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キャリこれ

仲間と一緒に、何かを変えることができる。それが地域の魅力(前編)

連載記事

2024.8.30


いよいよ「正解のない時代」に突入したいま。企業も自治体も大学も、セクターを超えて共創する意味がますます高まっています。また、コロナ禍によってリモートワーク化が急速に進み、都市で働く意味やオフィスを構える意味が失われた結果、多くの人が地方・地域に移り住んだり、2拠点生活にシフトしたりしました。今だからこそ「地域」というメガネを通じて、これからの働き方やキャリアを多角的な視点で考え、未来をつくるヒントを得られるのではないか。このような趣旨でスタートした連載「地域とキャリア」。第3回は、日本マンパワーが管理運営を担っている「山口しごとセンター」を率いる栁谷和暉さんにお話をお聞きしました。現在の仕事に至るまでのキャリアの転機から始まり、山口における働き方事情そして地元の方たちとチームを結成して見事に優勝した「大内蹴鞠ワールドカップ」での体験談など、「地域で共創するとは何か」のエッセンスが詰まった内容となりました。
〇話し手
山口しごとセンター センター長
栁谷 和暉(やなぎたに かずあき)さん
〇聞き手・執筆
キャリアのこれから研究所 プロデューサー
酒井 章
※栁谷和暉さんの詳細なプロフィールは、こちら

1.転機を経て「キャリア」と出会った

Q:
まず、栁谷さんのこれまでのキャリアと現在のお仕事についてお話しいただけますか?

栁谷:
出身は高知県ですが、現在は山口で仕事をしており、妻と子供2人という家庭環境です。

今のキャリアにも影響している転機にも触れながらお話しできればと思います。
1回目の転機は高校生の時でした。
三浦知良選手に憧れて小さい頃からサッカーをやっていましたが、高校2年生の時にブラジルに短期留学をさせてもらいました。そこで、生き残りをかけてサッカーに人生のすべてを捧げている現地の選手の貪欲さに出逢ったことで「逆境にぶち当たっても自分自身の目指す方向さえ見失わなければ乗り越えられる」という経験のベースが生まれました。
2回目の転機は20歳の時でした。
母子家庭だった私を父親代わりで育ててくれた伯父を癌で亡くしたのです。10年以上にわたる闘病生活でしたが、最後は手術で声帯を取り声が出ないのでホワイトボードに文字を書きながら会話しました。理解してもらえない悔しさや伝わらないもどかしさを伯父の様子から感じました。何も恩返しができなかったことをすごく後悔して、病で苦しむ人や支える人たちの手助けができないかと思い、大学時代にホームヘルパーの資格を取り、福祉施設でボランティアやアルバイトを行いました。この経験がきっかけで将来のキャリアを自分なりに考えたんです。

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栁谷和暉さん

Q:

どのようなことを考えたんですか?

栁谷:
将来は子供からお年寄りまでが、縁側のような雰囲気で一緒に楽しく話したり活動できたりするような場を作りたいという夢ができたんです。そして最初に就職したのが医療事務のパイオニア企業でした。入社2年目に県と市の統合病院建設プロジェクトメンバーに抜擢され、新卒採用や人材教育などにも関らせていただきました。そこで、カタチのないところからモノを作り上げる大変さ、ジョイントベンチャー(共同企業体)先企業の多様な人たちと考え等をすり合わせる調整業務の経験は、今でも活かされています。

当時、医療事務の業界は離職率も高く、採用に関わった人たちが離職する姿を目の当たりにして、自分自身の未熟さも感じていたので、その会社を退職する際にCDAや産業カウンセラーの勉強を始めたんです。

Q:

それが「キャリア」の道に入るきっかけになったんですね。

栁谷:
はい、そうです。改めて「人とキャリアに関わっていくような仕事がしたい」と思い、大学のキャリアセンターでの仕事を経て、山口しごとセンター(旧山口県若者就職支援センター)でキャリアカウンセラーとして働き始めました。当初は契約社員でしたが正社員に登用いただき、イベント企画運営部署と副センター長を経て、今はセンター長という役割でお仕事をさせていただいています。

2.山口しごとセンターの事業概要

Q:

山口しごとセンターの事業概要を教えていただけますか?

