています。つまり、新しいリーダーシップと素早い自己変革能力を併せ持ち目標達成にコミットするとともに,従業員の成功や幸せと新たなパートナーシップを通じて人間尊重を大切にすることです。これは人財施策のすべてに関わります。
人財戦略をキャリア形成という切り口で考えると、
「新たなリーダーシップ」では、自分自身をリードして自律的なキャリア開発につなげていく姿勢を、社員に持っていただく必要があります。
「素早い自己変革能力」では、変化の激しい時代に即したスキルやマインド、自己変革能力を高めていく必要があります。
「従業員の成功/幸せ」では、社員自身がやりたいことや夢・幸せを考えられるようにと考えています。
「新たなパートナーシップ」では、会社と個人は対等な関係であるという意味で、新たなパートナーシップの認識を持つことが大切です。
これら4つのあり方を目指して、各種のキャリア形成の支援施策を展開しようと考えています。
「新たなリーダーシップ」では、自分自身をリードして自律的なキャリア開発につなげていく姿勢を、社員に持っていただく必要があります。
「素早い自己変革能力」では、変化の激しい時代に即したスキルやマインド、自己変革能力を高めていく必要があります。
「従業員の成功/幸せ」では、社員自身がやりたいことや夢・幸せを考えられるようにと考えています。
「新たなパートナーシップ」では、会社と個人は対等な関係であるという意味で、新たなパートナーシップの認識を持つことが大切です。
これら4つのあり方を目指して、各種のキャリア形成の支援施策を展開しようと考えています。
◇ Q&A クロストーク
黒田:
私からいくつかご質問させていただきます。変革の必要性を社員に浸透させるにあたって、ご苦労や大事にしている点はございますか?
私からいくつかご質問させていただきます。変革の必要性を社員に浸透させるにあたって、ご苦労や大事にしている点はございますか?
間所様(以下、敬称略):
人財開発面での変革に対する社員の反応は2パターンに分かれます。「変えていきたい」「自分が変わりたい」という方々と、「まずは目の前のことをきちんとやるべきだ」という方々です。人事としては、少なくとも変革に前向きな人に対しては、きちんと変われるような仕組みを整えることが大事だと考えています。実際にそうした仕組みがいくつかありますので、それらを利用する社員が増えていくと、周りの社員にも波及していくのではないかと考えています。また、それに加えて、メッセージを発信することも重要です。たとえば、弊社は数年前に評価制度を変えましたが、その際に「誰でも何度でも挑戦やチャレンジをしていこう」といったメッセージを発信しました。さらに今、それらを評価できるよう運用面でもテコ入れが必要ではないかという話も出ています。
人財開発面での変革に対する社員の反応は2パターンに分かれます。「変えていきたい」「自分が変わりたい」という方々と、「まずは目の前のことをきちんとやるべきだ」という方々です。人事としては、少なくとも変革に前向きな人に対しては、きちんと変われるような仕組みを整えることが大事だと考えています。実際にそうした仕組みがいくつかありますので、それらを利用する社員が増えていくと、周りの社員にも波及していくのではないかと考えています。また、それに加えて、メッセージを発信することも重要です。たとえば、弊社は数年前に評価制度を変えましたが、その際に「誰でも何度でも挑戦やチャレンジをしていこう」といったメッセージを発信しました。さらに今、それらを評価できるよう運用面でもテコ入れが必要ではないかという話も出ています。
黒田:
変革に向けて人財戦略の4テーマを手掛ける中で、難しいと感じられることはありますか?
変革に向けて人財戦略の4テーマを手掛ける中で、難しいと感じられることはありますか?
