MENU

キャリこれ

挑戦するパナソニック コネクト株式会社と考える「ジョブ型とは何か」(後編)

インタビュー

企業

2022.10.17


いま急速に関心が高まっているジョブ型雇用。その現象を多角的に検証し、その本質を考えていくことを目的としてスタートした本連載。最終回は「総括」として、現在進行形でジョブ型制度の導入を推進していらっしゃる企業から見た「ジョブ型とは」について、連載で扱った様々な視点から検証していきます。
記事前編はこちら ■記事中編はこちら

これからの「キャリアコンサルタント」の役割とは?

Q: キャリアコンサルティングの話が出ましたが、この点については連載でもたびたび触れられています。たとえば、JILLPTの下村先生は「これからはクライエントに相対するだけではなくて社会環境変化への意識も醸成していくコンサルタントが必要」「ジョブ型制度に伴うキャリア開発のやり方については、社員もマネージャーもわからないことだらけとなるので、キャリアのプロとして適切な情報を提供する伴走者としての意味合いが高まってくる」というコメントをされました。
ジョブ型の制度が導入される中でのキャリアコンサルタントの役割とは、どのようになると思われますか?
中島様(以下中島):当社では、異動が社命から公募主体に変わっていく変化点の中で、自分がどの職場に行けば自分の力が発揮できるのかを考えることをできない方のために、キャリアのサポートを行う体制を整備していく予定です。それによって、社内と社外の両方の視点から社員を支援したいと思っています。
新家様(以下新家):企業として、どれぐらいのボリュームでキャリアコンサルタントを抱えていくべきなのかがまだ明確になっていないのは事実です。
一方、日本の社会が成熟して個人が自立する方向に向かっていった時に、キャリアのプロが社内にいるべきなのか、あるいは個人の責任として外部のコンサルタントに相談すべきなのかも悩ましい問題です。
ただ、ジョブ型の移行期においては一定程度のキャリアコンサルタントの存在が企業の中に必要になると、私も思っています。

「人的資本経営」の意味とは?

Q: 続いて、ジョブ型とともに大きなトピックとなっている人的資本経営についてお話をお聞かせ頂きます。
連載の中でISO30414コンサルを手掛けるHCプロデュース保坂様は「人的資本経営の導入によって、より科学的に人事戦略や戦略を立てた上で、定量的なものも使いながら経営を議論していく役割が強くなる」「投資家に限らずステークホルダーからも求職者からも、人を大切にする企業が選別されていく良い循環が できていく」と仰っています。
この人的資本経営について御社としてどのようにお考えでしょうか?
新家:無形資本への投資が企業の競争力の差別化要素になってきている中で、人的資本の比重が一番高いので、とても大事なものと考えています。その際、企業の経営戦略と人材戦略をいかに一致させるかが根本のところだと思います。
そこを投資家が求めているのは良いことですが、一方でどう開示するかの議論が先行してしまっていることへの懸念はあります。大事なことは「我が社なりの人的資本経営」をやっていくことだと考えます。
今やるべきことは、社内のステークホルダー、つまり経営メンバー、人事メンバーあるいは従業員との対話の量を増やして「何がパナソニックコネクトならではの人的資本経営なのか」をしっかり見極めることです。
中島:事業会社化によって新しい指針やマネジメントを導入していこうとしているときに、この人的資本経営の潮流は「一緒に成長していこう!」という社員の皆さんへの大きなメッセージになると思っています。
楠木:特に「人材版伊藤レポート」がオープンになって以降、各社様、一生懸命情報収集されています。その中で、新家様が仰るように、「どの部分を開示していけばいいのか、何をKPIにしていけばいいのか、独自の指標は何を持つのか」などを悩まれていらっしゃるように感じます。
ただ「無形資産である人に対して投資をして、企業活力に繋げて、投資家からの評価をいただこう」という流れ自体は、日本全体にとってはかなり良いことだと私は思っています。
アメリカのギャラップ社の調査でも日本は社員のエンゲージメントの数字がすごく低いというデータが出ています。連載の中でも、HCプロデュースの保坂様が「従業員のエンゲージメントの高さが企業の生産性や集中力に関わっていることが、多くの研究結果で証明されている」というコメントを出されていました。
従業員のエンゲージメントの高まりが企業の活力になったり、企業の生産性や成長力に繋がったりするのだとすれば、逆にエンゲージメントが低い日本はかなり「伸びしろ」があると言えないでしょうか。なので、今回の「人的資本経営」にはどんどん積極的に取り組んでいただきたいと思っています。

これからの「人事・HRの役割」とは?

