これからのキャリアに必要な「創造性」とは何かを問う連載4回目。
今回は、年齢・業界を超える「枠にとらわれないキャリア」について考えてみたいと思います。
今回は、年齢・業界を超える「枠にとらわれないキャリア」について考えてみたいと思います。
現在、会社の平均寿命は約30年。技術が日進月歩で進み、私たちを取り巻く環境がVUCA(将来予測が困難な状況)である中、さらに短くなるのではと言われています。
一方、長寿化に伴い、私たちが働く期間は平均40~50年。1つの会社で働き続ける「単線型キャリアモデル」が、現代社会の実情に合わなくなってきているのは明らかです。私たちは、今後どうキャリアを創っていけばいいのでしょうか?
考える際のヒントになればと思い、今回2人の方にインタビューしました。
一方、長寿化に伴い、私たちが働く期間は平均40~50年。1つの会社で働き続ける「単線型キャリアモデル」が、現代社会の実情に合わなくなってきているのは明らかです。私たちは、今後どうキャリアを創っていけばいいのでしょうか?
考える際のヒントになればと思い、今回2人の方にインタビューしました。
お一人目は、30歳で大手広告代理店を辞め、大学で学び直しをし、その後教育業界に転身された星野明宏さん。お二人目は、50代で複業をはじめた中村龍太さんです。
お二人の、業界や年齢を超える「枠にとらわれないキャリア」がどうやって形づくられたのかお話を伺っていくと、単線ではないキャリアの複線・伏線が見えてきました。
◆星野 明宏 (ほしの あきひろ)さん
静岡聖光学院学校長・一般社団法人静岡県ラグビーフットボール協会代表理事
株式会社電通へ入社後、スポーツビジネスのプロデューサーとして活躍。2003年同社を退社し、筑波大学大学院へ進学。ラグビーのコーチングを学ぶ。2005年から静岡聖光学院高校ラグビー部顧問、2007年には監督に就任し、3年で創部史上初の全国大会出場を果たす。2014年から中学・高校の総監督に就任するとともに、常務理事・校長として学院の経営全体に関わる。
著書:『凡人でもエリートに勝てる人生の戦い方』
静岡聖光学院学校長・一般社団法人静岡県ラグビーフットボール協会代表理事
株式会社電通へ入社後、スポーツビジネスのプロデューサーとして活躍。2003年同社を退社し、筑波大学大学院へ進学。ラグビーのコーチングを学ぶ。2005年から静岡聖光学院高校ラグビー部顧問、2007年には監督に就任し、3年で創部史上初の全国大会出場を果たす。2014年から中学・高校の総監督に就任するとともに、常務理事・校長として学院の経営全体に関わる。
著書:『凡人でもエリートに勝てる人生の戦い方』
1、キャリアストーリー① ~「新規でスポーツビジネスを展開したい!」と独学独歩した大手広告代理店・中部支社時代~
現在、星野さんはラグビー強豪校の静岡聖光学院で学校長をつとめています。
「教育とスポーツ、この2つをどうしてもやりたかったんです」と、教育の世界に飛び込むまでの経緯や転機について話してくれました。
「教育とスポーツ、この2つをどうしてもやりたかったんです」と、教育の世界に飛び込むまでの経緯や転機について話してくれました。
大学卒業後、スポーツとビジネスを結びつけた仕事がしたいと考え、大手広告代理店に入社した星野さん。しかし、社内にはライバルも多かったそう。
星野さん:「例えば、海外スポーツ関係者と英語でやりとりできるバイリンガルが大勢いて。多くの社員は花形が集う東京や大阪に配属希望を出していました。」
星野さん:「例えば、海外スポーツ関係者と英語でやりとりできるバイリンガルが大勢いて。多くの社員は花形が集う東京や大阪に配属希望を出していました。」
個性あふれる社員が数多く存在する社内を見渡し、星野さんは、自分はどの場所で戦うか、どうやって戦うか、自身の個性を活かせる場所はどこか、戦略を練ります。そして、規模の小さな中部支社に配属希望を出します。
しかし、中部支社は当時、スポーツに関するビジネスを展開しておらず、星野さんはテレビメディアの担当に。
ただ、星野さんの中のスポーツビジネスへの情熱は冷めることなく、テレビメディアに関する業務時間を工夫の末に圧縮。17-21時はスポーツビジネスを学ぶ時間と決め、独学で学んだり、関係者に会いに行ったりしたそうです。そして、21時以降に、またテレビメディアの業務に戻ったと言います。
ただ、星野さんの中のスポーツビジネスへの情熱は冷めることなく、テレビメディアに関する業務時間を工夫の末に圧縮。17-21時はスポーツビジネスを学ぶ時間と決め、独学で学んだり、関係者に会いに行ったりしたそうです。そして、21時以降に、またテレビメディアの業務に戻ったと言います。
中部支社でスポーツビジネスを始めようと孤軍奮闘していた時代を、星野さんはこう振り返っていました。
