前編に続き、1on1エバンジェリストとして活躍する堀井耕策氏が、1on1を通じて生まれた変化と、組織が得られる価値を語ります。
後編の読みどころ
・1on1の雑談化・進捗確認化から脱却するポイント
・個人と組織に起きる変化の全体像
前編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。
1上司の内省なくして部下の成長なし
~堀井氏へのインタビュー後編では、多くのマネージャーから寄せられる「1on1の具体的なやり方がわからない」という声にお応えし、1on1の手法などを紹介していきます~
(1) 育成された経験がないマネージャーたち
堀井
「どうやって部下を育成すればいいのかわからない」。
私の研修に参加するマネージャーの方々から度々聞く言葉です。なぜわからないのか。今のマネージャーたちは、育成された経験がないからです。
これまでの日本は、「指導すればできた」という時代でした。決まったやり方があって、その通りやれば成果が出た。でも今は違います。多様性が広がり、答えは一つではありません。
また、働くことに対する価値観も人によって様々で、外発的動機づけよりも内発的動機づけがより重要になっています。だからこそ、部下が自分で考え、対話をしながら答えを模索していく必要があるのです。
しかし多くのマネージャーは「君はどう思う?」と聞かれて成長してきてはいません。だから、部下にどう問いかければいいのかわからないのです。
(2) 自己内省力は“経験学習サイクル”で鍛えよ
堀井
だからこそ、まず上司自身が自己内省(※)を行う必要があります。
※自己内省 自分の体験や経験を振り返り、自己の価値や判断基準を言語化すること
前編でもお話ししましたが、自己内省の経験が不足している上司は、部下の内省を十分に促すことはできません。
今回、監修させていただいたeラーニングでは、自己内省を体験するワークを盛り込んでいます。この自己内省のワークは、教育理論家のデビッド・コルブ氏が提唱した「経験学習サイクル」をベースにしたもので、次の図のような流れで進めます。

まず、日々の業務で「経験」したことについて「内省」を行います。これはワークシートを使って行動を振り返り、点数をつけます。この点数は自己評価であり、何点でも構いません。重要なのは、自分がどう感じたかを可視化することです。
そして、「何ができたのか」「何ができなかったのか」を具体的に書き出し、それぞれの要因を考えます。成功要因・失敗要因を言語化することで、頭の中が整理され、次の行動が見えやすくなります。これが「教訓」にあたります。
そして「試行」の段階に移り、次にやることを決めていきます。
これを繰り返すことで、自分の価値観が明確になり、判断基準も磨かれていきます。
このように、経験学習のサイクルを体得し、自身の価値観や判断基準を明確化することが、1on1にも活きてくるのです。
2事例で納得!1on1下手な部長が見せた驚くべき成長とは?
~効果的な1on1を実施すると組織にどのような変化が生まれるのでしょうか。
堀井氏がヤフーで人事担当だった時の支援事例を、ストーリー形式で再現しました。~
●育成方法がわからず悩むエンジニア部門の部長に、1on1の進め方についてアドバイスをした事例
私はエンジニア出身ということもあって、モノづくりは好きなのですが、人のマネジメントは苦手で・・・。育成のやり方もよくわからなくて、つい指導ばかりしてしまうんです。
なるほど。指導と育成は違いますよね。育成は「引き出す」ことです。そのためには、まず部下の方をよく観察することが大切ですよね。
観察ですか。でも、どういう観点で観察すればいいのかがわからないんです。
それなら、こんなふうに部下の方のスキルをグラフ化してみてはどうでしょう。横軸に項目、縦軸にレベルを取って、見える化するんです。

