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(前編)NCDAグローバルカンファレンス2024参加報告 「キャリア発達とメンタルヘルスの相互関係」

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2024.9.25


2024年6月26日~6月28日まで、National Career Development Association (全米キャリア開発協会、通称NCDA)のグローバルカンファレンスがサンディエゴにて開催されました。
大会の概要や、特に印象深かった講演など、何回かに分けてご紹介します!
記事執筆:キャリアのこれから研究所所長 水野みち
サンディエゴは、映画「トップガン」の舞台となった港町です。太平洋戦争において有名なミッドウェイ空母が博物館となり、海辺の景色に溶けこんでいました。メジャーリーグでは、ダルビッシュ有が所属するパドレスのチームが活躍しています。
「NCDAのメンバーは1つの大きな家族です」
このように表現する今年度の会長はCarolyn Jones(キャロライン・ジョーンズ)さんです。

キャロライン・ジョーンズ会長
今年の大会テーマは、「キャリア発達とメンタルヘルスとの相互関係:幸福と成功を促進するための戦略とテクニック(The Interconnection of Career Development and Mental Health: Strategies and techniques to Promote Well-Being and Success)」でした。
ジョーンズ博士の大会挨拶をご紹介します。
この数年、私の周りの専門家や友人たちも、多くの人がメンタルヘルスの課題に圧倒されてきました。
キャリア発達とメンタルヘルス、そしてウェルビーイングは密接に関連しています。この相互関係の意義と重要性を理解することで、私たちは仕事の経験や行動に影響を与える思考や感情を丁寧に観察し、キャリアの選択、雇用の課題、ワーク・ライフ・バランスを見直すことができるようになります。
学業や職業生活のどの段階でも、新たな課題が生じます。これらの課題を克服するためのスキルを学ぶことは、選択したキャリアパスで次の段階に進むために非常に重要です。その過程でメンタルヘルスの問題に直面する人も少なくありません。
メンタルヘルスの問題にはさまざまなレベルがあり、軽度から中程度、さらには重度の苦痛を経験する人もいます。精神的に苦痛を感じている人にとって、仕事探しをはじめとするマルチタスクは非常に圧倒されるものであり、落胆もします。キャリア支援者が倫理観と専門的な能力を持ち、適切な教育を受け、精神疾患への理解と受容能力を高めることで、精神的苦痛を抱えている人々のサポートに貢献できるでしょう。
~NCDA2024グローバルカンファレンスHPページより~

メンタルヘルスやウェルビーイングの問題は、日本に住む私たちにとっても他人事ではありません。厚生労働省の令和4年(令和5年8月発表)「労働安全衛生調査」によると、仕事や職業生活に関するストレスを抱えている人の割合は急増しています。
令和3年が53.3%だったのに比べて、令和4年は82.2%と、なんと30%もの増加です。
過去1年間にメンタルヘルス不調により1カ月以上休業した労働者又は退職した労働者がいた割合は13.3%(令和3年は10.1%)と、こちらも増加しています。
出典:令和4年「労働安全衛生調査」(発表:2023年8月)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_gaikyo.pdf
コロナ禍を経て女性の自殺率が増加していることは数多くのニュースが取り上げていました。そんな中、令和4年は男性の自殺率が過去13年以来の増加。年齢では50代が増え(2.1増)、全体では無職の人ではなく、仕事に就いている人の自殺者数が目立つことから、職場内のストレスや重圧が伺えます。
出典https://www.mhlw.go.jp/content/R4kakutei01.pdf
このようなデータから、人事やキャリア支援の現場でメンタルヘルスやウェルビーイングの課題に取り組むことがますます重要になっていることがわかります。

