地域が抱える課題とその解決に力を入れる人たちの取り組みに注目し、これからの働き方やキャリアを考えるヒントを探りたい。こうした趣旨で続けてきた連載「『地域』というメガネで見通すとキャリアのこれから」は、今回の第7回目が最終回になります。
お話をうかがったのは、沖縄女子短期大学で、自治体や企業も巻き込む形で「町全体でキャリアアップ」をコンセプトにしたキャリアアップセミナーを実現させた津波古吟枝さんです。学生はもちろん、地域の大人たちも学び合うプログラムは、どのような形で実現し、どのような効果を生み出しているのでしょうか。「ピンチをチャンスに転換し、地域の特徴を活かしていく」という津波古さんの視点と活動は、地域の活性化や個人のキャリアを考えるうえで大いに参考になります。前編・中編・後編に分けてお届けします。
話し手:沖縄女子短期大学 教学課 主任 津波古吟枝(つはこ・おとえ)様
聞き手・編集:日本マンパワー 村田隆之
執筆:エン・モア合同会社 石澤 寧
目次 ※クリックすると各章にジャンプします
【前編】
【中編】
7.周りの世界に色がついた
8.お金にならないことを精一杯やろう
9.人は変わることができる
10. 自分をすべて使って鏡になる
【後編】
11.可能性が広がる一方「二極化」の懸念も
12.人と人をつなぐ「愛情」がある土地
13.沖縄を体現する「語り」を受け継ぐ
14.答えがない問いに楽しみながら向き合う
津波古吟枝(つはこ・おとえ)さん プロフィール
沖縄女子短期大学 教学課 主任
2012年、沖縄女子短期大学入職(事務職員)。2020年より就職・進学、インターンシップ、学外活動等を担当。主に、進路支援全般に関する取りまとめ、進路に関するセミナーやインターンシップ等のプログラム作成、企業や他大学との連携、合理的な配慮を必要とする学生や、重点的に支援を必要とする学生へのキャリアカウンセリング・その他個別対応等を行う。
進路支援担当を機に、姉妹校提携をしている岐阜女子大学の大学院に入学。2024年9月卒業。戦後の復興に尽力した先人たちの「オーラル・ヒストリーのデジタルアーカイブ」の作成、公開、活用をテーマに研究している。
[資格等]
国家資格キャリアコンサルタント、国家資格2級キャリアコンサルティング技能士、日本キャリア開発協会認定資格CDA、CIAC認定インターンシップコーディネーター、日本デジタルアーキビスト資格認定機構認定上級デジタルアーキビスト
1.沖縄の小さな町にある小さな大学
村田:
津波古さんがお勤めの沖縄女子短期大学について教えてください。
津波古:
沖縄女子短期大学は、県庁所在地である那覇市から東にある与那原町(よなばるちょう)という、沖縄本島でいちばん面積の小さな町にあります。1966年に那覇市で開学し、2015年にこの町に移転してきました。キャンパスは海から近く、校舎からもきれいな海が見えます。
学生数は2学年で500人程度、専任教職員数は40名程度と沖縄県でいちばん小さな大学です。単体で運営している短期大学としては沖縄県で唯一の存在で、地元では「沖女(おきじょ)」の略称で通っています。
村田:
特徴はどんなところですか?
