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キャリア支援施策を連動させ、人と会社の成長サイクルを回し続ける ~西部ガスグループ様のお取組み~

インタビュー

企業

2022.11.30


今年2022年夏、自律的なキャリア形成支援施策として、自社に「キャリアデザインシート」や「キャリア面談」の仕組みを導入された西部ガスグループ様。「キャリアデザインシート」を書いて終わりではなく、キャリア面談・キャリア研修・学び機会の提供等と連動させ、社員が「ありたい姿」に向けて成長サイクルをまわしていく体制を整えられているのが特徴です。
今回、施策のご担当者 小川様に、同社のキャリア形成支援施策ができるまでと、そこに至るまでご苦労された点・工夫された点も合わせてインタビューしました!
〇ゲスト:
西部ガスホールディングス株式会社 人財戦略部キャリア開発グループ
小川周太郎 様
〇インタビュアー:
キャリアのこれから研究所所長・日本マンパワーフェロー 水野みち
〇執筆:日本マンパワー 浅香孝平
西部(さいぶ)ガスグループ 概要
〇本社所在地 福岡県福岡市博多区千代1丁目17番1号
〇設立 1930年
〇事業内容
ガスエネルギー事業、電力・国際・その他エネルギー事業、不動産事業、食関連事業他
〇コーポレートサイト
https://hd.saibugas.co.jp/index.htm

1、西部ガスグループが大事にしている「いつもの朝と、新しい明日を。」

水野まずは、小川さんが働く西部ガスってどういう会社なのか?その理解から深めたいのですが、教えていただけますか。
小川様(以下敬称略):西部ガスグループは、ガスエネルギー事業を主体とし、2030年に創業100周年を迎える歴史の長い会社です。
西部ガスグループのコーポレートメッセージは「いつもの朝と、新しい明日を。」。
朝、ガスコンロのスイッチを押せば火がつき、お風呂の蛇口をひねれば温水が出てくる。そんな、いつもと同じ、だけど大事な「お客さまの日々の暮らし」をしっかり守り、支え続けること。そして、地域とのつながり等を活かし、ワクワクするような新しい明日(新しい価値)を作り出すこと。
「エネルギーとくらしの総合サービス企業グループ」として、チャレンジ精神をもって未来を拓いていこうという思いのもと、このコーポレートメッセージを発信しています。

水野:先日、御社のホームページを拝見しました。サスティナビリティや脱炭素が重視される現在、CO2排出の少ない発電方法にアプローチされたり、ドローンを活用したインフラ点検に取り組まれたり、新しいチャレンジを次々にされていますよね。
また、不動産・食関連・介護福祉など幅広い事業に携わっているので、コーポレートメッセージをお伺いして色々腑に落ちました。
図1:西部ガスグループビジョン2030 「2030年のありたい姿」

小川:ありがとうございます。そのほか、人材育成にも関わる会社の大きな動きとして、2021年4月に、事業体制をホールディングス体制に変更し、地域会社を設立したこと、同年11月に、2030年に向けてのありたい姿を記した「西部ガスグループビジョン2030」を策定したことなどがあります。

特に、事業体制の変更は影響が大きく、西部ガスグループとして、どういう風に人を採用したり育成したりしていくのかというグループ人材育成方針を去年から考え、今年、体系を定めて進めているところです。

2、西部ガスグループ 人材育成の方針

水野:ありがとうございます。ぜひもう少し詳しく「グループ人材育成の方針」について教えてください。
小川:グループ人材育成の方針では「だれもが学びたいときに学び、挑戦と活躍ができる環境をつくり出すことで、人の能力と可能性を最大限引き出し、未来を変える価値を創造する人財を育成する」とかかげています。
下の図2のように、重点的な取組み項目が5つあり、「自律的なキャリア形成の支援」「多様な学びとスキル 獲得機会の創出」などに取り組んでいます。
図2 西部ガスグループ 人財育成(教育)方針と5つの重点取組み項目
水野:御社のコーポレートメッセージと重なりますね。人材育成の方針は、どのようなプロセスで作られたのですか?
小川:まず、今後の人材育成で何に重点を置くか、俯瞰的にホールディングスの目線から考えました。
また、今までの研修をそのまま横展開するだけでは上手くいかないと思いました。というのも、私は入社して最初の3年間、長崎で営業をしていたので、現場の様子や各グループ会社のリソースが想像できたからです。
そこで、上司とともに、各グループ会社の人事部門・経営層に現在の人材育成の状況についてアンケートを取ったりヒアリングをしたりして、その結果をもとに持続可能な育成のありかたについてかなり議論しました。
水野:未来像だけでなく、現場のヒアリングもされた上で、人材育成方針を作っていかれたのですね。

