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カゴメの事例から学ぶ社員のキャリア自律意識の啓発セミナーのポイント~トップアスリートへの越境学習による挑戦する風土づくり~(後編)

イベント

2024.6.18


 人的資本経営やパーパス経営が重視される中、従業員のキャリア自律、働きがい向上、イノベーティブ人材創出などに、ますます関心が高まっています。
 そこで、2024年1月31日、食を通じた社会課題の解決を方針に掲げるカゴメ株式会社の人事施策をご紹介いただくセミナーを実施しました。
 セミナーでは、越境学習などを活用した「挑戦する風土づくり」、イノベーティブ人材創出を目的とした人事施策紹介のほか、カゴメ様でも導入されているトップアスリートセミナーのミニ体験も実施しました。セミナーの内容を抜粋してお届けします!
<事例紹介セッション>
〇登壇者
カゴメ齋藤様

カゴメ株式会社人事部 齋藤 大資(さいとう だいすけ)様

3.カゴメの事例

(3) 越境学習のポジショニングと効果
 越境学習に参加すると、その人のキャリア自律や挑戦マインドの醸成につながり、それがさらに越境学習に参加する動機につながる。そして、そうしたサイクルを回せる従業員が増えてくると、組織として働きがいの向上につながっていく。私はそうした仮説を立てて下図のようにモデル化し、2021年頃から越境学習の施策を用意しました。
カゴメ様2
 ただ、実際に公募をすると、参加希望者が想定よりも少なく、困った状況になりました。よく考えると当たり前なのですが、越境学習に対して大半の従業員が無関心だからです。改めて、無関心層をいかにプチ越境に引き込むかが重要な課題だと痛感しました。もっとも、人事部から無関心層に対して越境学習の魅力を伝えても、なかなか理解してもらえません。
 そこで、無関心層にどのような施策を打てば多くの従業員をプチ越境に引き込めるかを考えました。すると、3つの条件が浮かび上がってきました。まず、面白そうと思ってもらえること。また、参加のハードルをできるだけ下げること。さらに、社内で根付いている活動の文脈を借りるということです。
 こうした条件に合致するコンテンツを探す中で、日本マンパワーさんが著名人によるセミナーを提供していることを知りました。しかも、私たちが伝えたいメッセージに合わせてセミナー内容をカスタマイズしてくれることもわかりました。そこで詳しく話を聞いたところ、「トップアスリートセミナー」をご提案いただいたのです。

(4) トップアスリートセミナーの導入
 トップアスリートセミナーを採用した理由は、越境無関心層に対して次の2点を伝えることで越境学習施策への応募動機を形成できると考えたからです。
(1)普段の自分から半歩踏み出す重要性(小さな挑戦)
(2)普段の自領域(ホーム)だけでなく自領域外(アウェイ)の経験から学ぶ有用性
 セミナー参加者の公募にあたっては、下のようなチラシを作成しました。セミナーの名称にもこだわり、「人生を豊かにする仕事への向き合い方」としました。「越境」「キャリア」「挑戦」というワードは使いませんでした。越境学習やキャリア形成に関心が高くない人をターゲットとして、幅広い人の興味を引くためです。また、「キャリアについて考えたことがない」「成り行き任せ」などと考えている人に「キャリア」という言葉を使うと、拒否感を示して離れていくという実感もあったからです。
カゴメ様3
 当日お話しいただいた石川直宏さんには、カゴメの実施目的に合わせて内容をカスタマイズしていただきました。たとえば、現役時代のお話から「半歩踏み出す」重要性を強調していただいたり、引退後の活動を越境学習と位置付けて重要性を強調していただいたり、イントラパーソナルダイバーシティ(個人内多様性)を要素として組み込んでいただいたりしました。
 ダイバーシティを組み込んでもらった理由は、先ほどお話しした「社内で根付いている活動の文脈を借りる」ことを狙ったからです。カゴメではダイバーシティ活動が根付いていて、関連イベントは集客力があります。本セミナーについてもダイバーシティと関連付けることで集客力の向上を図りました。
 そして最後に、カゴメの人事部でも、半歩踏み出すことに繋がる越境学習の機会を公募していることを伝えました。

