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キャリこれ

【後編】人間性、成熟した社会、キャリアのこれから。―キャリアのこれから研究所が対話したい“問い”

イベント

2021.2.5


“人間性の発揮によって生まれる成熟した社会とは?”
このような問いをテーマに掲げ、2021年1月15日、キャリアのこれから研究所・設立記念イベントが開催されました。
キャリアを生き方、ありたい自分と捉えた時、仏教・アート・スポーツ・世界的キャリア視点・日本的キャリア視点の5つから見える「人間性」や「成熟した社会」、「キャリアのこれから」を伝え、対話したいと考え、それぞれの場における体現者5名からインスピレーションを巻き起こすメッセージをいただきました。
■イベントレポート前編
【前編】人間性、成熟した社会、キャリアのこれから。―キャリアのこれから研究所が対話したい“問い”
https://future-career-labo.com/2021/02/05/unno03/
後編では、働く企業・組織の現場にいらっしゃる4名のパネリストの言葉を紹介します。インスピレーションビデオの感想、日々の中で感じていることをふまえ、「今、人間性や社会に何をみているのか?」を語っていただきました。

自分らしさ・アイデンティティ・ストーリーを自分なりに捉える

「凄い動画ですね…いろんな言葉が湧き上がってきました。」
参加者とともにインスピレーション・ビデオをみたサイボウズ株式会社の人事部・髙木一史(たかぎかずし、以下髙木さん)さんからの第一声です。
プロフィール 髙木一史(たかぎかずし)氏
サイボウズチームワーク総研講師。100人100通りの働き方に挑戦する中、noteの記事「僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか」が話題になる。東京大学教育学部からトヨタ自動車株式会社人事部(労務/労政)からサイボウズ株式会社へ。
「僕の世代では、大学時代からSNS・インターネットが当たり前にある社会でした。情報は基本的に公開され、クラウドファンディングなど、想いを持った人が声をあげれば、すぐに人やお金が集まってきて、その理想が達成されたらまた他の理想に集まっていく….。そんな自律分散型の世界が見えていた中で、いざ働き始めてみると、多くの会社では社内の情報がオープンになっていないことや、距離感を多様に変えることが当たり前じゃないということを知り、ギャップと閉塞感を感じていました」
およそ30万PVも閲覧されたといわれている髙木さんのnote記事「僕はなぜトヨタの人事を3年で辞めたのか(https://note.com/kazushi_takagi/n/nc5076eda7a2f)」でも、その”閉塞感”について触れています。
「一方で、工場現場の人たちと信頼関係をつくり、コミュニケーションの制度を改善していく中で『髙木、ありがとう』と言ってもらえることはすごく嬉しくて。トヨタの中で1つずつ信頼を得ていくこと、トヨタという温かい素敵な組織で素敵な人たちと働いていくことも楽しくて。どちらの想いもあって、自分が分裂しているなと思いました。自分らしさって何だろう、というのはずっと考えていることですが、人から求められるから自分らしさが出るときもあるし、自分から『こうしたい!』と思って出ることもある。サビカス博士が”相互依存”と言っていましたが、どちらもあるから難しいなと思いました」
髙木さんはご自身の経験をふりかえり、「人間性」と「組織のルール」の間で揺れ動いたこと、「自分らしさを発揮したい願い」と「組織に溶け込む安心感や所属意識」とのはざまで分断した感覚などについて話してくれました。
一方、神田義輝(かんだよしてる、以下神田さん)さんはご自身の事業を通して同じ対象について語ってくれました。
プロフィール 神田義輝(かんだよしてる)氏
リクルートキャリアにて事業開発、採用コンサルティング、キャリアアドバイザーを経験後、Jリーグにて選手のキャリア教育プログラム開発・運用、セカンドキャリアサポートに従事。アスリートキャリアサポートの第一人者、日本で最もトップアスリートの研修を行っている。株式会社Criacao(クリアソン)・社団法人Work Design Lab理事、水戸ホーリーホック取締役として活躍中。
「アスリートのキャリアと向き合っていると、自分らしさ・アイデンティティが創出して崩壊していく瞬間に立ち会うことがあるんですよね。それは選手が引退するときです」
幼い頃から才能と努力を認められ、競争に打ち勝ってきた人たち=アスリート。だからこそスポーツがアイデンティティとも捉えられる状態が続き、しかし誰しもが、引退というアイデンティティが引きはがされていくプロセスを経験します。
「”スポーツ選手であるあなた”という限定付きのアイデンティティは、いわゆる外的キャリアで、いつか終わりがくる。これは、ビジネスパーソンも同じだと思っていて、『XX会社のXXXの仕事をしている人』を取り外したときに戸惑いますよね。自分は何者なの?という状態になることは、私もきっと戸惑います」