星野さん:「同期の中には前任者から引き継いで何十億の予算がある仕事を受けている者もいました。でも、何もないところから仕事を始められたことは良かったです。肩書のない『脆弱な自分』を経験し、社会人成り立ての頃から、自分の強みは何だろうと考え続けられたからです。」
星野さん:「同期の中には前任者から引き継いで何十億の予算がある仕事を受けている者もいました。でも、何もないところから仕事を始められたことは良かったです。肩書のない『脆弱な自分』を経験し、社会人成り立ての頃から、自分の強みは何だろうと考え続けられたからです。」
星野さんの当時の努力は、後に、中部支社で唯一スポーツビジネスに携わるプロデューサーとして実を結びました。
「自分の長所ややりたいこと」と「 組織の中で自分が活かせそうな空席・立ち位置」が重なる所を探し、自分の特長を作り出していくこと。この試みを、星野さんは「自分プロデュース」と呼んでいます。また、この「自分プロデュース」のスキルは、星野さんのその後のキャリアにも活きてきます。
2、キャリアストーリー② ~学び直しの決断~
就職を機に、学生時代熱心に取り組んでいたラグビーの世界から遠ざかっていた星野さんでしたが、数年後、「ラグビーのコーチをやらないか?」という連絡が入ってきます。週末は自分のことに時間を使えるようになったこともあり、即答で引き受けることにしました。
再びグラウンドに立ち、コーチとしてラグビーに取り組む子供たちを見ていた時のこと。スポーツが得意でない子が、チームの中で徐々に活躍する姿を見て、胸を打たれました。星野さん自身も子供のころ、コーチから短所ではなく、個性を見ながら長所を伸ばしてもらったことを思い出したのです。この経験が星野さんの心を動かしました。
「やはり、スポーツと教育を結ぶことに対して、自分が出来ることをしたい!!」
「やはり、スポーツと教育を結ぶことに対して、自分が出来ることをしたい!!」
そして迎えた30代。星野さんは会社を退社し、大学院でラグビーのコーチングを学ぶというキャリアの転換期を迎えるのでした。
星野さん:「いざ、会社を辞めるとなると微熱が続くくらい迷いも葛藤もありました。何が心配なのだろうと思ったら、“もったいないよ”“無謀だよ”など、他者からの評価だったのです。しかし、内側にある自分の声と話したら、どうしてもやりたいという思いに行きつきました。
人生は一度きり。やりたいと思ったことを、順番にやろうと思ったんです。」
人生は一度きり。やりたいと思ったことを、順番にやろうと思ったんです。」
星野さんが学び直しを決断した背景には、こういった自分のど真ん中にある想い(WILL)が影響していました。
3、キャリアストーリー③ ~ラグビー部で活きた広告代理店時代の経験~
大学院でラグビーのコーチングを学んだ星野さん。その後、静岡聖光学院のラグビー部顧問・監督に就任、当時弱小だったチームをわずか3年で全国大会初出場に導きます。
大躍進の背景には、どんなことがあったのでしょうか。
大躍進の背景には、どんなことがあったのでしょうか。
星野さんによれば、発想の転換や、広告代理店時代に見出した「自分プロデュース」のスキルが、ラグビー部での指導におおいに役立ったのだそうです。
●発想転換 の例
フィールド内に投げこまれるボールを取り合う「ラインアウト」で、あえて高さを競わない戦略をとる
(通常、ジャンプしながらボールを取り合うため、強豪チームには身長の高い選手が多い。身長が高くない選手もいる自チームの特長を活かす)
フィールド内に投げこまれるボールを取り合う「ラインアウト」で、あえて高さを競わない戦略をとる
(通常、ジャンプしながらボールを取り合うため、強豪チームには身長の高い選手が多い。身長が高くない選手もいる自チームの特長を活かす)
●自分プロデュース の例
「自分の長所・やりたいこと」と「 組織の中で自分が活かせそうな空席・立ち位置」が重なる所を探し、自分の特長を作り出す
↓
背の低い選手がその低さを活かし、タックルを受けて地面に倒れこむ選手のボールを奪い取る「ジャッカル」を極める
「自分の長所・やりたいこと」と「 組織の中で自分が活かせそうな空席・立ち位置」が重なる所を探し、自分の特長を作り出す
↓
背の低い選手がその低さを活かし、タックルを受けて地面に倒れこむ選手のボールを奪い取る「ジャッカル」を極める
4、キャリアの複線・伏線
星野さんの転機や、その後のラグビー部時代のお話を聞いていて、当研究所が提唱したキャリア自律の視点「キャリアの複線と伏線」が思い浮かんできましたので、ここで少しご紹介します。
星野さんのキャリアストーリーで考えてみると、ラグビーの週末コーチという複線が、その後、スポーツ教育の学び直しというキャリアの転換期につながっていきます。
