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キャリこれ

仲間と一緒に、何かを変えることができる。それが地域の魅力(後編)

連載記事

2024.8.30


いよいよ「正解のない時代」に突入したいま。企業も自治体も大学も、セクターを超えて共創する意味がますます高まっています。また、コロナ禍によってリモートワーク化が急速に進み、都市で働く意味やオフィスを構える意味が失われた結果、多くの人が地方・地域に移り住んだり、2拠点生活にシフトしたりしました。今だからこそ「地域」というメガネを通じて、これからの働き方やキャリアを多角的な視点で考え、未来をつくるヒントを得られるのではないか。このような趣旨でスタートした連載「地域とキャリア」。第3回は、日本マンパワーが管理運営を担っている「山口しごとセンター」を率いる栁谷和暉さんにお話をお聞きしました。現在の仕事に至るまでのキャリアの転機から始まり、山口における働き方事情そして地元の方たちとチームを結成して見事に優勝した「大内蹴鞠ワールドカップ」での体験談など、「地域で共創するとは何か」のエッセンスが詰まった内容となりました。ここからいよいよ後編。「大内蹴鞠ワールドカップ」での体験に迫ります!

6.「大内蹴鞠ワールドカップ」に参加した理由(わけ)

Q:

では、さきほど少しご紹介いただいた「大内蹴鞠ワールドカップ」についてお聞きしたいのですが、その成り立ちはどのようなものですか?

栁谷:
この大会は、今年初めて開催されました。蹴鞠自体は平安時代の貴族のたしなみとして発展してきたのですが、室町時代には武士の鍛錬として盛んになったそうです。元々は大内氏という山口の守護大名によってこの地域に浸透したのではないか、と言われています。大会では、鹿の皮を使った直径15センチの毬を使い、現代風にアレンジした内容で、1チーム6人でつないだ回数を競うというものです。

けまり鞠遊会という団体が、京都を拠点に日本の伝統文化である蹴鞠の普及等を目的に全国各地にて体験会を開催されていますが、「世界選手権」として開催したのは、山口が初のようです。
Q:
栁谷さんは、どのような経緯で参加されたんですか?
栁谷:
私自身、就職支援の仕事に携わっていて感じるのは、意外と地元のことを知らないということでした。まずは、その土地に住む住民が地域の魅力を知らないと若者等に魅力など発信できないのだと感じたのです。この大会の開催を知り、地域で子育てに熱心なお父さん仲間と職場の同僚やそのご家族に声をかけて「マリアージュ」というチームを作ったんです。
Q:
いいネーミングですね!
栁谷:
実は、しごとセンターに毬子さんという職員がいるんです。お名前の由来を聞いたら「毬のように弾みながら、いろんな方と繋がりを持ってほしい」と聞き、それをヒントに「結集・結合」の意味を込めました。
競技に参加できるのは大人だけなのですが、私の娘も総監督という立場で練習にも付き合ってくれていたので、決勝まで残ったときに、一緒に衣装を着せてもらいました。

kemari

大会当日 着物を着ての集合写真
大会当日テレビの取材を受けたのですが、娘はその時に、「私の家にはトロフィーがないのでトロフィーが欲しいです」って答えたんです。で「みんなで楽しみながら頑張ろう」とチームの結束力が高まりましたね。まさか本当に優勝できるとは思っていませんでしたが、衣装を作ってくれるデザイナーさんの想いに触れたり、やったこともない競技に挑戦したりしたこの経験は、どこか弊社の「私たちの想い」にもどこか通じるものがあるように感じています。

our wishes

「私たちの想い」
リンク「私たちの想い」
https://hr.nipponmanpower.co.jp/company/about/
全員が好奇心を持ってその場を楽しんだことが良い結果にも繋がったと思いますし、世代を越えた人と人との繋がりを感じ、私個人的には「いきなりマイクを向けられてインタビューされてもちゃんと自分の言葉で想いを喋れるんや!」と娘の成長も実感できたことなど、色々な意味で良いイベントだったと感じています。

7.「大内蹴鞠ワールドカップ」から得たもの

Q:

印象に残っているエピソードなどありますか?
栁谷:
蹴ったこともない鹿の皮の球なので、うまくできないわけですよ。何度か練習しましたが、娘がすごいなと思ったのは「輪が大きくなりすぎているから小さくなって」とか言うんです。子供が言うと大人もみんな素直に聞くわけですよ。大人同士も足のどこで蹴ると安定してつなげるかなど工夫しました。娘が職場の仲間と地域のお父さんたちとをつなぐ大切な役割を担ってくれていましたね。
Q:
参加されて、変化したことはありましたか?
栁谷:
大人側と子供(娘)側の両方に変化がありました。
大人側では「地方には何もないから」とつい言ってしまうケースがあると思いますが、それは本気で探していなかったり、楽しみを見つけようとしていなかったりするからだと思っています。「楽しみを見つける」という気持ちがあれば、地方ってすごく面白いですし、変えることができることもたくさんあると思います。この経験によって「仲間と何かを作り上げたり変えたりすることができるのが地域の魅力」だと皆が改めて実感して、それぞれが地域のイベントなどに積極的に参加するようになっています。
子供側では、今回の経験をしたことで娘が決めたことが一つあるんです。小学校に入学したときに吹奏楽部の演奏を聴いて、初めて自分でやりたい習い事を決めました。2年生から入部することができると聞き、2年生になった4月から通い始めました。自分で決めたことにチャレンジするのは素晴らしいことなので、親として応援してあげたいと思います。

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実際に蹴鞠をしている場面

8.地域だからこその働き方・生き方

Q:
どのように地域の活動と日頃の仕事のバランスを取られていますか?

栁谷:
例えば、都会・大都市圏と違うところは、通勤時間などに時間をかける必要がないことです。私の通勤時間は徒歩10分程です。時間を有効活用することを心掛けており、お昼休憩の60分は自分のリフレッシュの時間として使うと決めて、10-15分でお弁当を食べ、残りの45分は併設されているジムにあるサウナに行くんです。仕事が終わった後は、ビジネス拠点になっているセンター周辺で開催される勉強会や異業種交流会などの学びの場に出向いて、いろいろな人と交流して刺激を受けています。出会いが楽しいとか、生き生きしている人に出会うことによってパワーをもらえるし、山口県以外の人たちともネットワークが広がります。プライベートと仕事が繋がっているところもあるので、週末のイベントなどに出向くと「家族と参加してくれたんですね」とお声がけいただくことも多く、人とのつながりが実感できてうれしい瞬間です。
Q:
しごとセンターの仕事や蹴鞠ワールドカップを通じて栁谷さんご自身の仕事観やキャリア観に変化は生まれましたか?
栁谷:
みんなそれぞれ輝けるものがあると思うし、持っているものを認めてあげる存在が大事だと思うんです。その存在は大人だったり周りにいる仲間だったりするかもしれませんが、そういう人たちがいることによって地域は輝くと思いますし、誰もが認めあい支え合える環境こそが、若者も戻ってきたいと思える地域の魅力にも繋がるのではないかと思います。時間の流れや人との距離感など地方はすごく魅力があると思います。
Q:
地域と大都市との関係性について、こうなるといいなというイメージはありますか?
栁谷:
給与ベースで見てしまうと東京との賃金差やキャリア設計の面などいろいろ事情が異なると思います。ただ、都会でないとできないことよりも、地方でもできることや地方だからできることも増えてきています。多様な働き方が認められるようになった昨今、地方移住というのはすごく魅力があると思います。山口の場合、企業の協力を得ながら職場環境改善に取り組み、例えば、子供の行事等に合わせた休暇の取得や平日に子供と親が共に過ごす環境づくりなど、子供や子育て中の方々を応援していくという社会全体の意識改革に力を入れています。企業側の育休の取得促進や休暇制度などの活用と併せて、お金ではない魅力を生み出すということが、県全体として今取り組んでいることです。

work experience

お仕事体験風景
Q:
今後、取り組まれたいことはありますか?
栁谷:
私はIターン者という立場から、外から見た山口と住んで感じる山口、両方を知っています。今後ますます、海外の方含め山口にゆかりのない方も移住してくることも考えられることから、山口に暮らす方々と一緒に山口の魅力を発信していきたいですね。仕事だけではないつながりの場を作っていくことこそが、移住後の居場所づくりにもつながると考えています。そして、ひとりでも多くの方が山口を気に入って生活してもらえるようになると幸いです。
『おいでませ!山口へ』

取材を終えて
インタビューの中で強く印象づけられたのは、栁谷さんの「横串をさす」という言葉でした。それぞれの地域には、企業、行政などのコミュニティの結び目となる人がいますが、栁谷さんは正にその役割を果たしています。そのエネルギッシュな活動を支えているのが、キャリアコンサルタントならではの「自分の経験をポジティブに意味付けする力」と、大内蹴鞠ワールドカップのエピソードに象徴される「コミュニティに飛び込む力」。キャリアコンサルタントとしての資質を持った人が多様なコミュニティの横串をさすことが、地域を再生させる原動力となる。そのような可能性を感じさせていただきました。

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