3、人材育成の重点取組み項目「自律的なキャリア形成の支援」で工夫したこと

※小川さんからは、5つの取組み項目を同時並行で進めていると伺いましたが、本記事では、「自律的なキャリア形成の支援」と「多様な学びとスキル 獲得機会の創出」の項目に絞ってご紹介していきます。

水野:「キャリア」という言葉を聞いた時、関係者の皆さまの反応はいかがでしたか?キャリアの捉え方は人さまざま。「外的キャリア」である職業、地位、資格、年収などをイメージされる方もいれば、「内的キャリア」である働きがい・生きがい、意味、生き様などをイメージされる方もいます。
また、人事の方の中には、キャリアについての教育をすると社員が転職してしまうのではと心配される方もいらっしゃいます。

小川:はい、確かに人財戦略部で、最初に議論した時も、キャリアという言葉についてメンバーの認識はあっていませんでした。そのため、私が真っ先にしたのは、「キャリア」「キャリア自律」という言葉の定義をしましょうという提案です。
「キャリア」という言葉の認識が違った状態だと、社員へのメッセージがうまく伝わらないし、これからやっていく施策が、充分に効果を発揮しないのではないかと思ったからです。
メンバーと色々議論しながら、下記の定義を決めました。
〇西部ガスグループにおけるキャリア
「働くことを中心としながらも仕事以外の役割も含んだ、自分の人生全般とその生き方」
〇西部ガスグループにおけるキャリア自律
「自分自身にとって豊かなキャリアとは何かを自ら定義して、そのキャリアを獲得するために主体的に行動できている状態」
その後、キャリア自律支援を「なぜやるのか」「なぜやらないといけないのか」「どうやってそれをやるのか」を議論していきました。
水野:会社で、キャリア支援施策を進める際、経営方針と連動した形で、自社にとって「キャリア」とは何かを定義するのは重要なポイントですね。定義することで、議論のぶれや脱線が少なくなります。
小川さんのお話は、ほかの企業人事の方にとっても参考になりますね。

4、人材育成重点取組項目「多様な学びとスキル獲得機会の創出」
~リスキリングと自律的キャリア形成支援はセット~

小川:リスキリング・学び直しは、現在、国を挙げての施策として推進されています。ただ、リスキリングを目的なく社員にしてもらうのは難しいように思っています。
基本的に、リスキリングと自律的キャリア形成支援はセットで考えた方が良いのではないでしょうか。
リスキリングや学び直しの後、その学びを活かすフェーズがあります。そして、活かしてみてどうだったか、フィードバックをふまえた上で将来のビジョンを描くというサイクルを回す必要があると思います。
本年導入したタレントマネジメントシステムなどを活用しながら、従業員が自分の現状を知って「学びたいな」って思った時に学びに行ける状態をしっかり作っていきたいと思っています。
水野:学び直しと口々に言われますが、闇雲に学ぶのではなく、自分自身のありたい姿を描いた上で、現在とのギャップを埋めるステップとして、リスキリングや学び直しがあるということですね。また、単にスキルを身につけるだけではなく、スキルを身に付けた後にフィードバックループを回す仕組みまで、タレントマネジメントシステムと関連付けて構造化されている点が素晴らしいですね。

5、自律的なキャリア形成支援の具体策

水野:方針や定義が見えてきたところで、ぜひ自律的なキャリア形成支援の具体策を教えてください。
小川:まず、社員本人がキャリア自律にしっかり取り組んでいくことが大事ですが、本人だけではキャリア自律は達成できません。会社サイドとしても、人事からの支援、そして、職場全体のマネジメント、上司のマネジメントも必要で、加えて、キャリア自律を育む土壌も重要と考えています。
〇キャリア形成支援施策の基盤となる「キャリアデザインシート」
小川:キャリア形成支援施策の基盤として、今年、従業員に「キャリアデザインシート」を書いてもらい、そのシートを使って上司とキャリア面談をする仕組みを作りました。
(※今年度は中核企業の約1,400名に実施し、来年度以降グループ全体に展開していく予定とのこと)
キャリアデザインシートを通じて社員が自己理解を進めるとともに、自分が将来ありたい姿を描いてもらいます。また、上司とのキャリア面談では、ありたい自分に対して必要なものや今後してみたい仕事などについて話し合ってもらいます。

