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改革は大胆に。コミュニケーションは丁寧に(前編)~オリンパス株式会社の取組事例から学ぶ~

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2022.4.27


いま急速に関心が高まっているジョブ型雇用。その現象を多角的に検証し、その本質を考えて行くことを目的としてスタートした本連載。第3回は、経営資源を医療分野に集中し直し「グローバルメドテックカンパニー」としての変貌を遂げつつある中、職務型(ジョブ型)人事へと舵を切ったオリンパス株式会社の取組みをレポートします。
お話しくださったのは、人事部門で職務型(ジョブ型)人事制度に携わっていらっしゃる井川憲一さん(HRプランニング/ディレクター)と玉澤康至さん(組織人材開発/ディレクター)。大胆な改革を推進される一方で、丁寧で誠実な運用とコミュニケーションをされている現場のリアルな状況をお聞かせくださいました。
写真左:玉澤康至さん 写真右:井川憲一さん 

まず、御社がジョブ型制度の導入に至った背景と経緯をお聞かせ頂けますか?

当社は、昨年(2020年度)の実績ベースでは全世界で7305億円の売上を上げていますが、そのうち内視鏡事業4195億と治療機器事業2060億の合計6255億という9割近くを医療事業が占めています。また全世界の売上構成は、北米とヨーロッパ合わせて6割弱となっています。現在、世界約150か国のお客様にオリンパス製品を信頼を持ってご使用頂いています。
当社は日本で100年以上前に生まれ、歴史的に世界の各リージョン、各法人の自治を大事にする経営スタイルで成長してきました。つまり、日本は日本、という考え方です。しかし、上記の背景から、もはや日本人だけで日本のことだけを考えていればいいという状況ではなくなってきたことをご理解いただけると思います。こうした状況から、当社は「Transform Olympus」という企業変革プランを2019年にスタートさせました。その大きな柱の一つが「グローバル一体経営」です。その取組みの一つとして、経営トップ層の体制をグローバルを見渡して最適化できるメンバー構成にしてきました。
Transform Olympusをスタートさせた当初は、世界のトップ層に非日本人が占める割合は1割だったのですが、多様な文化や価値観の人間によって最適な意思決定を行う必要性から、現在は5割ほどになっています。
その反面、文化のすれ違いなどが起きる可能性もあるため、どういうところで差別化して全世界の人々の健康を支えて顧客の信頼を獲得するのか、という経営戦略の絵図や会社が大切にする価値観をグローバル共通で定め直しました。具体的には、世界中の経営トップが経営体制を構築する上でぶれのない拠り所をつくるために、「OUR PURPOSE(私たちの存在意義)」「OUR CORE VALUES(私たちの価値観)」から成る経営理念や「健やかな組織文化」と呼ぶコーポレートカルチャーです。

経営理念や組織文化の変革という点では、何を重視されましたか?

まず経営理念であるOUR PURPOSE「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」と定義しました。また、組織文化は「健やかな組織文化」-グローバルではHealthy Organizationと呼んでいます-と定義しました(図)。
健康でベストな状態を保った上でお客様のために価値をしっかり提供する、という会社がめざす方向と1人ひとりが目指す方向が一致する状態を作ることが必要という考えのもと、会社のPurpose-driven、従業員のPeople-centricを両輪として、6つの要素を策定しました。そこには、会社が一方的に押し付けない、従業員のひとりよがりにならないことが大事だという問題意識があります。
この6つの要素は、Purpose-driven側には会社やリーダーは以下のようなことを意識し実践する必要がある、という思いが込められています。まず、正しい影響を与えて正しい導きをする必要がある、ということ。蛸壺やサイロになって仕事をするのではなくて、意味のあるコラボレーションを生む状態を作っていくこと。メンバーそれぞれが自分のやりたいことだけをやるのではなく、お客様が本当に求めるニーズを捉えて価値創造を行う、外部顧客志向をきちんと作っていくこと。
こうした会社やリーダーが果たす役割のもとで、People-centric側で目指したいことは、社員一人ひとりが目指す方向性が見えて定まり、適切な権限委譲のもと責任を全うする状況をつくる。つまり、安心して任されている状態を従業員に提供することや、本当にお客様のために価値があるなら、多少リスクがあってもチャレンジしようという状況を作るということです。
加えて重視したのはワークライフバランスです。様々な家庭環境や生活環境を持つ従業員が、どんな状況であってもハンデや差がなく、誰もが柔軟な働き方ができる状況を作って実現していくこと。これらをちゃんと叶えて行くことで「健やかな組織文化」ができると考え、6つの要素を策定しました。現在、この6つの要素を軸とした全世界を対象とした従業員意識調査も実施し、カルチャーの醸成を促進しています。

では、Transform Olympusの中での人事戦略はどのようなものなのでしょうか?

