学生に対するキャリア教育が活発になって久しいですが、実際にどのくらいの方が学生時代にキャリアについて学んできたのでしょうか?まずは、学生時代のキャリアに関する授業の受講有無を尋ねたところ、約6割の方が受講したと回答しています。
Q1:学生時代にキャリアに関する授業を受けましたか。
また、キャリアの授業を受けた印象については、「自分の将来を考えるのに役立ちそう」「就職活動に役立ちそう」という前向きなイメージを持った方がそれぞれ4割いました。しかしながら、「自己理解が深まった」という回答はわずか4%にとどまっています。
Q2:Q1で「1 はい」と答えた方に質問します。キャリアに関する授業を受けて、どのような印象を持ちましたか。
下のグラフは、キャリアに関する授業を受講された方とそうでない方それぞれの「キャリア」のイメージを聞いたものです。受講経験者における回答人数としてはいわゆる外的キャリアにあてはまる「学歴・職歴」「出世」などが多く見られますが、「人生観・仕事観」「成長・チャレンジ」といった内的キャリアを想起する割合は、キャリアの授業を未受講の方に比べて、受講経験者が圧倒的に多い結果が出ています。「異動・配属」に関しても、さまざまな部署や場所を経験しながら自らのキャリアをつくっていく、という考え方が反映されている可能性があります。
Q3:「キャリア」という言葉について、どのようなイメージを持っていますか。
② 働く上で最も大事にしたい価値観で「心地よい環境にいること」が初の1位
Q16:働く上であなたが最も大事にしたいものを1つ選んでください。
働く上で最も大事にしたい価値観は、2010年の本調査開始時から継続して尋ねている質問です。今回、「心地よい環境にいること」が調査開始以来、初めて第1位に選ばれました。第2位以降は、「人の役に立てること」、「自分の能力を発揮すること」、「自分の望む生き方ができること」と、例年も回答数が多かった選択肢が並びますが、特に「人の役に立てること」については昨年よりも10ポイント以上下がっている点が気になるところです。 考えられるのは、昨年度までの調査は当社の新入社員研修をご利用いただいた企業様経由で実施をしたため、対象者が会社の目を気にして「優等生」な回答をしていた可能性があるということです。本年度は対象者に直接アンケートを行ったことで、昨年度までよりも本音の回答が得られているのではないか、と推察されます。
Q16:「働く上で最も大切にしたい価値観」結果の経年比較
それでは、彼らが望む「心地よい環境」とは一体どのような環境なのでしょうか?
「心地よい環境」を追求する姿勢は、会社を選んだ理由、理想とする上司像、理想のチーム像にも反映されているようです。Q4「会社を選んだ本音の理由」では、「社内の雰囲気や人間関係が良さそうだから(28.3%)」、「多様な働き方(在宅勤務、フレックスタイム制など)が認められているから(17.5%)」「会社・組織の知名度が高いから(9.2%)」という回答が、全体と比較すると多いことがうかがえます。反対に「自分の能力や知識を発揮できるから」「企業理念やミッションが自分の価値観に合っているから」という選択肢を選んだ方は、全体に比べると少なくなっています。
Q16の「最も大事にしたい価値観」において「心地よい環境にいること」と回答された方の「会社を選んだ本音の理由」
理想の上司像を尋ねると、全体結果と比べて「共感して話を聴いてくれる」「自分を尊重してくれる」「細やかな指示をしてくれる」「自分に興味を持ってくれる」といった選択肢が人気でした。新入社員に寄り添った、丁寧なコミュニケーションを求めている印象を受けます。
Q16の「最も大事にしたい価値観」において「心地よい環境にいること」と回答された方の「理想の上司像」
また、彼らが描く理想のチーム像として回答が多かったのは、「メンバーの個性を活かしている」「失敗をサポートし合える」「自由を重んじる」などです。一方で、「理想を追求する」「仕事の成果を大切にする」「強いリーダーシップを持ったメンバーがいる」といったアグレッシブな選択肢を選んだ方は少ない傾向が出ています。
Q16の「最も大事にしたい価値観」において「心地よい環境にいること」と回答された方の「理想のチーム像」
理想の上司像における「細やかな指示をしてくれる」、理想のチーム像における「失敗をサポートし合える」といった回答は、新入社員が失敗や挫折を恐れていることのあらわれでしょう。「最近の新入社員や若手社員は失敗を恐れる」と言われ始めて久しいですが、もはや彼らが失敗を恐れることを特筆している場合ではないと思われます。失敗をしても、挫折をしたとしても、受け入れられて再挑戦ができるような組織、すなわち心理的安全性が高い組織をつくることが重要だとされる理由がここにあります。
失敗を恐れることは、もはや当たり前のこと。だとすれば、上司や先輩社員からの新入社員へのかかわり方も、これまでどおりのやり方ではなく、工夫を重ねていくことが必要になるでしょう。
③ 会社を選んだ本音の理由第1位は「社内の人間関係や雰囲気が良さそうだから」
会社を選んだ「本音の」理由について、全体結果も見てみましょう。こちらも最も多かった回答が「社内の雰囲気や人間関係が良さそうだから」。2ポイントの僅差で、「自分のやりたいことができるから」と続いています。在宅勤務やフレックスタイム制など多様な働き方ができることは、会社を選ぶ理由としては優先度があまり高くないようです。
Q4:今の会社を選んだ”本音の”理由はなんですか。