津波古:
地域密着型の大学という点ですね。ビジネスを幅広く学ぶ総合ビジネス学科と、保育士・幼稚園教諭・小学校教諭などの資格・免許が取得できる児童教育学科の2つがあります。「女子」短期大学ですが、保育や教育分野での男性の需要が高まったことを機に、2003年から男子学生の受け入れを開始し、現在は学科を問わず1割程度の男子学生が在籍しています。ほかにユニークなところとしては、2009年に岐阜女子大学と姉妹校提携をしています。学内に岐阜女子大学の沖縄サテライト校がありまして、卒業後に、そのサテライト校や岐阜女子大学の本校に通う形で編入することもできます。沖縄サテライト校では土日祝に授業をするので、平日は企業や小学校、こども園等で働いている学生もいます。毎年40名ぐらいが岐阜女子大学に進学しています。
2.「大人が不測の事態にもがきながら前に進み続ける姿を見せたい」
村田:
そんな沖縄女子短期大学で、自治体や企業と連携したキャリアアップセミナーを実施されたと聞きました。実施の背景から教えていただけませんか。
津波古:
まず、「キャリアアップセミナー」の前段階となった「課題解決型オンラインインターンシップ」についてお話しさせてください。
私が進路支援の担当になったのは、ちょうど2020年4月、新型コロナウイルスの流行の真っ最中でした。私は進路支援を担当するにあたり、与那原町と連携を強化し、インターンシップや学外活動の機会を増やしたいと考えていました。学生には、地域と関わる経験を通じて、自分の意見を表現し、自発的に行動できるようになってほしかったんです。
でも、新型コロナウイルスの影響で入学式は中止。度重なる休校や自宅待機で授業もままならず、県全体でもインターンシップや学外活動がほぼストップしていました。私自身も、イレギュラーな業務に追われ、残業続きの日々でした。
一方で、そんな状況でも学生の就職活動は始まっていました。急激にオンライン面接が増えたものの、慣れない操作に戸惑う学生がとても多かったんです。画面が突然フリーズしてパニックになり、面接中に私へ電話してくる学生もいました。
「学生がオンラインに対応できるようにすることが急務だ」そう思ったと同時に、「これはチャンスかもしれない」とも感じました。
村田:
どうしてそう思われたんでしょう?
津波古:
沖縄から県外へ就職活動に行くのは本当に大変です。情報もなかなか入ってこないし、見学や面接に行くにも渡航費や宿泊費など、かなりの費用がかかります。でも、オンラインの技術を身につければ、沖縄の学生たちの可能性がもっと広がると思ったんです。
もっと言えば、働き方そのものの概念が変わると感じました。学生だけでなく、大人も含めて、この不測の事態に世の中全体が混乱していました。でも、こんな状況だからこそ、新しいことに挑戦すれば、新しい何かが生まれるんじゃないかと。
そして、学生にとって身近な大人である私が、もがきながらも前に進み続ける姿を見せることで、学生の何らかの学びにつながるのではないかとも思ったんです。そう考えて、町に提案することにしました。
3.相手のMustを意識する
村田:
では、具体的に町への提案はどんな内容だったのでしょうか?
津波古:
研修から課題提出まで、完全オンラインで行なうインターンシップを役場と共催で行うことを提案しました。具体的なブログラムはスライドのとおりです。
画像をクリックすると大きな画像で見ることができます。
でも、最初は町役場に相談しても話が前に進みませんでした。
役場も新型コロナウイルスの影響で業務が混乱していて、それどころではなかったんです。これは当然のことですよね。「Will – Can – Must」で考えたとき、私の「Will」(やりたいこと)だけでなく、相手の「Must」(やるべきこと、周囲から求められていること)を考えなければいけないと気づきました。

ちょうどその頃、東京都の小池知事が「新しい生活様式」という言葉を使い始めたんです。それを聞いた瞬間、「これだ!」と思いました。そこで、「新しい生活様式に対応できる職員を育てませんか?」と、相手の「Must」を意識して再度提案したんです。
すると、話が一気に前に進みました。役場の方も関心を持ってくださり、「役場職員の就業意識の向上や、地域活性化のヒントになるセミナーとして組み立てたらどうか」という方向に話が発展していったんです。結果的に、「ぜひやりましょう!」と言っていただくことができました。
村田:
学内でも理解を得る必要があったと思います。どんなことを工夫しましたか?