間所:
「新たなパートナーシップ」の部分は難しいですね。特に管理職から、「考え方は理解できるが、実際にどうマネジメントすればいいのか?」という面で苦労している様子がうかがえます。そのため、全管理職を対象としたピープルマネジメント研修も始めています。そこでは、「なぜ、こうした人財戦略やキャリアの考え方を打ち出しているのか」という背景説明や、面談でのスキルの使い方、グループワークによる管理職同士の情報共有などを行っています。
「新たなパートナーシップ」の部分は難しいですね。特に管理職から、「考え方は理解できるが、実際にどうマネジメントすればいいのか?」という面で苦労している様子がうかがえます。そのため、全管理職を対象としたピープルマネジメント研修も始めています。そこでは、「なぜ、こうした人財戦略やキャリアの考え方を打ち出しているのか」という背景説明や、面談でのスキルの使い方、グループワークによる管理職同士の情報共有などを行っています。
2.IHIグループのキャリア支援の仕組み
(1) キャリア形成支援を支える5つの視点
IHIグループのキャリア形成支援施策についてご紹介します。
弊社のキャリア形成支援は、次にご紹介するような「キャリア・デベロップメント・プログラム(CDP)」の考え方が中心となります。まず、社員が自分自身のキャリアプラン・キャリア開発・キャリア変更を考えることからスタートし、年に1回、システムに入力してもらいます。その内容を上司と一緒に見ながら、面談やコーチングを行い、どのような業務に就きたいのかなどを把握します。次に、本人の能力を引き出せるような業務をアサインしたり、場合によっては異動したりなど、業務の機会を設けます。そうした中で足りないスキルや自ら伸ばしていきたいスキルについては、研修の機会で学んでいくことになります。
このように、社員本人が気づきを得て、学び続け、それをもとにまた自分のキャリアプランを考えるというサイクルを回していくことが、キャリア形成支援施策の軸となります。
キャリア形成支援を支える視点は、大きく分けて5つあります。
1つは、本人がキャリアプランを考えるための部分で、キャリアデザインガイドやキャリアデザインセミナーを用意しています。
次に、上司に対しては、キャリアに関する支援をできるようにするための研修があります。
3つめは人事に関するもので、社員が自己選択できるようにするための評価・昇進制度の改訂やグループ内公募制度など、また、越境の機会を得られるために社内副業制度や兼業制度などを設けています。
4つめは経営の視点で、社内ウェブサイトの「キャリア形成支援プラットフォーム」を立ち上げ、キャリア開発全般に関する情報を定期的に発信しています。
最後は第三者専門家による視点で、社内外のキャリアアドバイザーに1on1で自身のキャリアプランを相談できる「CDP支援相談窓口」を立ち上げています。手挙げ方式で、これまでに延べ約200名が利用しています。
(2) 個人の成果を最大化していく働き方
「個人の成果を最大化していく働き方」を実現するための仕組みは大きく3つあります。
1つめはグループ内公募制度で、弊社では「キャリアチャレンジ制度」と呼んでいます。いわば人財マッチングの仕組みで、自分で異動を申請できる制度です。IHI単体ではかなり以前から実施していましたが、2019年からグループ全体まで範囲を拡大しました。これにより、グループ全体での人財の最適配置ができるとともに、個人としてもやりたい仕事に就けるチャンスとなっています。
実際に、2019年以降は累計300名以上が異動しています。求人案件登録件数も多く、活用されていると感じています。
2つめは「社内副業」です。新たなアイデア創出や自律的キャリア形成の一環として、個人が“やってみたいこと”“会社でこんなことできたらいいなと考えていること”を、就業時間の最大20%までは自由に使っていいという取り組みです。
目的は、多様な情報・知見やネットワークを獲得して組織の壁を超える機会を増やすことによって、課題解決策の高度化や成果創出までの高速化を図ることです。また、従来の延長線上にない新たな発想を取り入れることで、現業務を効率化することや、さらに、本人のキャリア形成の一環になることも狙っています。
2020年度下期以降の累計では、126テーマ、延べ280名が活動しています。新規事業が多く、防音ブースづくりやSTEAM教育実施などのチームもあります。
3つめは兼業制度で、「セカンドジョブ制度」と呼んでいます。他社やフリーランスでの就業を認めている制度です。定時後や休日に限らず、IHIで週20時間以上働き、健康への懸念や弊社事業への影響がある場合を除き、兼業先での就業時間帯などの制限は設けていません。IHIの全従業員を対象に、2021年1月から運用を開始しています。
従業員一人ひとりが社内外の多様な視点・経験を身につけ、それぞれが持つ潜在能力が引き出されるような機会の提供、多様な働き方の実現を目指しています。
累計で約200名が申請・許可を受けています。
(3) キャリア教育支援教育体系
教育体系としては、従業員本人向けと、部下のキャリア形成をサポートする上司向けとに分けてプログラムを構成しています。
本人向けでは、新入社員向けの「キャリアスタート研修」と、20代・30代・40代ごとの「キャリアデザインセミナー」を設けています。新入社員は必須参加の指定講座ですが、キャリアデザインセミナーはいずれも手挙げ方式の選択型講座です。
また、「キャリアデザインセミナーNEXT(基幹職/一般)」「キャリアデザインセミナーACTIVE」という研修もあります。ともに、50歳を迎える前に指定講座として実施しています。
上司向けの研修としては、Eラーニングの「キャリア自律を支援するコーチングガイド」と、選択型講座の「マネージャーのためのコーチング講座」「上司のためのキャリアマネジメントセミナー」があります。いずれも部下のキャリア形成支援を支える考え方やスキルを学びます。
◇ Q&A クロストーク
黒田:
グループ全体を対象とした「キャリアチャレンジ制度」の手応えはいかがですか?