「崩壊したアイデンティティを探す旅は、過去にさかのぼっていくことが多いです。これまで出会ってきた人たちと分かち合った感情・出来事・想い出。それらが『スポーツじゃなくても実現できるのでは?』と気づくと、自分には価値がある、自分の足で立っていられるというところに行き着く人が多いです。
アイデンティティや自分らしさは、自分と他人の間に起こることの積み重ねなのかもしれないと、今日のインスピレーション・ビデオをみて気がつきました」
中編を見たあと、世羅侑未(せらゆみ 以下世羅さん)さんも印象に残った言葉を伝えてくれました。
「アイデンティティは独自のストーリーであるという(サビカス博士の)言葉が、『あぁ、やはりこの言葉だな』と思って聞いていました」
プロフィール 世羅侑未(せら ゆみ)氏
プロノイア・グループ株式会社 CCO兼コンサルタント。企業の組織/事業開発に従事しながら、慶應SDM研究員としてフロー状態を研究。共著『The SAGE Handbook of Action Research』(SAGE Publications, USA)では、直観力の鍛え方に関する独自の研究を海外で発信。『行動探求』(英治出版)では欧米発の組織開発手法を日本で紹介。
「今の私を含むミレ二アル以降の世代は”ストーリー・物語が描けるかどうか”がとても大事だと思っています。『物を持っている』という物質的な豊かさはすでに満たされているので、その物をどのように自分が体験するか、自分はどんなストーリーの中に生きているか、それが次に取り組むべき豊かさであると捉えています。上の世代からみると、そのストーリーというものは幻想的に見え、『まず手を動かすべきだ』『まず成果を出すべきだ』と言われてしまいがちです。
でも、それでも、ストーリーがないと動けない、というのがこれからの世代なのではないでしょうか。ストーリーが自身の原動力となっている」
モデレーターであるキャリアのこれから研究所所長の水野みちさん(以下水野さん)が、個々のキャリアのストーリーと組織のストーリーとどう重なり織りなしていくのか、という呼応した言葉を出した後、再び世羅さんは「もう一言、付け加えます」と想いを重ねました。
「自分自身のストーリーを描こうとすることに精一杯で、他の人のストーリー、会社のストーリー、社会のストーリーに目を向ける余裕がなくなることは弱みとなるかもしれません。そんな時には、相手のストーリーものぞいてみようよ、と周囲が手を差し伸べることで、(玄侑さんの言葉にあった)”アイデンティティの呪縛”から解放される助けになると思います。」
ストーリーは個人のものだけで帰結するのではなく、組織や社会という大きなものとの重なりで産まれるものもあり、だからこそアイデンティティという大切さと、同時に、そこに固執し続けない道もあるという広げ方を提示してくれました。
「zoomのチャットに書かれた『自分らしさを一言で表すとしたら?』という質問の答えを考えていたのですが、私の自分らしさは『苦笑い』だったんですよね」
こんな印象的な言葉でオンラインにて繋がる皆さんを微笑ませてくれたのは高﨑隆浩(たかさきたかひろ 以下高﨑さん)さんです。
プロフィール:髙﨑 隆浩(たかさき たかひろ)氏
三井住友海上火災保険株式会社人事部部長兼能力開発チーム。1984年大正海上火災保険(現:三井住友海上火災保険)株式会社入社。企業分野を中心に営業経験後、2012年人事部能力開発チームに異動。キャリア開発支援とマネジャー層育成を担当。2級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅰ種。
「絶体絶命のピンチ、もうどうしようもない、ダメだ!と思ったとき、最後に笑うしかない。何回かそういう時がありましたが、それが一番自分らしいなと。そういうとき、なぜか助けてくれる人がいたんですよね。
(玄侑さんの言葉にあった)『自分は自然の分身だ』という言葉から思ったのは、所詮人間ができることはたかが知れていて、自然・地球の中のひとりとして生きているということを考えました。また、一方で(同じく玄侑氏の言葉から)『自分を見くびらないでほしい』という言葉があり、そう、自分は結構やれることがあるなと思える。それは自分ひとりの力ではなく、助けてくれる人がいたよね、助けてくれる世の中があったよねと感じました」
高﨑さんからは個人の生き方に留まらず”成熟した社会”に向けられた発言が続きました。
「”キャリア”は自分の幸せのために考えればいいんですが、人間はひとりだけで幸せになれないですよね。周りが幸せになれなかったら自分も幸せになれなくて。自分ひとりで頑張って生きているように見えるけれど、周りが助けてくれている。同じように自分にできることがあったら助けてあげようということ。それが『共生』ではないかと思いました」
インスピレーション・ビデオからインスパイアされたパネリスト4名の言葉は、それぞれの方がキャリアの現場で向き合っている課題や状況を交えたもので、とても鮮明に響きました。また、今回のイベントのテーマである”人間性とは?”や”成熟した社会とは?”を、自分たちが見ている現場の景色に結び付けてくれており、参加者からは多くのチャットの声があがっていました。