津波古:
学長や理事長に構想段階から情報を共有して、新聞社などの取材にも対応いただきました。
また、実施の際には、ZOOMのURLを教職員に公開してオンラインインターシップの様子を見てもらいました。活動が進むにつれて、学生たちの発言や態度が変わっていく様子を実際に見てもらえたことで、職員全体の理解が深まったと感じます。
さらに、課題発表会には役場の課長級の方に参加していただくと同時に、学内からは学生支援委員会の委員が出席し、学生の提案に対して講評をいただく形を取りました。
加えて、後日、学生が学長や理事長に直接成果を報告する場を設け、成長した姿を見てもらえるようにしました。こうした工夫を重ねることで、学内の理解を得ていきました。
4.不自由があったからチームワークが伸びた
村田:
「課題解決型オンラインインターンシップ」を実施した結果はどうでしたか?
津波古:
狙い通り、学生はオンラインでのコミュニケーションに慣れることができました。また、役場の職員の方々とのやり取りを通じて、仕事への理解も深まったと思います。
さらに意外だったのは、社会人基礎力の「チームで働く力」が向上したと実感する学生が多かったことです。オンラインは対面と比べて不自由な部分が多いぶん、
•あいづちや表情を意識する
•相手にわかりやすく説明する
•自分がわからないことは、はっきり伝える
といった工夫が自然と身についていったようです。
また、町役場の職員の方々にも約20名が参加していただき、研修としても有意義なものになったと思います。さらに、インターンシップ後には、役場職員と学生が町のイベントを一緒に企画・実施するなど、大学と町のつながりが一層強まりました。
このように、2020年に実施した1年目から、大きな効果を実感することができました。
村田:
いろんな関係者を巻き込むことで、見事実践されたわけですね。2年目はどんな形で実施したのでしょうか。
津波古:
2年目は姉妹校である岐阜女子大学の学生も参加できる形にしました。また、「チームで働く力」をさらに伸ばすために、課題制作はチーム制で行なうことにしました。そこで導入したのが「人生すごろく金の糸※」です。学生も社会人も初対面で最初は緊張がありましたが、ゲームに沿って「小学校時代の好きな給食のメニューは?」や「中学校時代の思い出の行事は?」といった共通話題を話すうちに自然と場が和み、リラックスした様子になっていました。
課題制作の時間も以前より増やし、「地域を活性化する商品開発」という具体的なテーマを設定し、学生と町の職員の方が地域の活性化というテーマに一緒に取り組める形にしました。
その結果、町全体で沖女の学生を育てようという雰囲気がとても強くなりました。たとえば、学生が「町にある◯◯会社の○○を使ってこういう商品を作りたい」というアイデアを出したら、町の職員の方々も実現を後押しし、企業に提案してくれました。また、岐阜女子大学の健康栄養学科の学生が与那原町の特産品を使ったカレーレシピを考案し、次年度には沖縄女子短期大学のPBLの授業でそのレシピが再現されるなど、さらなる波及効果が生まれました。
5.インターンシップからキャリアアップセミナーへ
村田:
その後、インターンシップの取り組みはどのように変化したのでしょうか?