(5) トップアスリートセミナーの効果
 定量面の効果としては、当日参加者数が想定の100名を超え、150名近くが参加しました。事後アンケートの結果も非常に良好で、94%が「気づきが得られた」と回答。総合評価でも94%から「満足」との回答を得られました。
 また、当初の目的である2023年度の越境研修参加者も、前年比プラス2名の22名が参加しました。「プラス2名では効果が小さい」と思われるかもしれませんが、22名全員が初めての参加希望です。つまり、22名分の新規需要を掘り起こすことができたのです。
 エンゲージメントサーベイの挑戦に関するスコアも、前年より2ポイントプラスとなりました。このセミナーだけによる効果ではないかもしれませんが、プラスに寄与したことは間違いありません。
 一方、定性面の効果は、参加者からのフリーコメントに表れています。ここでご紹介しきれないくらい、多くの素敵なコメントをいただきました。一部を抜粋してご紹介します(下図参照)。
カゴメ様4
 特徴的だったのは、「こんなことを学べた」などの単純なコメントではなく、自身の過去の経験と紐づけて経験に意味付けをしたり、未来の自分の行動宣言をしたりといったコメントが非常に多かったことです。非常に深い学びができたセミナーだったと捉えています。

(6) トップアスリートセミナーの良かった点
 トップアスリートセミナーの良かった点を3つにまとめました。
 1点目は、参加者の参加動機を形成しやすいことです。登壇者が著名人であり、しかも自分と異なるアスリートという特異な原体験を持っているので、「面白そう!」「この人の話を聞いてみたい」と思ってもらえました。
 2点目は、従業員に刺さる気づきが得られることです。唯一無二でインパクトのある原体験と、それを乗り越えた人が伝えるからこそ出せる説得力がありました。また、ビジネス界とアスリート界を股にかけるファシリテーターが、アスリートの原体験を上手にビジネス界の言葉に翻訳してくれました。そのため、従業員の学びにつながるセミナーになったと思います。
 最後は、導入目的に直結する学びが得られることです。企画段階からファシリテーターに入ってもらい、柔軟にカスタマイズしてもらうことができました。特に、私たち企業サイドがセミナーで伝えたいメッセージや狙いを、ビジネス界の言葉そのままで理解していただき、それを登壇者に、アスリート界の言葉に翻訳して伝えていただきました。だからこそ、私たちの導入目的に直結する学びが得られるセミナーが実施できたのだと思います。
 越境学習は個々のキャリア自律と挑戦マインドの醸成による行動変容を引き起こします。しかし、無関心層に最初の越境動機を形成させるのは至難の業です。そうした中で、トップアスリートセミナーは最初の越境動機を形成する施策として非常に有効だったという手応えを得ました。
カゴメ齋藤様2

(7) 挑戦する風土づくりにおける人事としての学び
 最後に、挑戦する風土づくりの取り組みにおける私の学びをシェアいたします。
 挑戦する風土づくりとは、従業員の行動変容の渦を巻き起こすことです。その第一歩となるのは一人ひとりの心を動かすことにほかなりません。そして、心を動かすには、施策を用意するだけではなく、いかに働きかけかけていくか、対話をするかが重要です。
 人材育成や組織開発が心を動かすことにシフトしているとすれば、その仕事はマーケティングに近くなってきているとも言えるでしょう。
 たとえば、キャリア面談など「人事1:従業員1」による働きかけは、「One to Oneマーケティング」に近い仕事です。ただ数的に限界がありますので、働きかける人・関わる人をいかに増やすかが大事になります。そのため同時に、「人事1:従業員多」の関わり合いも必要です。仕組み・制度の導入、上司向け施策、セミナー・研修などがそれにあたります。こちらは「マスマーケティング」に近いと言えます。重要なことは、有効性の高い心に響くような施策をいかに実施できるかということです。まさに、人材育成・組織開発担当として腕の見せ所だと感じています。
 人の心を動かす人事施策はまだ知見が足りませんので、私も含めた皆さまの試行錯誤から、今後たくさんの知を生み出して一緒に盛り上げていければと考えます。

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