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【キャリこれ所長より皆さまへ vol.3】新しいことへのチャレンジ ~アウェアネスの高まりやアートがもたらしてくれるもの~

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連載記事

2021.3.31


~キャリこれ所長よりみなさまへ~
月に一度、「キャリアの“これから”」に対する私の想い・視点・問いを言葉にしてお届けしています。今回のvol.3では「新しいことへのチャレンジとアウェアネス(意識の範囲)」「アートとキャリア」についてお届けします。
水野みち プロフィール
キャリこれ研究所所長、株式会社日本マンパワー フェロー
NPO日本キャリア開発協会認定スーパーバイザー、ACCN理事、厚生労働省委託事業「SV検討委員会」委員。
【経歴】国際基督教大学卒業。1999年より日本マンパワーでキャリアカウンセラーの養成事業に参画。JCDAの立ち上げ、キャリアコンサルタント養成講座プログラム開発・テキスト執筆、普及推進に携わる。
2005年に米国で最も充実したキャリアセンターを持つペンシルバニア州立大学にて教育学修士(カウンセラー教育)取得。現在は企業内のキャリアカウンセリング、キャリア開発、組織開発、企業内キャリア支援のスーパービジョンに従事。
国家資格キャリアコンサルタント/CDA、MBTI認定ユーザー、組織開発ファシリテーター、産業カウンセラー、Dr.Robert Keganによる認定ITCファシリテーター。
<目次>
1.これからのキャリアを切り拓く上で、何を意識するのか
―新しいことへのチャレンジとアウェアネス
―心の境界線を越える ~ミンデルの知恵~
―境界線の向こう側にあるエネルギー

2.境界線の向こう側のエネルギーとは?
―境界線を越えることで広がる景色
―2次プロセスに触れる体験

3.アートが境界線を越えるトリガーになる
―マルセル・デュシャンの事例
―尾形光琳の破壊
―新たに生まれたがっているキャリアにアウェアネスを

1.これからのキャリアを切り拓く上で、何を意識するのか

●新しいことへのチャレンジとアウェアネス
これからのキャリア開発において、誰にとっても必要とされることの一つに、「新しいことへのチャレンジ」があります。従来の考え方や「当たり前」が通用しなくなっている今、セーフティゾーンからストレッチゾーンに一歩踏み出すことはますます重要になってきています。75歳の私の母も、最近はZoomにチャレンジし、お友達とのオンラインお茶会にはまっています。
私たちが新しいことにチャレンジしたり、望む生活を手に入れたりする上で、金銭的・時間的な障壁はもちろんありますが、じつは一番の壁は心の壁です。どんなに能力があっても、生み出せるものが少ない人は、この「心の壁」がとても厚いようです。
今日、改めて深めてみたいのは、心の壁にも通じる、「アウェアネス(意識の範囲)」です。アウェアネスとは、経験を通して心が見せてくれようとしている「何か」を無視せず、意識を向けてみることです。私は、キャリア開発とアウェアネスは深く関係していると思っています。なぜなら、外的なものがいくら揃っていても、内的な壁で動けない人や上手く行かないと感じている人は意外と多いからです。
●心の境界線を越える ~ミンデルの知恵~
自分の可能性を最大限に発揮し、望む未来のために生きるにはどうしたらいいのでしょうか?ユング派心理学者アーノルド・ミンデル(道教からも影響を受けています)が1970年代に生み出した「プロセス指向心理学 Process Oriented Psychology」からの知恵を一つご紹介したいと思います。
詳しくは触れませんが、ミンデルは、自分たちを取り巻く世界を「1次プロセス primary process」と「2次プロセス secondary/unconscious process」で表現しました。1次プロセスとは、「自分(社会)にとって受け入れやすい世界」であり、2次プロセスとは、「自分(や社会)にとって受け入れにくい世界」です。2次プロセスは不快・攻撃的に見えます。1次と2次を分ける境界線は「エッジ」と言い、信念や「~べき」などの考えです。
●境界線の向こう側にあるエネルギー
例を見てみましょう。「いつもきちんとし、成果を出すことは重要だ」という人にとって、「やるべきことをせずに、好き勝手に遊んでいる」というのは“not OK”、つまり2次プロセスになります。「きちっとした人でいないと社会人失格だよ!」というのがエッジ=境界線の声です。ここで注目したいのは、2次プロセスの世界も大なり小なり人の中にはあるということです。そして、だめだと思っている境界線の向こう側にもとても素晴らしいエネルギーが存在するということです。
「好き勝手にしている」に含まれるエネルギーとは何でしょうか?好きなように、でたらめに、気まぐれに過ごしたいという子どものようなエネルギーを感じてみてください。のびのびしていて、オレンジ色で、いたずらっ子で、ぴょんぴょんと跳ねだすようなエネルギーです。
「きちっとしていなければだめ!」という境界線の声により、子どものような無邪気なエネルギーを沈めてしまうとどうなるでしょうか。わくわくする情熱もわきにくくなり、心から開放して楽しめる瞬間が減ってしまいます。キャリア支援の現場でも耳にする、「私は何をやっている時に楽しいと感じるのか分かりません」「やるべき仕事しか思いつきません」という現象です。
社員から主体的な行動が生まれないという人事担当者の方の声をよく耳にするので、この心理現象は多くの組織で起こっているのかもしれません。人によっては、エネルギーを抑圧しきれずにちょっと変な形で漏れたりもします。
そのような場合は、2次プロセスのエネルギーを(社会的に安全な形にして)味わい、人生の中に統合させていくことが求められているとも言えます。今まで使ってこなかった自身のエネルギーに意識を向けるのです。