栁谷:
2004年に経済産業省のジョブカフェ事業の一環として山口県若者就職支援センターという名称で設置されました。その後、日本マンパワーが2010年に指定管理者として施設の管理運営全てを任せていただくようになりました。2018年に年齢制限等を一部緩和し、シニアや子育て女性などの幅広い方の支援をする「山口しごとセンター」に名称変更になり、2021年に新山口駅に併設した市の産業交流拠点施設・KDDI維新ホールの3階に施設を移転しました。

参考リンク:山口しごとセンター
センターの主なミッションとしては、県内における就職支援や就職機会の創出と、県内の産業人材の確保になります。キャリアカウンセリングや各種セミナーを中心に教育機関や企業、経済団体等、関係機関と連携しながら若者等の県内定住及び産業人材確保を促進しています。

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山口しごとセンター

Q:

センターでキャリアコンサルタントはどのような仕事をされていますか?

栁谷:
基本的には個別相談です。センター内では個室の安心できる環境で最大70分時間をとってキャリアコンサルタントが相談業務に応じています。対面だけではなくてオンライン相談や電話相談もやっています。また、山口県は広いので遠方にある大学等には、キャリアコンサルタントが定期的に出向いて、相談業務やセミナーなどを開催して、早い段階から地元企業やキャリアについて考えるきっかけを増やすような取り組みを行っています。

Q:

地域の仕事やキャリアにキャリアコンサルタントはどのような役割を果たしていけると思いますか?

栁谷:
学生さんの場合、自分の興味のある情報だけを収集できる時代になっているだけに、限られた視野の中で考えてしまうケースが多いと思います。なので「それって都会に行かないとできないことかな」とか「山口にもこんなグローバルに活躍している企業がある」といった問いかけや情報提供をするなど、『もしかしたら身近な企業にもあなたが輝ける場所がありますよ』というように視野を広げるための伴走役としての役割を担っていると思います。

3.山口の特徴と魅力

Q:

山口県で働くことや就業に関わる特徴はどのようなものですか?

栁谷:
一番の課題は、高校を卒業して大学に進学をする学生さんの約7割が広島、福岡、関西圏、関東圏などの県外に出てしまい。なかなか戻ってこないということです。山口も人口減少、地方中小企業の人手不足がより一層顕著になっているのが現状です。

Q:

IターンUターンの状況はいかがですか?

栁谷:
コロナ禍以降、より移住への注目が高まっていますが、山口では、UJIターン就職希望者は少し減ってきている印象を受けています。

UJIターン就職希望者の多くは介護などのやむを得ない事情がある方が中心です。一方で、テレワークを活用しながら好きな地域で仕事をしたい、というニーズは増えつつあります。

Q:

全国的に2拠点で働く人も増えていますが、山口はいかがですか?

栁谷:
山口では2拠点生活をしている方はまだまだ少ないです。関東圏であれば、山梨、静岡、長野など東京と行き来ができる選択肢が幅広いと思いますが...一方で、県内各市町でコワーキングスペースなども整備されているので、首都圏とは異なる働き方や地域の魅力を発信していく必要性を感じています。

Q:

それはどのような魅力だと思われますか?

栁谷:
私個人の考えとしては「年齢によって、そのときにしか経験できないことが地域にはある」と思っています。小さいときの経験が記憶に残って郷土愛に繋がるのではないかと。今しかできないことを子供に体験させてあげる機会や家族と一緒に触れ合える機会が増えれば、地域の魅力は広がっていくのではないでしょうか。山口市もニューヨーク・タイムズ(2024年1月9日)に「訪れるべき世界の都市」の3番目に選んでいただいたのですが、その理由もさまざまあると思います。

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地域での活動(門松づくり)
実は山口市には「世界選手権」が三つあるんですよ。
1つ目は、「あいおえび狩り世界選手権」です。車えび養殖発祥の地である秋穂(あいお)で毎年8月下旬から9月初旬に開催されています。約250kgの活きた車えびを海水浴場の干潟に放流し、海中や砂に潜ったえびを手づかみで捕る競技です。取った車えびは家に持ち帰ったり浜辺でバーベキューをして食べたり、土地の名産に触れることが出来るすごくいいイベントです。ただ倍率が40倍ほどもあるので当選のハードルはとても高いですが...
2つ目は「餅ひろい世界選手権」です。阿東徳佐(あとうとくさ)の稲刈りを終えた田んぼで開催され、約1万個の餅が車の荷台から次々と撒かれます。ヘルメットを着用した参加者は、飛んでくる餅を直接キャッチしたり、落ちた餅を拾ったりして、拾った餅の重さを競います。もともと“餅まき”って住宅の棟上げなどでやるケースが多いと思いますが、山口は海に囲まれ漁業も盛んだったことから、船から餅を撒くことが文化として浸透していたこともあり、餅まきは山口県民にとって特別な存在になっています。イベントでも餅まきが入っているか入っていないかで動員が変わると言われています。
そして3つ目が後ほどお話しする「大内蹴鞠(けまり)ワールドカップ」です。山口は大内氏のもとで修練必須の技芸として、盛んにおこなわれていたと推測されることから、平安時代の衣装を着て現代版にアレンジした蹴鞠の文化に触れましょうという趣旨のイベントです。
こういった地域の魅力を発信したり体感することで、ここに住む魅力を考えるきっかけにもつながるのではないかな、と考えています。