また、広告代理店時代に見出した「自分プロデュース」のスキルがラグビー部での指導に役立ったお話からは、自身の過去の経験(点)が、思いがけず今のキャリア(点)と結びつき線となっていくキャリアの伏線を思い出しました。
星野さんのお話に、職種や業界が変わったとしても、後から点と点を結んで、自分ならではの新しい価値を創造していくことは可能なのだと勇気をもらいました。
5、星野さんがマネジメントで大事にしていること ~1on1、長所を伸ばす~
ラグビー部全国大会初出場という功績も注目され、星野さんはその後、静岡聖光学院のマネジメントに関わるようになり、2019年からは学校長を務めています。
今のお仕事について質問したところ、「皆さんが思っている校長像とちょっと違うかもしれません。実は大人数の前での講話が苦手なんです」とのこと。講話は、上司にあたる学院長が主に担当され、星野さんは自分の強みを発揮できる1対1のマネジメントに注力しているそうです。
〇1on1で最初に取り組んだこと
現在の静岡聖光学院のスローガンは「教師が元気な学校」。
星野さんは、教頭・副校長時代に、教員50名との1on1をしています。最初に取り組んだのは、各教員に、自分がなぜ教員を目指したのかを自問自答してもらうこと。
星野さんは、教頭・副校長時代に、教員50名との1on1をしています。最初に取り組んだのは、各教員に、自分がなぜ教員を目指したのかを自問自答してもらうこと。
そこには2つの意図がありました。1つめは「自分プロデュース=自分の長所を伸ばし、特長とする」は、今でも星野さんが重視するテーマであること。
2つめは、教師の評価軸が、勉強を教えるのが得意か、生活指導が得意かの2軸しかないことに、常々窮屈さを感じていたからです。
2つめは、教師の評価軸が、勉強を教えるのが得意か、生活指導が得意かの2軸しかないことに、常々窮屈さを感じていたからです。
1on1の後は「学習指導要領の中に含まれる内容で、違反していなければ、どんどんやりたいことをやっていこうよ」と各教員に提案。外部組織とのコラボレーションを始めたり、副業解禁の制度を整えたりしていきました。
〇「カフェ巡り」が好きな理科教員に、図書室のリフォームを任せる
■参照元 http://www.s-seiko.ed.jp/school-guide/facilities/
1on1がきっかけとなった素敵なエピソードを1つ教えてもらいました。
ある理科教員から「私、カフェ巡りが大好きで、よくカフェで読書してるんです」という話を聞いた星野さん。
ある理科教員から「私、カフェ巡りが大好きで、よくカフェで読書してるんです」という話を聞いた星野さん。
ちょうどその時、学校では設立50周年プロジェクトで図書室リフォームの話があがっていました。通常なら、国語教員に図書室リフォームをまかせるところ、星野さんは、カフェ巡りが趣味の理科教員に「店長」という形でリフォームを任せます。
結果、おしゃべりOK!コーヒーOK!のオシャレでかっこいい図書室ができあがりました。現在、図書室は、国語以外の教科で使ったりオンライン講義を配信したり、コラボレーションの場としてにぎわっているそうです。
6、最後に
今回、枠にとらわれないキャリア創造の例として、星野さんのキャリアストーリー(①広告代理店時代、独学独歩でスポーツビジネスを展開、②発想の転換・自分プロデュースといった広告代理店時代の経験が活きたラグビー部指導、③教科指導・生活指導以外でも、教員の長所をのばすマネジメント等)をお届けしました。
前章でご紹介したカフェ好きの理科の先生のように、各個人の中に、今の職務の「枠」におさまらない様々な長所があると思います。
今の職務でその長所を活かせなくても、枠を会社全体にひろげてみれば活かせる場所があったり、社会全体までひろげて「副業」という形で活かしたりすることも出来ると思います。
今の職務でその長所を活かせなくても、枠を会社全体にひろげてみれば活かせる場所があったり、社会全体までひろげて「副業」という形で活かしたりすることも出来ると思います。
自己申告制度、社内副業、社外副業解禁というような、個人が多様な長所をいかせる制度も徐々にではありますがひろがっているようです。
与えられた職務を忠実にこなすだけでなく、自分の中にある想い(WILL)や多様な長所ものばしていく。それが、枠にとらわれないキャリア創造につながっていくのかもしれません。
■これからのキャリアに必要な”創造性”とは?vol.5
~2回の降格を超えた先で見出した複業家としての生き方・中村龍太さん~ こちら
~2回の降格を超えた先で見出した複業家としての生き方・中村龍太さん~ こちら
プロモーションイベントの運営・実務を担当。趣味は読書といけばな。最近、涙もろいのが悩みです。
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