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「人的資本経営と今後の人材戦略のあり方とは」イベントレポート 「人的資本経営」を社員×会社×社会でつくる。【前編】

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イベント

2022.12.9


いま「人的資本経営」が大きな広がりを見せています。アメリカで2020年に米国証券取引委員会(SEC)主導のもと広まったのに続き、日本では同年9月に人材版伊藤レポートが発表され、翌年2021年6月に、金融庁・東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コード改訂で人的資本の情報開示が追加されました。
この動きに伴い、企業ではパーパスやミッションを明確に示し、人材を戦略的に育成することがより求められ、同時に個人の側も、大きな変化の時代にあっても自分らしく柔軟に対応し学び直していけるよう、自律的にキャリアを描くことがより一層求められるようになるでしょう。
日本マンパワーでは、この動向を多角的な視点で考察するイベント「人的資本経営と今後の人材戦略のあり方とは」を、去る10月26日に開催しました。
~イベント内容~
第一部 基調講演「人的資本経営の実現に向けて」
ゲスト 経済産業省 経済産業政策局 産業人材課 西村 萌様
(人的資本経営コンソーシアム担当官)
第二部 パネルディスカッション
パネリスト
〇西村 萌 様(経済産業省 経済産業政策局 産業人材課)
〇新家 伸浩 様(パナソニック コネクト株式会社 執行役員
常務・CHRO(兼)人事総務本部長、最高健康責任者)
〇森 美江 様(キリングループ キリンアカデミア事務局)
〇田中 稔哉(株式会社日本マンパワー 代表取締役会長)
ファシリテーター
酒井 章(株式会社クリエイティブ・ジャーニー 代表) *筆者
本レポートでは、前後編に分け、イベント内容をお伝えします。
まず、前編では、経済産業省西村様から、人的資本経営とは何か、なぜ行う必要があるのか、どのように取り組んで行く必要があるのかをお話しいただきました。
★記事後編はこちら

1、人的資本経営とは何か

西村:人的資本経営とは「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」です。では人材を『資本』として捉えるとはどういうことでしょうか。従業員が教育、研修あるいは日々の業務を通じて自分の能力や経験あるいは知見などを向上させることは、事業の付加価値創造に繋がります。また、事業環境の変化や経営環境の変化に際しては、内外から登用・確保するものであることなど、価値を創造する源泉である『資本』としての性質を有します。
経済産業省では、この「人的資本経営へ経営を転換する」という観点から2020年に人材版伊藤レポートを公表しました。公表後、デジタル化、脱炭素化やコロナの影響など様々な変化が急速に起こり、一層産業構造が急速に転換し、経営環境も大きく変化しています。そうした中、人材というものがますます企業の競争力の源泉として重要性を増している、と考えています。
これまでは、人材への投資は、財務会計上「費用」として処理される側面もありましたが、無形資産の付加価値向上の重要性が高まる中、人的資本を評価していこうという投資家の機運が高まっています。それに伴って、国内外で情報開示の機運も高まり、国内では有価証券報告書の開示の部分で人材の育成方針、社内の環境整備、男女間賃金格差など追加されていくことが決まっています。海外では、気候変動に次ぐ国際的基準策定のテーマとして人的資本が挙げられています。

2、人的資本経営の現状

西村:投資家は人材投資を最も重視する一方、企業は必ずしも中長期的に重視していないというのが足元の現状です。
実際の投資額の面でも、日本は国際的に見て企業は人に投資していないし個人も学ばないという傾向が強いというデータが出ています。
政府としては、この状況に強い問題意識を持ち、成長戦略の中核に人的資本への投資を位置づけて取り組んでいます。

3、企業はどのように人的資本経営に取り組むべきなのか

西村:人材版伊藤レポートでは「3つの視点」と「5つの要素」という形で取り組みのフレームワークを示しています。
その具体的な内容は本年5月に「人材版伊藤レポート2.0」として発表させていただきました。網羅的にチェックリスト的にやっていただくのではなく、「参考にしながら選び取っていく」という形で、ぜひご活用いただければと思います。
■「人材版伊藤レポート2.0」は、こちら

