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キャリこれ

1on1の場で活きるMMOTメソッドvol.1~初心者でも使える4つのステップ~

インタビュー

個人

2022.10.14


今、人材育成の取組みとして1on1への関心が高まっています。6月に発表された令和3年度能力開発基本調査でも、上司による1on1を導入している企業が増加傾向にあるとの結果が出ました。そのような中で、私達日本マンパワーも上司による部下のキャリア支援を5年ほど前から50社以上の企業様にご支援してきました。
キャリア支援でも1on1でも、傾聴はもちろん大切です。しかし、やはりマネジメント現場においては部下に伝えたい期待値があり、返したいフィードバックや、改善してほしいこともあります。それらをぐっと飲みこんだまま1on1で部下の話を聴くのは結構窮屈に感じるという上司の声も多いようです。
マネジメントとキャリア支援、1on1を矛盾なくつなぐものはないか…そこで私たちが出会ったのがMMOT(The Managerial Moment Of Truth)でした。MMOTは先程のようなマネジャーの葛藤を起こさせることなく「構造」によってメンバーの効果的な育成へと導くメソッドです。
今回はMMOT開発者のロバート・フリッツ氏に直接学び、日本においてMMOTの第一人者である田村洋一さんと森山千賀子さんに、MMOTとは何か、その効果についてのお話を詳しくお伺いします。
【ゲスト】
■田村洋一さん
 詳細プロフィールはこちら
■森山千賀子さん 詳細プロフィールはこちら
【インタビュアー】
キャリアのこれから研究所所長・日本マンパワーフェロー 水野みち
【執筆】日本マンパワー ソリューション企画部 臼井文佳

MMOT(The Managerial Moment Of Truth)とは

水野:日本では、まだMMOTはあまり知られていないと思うのです。まずはじめに、MMOTについてご説明いただけますか?
田村氏:MMOTは、名前の「The Managerial Moment Of Truth」にある通り、真実に焦点を当てるというのが真髄です。
MMOTは、期待と実態がずれているときに使います。このずれは、実態が低いずれ(目標数値の未達など)もありますし、実態が高い(期待以上のアウトプット)時にも使えます。MMOTは、以下の4つのステップで取り組みます。
本当にシンプルな形式になっているので、初心者の方でも使うことができるのが大きな特徴です。
それぞれのステップをもう少し詳しくご説明しましょう。

ステップ1:現実を見る

田村氏:ステップ1は「現実を見る」です。上司と部下で、期待と実態がずれていることを確認し合います。例えば期待と実態が3センチずれている場合は、ステップ1ではシンプルに「ここ、3センチずれている」ということだけを確認します。
これはとてもシンプルなことなのですが、実は様々な要素が含まれています。まず事前に上司と部下で期待や目標について共通認識を持っていないとできません。また、部下の側が、自分の失敗で3センチずれたと思っている時は、「すいません!すぐ直しますから」となりますが、その時上司側に、ミスに対して部下を責める気持ちが少しでもあると、部下は委縮して現実を認めることが難しくなります。
水野:確かに、このステップ1は大きな難関だと感じます。フィードバックは事実ベースで具体的にというのが原則ですが、正しいことを言う時ほど、伝え方を工夫しなくてはいけないと日々感じています。また、部下側の立場に立っても、「その痛いところ、またつかれるのか…」となりますよね。
田村氏:はい、そうですよね(笑) 開発者であるロバート・フリッツがよく言っているのは、上司も部下も科学者のような姿勢で事実に臨むこと。つまり、自分たちと事象(事実)を切り離すんです。科学者が実験対象を見ながら客観的に「これ、3センチずれているよね」と観察する感じです。MMOTは、その後ステップ2・3・4があって初めて完成するのですが、まずステップ1ができるような信頼関係があると、ものすごく安心安全ですよね。
ここ10年ぐらいの流行言葉で言うと「心理的安全性」です。心理的安全性とは、客観的事実をあけすけにその場ですぐに伝え合っても安全ということですよね。
ミスをしても、すぐにそれをMMOTで取り上げて学習する。成果を作りあげていくためには、ミスをしたという現実を認めてふり返るか見過ごすかは大きな違いとなります。
ミスをしたことがちゃんと言える、ちゃんと聞ける関係性。今現実で起こっている事実を話し合うためのプラットフォームを作ることがMMOTの大きな目的であり、成果なんです。心理的安全性があるから伝えあえるのか、それとも伝える目的を持って伝えるから心理的安全性が高まるのか。もちろん因果関係は両方あると思います。
水野:田村さんは、よくMMOTを説明される時に、サッカーに例えてお話されますよね。例えば、ボールを蹴るのが弱くてゴールに届かなかった。それはもう明らかな客観的事実で。そこからスタートすれば、もっと力強く蹴る方法を考えなきゃいけないと自分で改善していくことができる。でも、これが仕事となると、いろんな感情がまざって、気を使って伝えられない。もしくは過剰に責められるだけで終わってしまうということがマネジメント現場では起こっているように思います。
田村氏:今のサッカーの例を借りてMMOTのステップを説明すると、まず、ステップ1では「ボールが届かなかった。」ですね。ゴールに入って欲しいと思ったけど、手前でボールを奪われたとか、そういう事実ですね。その事実を完全に取り上げて、それだけをまず見ます。