〇「キャリアデザインシート」と各施策の連動

小川:そのほかのキャリア形成支援施策として、上の図3のように、キャリア研修やキャリア相談窓口を用意したり、キャリアリテラシー教育の一環としてキャリア座談会を開催したりしています。
各施策を単発で行うのではなく、「キャリアデザインシート」が基盤になっていて、「キャリアデザインシート」に書いてある内容を基にキャリア研修を受講したり、様々な学びに取り組んだり、研修やキャリア面談で内省したことを「キャリアデザインシート」に反映したりする仕組みを整えたところです。

6、キャリアコンサルタント養成講座での気づき

水野:「キャリアデザインシート」について、社員の皆さんの反応はいかがですか?
小川:実は、同期や同年代、先輩の何人かに「書くの大変やね」と言われました。
でも「ぜひ自分と向き合ってください」ってお願いしました。日頃、キャリアについて内省する機会はなかなか持てないので。
水野:ひるまずに「自分と向き合ってください」と言えるということは大切ですね。小川さんの中に信念や確信のようなものを感じます。その確信はどこから生まれたのでしょうか?
小川:昨年、キャリアコンサルタントの資格をとったのですが、その前の、日本マンパワーさんのキャリアコンサルタント養成講座での気づきは結構影響しています。内省を促す問いかけや、自分の強みは何なのかという自己理解の深め方は本当に役に立つなと思いましたし、講座で自分自身が内省する機会が多くあり、「自分がやりたいこと」や「自分が活かせる強み」が明確になりました。
水野:それは嬉しいお話です。講座を通して、自らが体験的に「良い」「役に立つ」と思えたことも施策の推進力になっているということですね。
◆日本マンパワーのキャリアコンサルタント養成講座
https://www.nipponmanpower.co.jp/cc/

7、社員が自身の強みをより活かせるようになれば、もっと会社は成長する

〇社員のキャリア自律は、新事業の創出にもつながる

水野:キャリアコンサルタント養成講座での気づき以外に、小川さんが、キャリア形成支援施策に取り組む上での原動力になっているものはありますか?
小川:私は何かやりたいことがあったら、とにかく手を挙げて失敗してもいいからやるタイプなんです(笑)。人事部門にいながら、例えば、社内の情報共有アプリの導入を提案し、実現したりなど、自ら手を挙げてやってきました。
また、当社は、「やりたい」と言ったことを応援する文化もあります。ただ、遠慮しがちな社員も多く、「やりたい」と手をあげる人が少ない現状があります。
その現状が勿体ないなと思っていて、今回のキャリアデザインシートをきっかけに、自分のやりたいことを内省して気づいて、面談で伝えたり、それを聞いた上司が後押ししたりすると、どんどん社員の皆さんのやりたいことができていくんじゃないかなと思っています。
自分がこれは価値があるし、会社のためにも地域や社会のためにも、絶対やった方がいいと思うものはどんどんやった方がいいと思っています。
水野:社員のキャリア自律を推進される小川さんが、まさに率先してキャリア自律されていらっしゃるなと思いました。また、社員のキャリア自律は、新事業の創出にもつながっていきますね。

〇社員が自身の強みをより活かせるようになれば、もっと会社は成長する

小川:社員一人ひとりが潜在能力を持っていると思いますが、それを100%発揮できている人って多分なかなかいないと思うんです。
だから、もっと皆が持っている力や自分の強みを活かせるようになれば、もっと会社も成長するんじゃないかなと思っています。会社が成長すれば、社員に対してもっと投資ができますし、何より地域社会に今よりも多くの価値を届けることができるはずです。そこに携われているのはありがたいことですし、すごく楽しい仕事をさせてもらっています。
環境や価値観が変わり、会社と社員の関係も変わりつつあります。今、会社が社員を選ぶだけでなく、会社も社員から選ばれる立場になっていると思います。社員は会社に自分のキャリアを完全に預けるのではなく、対等な良い関係を作っていくフェーズになりつつあるように思います。
キャリア自律した社員がしっかりとパフォーマンスを発揮して会社に還元していく。会社は成長を社員への投資にしっかり還元する。そんな会社と社員のいい関係づくりに、キャリア形成支援施策を通じて貢献できればと思います。
水野:小川さんがこれだけの施策を推進して行けたのは、もちろん周囲の応援もあると思いますが、自ら資格取得を含めた学びを深め、部内で議論をし、現場の声をヒアリングし、借り物の言葉ではなく、ご自身の言葉で確信を持ってキャリア自律を語れたというところが大きかったのではないかなと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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