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未来共創人材を育む「さとのば大学」 ~宮城県女川町 地域コーディネーター&在学生の声~(後編)

インタビュー

連載記事

2024.12.13


「『地域』というメガネで見通すキャリアのこれから」の連載第6回目。今回は、前回ご紹介した“地域を旅し、実践しながら学ぶ「さとのば大学」の後編をお届けします。
今回、インタビューしたのは、宮城県女川(おながわ)町のお2人。地域で学生に伴走する「地域コーディネーター」の後藤大輝さんと、さとのば大学1年生の呉藤岳登さんです。後編は呉藤岳登さんのインタビューをお届けいたします。
●インタビュー・執筆:NPO法人ArrowArrow代表 海野千尋
●編集:日本マンパワー 緒方雪絵

【インタビュー】
さとのば大学1年生 呉藤岳登(ごとうたけと)さん編

3.女川町の教育に関わる場所で、自分で企画し実行するマイプロジェクト
海野:
ここからは、2024年4月に入学した呉藤さんにお話をお聞きしたいと思います。呉藤さんは、今、女川町でどのようなことに取り組んでいますか?
呉藤さん(以下、敬称略):
最近、地域を知るというカリキュラムで、女川の好きなところを見つける授業がありました。「ご当地クイズ演習」というもので、女川でのお気に入りの場所や他の人に紹介したいことなど情報を集め、クイズ形式で共有するものでした。
その後、自分でイベントを企画して開いてみるというミニイベント演習もありました。

呉藤岳登さん呉藤岳登さん

海野:
呉藤さんは、ミニイベント演習でどのようなことをされたんですか?
呉藤:
僕は普段、女川向学館※という場所で、教育インターン生として携わっています。
(※小学生~高校生まで利用できる居場所・学習支援の場。震災後に設立され、地域に関わる活動も行っている。)
この女川向学館で、内部メンバー同士の関わりが意外と少ないという話を聞きまして…。小・中学生、一般の方など、様々な人が訪れる場所ではありますが、メンバーのみで話す時間は限られているとのことだったんです。
そこで、メンバー同士で雑談・交流する機会として「ミニ喫茶店」を企画しました。
海野:
実際にイベントの企画・運営をしてみていかがでしたか?
呉藤:
ミニ喫茶店の実施後、スタッフから「こうやって雑談する場がなかったのでとても良い機会になった」「仲良くなれた」という声をもらいました。

1時間ほどのお茶会で、僕は喫茶店のマスターに扮していたのですが、お茶を淹れたり自ら話題を振ったりすることの難しさがわかりました。最初はとても不安でしたが、やってみると楽しくて、企画して事をおこすことへのハードルが下がりました。
~さとのば大学の特徴 周囲からのフィードバックについて~
呉藤さんは、ミニ喫茶店の実施後、スタッフにアンケートを取り、イベント企画・運営のPDCAサイクルを回しています。
また、先日の「おながわみなと祭り」では、レモネードの屋台を出しました。呉藤さんはレモンの被り物をして遠いところまで行き、お店への呼び込みに奮闘したとのこと。その時、地域の人たちから、色々コメントをもらったそうです。
さとのば大学では講師や学生同士からの360°フィードバックだけではなく、関わる地域の方々からもフィードバックをいただく720°フィードバックをおこなっています。多様な他者からのフィードバックがあることで、カリキュラムの中にある4つの成長実感(以下、図1)にも繋がっています。企画の実行後、実績や自己評価だけではなく、多様な他者評価も得られることにより、学生の成長や自己理解へさらに繋がっているように思います。

さとのば生のあり方の指針図1

海野:
呉藤さんは石川県加賀市のご出身だと聞きました。女川の景色、様子はいかがですか?
呉藤:
一番感じたのは、街がとてもコンパクトだということです。徒歩15分圏内に、自分が住んでいる寮、駅、スーパー、ショッピングモール(シーパルピア女川)があるので、とても便利です。また、街の人たちが協力して何かを動かす場が多いと思いますし、多様な人・世代との繋がりが深いように思います。
例えば、僕自身、女川向学館で小・中学生に勉強を教えています。そして、町内外の各所からやってくるスタッフと一緒に働いています。また、アスヘノキボウが運営している女川フューチャーセンターCamassに行けば、働いている大人や地域に関わっている人など、多様な人たちに出会えます。特に印象に残っているのは、女川にある「高政」という笹かまぼこの会社の社長さんです。大学の入学式の日に社長とお話する機会があり、その後もお米をもらうなど助けていただきました。本当に有難く思っています。