津波古:
2022年6月、文部科学省・厚生労働省・経済産業省による「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(3省合意)の改正に伴い、2022年度から「課題解決型オンラインインターンシップ」を「キャリア教育」と位置づけてリニューアルしました。新型コロナウイルスの影響が落ち着いてきたことを受け、企業にも参加いただき、対面での就業実習を導入しました。「町全体でキャリアアップを目指す」として、「キャリアアップセミナー」と名称を変更しました。
具体的には、オンラインでの事前研修や集合研修を行った後、対面での企業での就業実習と課題制作を実施し、その後発表会を行いました。また、学びを深めるために、振り返りとしてキャリアカウンセリングを行いました。
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実施形式の変更に加え、大切にしたのは「愛情」です。これはキャリアカウンセリングでいう「好意的関心」にも通じるかもしれません。学生は地域から応援を受け、地域にも貢献する――そんな相互の愛情に基づく持続的な関係は、小さな町の小さな大学だからこそ築けるのではないかと考えました。
また、町全体の愛情ある支援を実現するためには企業の協力が不可欠です。役場だけでなく企業にもメリットがあるよう、社員研修としても活用できる内容を目指し、プログラムごとの目標を明確にし、効果を分かりやすく示しました。結果として2社が参加し、新たな形での実施が実現しました。
村田:
新しい形で実施して、どんな手ごたえがありましたか。
津波古:
具体的なプログラムは以下のスライドをご覧ください。
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1日目で自己理解、他者理解のワークで使用した「人生すごろく金の糸」が、学生と社会人という立場や世代を超えて相互理解が進みました。また、企業と行政の方同士のコミュニケーションの活性化にも役立ったと思います。そうした土壌づくりをしたうえで、2日目の「与那原町、企業の概要と仕事内容」に関するプログラムに入ると、この仕事にはあの人が関わっているのか、と理解が進みやすくなりました。
同じく2日目の「与那原町職員・企業の方に聞く」というプログラムでは、学生だけで町職員や企業の方にインタビューをする内容にしました。
そして3日目には、学生、社会人と共に学ぶ講話として設定します。まず午前中に野村総合研究所の坂口剛様に「アイデア創出の手法」をテーマに、アイデアを生み出すための考え方、課題から生み出された事例等をレクチャーしていただきます。その後、町役場の職員の方から「与那原町の現状と課題」、企業の方からその企業が取り組む地域活性化の事例を紹介いただきました。
そして、4~6日目の「企業での就業実習」に移る流れになります。
村田:
こうした学びを体験するのとそうでないのとでは、就業実習もまったくちがったものになりそうですね。
津波古:
1日目、2日目で、みんなで愛情をもって与那原町を良くする、というベースができていますから、より深く実践的な実習になったと思います。また、3日目でアイデアの生み出し方や課題の抽出等を共有していますので、課題制作で迷った時にも確認することができるということも良かったと思います。
就業実習では、企業の業務の体験以外にも、社員の方と一緒に、その企業の特色を活かして与那原町を活性化する仕組みを考える時間も設けていただきました。実現可能な提案ができるように、地域に密着した知識を持つ町役場の職員や、多様な事業を手掛ける経営者の方に相談する時間を設けるなどのサポートも行いました。
実践的なアイデアを考えて、企画をまとめ、それをみんなの前で発表するというのは、なかなか大変です。発表の場には、役場・企業の方もたくさん参加していましたから、学生はみんな緊張したはずです。でも、参加者全員に「愛情」がありますから、学生もそれに応えてくれて、最終的にはなんとか乗り切ってくれたと思います。
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6.「愛情」によって町全体に生まれた変化
村田:
「キャリアアップセミナー」にはどのような成果や効果がありましたか?

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津波古:
学生に前向きな変化が表れたことに加えて、町全体の交流がその後も続いていることもとても大きな変化だと思います。キャリアアップセミナー後も、学生がスイーツを作って実習をした会社に差し入れに行ったり、社会人同士でも顔と人柄が分かって仕事が進めやすくなりました。
また、学生が発表会で提案した「与那原町魅力発見フォトコンテスト」を実現することもできました。
学生にいいアイデアがあっても、それだけでは実現できません。与那原町の皆さんが、「愛情」をもって考えて動いてくださったから実現できたのだと思います。
「中編」に続く
沖縄女子短期大学キャリアアップセミナーの詳細は下記にも掲載されています。詳しくお知りになりたい方はご参照ください。
・津波古吟枝(2023)「シリーズ:大学教育を変える、未来を拓くインターンシップⅢ 第13回小さな町の小さな大学だからできること-「三省合意」の改正を契機としてー」
『文部科学教育通信NO549』ジアース教育新社 (2023.2.13発行)28-31
エン・モア合同会社代表。編集者/ライター。ビジネス誌のインタビューを中心に幅広いテーマの記事を執筆。
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