MENU

キャリこれ

【キャリアの当たり前を超えていく】がんとキャリアの両立支援(前編)

インタビュー

個人

2021.6.18


「キャリアの当たり前を超えていく」をテーマ に、今回の記事では「がんとキャリアの両立支援」を取り挙げます。
ご自身もがんを経験されたキャリアコンサルタントの砂川未夏氏へのインタビューを前編・後編でお届けします。
■後編は、こちら

<インタビューの内容>
1)砂川さんご自身のがん罹患者としての体験
2)キャリアの支援者として
3)企業の取り組みの推進
この記事が、両立支援が世の中に広まっていく一助となることを心から願っております。
〇ゲスト
砂川 未夏(すなかわ みか)氏

キャリアコンサルタント
キャンサー・キャリア 代表
NPO日本キャリア開発協会 治療と仕事の両立支援推進プロジェクトリーダー
〇インタビュアー&編集
株式会社日本マンパワー 人材開発第1営業部 鈴木 逸保

1、がん罹患者として

●がんと診断されたとき
鈴木:最初からストレートにお聞きしてしまいますが、砂川さんご自身ががんと診断されたときの率直なお気持ちはいかがでしたか。
砂川氏:診断される前は、いわゆる普通の人生としてキャリアを歩んでいくと漠然と思っていたんです 。そんな中、健康診断後の再検査で突然がんが発覚したんです。
その時は、得体のしれない状況に見舞われ、何がなんだかわからずぽかんとしていました。理解が追い付かなかった。自分のキャリアについてなどは考えが及ばなかったです。ただ、そこで救われた言葉は・・・「事故だと思え」という父親の言葉でした。
鈴木:事故ですか?
砂川氏:そう、原因を考えてもしょうがないし、なるようにしかならないし、事故と言われれば事故かもしれない。事故であれば手当をしていかねばいけないな・・・と。ちょっとだけ気持ちを切り替えられた最初のきっかけだったと思います。
鈴木:受け止めるのには時間がかかる突然の通告に、事故だと思った方がむしろ割り切って手当に意識を変えられる、、、なんだか分かる気がします。
砂川氏:ただ、当時は医師の治療説明もよくわからず、個人で情報を収集する手段も相当限られていました。そうした状態で医師から「この治療法でいいですか?」と訊かれてもよくわからないのです。怖い部分も多くありましたが、やはり「事故だから何とかしなくては」という想いが強かった。
鈴木:情報不足感からの不安を抱えながらも治療を進められたのですね。また、治療のこと以外に当時、考えが及んだ事はありますか?
砂川氏:当時は診断のショックとともに、とても悶々としていて。子供を産むことができるのか、治療を続けていったら髪が抜けていくのではないか、私の体はどうなってしまうのか、仕事は・・・と。
治療を躊躇する私に「助かるって先生が言うんだから。それよりあなたの命が大事でしょ」と周囲から言われて傷つきました。確かにそうなのですが、そういう問題ではない・・・と。とても複雑な心境で、保障されない未来、抗がん剤治療によって自分の身体が変わっていくことへの不安や疑心暗鬼がありました。
鈴木:治療によって起こりうる影響を考えていくと、不安や戸惑いは私の想像を絶します。
砂川氏:「この治療でいいですか?」と訊かれても、知識が不足しているので、良いのか悪いのかわからない。まな板の鯉状態でした。言われるがままにされる…。周りの家族も「この先生の言う事は絶対だから大丈夫。信じて進もう」と言うのです。そこに私は不安を言うことができない。周りも「治療して治そう」と言ってくれている中で、「でも・・・」とは言い出せなかった。
当事者としての経験を赤裸々に語ってくださった砂川氏。
中でも「(治療方法の)意思決定を自分で納得して決定したと思えなかったことで、次のキャリアの再構築にすごく難しさが出てきた。」という言葉が非常に印象的でした。(鈴木)
●周囲との関わり・関わり方について
砂川氏:躊躇する中で治療するぞ!とはっきり思えたのは、上司に事情を伝えて「待ってるよ」と言葉をもらったときです。待ってくれているのであれば絶対にやりきろうと。戻る場所があることは非常に大きかったです。
またチームメンバーも「砂川さんが育てていた観葉植物に新しい芽がでました!」「この間のイベント、こんな感じでしたよ」など、さりげなく職場の様子をメールで送ってくれて。職場とのつながりが維持できて、すごくありがたかったです。
鈴木:情報や物以上に、つながりが支えになられたのですね。職場の身近な方ががんや病気になったときの関わり方ということについて、さらにお訊きしてみたくなりました。
砂川氏:私の場合は、周りがいつもと変わらない態度で接してくれたことが何よりありがたかったです。
よく、情報や物を「良いと聞いたからあなたにもいいのでは」と相手に渡される方がいます。それはそれで良い面もありますが、その相手にとって本当に欲しいものかどうかは分かりません。ただただ話を聴いてほしい人もいますし、一緒にいてくれるだけでいいという人もいます。いつもと変わらない対応と、小さな配慮もすごく大事だと思います。
周囲の関わり方についても当事者視点で率直な感想を語って頂きました。
良かれと思ってのことであっても「病気の人扱い」がかえって傷つけることがあるのだと思いました。一人ひとり事情は多様なので、相手の話を聴き、変わらない態度でつながりを持つことが大切だと実感しました。(鈴木)