4.さとのば大学で、自分なりの答えを見つけたい

(1)呉藤岳登さんとさとのば大学との接点
海野:
呉藤さんがさとのば大学へ入学するまでの経緯をお伺いさせてください。
呉藤:
高校3年生の4月、僕は「受験勉強に意味があるのだろうか」「大学にいって自分は何がしたいのだろうか」とモヤモヤしていました。夏、冬と勉強への意欲がわかないまま、でも、何か前に進まなければと地元・石川県の大学を受験し合格もしました。
ただ合格後も、「入学しても途中で辞めてしまうんじゃないか…」と迷ったり、気持ちが揺れ動いたりしていました。最終的には、自分なりの答えを出すため、一般的な道からは外れるかもしれないけれど、さとのば大学に入学してみよう!と決意しました。
海野:
高校在学中から、さとのば大学のことをご存じだったのですか?
呉藤:
はい、通っていた高校がさとのば大学と連携していて、総合的探究の授業で一緒に学ぶ機会がありました。さとのば大学主催の「オンラインたまり場(全国の高校生と繋がって話す場)」(現在はオンラインコミュニティTobecomeとして運営されています。)というイベントがあるんですが、高校2年のときに初期運営メンバーとして関わっていました。
そこでは、さとのば大学がOST(Open Space Technologyという場づくりをおこなうときのファシリテーションの形式の1つの方法)を教えてくれ、学生の運営メンバーと共に模索しながら場を創る経験もし、とてもおもしろかったんです。

呉藤岳登さん呉藤岳登さん

海野:
さとのば大学との接点から実際に入学に踏み切るまで、ハードルもあったと思います。保護者の方には、どのように理解を求めたのでしょうか?
呉藤:
親も、初めて聞く大学名や、キャンパスが無いといった一般的な大学との違いに、かなり戸惑っていました。「卒業後は一体どうなるの?」と不安に思っているようでした。でも「一度決めたことを譲らない」という僕の性格を理解してくれていますし、「オンラインたまり場」などの活動も見てくれていたので、納得してくれたようです。

(2)卒業後のキャリアイメージや未来像について
海野:
さとのば大学の卒業後、どのようなキャリアのイメージや、働く未来像を持たれていますか?
呉藤:
教育に関わる団体・企業に携わりたいです。教育に興味を持ったのも、高校3年時の受験に向かう経験が大きく、今の日本の教育の在り方は、少しいびつではないかと思っています。教育に関連する場がある地域を選んで女川に来ましたが、実際に小・中学生と触れあい、第3の居場所づくりに関わることができ、自分のやりたいこととマッチしているなと思っています。さとのば大学で過ごす中で「自分がやりたいことは何か」をもっと探っていきたいです。
海野:
呉藤さんのこれからに、未来共創人材につながる道を感じ、お話を聞いていてワクワクしてきました!
最後にお二人に、「地域とキャリア」シリーズの共通質問をお聞きしました。

5.共通質問:地域で働くとは?地域でつくるキャリアとは?
地域コーディネーター 後藤さん:
自分の想いや情熱を持てることと、地域で必要とされること。その2つが掛け算となれる場所をやるということだと思っています。
さとのば大学生 呉藤さん:
「既存のものではないものが多い」と思います。一般的な考え方である「大企業や企業に就職する」というものではなく、NPOで働くこと、自らお店をやるなど起業すること、「自分から何かアクションをおこす」ということがキャリアを考える上で大切なことだと思いました。
<編集後記>
海野:
後藤さんのお話を聞いて、地域にかける想いに触れてきた経緯を知ることができました。だからこそ、さとのば大学の学生に対して自分事化するまで見守る姿勢をみて、キャリアを支援する眼差しに近いもの感じました。また、呉藤さんの違和感と向き合い学ぶ場所を選んだ軌跡が、自らキャリアを培おうとする強い意思を感じます。地域におけるキャリアを体現する人、支える人の状況を知ることができ心強い想いです。

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