ステップ2:現実に至った過程を理解する

田村氏:そして、ステップ2では、一体なぜそれが起きたのかということを分析します。キックの力が弱かったからだという分析ももちろん一つです。しかし、他にも見えてくるでしょう。例えば、自分の力を知らなかったという見方もあります。もし自分のキック力をわかっていれば、そこで自分が蹴るのではなく、仲間にパスをするとか、ドリブルをするとか、そういう他の選択肢があるということに気がつきます。
また届かない距離から蹴ってしまったというのは、周りが見えていなかったからかもしれません。前方にキーパーも、ディフェンダーもいなければ、仮に弱いキックでもコロコロと入ったかもしれません。夢中でやっていて周りが見えていなかったことが分かってくるかもしれません。
このように、ミスをしたときに、自分を責めたり、他人のせいにしたりして非難したい気持ちは一旦置いておいて、ミスした本人とともに、何が起こったのか、何故それが起こったのかを分析していく。すると、キックが弱かったということに加え、自分の力を理解していなかった、周囲が見えていなかったということに気がつくんです。そこまで気がつくと自動的に次のステップ3が現れてきます。

ステップ3:計画を考える

田村氏:先程のキックが弱かったからという解だけだと、強く蹴る練習ばっかりすることになります。もちろん弱いより強く蹴れる方がいいのですが、もともとのフィジカルが弱いとずっと不利になることもある。一方で、今自分はどのぐらいの力や技があるのかをはっきりと自覚して頭に叩き込めば、次の試合では、この距離なら直接蹴る、この距離だと別の選択肢を選ぶというように計画を考えていくことができます。そうすると、個人として蹴る力を高めるだけではなく、チームで成果を上げるために効果的な計画になります。

ステップ4:計画を実行するための仕組みをつくる

田村氏:サッカーの場合は、次の試合や練習で、本人は新しい計画を実行することができますし、監督やコーチも、どのようにプレーしているかを確認することができます。同様に、新しい計画についてしっかりと記録を残し、第三者でも計画の実行が確認できるようにしておくことがステップ4の「仕組みづくり」となります。
次の試合で同じミスを繰り返すようであれば、振り返りや計画が甘かった可能性があります。その際は、記録を振り返りながら、もう一度ステップ2からやり直し、しっかりと成果を出せるようになるまでMMOTを続けていくことが重要です。
水野:「ボールがゴールに届かなかった」という現実から、これほど多くのことが学べるんですね。
田村氏:MMOTをすることでいろいろなことに気づくことができます。まず、ミスが起きたという現実から目を逸らさないで、しっかりと向き合うこと。そして自分のパフォーマンスがチームの勝利に影響を与えていることを自覚し、ミスから学ぼうという姿勢が養われること。それがとても重要なことです。
これは、スポーツに限らず、ビジネスの場面でも同じことが言えます。部下がミスをしたとします。ミスを「たいしたことはない」とやり過ごすことは、部下がその仕事で成果を上げなくても「たいしたことではない」というメッセージになります。そうではないはずです。もしそうなら、その仕事は無くした方がいいですね。自分の仕事一つひとつが組織の成果につながっているという自覚を持つことは重要なことです。
部下の仕事の結果一つ一つが組織の成果につながっている。そういった大事な仕事を一緒にやっている部下の仕事ぶりが、もし期待とズレているならば、上司はしっかりとその現実に向き合い、一緒に軌道修正するといいんです。そのためにも、MMOTを使ってもらえるといいのではないかと思います。
MMOTをする中で、上司と部下の間でそもそも期待や目標がはっきりと認識し合えていなかったということが判明したならば、あらためて確認し合い、また仕事をすればいいわけです。行くべき目的地と現在地がわかれば、目的地への行き方が決められるのです。
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■ゲスト
田村洋一(Yoichi Tamura)
組織開発コンサルタント
企業人教育、エグゼクティブコーチング、企業等組織へのコンサルティングにおける豊富な実践経験があり、多くの優れたパイオニアから学んだ経験を持つ。 特に構造力学と創造プロセスをロバート・フリッツから直接学び、他では得られない画期的なアプローチで社会人教育に取り組んでいる。ジェミニ・コンサルティング、野村総合研究所、シティバンクなどに勤務し、情報システム設計・構築、戦略コンサルティング、事業開発に従事、日本、欧州、アジア、アメリカ、アフリカで大小さまざまなプロジェクトのマネジメントや国際的ビジネスに参画している。2018年からはロバート・フリッツを日本に招聘し、日本における構造思考・創造プロセスの普及・発展に貢献している。2021年春からは小中高生向けのディベート道場も開催している。2002年からメタノイア・リミテッド代表。
上智大学外国語学部卒業、バージニア大学経営大学院修了(MBA)。クリエイティブな意思決定を体系化した著書Creative Decision Making をはじめ、専門分野を活かした著作・翻訳書多数。
森山 千賀子(Chikako Moriyama)
構造コンサルタント
2003年からロバート・フリッツの構造力学を学び、2021年から組織および個人に向けたコンサルテーションを提供している。日米欧の企業に勤務し、豊富なマネジメント経験を持つ。ビジネス会議運営、ビジネス交渉、チームマネジメントに長けている。ファシリテーションにおける観察力・分析力、コミュニケーションスキルに定評がある。現在はメタノイア・リミテッドにて社会人教育の企画・運営を行う。既存の知識や経験に縛られない発想や行動が特徴的。人や組織が生産的な仕事をするための仕組みを作って動かすことに喜びを覚える。現実にインパクトを与えるリアルなビジネスに関心が高い。