グローバルあるいはグループという組織の成長の一方、改革の理念に沿って新しい行動を起こし成果をあげた社員一人ひとりに報いる統一した仕組みが必要となりました。例えば、全世界の経営トップ層が、配下のメンバーたちを評価するとき、各国・各法人によって評価する要素、評価の物差しといった、評価の仕組みが揃っていない現状があります。これは、グローバル一体経営にとっては解決が必異様な課題の一つでした。こうしたパフォーマンスマネジメントの仕組みを世界共通化することや、各国のポジションにアサインされる人の処遇の基準となる「等級」を世界共通の職務等級体系にする等の施策を講じて「グローバル人事制度への転換」を謳い、その仕組みづくりを進めています。
日本のオリンパスが職務型(ジョブ型)人事に至る背景は、こうしたグローバル人事制度への転換がまさに理由の一つでした。日本以外の地域ではジョブに対して報酬を決めるというのが既に標準となっていた一方、世界全体の中でも日本だけが、年齢や経験を積み上げて蓄積した能力を基準に等級や給与が決まる仕組みとなっていました。しかし、前で述べたように、既に日本のオリンパスは日本だけを考える経営ではなく、人材も国を超えたアサインメントが数多く行われたり、外部中途採用人材の登用も当たり前のように行われている中、「人」に処遇するのではなく「仕事」に処遇するという、グローバル共通の基準で職務等級制度を構築することが当社にとってフェアな状況をつくることができると考え、職務型(ジョブ型)人事制度を日本のオリンパスにも導入することとしました。

職務型(ジョブ型)制度がどのような内容なのか、どのように導入されていらっしゃるかをお聞かせいただけますでしょうか?

現在の人事制度の評価・等級・報酬は、管理職と非管理職で別々の仕組みとなっているため、制度運用がかなり複雑化しています。この状態は、Transform Olympusがスタートした後、まず管理職のみを対象に職務型人事制度、職務等級を導入し、非管理職の方は職能資格制度を現在も継続しているため起きている状態です。
非管理職に採用している職能資格制度では、各自の「保有能力」の高さで等級格付けを行っています。この目に見えない能力を評価するという仕組みは、社内での経験値が上がる、つまり勤続年数、年齢が上がると「能力が高くなった」と判断されやすい仕組みであり、その結果として多くの正社員が上位等級に上がり事業規模に対する適正な組織体制、人員構成、ひいては総額人件費のあり方を管理することが難しい状況になっています。
グローバル一体経営をよりフェアな状態で進めて、そして組織の適正管理を実現していくためにも、担った仕事の大きさを基準にパフォーマンスを測定し、処遇を決めていくことが必要という考えから、来年度2023年度4月開始を目指して現在労働組合と労使協議中の新人事制度の全体像は、こちら(図)になります。
新制度のポイントは、正社員であれば管理職・非管理職は同じ制度であるのは勿論、可能な限りグループ・グローバル全共通の仕組みにした、ということです。
まず等級制度では、管理職・非管理職は担当している職務の責任の大きさに基づき、シンプルな12段階の等級のどこかに必ず格付く運用とします。そして管理職以上の7段階の等級は世界共通の職務等級と整合性をとる運用とします。
続いて評価制度ですが、こちらは全世界の正社員共通の枠組みとします。評価をする要素は「成果評価」「行動評価」「総合評価」の3つとなります。評価のタイミングは「年1回」とし、成果評価は、一般的な目標管理で、各自が事業年度に達成する目標を定めてその達成度合いを測定するものです。この成果は、その事業年度に上げた結果を測定したものであるため、右側の報酬制度においては、その事業年度で引き当ててきた賞与に直接反映する形とします。
行動評価は、成果を出すために当社のバリューに則った行動をどれだけ発揮したかを、各自の職責・等級に照らして測定するもので、結果を測定ではなく、高いレベルの行動を発揮したかどうかはその人の可能性を測定するもの、となります。
最後に総合評価。これは成果評価(結果)と行動評価(可能性)の両方を勘案し、その人物の総合的なパフォーマンスを判断するもので、総合評価は、その事業年度だけで判断できない、より大きな職責へのチャレンジ(具体的には昇格等)や、等級に紐づく長期インセンティブとして、基本給昇給に反映する形とします。
報酬制度は、各国の通貨払いの原則もあること等を踏まえて世界共通化は行いませんが、これからの事業環境を踏まえた内容に改定していくこととしました。例えば、従来は、報酬水準の検討にあたっては市場の報酬調査を参照するにしても当社の主要3事業であった映像事業、科学事業、医療事業を総合的に勘案していました。但し、今は医療事業に軸足を置くと決めた当社であるため、報酬水準を検討する場合の市場データは医療機器を中心としたヘルスケアの水準を中心に参照先を改定していきます。

職務型(ジョブ型)制度をマネジメントから段階的に導入される途上で、お感じになっているメリットや課題はどのようなところでしょうか?