新入社員が、入社前や直後に「社内の雰囲気や人間関係が良さそう」と感じたとしても、採用活動時の会社説明会などは、往々にして会社の明るい部分しか見えていないものです。現場の実際の雰囲気はいかがでしょうか?たとえば、マネジャーは部下に共感しながらマネジメントをできているでしょうか。新入社員の配属にあたっては、雰囲気や環境、上司や先輩社員のかかわる姿勢など、職場づくりについて見直すことも必要かもしれません。
④ 将来の自分イメージでは「出世を希望していない」が最多
Q6:仕事の中で、将来の自分についてどのようなイメージを描いていますか。
続いて、将来の自分像についての質問です。「出世は希望していない」「特に考えていない」の2つが、他の選択肢と比べると僅差ではあるものの、最も多い回答となっています。「管理職になりたい」と明確に答えた方は16.6%。最近の若年層は管理職になりたがらない、とよく耳にしますが、本調査においてもその傾向がよく表れていると言えるでしょう。
⑤ 現在の会社を「10年以内に辞める」見通しの方が4割
現在の会社でいつまで働きたいのかも伺いました。一見、「定年まで」「特に考えていない」という回答の多さが目立ちますが、なんと約4割の方が10年以内には退職する見通しを持っていることは特筆に値するでしょう。
この結果を良しとするのか、それとも防ぐべきものと捉えるのかは組織の戦略によって異なってくるかと思いますが、早期の離職を防止するためには、職場における関係の質の向上や、働きやすい環境づくりといった、エンゲージメントを高める施策の導入が欠かせません。
また、キャリアビジョンを描いて社内で活躍する具体的なイメージを持たせる、自分の強みや価値観を仕事に活かせるようにするなど、早い段階でのキャリア教育も有効だと考えられます。
⑥ 希望以外の部署、配属地に配属された場合、半数以上が「異動希望を出す/転職を考える/退職する」
Q8:もし希望以外の部署、勤務地に配属された場合、どうしますか。
次に、自分の希望以外の部署や配属地に配属された場合にどのような行動をとるかについて聞いてみたところ、半数以上の方から「異動希望を出す」「転職を考える」「とりあえず退職する」という回答を得ました。「仕事をしながら転職を考える」は2番目に多い30.2%。どれだけ早い段階でフォローをできるかどうかが、離職を防ぐための鍵となるでしょう。5.8%と最下位でありながら「とりあえず退職する」と即答する方が一定数いることも見逃せません。
仕事において、自分の思い通りにならないこと、予期せぬ転機が起こることはよくある話です。早期の離職を防ぐためには、業務上における転機を乗り越えるための知識を早い段階で与えることは重要になってくるでしょう。あるいは、早期離職への志向を逆手にとった人事施策を行うことも一案かもしれません。
⑦ 昨年までに引き続き、仕事の不安で最も多いのは「自分の能力不足」
経年で調査している「仕事に対する不安」の具体的な内容ですが、「自分の能力(知識・スキル)不足」が昨年同様に今年も最多となりました。あとに続くのは2位「自分が成果をあげられるかどうか」、3位「仕事での失敗」となっており、こちらの順位も昨年と同様の結果です。昨年と比較すると、「自分のモチベーションを維持できるか」が伸びている点が気になるところです(2021年度のあてはまる・少しあてはまるは40.1%でした)。
⑧ 仕事の期待で最も多いのは「自分の成長」
最後は明るい話題に移りましょう!不安とは逆に、今年は「仕事への期待」についても具体的な内容を尋ねてみました。
仕事に対する期待として、「あてはまる」と答えた方が最も多かったのは「自分の成長」でした。また、「職場での人脈形成」「同期との絆・つながり」を、「自分のあげる成果」や「能力の発揮」と同等、またはそれ以上に重視しているのは、コロナ禍での学生生活において、人とのリアルな交流が激減してしまったことも影響していると思われます。リモートワークが主になっている企業様も増えていますが、社員同士の接点を増やすような仕掛けを意図的に設けていくことも必要かもしれません。
<まとめ>
今年の新入社員は、お互いが理解し尊重し合い、メンバーの個性を活かすような環境を理想としている様子でした。チームメンバー一人ひとりが能力を発揮していきいきと働くためには、安心して挑戦できる環境、失敗も認められる環境をつくること、そしてメンバー同士の関係性の質を向上させることが重要です。そのような環境こそが新入社員の成長の土壌となり、ひいては組織の発展や価値向上に繋がります。
今後の働き方や展望に迷っている新入社員も多く見受けられました。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、24年ぶりの円安と、不安なできごとは尽きません。まさしく、先の見えないVUCAの時代だからこそ、早い段階でのキャリア自律のマインドセットは重要になってくるでしょう。
より良い組織環境づくりとキャリア自律支援は、社員の会社へのエンゲージメントが高い状態を生み出します。今回、半数近くの方が現在の会社で長く働くことを想定していないとの結果がありましたが、彼らの早期離職を防ぐためにも、これらはぜひ取り組んでいきたい施策です。
新入社員の成長について、キャリア開発支援や人材育成支援に携わる我々が果たすべき責任は大きなものです。数ある企業の中から自社を選び、入社をしてくれた彼らに対して、私たちは何ができるでしょうか?組織のこれからを担う新入社員の育成とは、日本社会の未来づくりにもつながること。新入社員の育成に携わる一人ひとりが、そんな意識を持ちながら育成業務に臨めたら素敵なことではないかと思います。そしてその際には、この調査結果と日本マンパワーを少しでもお役立ていただけましたら、とてもありがたく存じます。
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