4.いま求められる「横串をさす」ということ

Q:

市役所や観光協会などとも連携されていますか?

栁谷:
就職や移住といった部分では繋がっています。移住の担当部局と連携しながら情報収集をしていますが、組織の枠を越えて「横串」をさす必要性を強く感じています。

例えば、ご家族で移住を検討される場合、周辺環境や子供が通う学校の教育環境などが気になると思います。なので、単に仕事の情報だけを提供するのではなく、市役所や関係団体などとも連携しながらそういった情報も併せて発信していく必要性があると感じています。

Q:

なぜ「横串をさす必要がある」と思われますか?

栁谷:
デジタル化やDX化が進む一方、今後、より人と人の繋がりや対面で人の顔が見える感覚がすごく求められる時代になっていくと思っています。そこには、ネット社会にはない承認欲求や自分の存在価値への欲求がきっとあるんでしょうね。そういう中で、民間企業や行政機関等が、もっと地域との繋がりを強化することで、地域課題解決など、より地域とのネットワークや信頼関係も強化されますし、自分が知らない地域の魅力を発見することにも繋がってくるのかもしれません。今住んでおられる地域の魅力を若い人や子供にも感じてもらいたいですね。

Q:

今後、働く人皆さんがキャリアについての知識を得て、そもそもなぜその仕事をしたかったという源泉に気付くことが必要のような気がしますね。

栁谷:
そうですね。私も前職の医療業界での経験を経て、いろんな転機が、大なり小なり日々起こっていますが、起こった出来事に対してポジティブな意味づけができるかどうかで前に進む力や自分を認めることにも繋がってくると思うようになりました。

5.山口しごとセンターが力を入れていること

Q:

先ほど人口減や若い世代の流出といった課題をお話しいただけましたが、今しごとセンターで力を入れていらっしゃる取り組みはどのようなものでしょうか?

栁谷:
山口県内への就職・転職・UJIターン支援を行う求職者支援、採用や定着など人材確保を行う企業支援、求職者等と企業の出会いの場を提供するイベント運営等を行っており、山口県の各部局と厚生労働省山口労働局から事業の委託を受けて運営しています。

最近では、賃上げの環境整備や働き方改革の支援など、企業の職場環境改善に関する事業が増えています。

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山口しごとセンター入り口
単純に給与面だけで都会の企業と比較されたら地方の中小企業ってなかなか注目されないかもしれませんが、今の若者の意識は変化してきているように感じています。例えば、給与だけではない「自分の時間を大切にしたい」という価値観や、転勤や残業がないところを探そうとする点では、働きやすさのPRのポイントを変えることによって地方にも目を向けてもらえる機会がこれから増えてくるのではないかと考えています。

Q:

環境変化がこれだけ速いと、むしろサイズの大きくない会社の方が意思決定や行動のスピードが速くてチャンスがあるような気がします。

栁谷:
おっしゃる通りだと思います。「自分の考えが伝えやすい」「成長実感を得やすい」といった若者の価値観に合致する部分では地方にすごくチャンスがあると感じます。

【後編】につづく

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栁谷和暉さん プロフィール

高知県出身。大学在学時に専攻外でホームヘルパー資格を取得し、卒業後、医療事務のパイオニア企業に入社。日本初の公的医療機関PFI事業メンバーとして、救命救急部門を担当。2006年株式会社日本マンパワーに入社。CDA取得後、山口しごとセンターに所属し、大学等にてキャリアカウンセリングやセミナー業務等に従事。現在は、施設長として、メンバーとともに就職支援・人材確保支援サービスをワンストップで提供中。


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