参加したひとり一人がみる人間性・自分らしさ、成熟した社会とは?

パネルトークセッションが終わった後は、参加者同士のブレイクアウトルームセッション。自分の内部に巻き起こった気持ちの揺れを対話できる機会となりました。
私のルームにいらしたのは、大企業でキャリアカウンセリング室を切り開いてこられた方、広島在住のキャリアコンサルタント、大学の助教授という3名でした。自己紹介から始まり、すぐに「人間性・自分らしさとはなにか」という難しいテーマにぐんと入り込めたことに驚きました。
インパクトのある映像とパネリストたちのトークに感化され、今度は自分の言葉に置き換え、熱量高い対話の時間にシフトしていった、というこのプロセスそのものがイベントで一番伝えたかったことなのではないかと思えました。
なぜなら、自らが考え続け、体験し、異なる視点に触れ、自分なりの枠組みを広げていくプロセスそのものが、今回のイベントのテーマである「人間性の成熟」と言えるのではないかと思ったからです。
キャリアのこれから研究所では、一歩先のキャリアの未来を切り拓くオープンイノベーション型コミュニティ・ハブ&プラットフォームとして(つまりは、皆さんが参加できる研究所)、大きく3つの眼を持ち活動しようと宣言しています。
参加者の一員として対話の場に参加し、また、参加者から続々と寄せられるチャットコメントを見て、イベント中、すでにこの3つの視点を行き来されながらお話されていた参加者もいらしたように感じました。
最後に、全体の場を緩急つけながら対話の渦を創っていた水野さんが、プラスキャリアプロジェクトについての概要とキャリアのこれから研究所が今後どんなことを展開していくのかを結びとして発表しました。
「バーチャル背景は、キャリアについて普段から気楽に話すきっかけづくりを意図したものです。ぜひ、自分のキャリア、物語について少しだけまじめに聴いたり話したりする文化を広げていきましょう!」
水野さんからは+career(プラスキャリア)のご紹介と、「企業内キャリアカウンセラーのための寺子屋」もオンラインで再開し、事例研究を活性化しつつ、人生100年時代におけるキャリア発達の研究をスタートすることが発表されました。参加者の持ち込み企画も大歓迎で、共に創る学びの場が開かれます。
キャリアのこれから研究所。それぞれの異なる分野で活躍する最前線の5名と、キャリアの現場に即して動いているパネリスト4名と、オンラインで参加したおよそ300名とつながり、一体感を持ちながらスタートを切れたことに大きく心が動かされました。
”キャリアのこれから”を、ここに接続するみなさんと共に、今日のように対話しながら創っていきたいと強く感じました。