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育休ゼロから全員取得へ。現場を巻き込み、組織を変えたタカギのDE&I実践(前編)

育休ゼロから全員取得へ。現場を巻き込み、組織を変えたタカギのDE&I実践(前編)

インタビュー

企業

2026.8.3

DE&I推進の現場では、思うようにいかない場面に何度も直面します。
なかなか動いてくれない管理職、変わらない職場の空気、成果を急ぐ経営層――。そんな状況の中でも、なんとか前に進む方法を模索している方も多いのではないでしょうか。

 

九州の浄水器メーカー・タカギで、DE&Iを推進してきた松田理恵さんも、その問いに向き合ってきました。

老舗の製造業、拠点は地方、男性比率の高い職場――変化が起きにくいとされる条件のそろった環境で、6年間をかけて男性育休取得率を0%から100%へ引き上げ、職場の文化を変えてきました。外部から転職してきたひとりの担当者が、組織を変えるために奮闘した実践をうかがいました。

 

●インタビュアー 株式会社日本マンパワー 臼井 文佳(うすい あやか)

 (女性のキャリア開発および育児両立、上司向けダイバーシティマネジメント等の研修企画・開発などを担当)

後編は下記からご覧いただけます。※別ページに遷移します。

ゲストプロフィール

松田理恵(まつだ りえ)さん

株式会社タカギ 広報部部長 兼 ブランディング戦略課課長
大分県出身。幼少期から男女差への問題意識を持ち、北九州市立大学法学部でもジェンダーをテーマに自ら学びを深める。
卒業後、浄水器メーカーなどで営業職・管理職を経験。2020年タカギ入社、DE&I推進プロジェクトを立ち上げる。

ふくおか女性いきいき塾1期生、経済産業省Women's Initiative for Leadership第9期修了。現在、九州大学大学院にてMBA取得をめざしている。
女の子2人のママ。

1転職者だから気づいた「見えていない格差」

──松田さんは、中途採用でタカギに入社されたとうかがいました。DE&I推進を担うことになった経緯について、教えていただけますか。

 

松田様(以下敬称略):私がタカギに入社したのは2020年です。元々は営業職として採用面接を受けたのですが、当時の社長から「女性活躍を推進するプロジェクトを立ち上げてほしい」と打診されたんです。

社長は、他社のダイバーシティ推進の取り組みを見て「うちでは進んでいない」と感じていたそうです。そこで、私が以前に女性活躍のイベントに登壇していた経歴を見て声をかけてくれたのです。私もずっとやりたかったことだったので、「ぜひ」ということで飛び込みました。

 

──入社してみて、社内の状況はどのように映りましたか。

 

松田:歴史を持つ製造業にはありがちかもしれませんが、タカギも、男性社員の長時間労働で発展してきた会社です。

正社員の約7割が男性で、管理職130人のうち女性はたった5人、3.8%しかいませんでした。しかし、パートさんも含めた全従業員数で見ると、女性が6割近くを占めていて、むしろ女性のほうが多い。製造ラインの組み立てなどの現場はほとんどが女性なんです。女性はもっと能力を発揮できるのではないかと感じました。

 

──入社後、どんなことから手をつけたのでしょうか。

 

松田:入社直後に全社アンケートを取りました。そこで、「昇進にあたって男女の差別はない」との質問項目について、女性の多くから「差はない」という答えが返ってきたんです。管理職になる女性がごくわずかである現実と、まったく違う答えが返ってきて、びっくりしました。

男性の方も、「差はない」という回答が多かったのですが、女性自身がそのように感じているということは、格差が格差として認識されていないということです。問題は、制度より先に、意識の構造にあるのではないかと思いました。この認識がその後6年間の取り組みの出発点になりました。

 

タカギのDE&Iの取り組み

2最初の一歩は「やる気のある人を集める」こと

──DE&Iプロジェクトの立ち上げは、どのように進めたのでしょうか。

 

松田:最初、メンバーを指名制にしようとしていたのですが、当時の社長(現会長)が「公募にしてみては?」と提案してくださり、公募制にすることにしました。

プロジェクトの初年度、「会社を良くしたい」と、16人が応募してくれました。男性が3分の2を占めていたほか、パート従業員の女性も参加してくれました。自ら手を挙げて参加してくれたメンバーだけに、場には大きな活気と熱量がありました。
その後も、毎年、メンバーを公募しながら、プロジェクトを続けています。