Q: この人的資本経営の導入によって、いよいよ経営と人事の連携が求められる時代に入ってくると言われています。まさに事業変革や制度変革をされている中で、人事・HRの役割についてどのようにお考えでしょうか?
新家:我々は「現場」を重視しています。
お客様の現場をより良くするために、開発、製造、販売、マーケティングなどのそれぞれの現場で「人事という仕事」がきちっとなされていることが理想だと考えています。
正直なところ、これまでは、あたかも現場のマネージャーに権限がないように取り扱ってきたのかもしれません。人事の役割は、その現実を隠して社員をマスで捉えて処理をするような役割をしていたのではないでしょうか。
しかし今後、現場に事業人事の本質の部分が移ると、人事はプロとして牽制をかけたりドライブをかけたりする役割でないといけない、と思っています。これから現場の職場には自由度がもっと増えていくでしょう。
その時、人事は「規律を加えていく」存在になる、と考えます。自由度が高くなれば高くなるほど、規律の振れ幅もきちっと持って人事のプロとして強くならなくてはいけないと思います。
今までは「ルール」で縛ってきた人事でしたが、現場の自由度が高まることに伴って「プロフェッショナル」としての役割をきちんと果たして、職場に規律を加えていかないといけないと考えます。
中島:例えば採用面では、これまでは本社部門がリードしながら現場を支援してきましたが、今後は採用権も現場に移していきます。
そうした変化に対してマネージャーが人事の仕事を理解して「自分たちが全てやっていくんだ」と理解してくれるとスピード感は上がってきています。
楠木:やはり「経営戦略と紐づいた人事戦略」という話にどんどんなっていきますので、人事の役割がますます大きく、重要になっていくのは間違いないですね。それに対して私共は、人事の皆様に大きく期待をしながら、精いっぱいのご支援をしていきたいと思います。
Q: 最後に、これまでお話いただきまして、改めて感じられたことがあればお話し頂けますか?
新家:いま、いろいろと悩みながら変革を進めています。これまでの様々な「縛り」が無くなった分、時間をかけずに一気にやろうとしていますが、不安になることもあります。
かたや「すごくいい時代だな」とも感じています。人事をやってきた中で、これほど世の中からも会社内からも期待を込めて注目されているというのは今までなかったことで・・・。
人事はこれまで成果主義の時代などもあって冷ややかに見られてきましたが、このまたとない機会にしっかり期待に応えていきたい。今回、こうしてお話をさせて頂いたことで自分の考えを整理する良いきっかけにもなりました。このように色々な方と交わる機会を、どんどんつくって我々も成長していきたいと思います。
中島:パナソニック コネクトは、今年2022年4月にできたばかりの会社です。まずは会社を知って頂く必要があります。その意味でも、お話しした我々の取り組みを皆さんのお力を借りながら進めていきたいと思います。
私自身は人材開発を担っていますが、ジョブ型を入れた先に、社員がプロフェショナルになって人生の選択肢を増やし幸せになっていく未来像を描きたい、と思っています。
楠木:当社としても「キャリアの主体は企業ではなく人」ということを、改めてしっかりと伝えていきたいと思っています。
なお、今回のジョブ型推進で企業側が伝えようとしていることは、「キャリアデベロップメント」という言葉が表すように、「自らのキャリアを新たに開発していく」といった本来の精神や行動が今まで以上に求められるということ、「自分で選択して、意思決定しながら、自分の人生を作っていくのだ」という当たり前のことを、今回のジョブ型をきっかけに改めて宣言しようとしているのではないか、と感じました。