では、治療を行う専門家ではないキャリア支援者や人事、または上司・同僚として、何を知っておく必要があるのでしょうか?
今回のNCDAでは、200以上の発表、ラウンドテーブル、委員会、トレーニングが行われました。これらの中には、特定の理論や手法の紹介、特定の支援対象者に焦点を当てたもの、キャリア支援者としてトラウマやメンタル不調にどう向き合うかに関するセッションが含まれていました。
また、キャリア支援者自身のメンタルヘルスやウェルビーイングの重要性を訴えるプレゼンテーションも複数ありました。さらに、AIの活用など時代に合ったテーマも多く取り上げられていました。
大会受付
講演の様子
以下、ほんの一部ですが、プログラムのタイトルを簡約してご紹介します。
分類は水野が加工したものです。
【手法的な切り口】
・キャリアと経済的ウェルネスプログラムを大学生に適応するには?
・リアリティセラピーを学校内のキャリア発達とウェルビーイングにどのように応用するか?
・カオス理論の応用:ストーリーテリング、即興性、不思議さ
・不安神経症とキャリア発達:CAAPフレームワークを応用する
・スポーツ心理学の技法をキャリア開発におけるメンタルヘルス課題に応用する
・Sweltzer &Kingのインターンシップモデルを使って学生のウェルビーイングをサポートする
・キャリア構成インタビューを転機の渦中にいる自分に活かす
・ストーリーアプローチをキャリアとウェルビーイングに応用する
・カオスな時代に必要なマインドフルネス・脳科学・意味形成
【支援対象者を絞ったもの】
・ユニオンDEIBAの実態:アライシップ・連帯・メンタルヘルス・感情的コスト
・人種的トラウマ、人種的アイデンティティがキャリアの意思決定にどのような影響を及ぼすか。
・障がい者のキャリア発達支援におけるメンタル不調をどのように緩和するか
・トラウマ/障害/キャリア発達の相互関連: トラウマ・インフォームド・アプローチ
・求職者の失望をどのように扱うのか:不採用結果をどうリフレーミングするか
・神経多様性(※Neurodiverse)を持つ相談者のメンタル不調をどのように支援するか:キャリアに希望がない状態から希望を持てる状態へ
【トラウマやメンタル不調をどう扱うか】
・キャリアカウンセリングにおいてトラウマをケアするには:キャリアカウンセラー養成者で学ぶべきこと
・キャリアのレジリエンスとウェルビーイングを醸成する
・連帯、主体性、つながり:不安定な労働力におけるクライエントのメンタルヘルスを支援する
・キャリア発達において、Identity Safetyをどのように優先するか
・相談者の無意識の葛藤をどう扱うか:カウンセラーが意義のある仕事を成すために
【支援者としてのスタンスを問うもの】
・支援者だからOKという訳ではない:より良い支援のために、自分自身のキャリアと優先事項をふりかえること
・相談者とあなたの支援者としてのバーンアウトをどう扱うか
・相談者と向き合うための共同的な空間をどのようにして生み出すか
【テーマや領域に特化したもの】
・従業員中心のキャリアカウンセリングをEAPシステムに組み込む
・ロボットを扱う職場に希望を持つ:未来におけるキャリアの機会
・ChatGPTをウェルビーイングとキャリアの成功に活用する:ケーススタディ
・静かな退職、静かな解雇:ワークアジャストメント理論と社会正義の切り口から
・レジリエンスをいかに高めるか:学生のキャリア発達の旅路を支援する
・職場でのウェルビーイング:生き残り戦略から強みを活かした成功へ
・パフォーマンスをエンパワーする:上司・部下間のコーチングパートナーシップ

今回は、まずNCDAグローバル・カンファレンスの概要をお伝えしました。次回の中編では、「キャリア支援者として、トラウマ(心的外傷)をどう扱うのか?」に関するプレゼンテーションを2つご紹介します。
●トラウマについて
トラウマとは、強烈な心理的・身体的ストレス反応を引き起こす経験です。人にもよりますが、事故や災害、ハラスメント、病気、喪失、別れ、不本意の解雇や降格などがトラウマになることがあります。トラウマは、1回の大きな出来事もあれば、継続的な状況も含まれます。心の怪我は目に見えないため気づかれにくく、癒し方が分からず、癒えないまま数十年抱え続けることもあり得ます。
このテーマがNCDAで取り上げられている理由は、過去の出来事がトラウマとなり、それがキャリアの選択に影響を与えている人が少なくないためです。キャリアコンサルタントがトラウマについての理解を深めておくことは、例え治療をしない立場であったとしても、ケアが行き届くようにするためにはとても大切なことです。
それでは、次回以降もご期待ください!
~今後掲載予定の記事~
中編(1)「NCDA大会参加報告:キャリアとトラウマについて」
中編(2)「NCDA大会参加報告:キャリアとトラウマについて」
後編 「NCDA大会参加報告: サビカス博士とナイルズ博士の基調講演」

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