メリットという点では、既に職務等級を入れている管理職層からは、職務=仕事の責任に対して明確に紐づくことはわかりやすい、フェアだという声を聞いてます。一方で、職務型(ジョブ型)の考えが浸透し切るには時間がかかる、という課題を感じています。
職務型(ジョブ型)人事というのは、過去貢献してきた「人」やその人が積み上げてきた「貢献度や能力」に対して等級を決めるのではなく、これからどのような責任の仕事を担ってもらうかで等級判断をすることです。このように処遇の価値基準を根本的に転換することなので、本当に浸透させるのはすごく難しいと思います。
また、職務型人事やジョブ型人事が、何か仕事がなくなったら解雇になる制度なのでは、と誤ってネガティブなイメージで捉える向きもあることは確かです。だからこそ正確な説明を人事は行い、メンバーを率いるリーダーポジションに就く立場は、こうした正確な意図を伝えるという役割も重要になって来ていると感じています。

いま仰ったインナーコミュニケーションの部分で、どのような工夫をされていますでしょうか?

これは特に王道は無いと思っており、とにかくコミュニケーションする場を設け、できる限りその数を重ねてきたことに尽きます。2023年の4月制度改定にむけて、 去年秋の段階で経営トップ層、事業・機能長、その他管理職層、組合員層と階層別に分けて、制度の概要説明段階から社内に紹介して意見をもらう、というコミュニケーションのセッションを計55回開催しました。そしていま、会社として最終化した詳細案を紹介するために、同じようなコミュニケーションの場をもう一回り始めたところです。
–それは大変ですね!
やはり直接のコミュニケーション、直接質問を受けてその場で考えを伝える、これしかない、と思っています。書面で説明書を展開し、書面上のQ&Aで済ませるのではなくて、1人ひとりの質問も各自の背景をできるだけ正確に受け止めた上で回答することで、少しでも納得して頂くことにつながると思っています。これをやり続けているというのが、工夫といえば工夫でしょうか。

地道に説明されるということは本当に素晴らしいことだと思います。この説明会を経験されて、今どのようなことを感じていらっしゃいますか。

やってよかった、という一言です。何を意図して会社を変えようとしているのか。それを上っ面のきれいごとで言っても絶対に伝わらないので、なぜ必要なのかをちゃんと伝えることによって、例えば会社は人件費を実は下げようとしているんじゃないか、といった誤解を生まないようにできたかな、と思っています。

先ほど「ヘルスケアの報酬水準に合わせる」というお話がありましたが、その他に御社としてのジョブ型の特徴はどのようなことがありますでしょうか?

社員説明会では、欧米型の「ジョブに対して契約する」ということは、会社と雇用契約する日本では絶対できないので、完全なジョブ型にはしません、と言い切っています。本当に頑張って努力して成果を上げて責任をつかめる人たちは、年齢に関係なく処遇される状況を作るから、すべての等級が皆さんにとってのチャンスをつかめる場所なんですよ、ということを社員の皆さんに理解して欲しいからです。
もう一点は、その成果を汲み取る軸が世界共通になるということです。違う国の人が日本の職場に移って来た時に、日本の制度を知らないから自分はちゃんと評価されない、というような状況にならず、世界共通の仕組みにすることによって、オリンパスで頑張る限りはどこの国のどこの職場でも同じ要素で見てもらえるようにする必要があります。

説明会では、経営層、管理職層と組合の方々、それぞれ対象に分けて実施されていらっしゃるということでしたが、対象によって伝えられるメッセージなど工夫されていらっしゃいますか?

説明の対象となる役職が上になればなるほど強調したのは、医療事業を中心とした当社になるので、そのために行う制度改定だということです。これは、単に報酬水準がヘルスケア企業レベルに上がる、ということだけでなく、患者さまのために真摯に、誠実に努力し価値を出して初めて給与がもらえるという考えを浸透させることが必要であり、その価値を出す職責に就く人を見極める要旨に、経験年数、年齢で考えることから脱却する必要があると認識し、行動に移してメンバーに伝えていくのはより上位者の役割だからです。
逆に、組合員の皆さんに対しては、前述の考え方だけにとどまらず「年齢に捉われない運用になることでみんなにチャンスがある」、と伝えています。自分は何歳だから、何年目だからではなく、責任を背負える覚悟があって成果を出せるなら、ちゃんとアピールしてしかるべき処遇が年齢関係なく得られる、ということを伝えています。
■記事後編は、 こちら
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