 

──毎年メンバーを公募し直す仕組みにしているのには、どのような意図があるのでしょうか。

 

松田:毎年公募することで、去年はタイミングが合わなかったという人も参加しやすくなります。制度が立ち上がって成果が少しずつ見えてくると、「面白そう」と思って参加してくれる人も増えてきます。
やる気のある人がいつでも入ってこられる仕組みを、ずっと維持することが大切だと感じています。

 

DE&I推進プロジェクトのメンバーを毎年公募し、やる気のある人がいつでも入ってこられる仕組みを維持

3保守的な管理職層へのアプローチ

──DE&Iプロジェクトを進めていく中で、社内の反応はいかがでしたか。抵抗や反発もあったのでしょうか。

 

松田:ありました。一部の管理職の方からは「なぜ女性に下駄を履かせなければいけないのか」「自分たちは実力で上がってきたのだから、女性もそうすべきではないのか」といったご意見もいただきました。

しかし、私には別の現実も見えていました。
タカギの管理職に占める女性の割合は、2020年当時、わずか3.8%。もし、本当に男女が同じ条件のもとでキャリアを積んできたのであれば、果たしてこのような比率になっていたでしょうか。

 

家庭を持ち、子どもが生まれると、家事や育児に多くの時間を割くことになります。日本では今なお、その負担が女性に偏りやすいのが実情です。

その結果、女性は長時間働きにくい、仕事に集中できる環境を確保しにくいなど、働き方に制約を受けやすい構造の中に置かれています。

 

DE&Iの目的は、実力のない人に「下駄を履かせる」こと、つまり評価を水増しすることではありません。誰もがその才能を十分に発揮して働けるよう、環境を整えることなのです。

 

──DE&Iを進めていくために、どのようなアプローチをされてきたのでしょうか。

 

松田:さまざまに試行錯誤してきました(笑)。その中でも特に効果を感じたのが、トップダウンとボトムアップの両面からの働きかけです。
先ほどお話ししたとおり、経営トップはDE&Iの必要性を認識していました。また、現場にはプロジェクトに自ら参加する意欲あるメンバーがいました。
そこで、経営トップと現場の推進メンバーが、上下から働きかける形で保守的な層にアプローチを続けてきました。

 

とは言っても、無理に説得したり力ずくで動かしたりするのではありません。トップからのメッセージと、現場から小さな働きかけを重ねることで、保守層にも変化が生まれるのではないかと思ったのです。

 

6年間プロジェクトを続ける中で、DE&I推進に関わった経験を持つ社員が、社内のさまざまな部署に増えていきました。そのメンバーたちが日常の中で声を上げたり、周囲に問いかけたりすることで、これまでDE&Iに慎重だった層にも、少しずつ意識変化が起きていったように感じています。

4「体験」が意識を変える

──意識を変えるために、ほかにどのような取り組みをされましたか。

 

松田:取り組みのひとつとして、生理痛を疑似体験するセッションを行いました。専用の機器を使い、役員から管理職まで全員に女性の大変さを直接体で感じてもらう体験です。

このセッションの前に行ったアンケートでは、「女性への支援は不要」と答えた人が約50%いました。ところが体験後には、100%が「何らかの支援が必要」という答えに変わったのです。

体験の最中に「この痛みを抱えたまま仕事をするとしたら、通常のパフォーマンスの何%を発揮できますか」と質問したところ、多くの方が「10%以下」という回答でした。女性がそれほどの痛みを抱えて仕事をしているという現実を、管理職層の男性にも伝えることができた瞬間でした。

 

生理痛の疑似体験が、管理職の意識を変える

 

──体験の場を、どのように次のアクションにつなげましたか。

 

松田:セッションの直後、その場で経営層と執行責任者の方に集まってもらい、管掌部署でのDE&Iの取り組みの現状と今後の施策を模造紙に書いていただきました。さらに「今後、自分は○○をします」と一人ひとりにフリップに書いてもらって、行動宣言の記録写真を撮り、社内報に掲載しました。