グループ全体を対象とした「キャリアチャレンジ制度」の手応えはいかがですか?
間所:
求人側としては、人を採用する手段の一つだと認識してもらっているようです。また、IHI単体の時は時期が年2回に限られていましたが、2019年度以降は通年で実施していますので、思い立った時にすぐにチャレンジでき、使い勝手がいいようです。
求人側としては、人を採用する手段の一つだと認識してもらっているようです。また、IHI単体の時は時期が年2回に限られていましたが、2019年度以降は通年で実施していますので、思い立った時にすぐにチャレンジでき、使い勝手がいいようです。
黒田:
求人の告知はどのようになさっているのですか?
求人の告知はどのようになさっているのですか?
間所:
年中公募がありますので、毎月、新着案件を全従業員宛に事務局からメールしています。
年中公募がありますので、毎月、新着案件を全従業員宛に事務局からメールしています。
黒田:
チャットで「ほかの部署に行かれてしまった“送り出し側”はどうするのですか?」というご質問をいただいています。
チャットで「ほかの部署に行かれてしまった“送り出し側”はどうするのですか?」というご質問をいただいています。
間所:
今までは「キャリアチャレンジで穴が開いてしまったら、キャリアチャレンジで求人する」というやり方をしていました。ただ、どの会社にも人員計画がありますので、それとの整合性はどうするんだという議論はあります。今、改めて整理して考えているところです。
今までは「キャリアチャレンジで穴が開いてしまったら、キャリアチャレンジで求人する」というやり方をしていました。ただ、どの会社にも人員計画がありますので、それとの整合性はどうするんだという議論はあります。今、改めて整理して考えているところです。
黒田:
社内副業を認めるか認めないかの条件はあるのでしょうか?
社内副業を認めるか認めないかの条件はあるのでしょうか?
間所:
条件として、「個人がやりたいことと、会社の将来にどう結びつくかの両方を考えた上で、その交点となるようなテーマを立ててください」と言っています。ただ、そのハードルは低くしています。採否は、副業アドバイザーや事務局との面談によって決まりますが、ほとんど採用にしています。ただ、個人の趣味に陥らないように、理由を聞き、会社としての視点を持って目標設定してもらうようにしています。
条件として、「個人がやりたいことと、会社の将来にどう結びつくかの両方を考えた上で、その交点となるようなテーマを立ててください」と言っています。ただ、そのハードルは低くしています。採否は、副業アドバイザーや事務局との面談によって決まりますが、ほとんど採用にしています。ただ、個人の趣味に陥らないように、理由を聞き、会社としての視点を持って目標設定してもらうようにしています。
黒田:
自分がやりたいから手を挙げるというのは、キャリア自律の大事なポイントのような気がします。ありがとうございました。
自分がやりたいから手を挙げるというのは、キャリア自律の大事なポイントのような気がします。ありがとうございました。
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編集プロダクション (有)エディット 代表取締役
キャリアコンサルタント、JCDA認定CDA
キャリアに関する記事を数多く執筆・編集
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