~シリーズ「初めてのキャリア」。キャリアについて、よくある疑問やお悩みを、ストーリー形式でご紹介しています~
物語の舞台は、大手食品メーカー Y支店営業部。今回は、最近同期の転職が相次ぎ、少しモヤっとしている竹中さんの悩みを取り挙げます。
●「初めてのキャリア№1 キャリアって何?」は、こちら
●「初めてのキャリア№3」は、6月中下旬に掲載予定です
1【登場人物紹介】大手食品メーカー Y支店営業部のメンバー

竹中さん
20代前半の男性。入社 3 年目。地元の大学を卒業して、現地採用で入社。 最近、同期の転職が相次ぎ、自分はこのままでいいのかと少し悩んでいる。

里見さん
50 代の女性。別の支店から異動してきた総務担当者。キャリアコンサルタントの資格を持っている。
2「最近、同期の転職が続いて…」と話し出す竹中さん
里見さんが異動してきて2週間後。若手の竹中さんと里見さんは、一緒にやる業務が多く、すっかり打ち解けてきた。今日は、社内の休憩室で一緒にランチをすることに。外出メンバーが多く、休憩室の利用者は、たまたま竹中さんと里見さんの二人。
竹中さんがお弁当を食べ終わったあと、缶コーヒーを飲みながら「そういえば」と話し始めた。

「このあいだ里見さんが、キャリアは昇進とか転職とか、そういう目に見えるもののことだけじゃないって、話してくれましたよね。課長もキャリアについてああいう風に考えているのかなぁ。」

「武田課長と考え方が違う、って感じているの?」

「実は最近、同期が何人か退職したんです。それについて課長は、まだ一人前にもなっていないのに…、みたいなことを言います。
僕はいま退職を考えているわけじゃないんですけど、同期が辞めていくのを見ると、自分はこのままでいいのかって思うこともあるんですよね。」

「そうなんですね。辞めていく同期を見て、竹中さんはどう思っているの?」

「上司や職場とのミスマッチで辞めた人もいますけど、中には、『もっとキャリアアップできる会社に行きたい』と言って転職した同期もいるんです。
そういう話を聞くと、この会社で経験を積むだけじゃダメなのかなって、ちょっと不安になるんですよね。それに、転職先ですぐにリーダーになった同期もいて・・・正直焦る気持ちがあるんです。」
3目に見える「外的キャリア」、自分自身の中で感じる「内的キャリア」
竹中さんの話を、うんうんと頷きながら聞いていた里見さん。ペットボトルのお茶を口にした後、静かに問いかけた。

「竹中さんも、リーダーやマネジャーになりたいの?」

「いや、僕はいまのところ、リーダーや管理職になりたいとは思ってないんです。課長のことを見ていると大変そうだし、自分に向いているのかどうかもわからないし・・・。」

「そうなんですね。では、焦るというのはどんなことに?」

「それが、よくわからなくて・・・。ただ、もっと成長したいと漠然と思ったりしていて・・・。」

「成長したいということなんですね。キャリアには『外的キャリア』と『内的キャリア』という言葉があって、昇進や転職、資格取得など、履歴書に書くような目に見えるキャリアのことを『外的キャリア』と言います。
一方で、『内的キャリア』は、仕事のやりがいや達成感、スキルアップや仕事を通じた良い人間関係の構築、というような自分自身の中で感じるキャリアのことです。
目には見えないけれど、個人の成長や幸福度に大きく影響するものなんですよ。」

「内的キャリア・・・初めて聞きました。そういうキャリアの捉え方もあるんですね!」
4「仕事のやりがい」について考える竹中さん

「竹中さんは、どんなときに仕事のやりがいを感じるの?」

「やりがいかぁ…う~ん。
そういえば、この間、ウチのヨーグルトに含まれている成分の働きが気になって、資料を読み込んだら面白くて!
他社のヨーグルトの成分の特徴についても調べて、商談の時に何気なくお客様に伝えたら、すごくわかりやすいって褒められました。その時は嬉しかったですね。」

「へぇ、そうなんですね!でも、どうしてヨーグルトの成分の働きが気になったんだろう?」

「どうしてだったかなぁ?そうだ、お客様が、『いろんなヨーグルトがあって、違いがよく分からない』ってつぶやいていて。それで、少しでも役に立てたらいいなと思ったんです。」

「お客様の役に立ちたいという気持ちが、きっかけだったんですね。褒められて嬉しかったって言っていましたが、その時の気持ちをもっと詳しく教えてくれませんか?」

「そうですね…。『えっ、こんなに喜んでもらえるんだ』って最初は意外でした。自分では、そこまで大したことをしたって感覚じゃなかったんです。
でも、お客様が『なるほど!』とおっしゃってくださって、あぁ役に立てたんだって実感できて…。嬉しかったです!」

「そうだったんですね。お話を聞いていて、竹中さんは『お客様の役に立つ』ことをとても大事にしているんだなと思いました。
だから、無意識レベルでも、アンテナが立っていて、『ヨーグルトの違いがよく分からない』というお客様のつぶやきを拾って、役に立つ情報をお届けできたんじゃないでしょうか。」

「それも、何気なく、無理なく自然にできているんですよね。竹中さんの内的キャリアは、立派に成長中なんじゃないでしょうか。
昇進や職歴などを重視する考え方もありますが、それだけじゃなくて、『自分が何を大事にしているのか』『仕事を通じてどんな自分になりたいのか』を考えることも、自分のキャリアを作っていく上で重要なんですよ。」
そう里見さんが話すと、こくりとうなずきながら、何か考え込む竹中さん。
ちょうどそこで、お昼休みの終了を告げる音楽が流れてきた。

「ありがとうございます!
なんか少し気持ちが軽くなりました。自分と仕事について、もうすこし考えてみたいと思います。また相談に乗ってください!」
里見さんは「喜んで!」と返事を返し、二人はオフィスへと戻っていった。
5今日のまとめ
「外的キャリア」:経歴や資格など、他者から評価されやすい客観的な指標。目に見えるキャリア。
「内的キャリア」:やりがいや価値観に合っているかなど、自分自身が感じる主観的な指標。目には見えづらいキャリア。
著名な心理学者エドガー・シャインは、上記のように、キャリア行動の結果を「外的キャリア」と「内的キャリア」の二つに分けています。
従来は、昇進など外的キャリアが重視される傾向がありましたが、近年はやりがいを感じながら、仕事を通して「自分らしさ」を追究することで「内的キャリア」を充実させることも重視されるようになっています。
内的キャリアを知るには、仕事を含めた日常生活のなかで自分自身と向き合い、自分の価値観ややりがいについて考えることから始めるとよいでしょう。
ただ、自分自身では気づきづらい場合もあるので、自分以外の人との対話も重要です。竹中さんと里見さんのやりとりを参考に、日ごろの経験をお互い振り返ってみるのもよいでしょう。キャリアの専門家との対話を活用するのも一つの方法です。
VUCA(不確実性・不安定性・複雑性・曖昧性)と言われる、激しい環境変化に対応していくため、現在、各企業で事業内容や組織構造の変革が進んでいます。このような変化の中でも、自分の「内的キャリア」を育んでいくことは、自己理解に基づいて適切な判断を行うための助けになります。

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