頭でわかるだけでは、人はなかなか動きません。感情が動いたその瞬間に、コミットを宣言してもらい、それを可視化・公開する。そうすれば、みんなそれに向けて動いてくれやすくなります。大事にしたのは、このワンセットを一気にやりきることでした。時間が経てば、どんな体験も忘れてしまいますから。

5男性育休ゼロの「本当の理由」

──男性社員の育休取得についても、取り組みを進められたそうですね。

 

松田:2019年当時、男性社員で育休を取得した人が1人いたという記録がありました。ところが後から確認すると、その男性にお子さんはおらず、単なる打刻ミスだったとわかったんです。ですから、本当は育休を取得した男性はゼロでした。しかしそこから4年、2023年には男性の育休取得率は100%になりました。

 

 

※インタビューの様子(写真右:松田さん 写真左:日本マンパワー臼井)

 

──それは劇的な変化ですね! どんなことから手をつけたのでしょうか。

 

松田:まず当事者の男性社員に「なぜ育休を取らないのか」を直接聞くことから始めました。配偶者が妊娠された男性社員の情報を、社内のプロジェクトメンバーのネットワークを通じて集めて、私が一人ひとりにヒアリングをしたんです。自分から「妻が妊娠しました」と言わない男性社員も多いですから、まず情報を集めることが必要でした。

 

聞いてみると、育休を取らない理由で一番多かったのが「収入が減るのではないか」という経済的な不安でした。育休中は給付金が出るといっても、普段の給料より減るのではないかと考えている人が多かったのです。なかには、給付金が出ること自体を知らない人もいました。二番目が「評価が下がるのではないか」、三番目が「周りに迷惑をかけてしまうのではないか」といった心配が育休を取らない理由になっていました。

 

ヒアリングして分かった、取得率ゼロの理由

──そうした「お金や評価の不安」を、どうやって解決したのでしょうか。

 

松田:不安の正体を具体的に分析すると、賞与査定が半年単位で行なわれるため、たとえば上期に1ヶ月間休むとその期間の実労働が6分の5になってしまう、といったことがありました。そこで「育休を有給にすれば、そうした不安を解消できるのでは」となり、「育児トレーニング制度」(通称:イクトレ)を作りました。これは男女問わず、子どもの誕生後1ヶ月間の有給休暇をとって育児に専念できる制度です。この制度を始めたら、みんないっせいに「取ります!」と言い始めましたね。

 

●育休取得を後押しした「妻の愛情曲線」説

松田:とはいえ、制度を作っても「上司からどう思われるかわからない」といった理由で利用をためらう人もいます。そういう人には、私が一人ずつ話をしました。その時に伝えたのが「妻の愛情曲線」という言葉です。

これは東レ経営研究所の渥美由喜さんが提唱している説なのですが、出産直後に夫が育児に参加して感情を共有できた夫婦は、その後も妻の夫への愛情が回復・維持されるそうです。ところが、そうでなかった夫婦は、妻の愛情がずっと低迷したままになりやすい、といいます。
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2010/201007/201007_06.html

 

その研究のグラフを見せながら、「このままだとそうなるかもしれませんよ」と説得していきました(笑)。それで考えを変えて育休を取得した男性社員も少なくありません。自分にとってのメリットが伝わってはじめて、人は動いてくれます。そこは営業と同じですね。

 

●上司も交えた三者面談など、一人ひとりへの丁寧な関わり

松田:育休に上司の協力が不可欠な状況の人については、まず上司の方と私が面談をして状況を共有し、その後に本人も交えた三者面談を設けました。職場のオペレーションが不安だという話があれば、他部署でうまくいった事例などを共有して、一緒に解決策を探りました。そうした丁寧な関わりを心がけた結果、育休を取る人が増えていったのです。
育休の取得は義務ではありません。それでも100%に限りなく近い数字になったのは、取りたいと思える環境が整ってきた証だと感じています。

 

「対象の社員一人ひとりと面談するのは大変では?」と言われることもあるのですが、弊社の場合、全社員約800人のうち、育休の対象になる人は年間20数人です。月に1〜2人というペースですから、一人ひとりに向き合う伴走は決して無理な話ではありません。規模に関わらず、多くの企業でもできることではないかと思っています。

女性活躍推進のポイント・日本マンパワーサービス紹介
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