たとえば、「自己理解」は自分の強みや弱み、ワクワクすることを言語化できているか。
コミュニケーション能力、俯瞰力などの「ビジネス基礎スキル」はどの程度あるか。
そして「専門スキル」や「マネジメント力」はどうかなど、目で見えるようにグラフにしてみるんです。
なるほど、グラフで見ると、何ができていて何ができていないのかわかりやすいですね!
「スキルを上げなさい」と言われるだけでは、部下の方は何をどう伸ばせばいいかわかりませんよね。
でも、グラフで見える化すれば、「この観点で見ると、あなたはここが強い。そしてここを伸ばすと、もっと良くなると思うけれど、どう思う?」と具体的にアドバイスできるようになります。
確かに、それなら部下も理解しやすいですね。
そうなんです。「私からはこう見えている」ということを伝えながら対話する。これが、ポイントなんです。
~このエンジニア部門の部長は、その後、グラフを使いながら部下との1on1を実践。
そのやり方を続けたところ、部署内の育成が進み、「あの人は部下の育成スキルが高い!」と周囲から評価されるまでに成長されたそうです。~
31on1がもたらす組織の変化とは?
堀井
先ほど紹介しましたように、私は、ヤフーやそのグループ会社等で1on1を実施したり、1on1を実践するマネージャーへのアドバイスを行ったりしてきました。
先ほどの事例のほかにも、例えば、1on1を通じて自分の志向や適性が明確になり、現在は、適性がより合致する他部署でイキイキ働いている部下の事例などがあり、1on1の効果を実感しています。

(1) 成果に直結するエンゲージメント
効果的な1on1が組織に根付くと、組織にどのような変化が生まれるのでしょうか。例えば次のようなことがわかっています。
・人に関心をもった行動をするマネージャーは、成果が高く、離職率も低い
・心理的安全性の高いチームは、パフォーマンスが高い
・ポジティブなフィードバックや感謝を伝えると離職率が低下する
1on1を通じて、上司が部下に関心をもち、対話を重ねることで、エンゲージメントは向上します。そしてエンゲージメントの向上は、組織の成果に直結すると言えるのです。
(2) 部下は上司に「話を聴いてほしい」
日本マンパワーの『新入社員意識調査2025』では、理想の上司として「共感して話を聴いてくれる」「自分を尊重してくれる」が上位に挙がりました。部下は「聴いてほしい」「尊重してほしい」と思っているのです。
1on1は、まさにこのニーズに応えるツールです。部下が「聴いてもらえている」「尊重されている」と感じれば、離職率は低下します。そして適材適所が実現できれば、本人のパフォーマンスが向上し、組織の成果も上がります。
(3) 成長の“好循環”を作る
ここまでお伝えしてきたように、1on1の本質は、内省の支援です。部下が自分の強みやキャリアの方向性を言語化し、自律的に考えて行動できるようになる。そうした人材が育てば、組織は自ずと成長します。
そして組織が成長すれば、個人にも還元されます。この好循環を作ることが、1on1の真の価値なのです。
4後編のまとめ
堀井
相手の強みを引き出し、ワクワクすることを見つけ、自律的に考えて行動できる状態を作る。そのためのツールが、1on1です。
実は今、私が1on1エバンジェリストとして活動しているのも、ヤフー時代の1on1の影響が大きいんです。現在、パーソル総合研究所取締役会長などを務める本間浩輔さんは、私の1on1の師匠です。
その本間さんと、1on1ミーティングをしていたある日、「お前は何をしているんだ?」と言われたことがありました。
当時の私は、マネジメント職をやって副業もやって、二兎も三兎も追っているように本間さんには見えたのだと思います。「お前のキャリアは、何にフォーカスするんだ?」という意味のこの問いに、その場では答えられませんでした。
しかし、この問いの答えを考え続けた結果、「強みをいかし、ワクワクしながら仕事している人を増やすことが、自分が心底やりたいことだ」と思い、1on1エバンジェリストとして活動している今の自分がいます。
1on1は、苦痛でも不要なものでもありません。人や組織を変える力をもっています。今回のインタビューを通じて、1on1が楽しみになってきた!という人が一人でも増えたら、本当にうれしいです。
“部下のための時間”が成果を変える 1on1の本質と実践方法【前編】
こちらエン・モア合同会社代表。編集者/ライター。ビジネス誌のインタビューを中心に幅広いテーマの記事を執筆。
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