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キャリこれ

正解を求めない「自分の学びのスタイル」を創ろう(後編)

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連載記事

2022.9.16


■記事前編は、こちら
■目次 ※クリックすると各章にジャンプします
Q1: いまお話し頂いたオンラインや英語の部分のほかに日本人的な学びの特徴はありますでしょうか?
Q2: 「正解のあるものを学ぼうとする」ようになってしまった原因は何だと思われますか?
Q3: コロナや国際情勢など変化の度合いがますます大きくなっていて、正解を求めることによるリスクも高くなってきていますが、それに対する教え方の工夫はされていますでしょうか?
Q4: 自分がフィットするラーニングスタイルは、どのように自己認識するのでしょうか?
Q5: インプットとアウトプットはかっちりと決められるものではなくて、往復運動のようなものですね?
Q6: 「何をしたいか」で止まってしまう人もいるのではないですか?
Q7:したくない仕事でもいつの間にか得意になっている、ということがありますよね
Q8:先ほどの「正解を求めたがる」という点では、MBAと対極的な創造性という要素は、今後必要になっていくと思われますか?
Q9: これまでアート思考がブームのようになってきましたが、今後はMBA的な左脳思考とアート的な右脳志向の両方を持った方がいいわけですね?
Q10:組織の中の「共通言語」は大きなテーマだと思いますが、それが無いとますますリスクが高まっていきますね。では、この共通言語をどうつくっていったら良いと思われますか?
Q11:「違いを認めながら、共通言語を作っていく」というのは日本人の苦手なところですね。
Q12: 池上先生は「人生で3回大学に通う時代」ということを提唱されていらっしゃいます。この点についてお話し頂けますか?
Q13: 最後に、日本の企業人の学びはこれからどのようになっていけば良いと思われますか?

Q: いまお話し頂いたオンラインや英語の部分のほかに日本人的な学びの特徴はありますでしょうか?

もう1個あります。それは「正解のあるものを学ぼう」という意識が強いことです。今後のキャリアや経営で言うと、正解のないものがますます多くなっていくので「正解のない学びがある」ということを、今後より強く意識しておく必要があると思います。
日本人の学びは、どうしても正解を求める傾向がありますよね。加えて、MBAでもマーケティングでも戦略論でも、それを学ぶと、経営における正しい答えが得られるんじゃないか、という期待を抱いている人が多いです。理論やフレームワークは、あくまで「思考の支援」をするものであって、正しい答え、正しい戦略的な方向、正しいマーケティングソリューションが出てくるわけではないんです。
データにしても必ずしも正解を導き出せるとは限りません。何か正解が得られるんじゃないか、という期待を持って経営を学んでいる人がまだまだ多いですね。ただし、マーケティングでも戦略でも統計学でも組織論でも、学んでいないと何が「最適解」なのか、どうやって複雑な事象を考えたらいいのかすらわからなくなるので、学んだ方が良いことは確かです。ただし、それで正解が得られるわけではないという狭間が理解されていないように思います。
また、「海外」と一括りにはできませんが、例えば、欧米圏の人たちを教えていると、「正解なんてないよね」「自分のやりたいことをやりやすくするために、経営知見を学ぶ」という具合に、逆に勝手すぎる傾向もあったりします(笑)。そこが日本と欧米圏を中心とした海外との違いだと思います。

Q: 「正解のあるものを学ぼうとする」ようになってしまった原因は何だと思われますか?

小学校から大学まで「正解があるものを学ぶ」という教育が根強く残っていて、会社に入った後も「べき論」で教えられます。OJTも、ある種正解があってその成果を先輩が教える、ということですよね。そういう育成の仕方を小学校から始まって社会人になった後もやっている、その積み上げや蓄積が原因となっているのではないか、という仮説を持っています。

Q: コロナや国際情勢など変化の度合いがますます大きくなっていて、正解を求めることによるリスクも高くなってきていますが、それに対する教え方の工夫はされていますでしょうか?