2.境界線の向こう側のエネルギーとは?

●境界線を越えることで広がる景色
境界線を社会的に安全な形で越えてみると、どんな世界が見えてくるのでしょうか?
昔、アーティストでもある講師と一緒にワークショップを運営したことがありました。その方は、「水野さん、今日は椅子を整えずにぐちゃぐちゃに置いてみようよ!」と言って、きちっと並んだ椅子を崩し始めたのです。自分の中では、研修会場の椅子はきちっと並べるものという「べき」があったので、はじめは「え?!ほんとに?」という反応と抵抗がありました。
しかし、一度受け入れてみると、とても新鮮な気分が芽生えてわくわくしてきました。会場に入ってきた人も、好き勝手にバラバラに置かれている椅子たちを前に一瞬はっとする表情をしていましたが、その研修では普段よりもみんなのびのびとした本音の声が引き出され、クリエイティブで豊かな場になったのでした。その後、私にとって「べき」の枠組みが緩み、自他の気持ちや事がらについて意識できる範囲が広がった感覚がありました。
●2次プロセスに触れる体験
自分のキャリアが窮屈に感じたり、飽きてきたり、疲労や硬直感があったとしたら、2次プロセスに触れる体験がお勧めです。新局面を切り拓き、キャリアを豊かにする営みとしても役立つと考えられます。
例えば、次のようなことです。
●自分の「当たり前」を疑ってみる
●自分の「当たり前」を問われる経験をしてみる
●普段はあまりしない発言や行動をしてみる
●少しだけ違和感のある場所やコミュニティーに参加してみる
何かに揺さぶられた時は、境界線の向こう側にある、今までの人生で光を当ててこなかったエネルギーを感じてみてください。
自己理解というと、今の自分を理解することに主眼が置かれがちですが、キャリア開発においては、まだ見たことのない自分を切り拓く、創造するという視点もとても大切です。
日常の中にある2次プロセスからのヒントやメッセージに目を向けるには、内省を支援するキャリアカウンセリングやコーチングも有効です。さらに弊社では、境界線を超えた領域により積極的に意識を向けられるよう、越境体験やリトリート、スポーツ、演劇、マインドフルネス、そしてアートも推奨しています。特にアートは、2次プロセスへの刺激になります。
ここではもう少し補足を兼ねて、アートについて取り上げてみたいと思います。

