~シリーズ「初めてのキャリア」。キャリアについて、よくある疑問やお悩みを、ストーリー形式でご紹介しています~
物語の舞台は、大手食品メーカー Y支店営業部。
今回は、昇進の打診に、嬉しさと迷いを感じている波多野さんが主人公です。
1登場人物紹介
波田野さん
30代前半の女性。入社 10 年目で、社内に同期も多く情報通。積極的にコミュニケーションを取り、みんなでワイワイするのが好き。
仕事にやりがいを感じているが、急に残業が発生することも多く、家庭との両立でひそかに苦労している。
武田課長
大手食品メーカーY支店営業部の課長。40代。
若手社員とは働き方にジェネレーションギャップを感じつつも、自分なりに理解しようと努力している
里見さん
50 代の女性。最近、別の支店から異動してきた総務担当者。
キャリアコンサルタントの資格を持っている。
2昇進の打診に、「嬉しさ」と「迷い」を感じる波多野さん
大手食品メーカーY支店営業部。朝のミーティングが終わると、武田課長が波田野さんに声を掛け、別室で面談することに。
「波田野さん、お疲れさま。今日は大事な話があって声をかけました。」
「はい。大事な話って何でしょうか?」
「実は、ウチの営業チームで新しくリーダー職を置く、という話が出ているんです。
波田野さんの営業姿勢や率先してみんなに働きかける様子を見ていて、ぜひお願いしたいと思っているんですが、どうでしょうか?」
「えっ…!ありがたいお話ですが…急なお話で驚いてしまって…。少しお時間をいただいて、考えさせていただけませんか?」
「もちろんです。来週までに返事をもらえれば。何か質問や心配なことがあれば、遠慮なく相談してください」
面談を終えて自分の席に戻った波田野さん。
パソコンの画面を見つめながらも、頭の中は昇進の話でいっぱいだった。
波田野さんの心の声
(10年頑張って認めてもらえた。でも、リーダーになったら責任も重くなるし…。これから結婚生活も落ち着いて、いずれは子どもも欲しいと思っているのに、そんな時に引き受けて大丈夫なのかな…)
3里見さんに、相談にのってもらう
翌日の昼休み。昨日の面談のことを考えながら、お昼のお茶を入れようと給湯室に向かう波田野さん。そこに里見さんがいるのを見かけて切り出す。
「里見さん、お時間があるときに、少し相談に乗っていただけませんか?」
里見さんは突然の申し出に少し驚きながらも、波田野さんの真剣な表情を見て、落ち着いて返す。
「もちろんです。では今日の終業後に会議室でお話ししましょう」
そして会議室で向かい合った二人。里見さんは波田野さんの話に耳を傾ける。
「実は昨日、武田課長からリーダー職のお話をいただいたんです。嬉しい半面、正直とても迷っていて…」
「そうだったんですね。昨日いつもと少し様子が違うなと思っていたんです。嬉しい反面、迷われてもいるんですね。」
「はい。嬉しいのはうれしいんです。課長が私の頑張りを見ていてくれていたんだなって。」
「でも…リーダーとして責任が重くなるのは不安です。
リーダーを引き受けたら、やっぱり成果をきちんと出さなくてはいけないし…。仕事とプライベートを両方うまくまわしていけるんだろうかって不安もあります。
将来どこかで、課長の期待を裏切ることになるくらいなら、今のままがいいんじゃないかと迷っています。」
「あとは、リーダーになることで、支店のメンバーと今の関係が崩れそうで、それもちょっとイヤだなあという気持ちがあります。」
(1) 「支社のメンバーとの関係性が崩れるかも…」という不安
先ほどお話しされていた「関係性が崩れそう」というのは、どういうことですか?
「そうですね、うちの支店は、同期や年の近いメンバー、みんな仲が良いんです。
今までは、リーダーと言っても一時的な立場だったので、そんなに上下関係はなくて…。ぽんぽん自由に意見を言い合ったり、各メンバーができることを自主的にやったりと、協力しあってきたんです…。
けれど、ずっとリーダー職となると、お互い上下関係は感じそうですよね。
みんなに指示を出して動いてもらうことも増えるのかなぁ…
自由で対等に意見が言い合えるのがいいんだけどなぁ…。」
「波田野さんは、自由で対等に話し合える関係を大事にされてきたんですね。」
「そうですね。言われてみれば、そうかもしれません。私、みんなでワイワイ知恵を出し合った方がいいことができるって思っているんです。
だから、これからもそうしたいって思っているんです。」
(2) 「課長の期待を裏切ることになったらどうしよう」という不安
「今までの話で、『自由で対等に話し合える関係を大事にしてきた波多野さん』、『これからも、みんなでワイワイ知恵を出し合いたいと思っている波多野さん』の姿が見えてきましたね。
そういう自分がいることを踏まえて、今回のお話についてどう思いますか?」
「そうですね…リーダーを引き受けたら、やっぱり支社のメンバーとの関係性で変わる部分はあるだろうなと思いました。
でも、みんなの自主性を大事にするのは、引き続き自分のモットーにしていってもいいんじゃないかと思いました。」
「そうですか。波田野さんらしくできるといいですね。
あと、少し前に、課長の期待を裏切るくらいなら、今のままがいいんじゃないかと迷いがあるとのことでしたよね。
課長の期待って、具体的にどんなことだと思われていますか?」
「うーん、そういえば、そこまで具体的に考えていませんでした。なんとなく、課長と同じように働くことを期待されているのかなって。 」
「そうなんですね。では、実際のところどうなんでしょう…?」
「うーん、リーダーになったら課長と同じようになるんだって漠然と思っていたけれど、確かに聞いてみないと、分からないですよね。」
「里見さん、ありがとうございます。話を聴いてもらって、自分が大切にしたいことに気づきました!
また、リーダー職について、わからないことがあることにも気づきました。もっと具体的に聞いて、今回のお話を受けるかどうか決めようと思います。
ワークライフバランスのことを考えるとまだ不安はありますが、武田課長に早速相談してみます!
課長、まだデスクにいるかな?行ってきます!」

にっこり笑って、会議室を出て行った波多野さん。
その足取りは、先ほどより、軽くなっていた。
4今日のまとめ
●ネガティブな感情に自分を理解するカギがある
不安や迷いといったネガティブな感情は、自分が何を大切にしているかを教えてくれるサインでもあります。波田野さんの場合、リーダー職になる不安に焦点を当てることで、「周囲との自由で対等な関係」「みんなで協力すること」といった自分の大事にしている価値観に気づくことができました。
●自分の価値観がわかると新しい選択肢が見えてくる
自分が何を大切にしているかがわかると、それを実現するための方法も見えてきます。波田野さんは「リーダーになるとみんなと多少関係性は変わるかもしれないけれど、引き続き、メンバーの自主性を大事にすることはできるのでは」と、里見さんとの対話を得て、気づきを得たようです。
●一人で悩まず、信頼できる人に相談する
キャリアの選択に唯一の正解はなく、また自分の価値観についても自分一人だけではなかなか気づけない場合があります。そんな時は、信頼できる人や、経験豊富なキャリアコンサルタントに相談してみるのも一つの方法です。
言葉にすることで、自分の気持ちや考えが整理されたり、対話を通じて、自分では気づけない視点や選択肢を発見したりもできます。
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