2、支援者として

鈴木:支援活動のきっかけはどんなことだったのでしょうか。
砂川氏:最初は支援なんて、全く考えていませんでした。休職中にキャリアカウンセリングに興味を持ったのですが、その学びを通して、自分の領域とは異なる色々な働き方があることを知り、世界が広がりました。幸せの形は色々あって良いのだと思えるようになりました。
けれども、がんの経験を活かして応援しようとは全然思っていませんでした。あくまで不特定多数の方への支援、「自分を知る」とか、「人生の転機」、といったキャリア支援そのものに興味を持ったことがきっかけでした。
●支援活動「りぼら」について
鈴木:支援活動の中で、がんサバイバーの働く・生きるを応援する「りぼら」が展開していかれた経緯を教えてください。
「りぼら」について https://www.j-cda.jp/about/hatarakikata/ribora.php
砂川氏:今の「りぼら」も、最初はこのように広がるとは思っていませんでした。
2013年からがん患者向けのワークショップを開催しているのですが、その時に「病気だから」という理由だけで求人を出してもらえない人がいることを知り、「世の中の人に正しい情報を知ってほしい」、「治療しながら働ける人がいるということを知ってほしい」という願いに突き動かされて、2014年に日本キャリア開発協会(JCDA)内で、研究会を仲間と結成したことがきっかけでした。
その後、世の中の動きとして「働き方改革」の流れの中に治療と仕事の両立支援が組み込まれ、各労働局の推進メンバー会議にキャリアコンサルタントが加わるようになったりと偶然の積み重なりが多々あり、JCDAと日本対がん協会とのご縁を繋いだことから国の休眠預金活用事業「りぼら」につながりました。
鈴木:どんな出会いだったのでしょうか。
砂川氏:大きな医療機関からは「病気と仕事の両立は社労士とハローワークがすでに支援をしています」、「もう間に合っています」、といったお声が多かった中で「患者目線で就労支援をしてほしい」とお話いただいたのが日本対がん協会の皆さまでした。
●がん罹患者に対して支援をしていく中での難しさ
砂川氏:患者さんには「言いたいのだけれど言いたくない」という葛藤があります。
言った方が周囲に配慮してもらいやすいと頭でわかっていても、「自分が役に立ててない」とか「迷惑をかけて申し訳ない」という気持ちもあり、「いつ、誰に、どう伝えればいいのか」迷うことがあります。
だからこそ、傾聴、共感、そして葛藤の奥にある「ありたい自分の姿」に光を当てられるキャリアカウンセラーの存在が大切だと感じています。
鈴木:ありがとうございます。今、まさに当事者として悩んでいる患者さんたちに届けたいメッセージはありますか。
砂川氏:様々な事情もあるため、一言で言い切れませんが、その上で何かお伝えするとすれば、「一緒に考えましょう。あなたは1人ではありません。応援したいと思っている方がいます」ということでしょうか。
また「相談したいことが明確になっていない状態で大丈夫です。むしろ、モヤっと違和感を感じるくらいがサインです。病気になった後の未来について少しずつお話していきましょう。話すことで納得感のある選択肢が見えてきます。」も合わせてお伝えしたいです。
鈴木:少しでもお話をしてもらいたい…。そんな想いが伝わってきました。
砂川氏:「このことはどうしようもない。なるようにしかならない」と思うと、だれかに話を聴いてもらいたいという気持ちにはなかなかなれません。けれども、実際に私たちに話をしていただくと、最初は話しやすいことやたわいもない話からはじまり、気づくと色々言葉にされていかれ、自分自身が少しずつみえてきます。
話すと自分の心身の状態だけでなく、自分のこだわりや価値観といったものが見えてくるんです。利害関係のからむ相手や、関係の近い家族には話しにくいこともあるかもしれません。ぜひ話し相手や話せる場を求めてみてください。
私の場合、当時の上司は、私が誰かに相談しないタイプの人間だと分かっていたので、「CDAというものを勉強してみないか?」とアドバイスをしてくれました。会社を辞めるべきかどうか、私が悩んでいた時には「休め」と。そして「勉強ならいいだろ」と。「相談してこい」とは言われませんでした。
※CDA(キャリア・デベロップメント・アドバイザー)は、JCDAが認定しているキャリアカウンセラー資格。砂川氏はピープルマネジメントのことも勉強できそう、かつ、自分のことも見つめられるのではないかと感じ、そのような一挙両得できる講座があるのだったらと、踏み出せたそうです。
砂川氏:その後、自分自身がキャリアカウンセリングやスーパーバイズを受けるようになり、第三者とともに俯瞰することに大きな意義を感じるようになりました。
専門家や仲間たちから、新たな視点で多様な力をおかりして、今の私があるんです(笑)
感謝しかありません。
「相談」ではデリケートなことも話題にあがるため、私も支援の際は、相談者の方に安心して話せる場だと感じてもらえるよう細心の注意を払っています。少しずつ、本当に少しずつ。私を知ってもらいながら、「では少し…」とお話していただくことをお待ちする。
時間はかかりますが、言いたくなるタイミングがありますので、話をしやすい場を作りつつ「待つ」という、ゆとり、余裕が社会に必要なのかなとも思っています。
「待つ」ということに対して、「じれったい」、「相談できるなら早くすればいいのに」と思う人もいるかもしれないが、ぜひとも丁寧に「待つ」ことに取り組んでいただきたいと砂川氏の話を聴きながら強く感じた。(鈴木)
今回は、砂川さんご自身の経験や支援者として踏み出された経緯、キャリア支援者の皆様にもご参考にしていただけそうな聴き方のポイントなどをご紹介しました。後編は、企業が行う両立支援についてご紹介していきます。
■後編は、こちら

RECOMMENDED