3.アートが心の境界線を越えるトリガーになる

アートと言うと、鑑賞物、楽しみ、美しさなどを連想されると思いますが、個人的には先述した「2次プロセス」に意識を開く一つのトリガーだと思っています。
アーティストは、(もちろん人にもよりますが)、彼・彼女らのエキセントリックさが手伝い、境界線をひょいっと超えていける人達が多いようです。故に、本音やタブーなど、私たちが見ようとしない世界(しかし確実に存在する世界)を形にしたり、「当たり前」の上を行くようなアイデアを作品にしたりできる人たちです。
「厳格」な社会において「愉快でゆるく楽しいもの」をもたらし、「物質主義」の社会において「目に見えないものの価値」を示してくれるのもアートです。
●マルセル・デュシャンのファウンテン
アート思考という言葉もあります。アーティストの持つ発想を応用することが硬直したビジネス現場に役立つとして作られた思考フレームです。アート思考の説明でよく用いられるのが現代美術の巨匠マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)の「ファウンテン(泉・噴水)」です。
(画:michi mizuno)
写真を見たことがある方も多いと思いますが、タイトルの泉とは程遠い、「便器」をひっくり返した作品です。
じつはデュシャンは展示会の委員でした。権威ある委員が展示する作品が、まさかの便器とは、驚くようなことです。規律違反ではないものの、出展継続は許可されなかったほどですから、デュシャンがニューヨークの芸術界に波紋を生んだことが分かります。
デュシャンが光を向けたことで現れた「価値」や「願い」は何だったのでしょうか。「排泄物を処理するものには鑑賞の価値がない」という枠組みを壊し、2次プロセスに光を当てているのです。
普段は隠すもの、目立たないもの、よごれ仕事、それらの持つ美しさや湧き出る生命力にエネルギーを与えているとも言えます。
●尾形光琳の破壊
最近では自らの作品をシュレッダーにかけたバンクシーが有名ですが、じつは「燕子花(かきつばた)」で知られる日本の芸術家、尾形光琳もバンクシーのような人でした。
著名になった光琳は、裕福な京都の友人たちとお弁当を食べる際、自分は竹の皮で包んだおにぎりを持参。それだけでも驚いた友人ですが、光琳が竹の皮を広げると見事な蒔絵が描かれていたそうです。だれもがその蒔絵を欲しがった瞬間、光琳はおにぎりをさっと食べて蒔絵を川に流してしまったそうです。
「一度完成されたものは壊すべきではない」という境界線をゆさぶり、「破壊」の価値という2次プロセスのエネルギーに光をあてたと言えるかもしれません。
●新たに生まれたがっているキャリアにアウェアネスを
いかがでしょうか?
ここまで読まれて、もし少しだけわくわくしてきたり、自分の囚われが緩んだりした感覚があったとしたら、アート思考がもたらす2次プロセス(境界線の向こう側)のエネルギーの開放が起こりつつあるのかもしれません。
もし今、ご自身の人生や社会全体が飽和状態に見えていたとしたら、新たな生き方やキャリアが「生まれたがっている」のかもしれません。それは、もやもやした気持ちや、夢、身体反応に現れたりもします。アウェアネス(意識範囲)を広げるつもりで、境界線の向こう側の声やエネルギーにぜひ意識を向けてみてください。自分にとって理解不能な不思議な人にこそ、自分が意識を向けてこなかったエネルギーを開放するためのヒントが詰まっているかもしれないと思うと、少し人生が楽しくなりますね。
キャリアのこれから研究所では、様々な切り口から、これからのキャリアを紐解いていきたいと考えています。2月にスタートした「研究会」については別途4月に報告ページを作成しますので、ぜひご覧ください。