はい、工夫しています。学生に対して「リスクとリターン」や「スパン(時間軸)」の考え方の話をよくします。「短期的にリスクをとらない」ことによって、長期的にリターンが下がったり大きなリスクに直面したりする場合がある、ということを俯瞰的に認識しておこう、ということです。
日本の企業の場合、短期的なリスクを取らずに日々のオペレーションで何とかしようとするために、リスクを取って投資をする海外企業に負けるパターンがよくあります。個人の場合も、キャリアのプチリスクをずっと取らないことによって、その会社から出た後に大きなギャップに直面しなければいけなくなる。それは、長期的に観れば大きなリスクですよね。
やりやすいこと、もしくは言われたことを同じ会社のセーフティゾーンでやり続けていると、リスク耐性が弱まります。「リスクを取らないこと」を刻み続けることによって最終的に大きなリスクに直面する、というのは個人も会社も一緒だと思います。
いま申し上げたような「リスク」に対応する学び方(教え方)に関する工夫は2つあります。
一つは「自分の学び方のスタイル」を意識する、ということです。その場合、学び方のパターンを2軸で考えることができます。「ひとりで学ぶのが良いのか、複数人と学んだ方が良いのか」という軸、もうひとつは「包括感から入った方が良いのか、積み上げ型で学んだ方がやりやすいのか」に分ける軸です。要は、全体でばくっとコンセプトを把握した上で、細かいところを詰めていった方が入りやすい人もいれば、逆にステップ1ステップ2ステップ3・・・と刻んでいった方がわかる、という人もいます。そのように、自分にフィットするラーニングスタイルを知りましょう、ということですね。

Q: 自分がフィットするラーニングスタイルは、どのように自己認識するのでしょうか?

「過去の自分の経験」と「従来のスタイルを変えて実験すること」の2軸で考えることです。まず自分がやってきた学び方、どういう時にうまくいったのか・いかなかったのかを振り返ってみる。その上で、少しずつ新しいことを試してみる。これを意識的に行うために「軸」が必要なんです。ひとりでやるのか複数でやるのか、包括感なのか積み上げなのか。少しずつ意図的に変えながら学んでみる。その上で、そのどちらがより自分にフィットするか、ということを「過去の振り返りと新しい実験」をしながら自分のスタイルにする、ということです。
もう1個の教え方の工夫は「ツールをいろいろ試してみる」ということです。今、ツールって膨大にありますよね。オンラインかリアルか、本か音声かなど、多様な手法論があるので、いろいろ試してみることが必要です。それがベースにあった上で、次に「何を学ぶのか(インプット)」と「アウトプット」の両方のイメージをできるだけ連ねることが必要です。
「こんな仕事をしたいから」とか「こんな会社や部署に行きたいから」など何でもいいので、目的設定をした上で、インプットとアウトプットの関係を考えましょう、と学生には伝えています。

Q: インプットとアウトプットはかっちりと決められるものではなくて、往復運動のようなものですね?

はい、その通りです。それをイメージしないでいくら学んでも無駄になる可能性は高いです。
だから今のご指摘はすごく大事で、ある程度ぼやんとしていてもいいので、インプットとアウトプットの両方を少し考えてみよう、と学生に言います。で、そこから先はもう個人差です。何をしたいかは、一人ひとり全く異なりますから。

Q: 「何をしたいか」で止まってしまう人もいるのではないですか?

さきほど話にも出ましたが、例えば50代半ばの役職定年になったタイミングで「自分のキャリアを考えて何をしたいのかを好きにしていいよ」と会社に言われた瞬間に、私は何をしたいのかな??と止まってしまう人がいるわけです。
そうした悩みに、スパッとしたアドバイスはできないのですが・・・例えば「したくないことを潰していったらどうですか」と自分なら言います。ただし、結果的に「したくないこと」しかオプションがない時もあるので、完全にバッテン(×)をつけないで優先順位をつけることが重要だと思います。

Q:したくない仕事でもいつの間にか得意になっている、ということがありますよね

はい。「得意と不得意、したいとしたくない」の4象限にしてみることですね。ただ、自分が得意かどうかは、自己認識できない場合があるので、まずは「したいしたくない」で考えるのが良いと思います。私から見て、その「したい」が無理めだなと思っても、あまり否定はしません。「なるほど」と言いながら、じゃあそこに近づくにはどうしたらいいかな、というアドバイスを学生にはしています。

Q:先ほどの「正解を求めたがる」という点では、MBAと対極的な創造性という要素は、今後必要になっていくと思われますか?

はい。クリエイティビティ(創造性)の必要性は、Yesでありマストです。さきほどお話ししたように、新しい非連続的なことやこれまで経験してきたことのないことを考えなければいけないということになると、クリエイティビティだけではなくて「柔軟性」や「アンラーニング」などが同時並行で必要になっていくと思います。アンラーニング力や柔軟性を持った上でクリエイティビティがあると、次のことを考えられるようになるのではないか、と思います。

Q: これまでアート思考がブームのようになってきましたが、今後はMBA的な左脳思考とアート的な右脳志向の両方を持った方がいいわけですね?

その考えには、全面的に賛成です。いわゆる「Science and Art」と言われますが、それを「合理性の部分」と「合理性以外の部分」と仮に分けるならば、合理性以外の部分も必要ですし、クリエイティビティはサイエンスの部分もありますが、アート的な部分がやはり多いと思います。今後、クリエイティビティがあることによってメリットを受ける局面が増えてくる気はします。
その一方、クリエイティビティ重視でキャリアを積んできた人は、サイエンスと財務・会計等数字を身に付ける必要が出てくるとも思います。例えば、マーケティングができますという人も、これからはアカウンティングもやっておかないと先々つらいよ、と。
同じ会社の中でも、アート的な部門とサイエンス的な部門の間で共通言語がなくて話が成立しない事例が、多々あります。なので、異なる言語、経験則や価値観を持っている人たちとコラボレーションできるような共通言語をつくると個人も組織も可能性が高まります。
そして、その時に必要となるのがアンラーニングと柔軟性です。それらがないと共通言語を学びにくいんです。故に、今後はビジネススクールでもサイエンスとアートの両方を学べるようにする必要が出てくるでしょう。早稲田ビジネススクールは部分的にそれを取り入れ始めています。

Q:組織の中の「共通言語」は大きなテーマだと思いますが、それが無いとますますリスクが高まって行きますね。では、この共通言語をどうつくっていったら良いと思われますか?

共通言語のつくり方という点では、二つのアプローチがあると思っています。ひとつは、お互い「これが違うな」というところから共通言語を作っていく欧米的なアプローチです。もうひとつは、「相通ずるもの」例えば出身地などを見つけて、そこから広げていく日本人的なアプローチです。
ただ、後者のアプローチだと意外と価値観の違う人との共通言語の範囲が狭くなります。相手との違いを恐れずに話を進めていくアプローチの方が、コラボレーションするための共通言語が作りやすくなるのではないかと思います。

Q:「違いを認めながら、共通言語を作っていく」というのは日本人の苦手なところですね。

はい。ただ、そのスキルがあると世界中で仕事ができるので、学ぶ必要があるのが「異文化マネジメント」になります。例えば同じ会社の中でも、自分と価値観の前提が違う人がいるということを知ることです。日本人はこの異文化マネジメントから学ぶことが多々あると思います。
まず、日本人は「ハイコンテクスト」と言われる言語化しない傾向があるので意識的に言語化することで違いが明確になります。私たちは、違いを先に明確化することを恐れるあまり共通点を探してハイコンテクスト化していく傾向があります。それを恐れずに、どんどん意識的に言語化することで違いが明白になります。
また、違いが明確化した時、「この人との違いは、どういう前提に基づいているんだろう」と、相手の価値観や世界観といった前提を少しずつ想像することでブリッジがかけやすくなっていくと思います。相手と意見が違うという時に「この人の前提や目的は何なんだろう」と俯瞰的に考えると、苛立つことなく、ではその前提に対してこう対応してみよう、と考えることができるようになります。それによって比較的スムーズに共通言語を作ることができて協働的になる可能性は高まると思います。
時に、賛同できない・好きではない・信頼できないような人とも協働しなくてはいけない局面が出てくるかと思いますが、そうした時に役立つでしょう。賛同できる・気の合う・信頼できる人とだけ仕事をしてゆくというキャリアを選ぶか、賛同できない・好きではない・信頼できないような人ともなんらかの協働をするキャリアを選ぶかはその人次第ですが。

Q: 池上先生は「人生で3回大学に通う時代」ということを提唱されていらっしゃいます。この点についてお話し頂けますか?

はい。現在、早稲田大学でもその検討を始めています。これまでの大学年齢で10代から20代で行く場合、 それからビジネススクールなどのようなキャリアの初回の転機で行く場合、それからリタイアメントと言われる年齢になった時にトータルリフレッシュをするために行く場合の3回大学に入る意味が出てくると考えています。ただ、いわゆるシニア世代と言われる方々については、人生100年時代となったいま、これまでのような「引退」とは状況が異なって来ると思うので、そこは慎重に考える必要があると感じています。

Q: 最後に、日本の企業人の学びはこれからどのようになっていけば良いと思われますか?

2つの観点があります。1つ目は、「自分は何が本当に好きなのか」という自分起点の視点ですね。2つ目は「外に大きく目を開く」ということです。例えばグローバルに目を向けて「日本の競争力ってどこにあるのかな」という視点ですね。マクロ的に観た場合、現在日本の競争力が発揮できるひとつの領域は観光の分野になっています。日本が競争力を発揮できる領域を見定めて、その中で自分がどうしたら良いポジションを取れるのか、それを戦略的に考えることができるのが、MBAという学びの場です。「自分起点の視点」と「大きなマクロの視点」の両方で考えることが、今後ますます必要になっていくと思います。