4、何から始めれば良いのか

西村:まず第1に「経営戦略と人材戦略を連動させる」です。「企業としてどういう経営戦略をとっていくのか」を起点として、経営戦略を実現するための理想の姿と現状とのギャップを埋めるためにどういう人材戦略が考えられるのか、という思考で進めていただきたいと考えます。
中でも特に重要だと考えているのが「CHROの設置と全社的経営課題の抽出」です。人事の責任者を経営層レベルで設けていただければと思います。
「人的資本経営は、これまで言われてきた働き方改革と何が違うのか」という質問もよく頂戴しますが「経営戦略から立ち返って考えていく」ことだと捉えています。これまでは「人事」というと人事部で、どのように人を配置していくのかなど、人を管理するような視点で取り組む要素が強かったかと思いますが、そこをパラダイムシフトしていくことが重要になります。

5、重要な2つの取り組み

西村:また、「①リスキル・学び直し」と「②従業員エンゲージメント」に注力して頂くことも重要です。
① リスキル・学び直し
まず「リスキル・学び直し」については、経営環境の急速な変化に対応して新しい事業への転換や事業構造の見直しを行うことに伴って、新たなスキルが必要となります。社員が自律的にキャリア形成できるように会社としても学び直しを積極的に支援していくことが重要です。
人材版伊藤レポート2.0では、その具体的な取り組みの例をご紹介しています。例えば、学び直しをした結果どういうキャリアパスが見えるのか、あるいは報酬などの処遇がどう改善されるのかがクリアになっていないと社員としてもモチベーションを持ちにくいことから「リスキルと処分処遇の連動」が必要になると考えます。
本日は、企業における実践事例も簡単にご紹介します。
〇サイバーエージェント様の事例
例えばサイバーエージェント様は、新しい事業に進出する度に組織としてどういうスキルが不足しているのかを特定し、外部キーマンを採用して社内でスキルの伝承を担っていただく取り組みをされています。外部講師を雇うのではなく「お互いに学び合う」という形式でしっかり社内にスキルが定着させています。
〇ダイキン工業様の事例
また、高度なスキルが必要となる中で、高等教育機関特に大学や大学院との連携も重要です。ダイキン工業様は、東京大学や大阪大学など複数の大学との包括連携協定を結び人材の交流やオープンイノベーションを通じて人材育成もされています。また、まとまった時間がないと学び直せないという事情への対応として、サバティカル休暇を導入して社員が集中して学び直しを行えるような環境を整備されています。
② 従業員エンゲージメント
続いて「エンゲージメント」ですが、国際的に見て日本企業の従業員エンゲージメントは世界全体でみて最低水準にあるという衝撃的な結果がでています。
企業として経営戦略を考えても社員がついてこなければ全く実現性がありません。なので、企業と社員の向かう方向を連動させていく従業員エンゲージメントは非常に重要となります。そうした社員がやりがいを感じて主体的に業務に取り組む環境の整備の点では、特に「キャリアパス」が重要な視点だと思っています。画一的な社内の昇進のプロセスではなく、社内外も含めて多様な就業経験や機会を提供することで多様なキャリアパス、つまり「個人がどのように成長したいか」に寄り添って取り組んでいく必要があると考えています。

6、今後の雇用のあり方

西村:これまでの働き手と組織の関係は、高度経済成長期を礎に築かれてきた終身雇用制度や年功序列制度などに代表される「一つの組織でメンバーが変わらないクローズドなもの」でした。しかし、これから人的資本経営を実施していくことによって「より組織を超えてメンバーの出入りがあるようなオープンな関係性」「個人も企業も選び選ばれるような関係性」になっていくことに期待したいと考えています。これにより、個人のキャリアはますます多様化します。自分のキャリア形成について1人ひとりが考えて能力を発揮していく社会になっていければと思います。

7、政府は、どのように人的資本経営を推進・展開していくのか

西村:人的資本経営については「実践」をするだけでも「開示」するだけでも不十分で、しっかりその両軸で取り組んでいくということが重要だと考えています。「どのように経営戦略と連動した人材戦略を実践するのか」と「情報をどのように可視化して投資家にしっかり評価してもらうのか」の両輪で取り組むために、2022年8月に「人的資本経営コンソーシアム」を設立し、現在320社にご参加いただいています。
人的資本経営の在り方は企業によって様々で手探りの状態で進めていらっしゃるかと思いますので、どういう悩みがあるのか、こういう取り組みをしたらうまくいったなどの知見を共有し、切磋琢磨しながら実践と開示について進めていく場にしていきたいと考えています。

8、政府が用意する支援策

西村:例えば学習機会の提供については「人材開発支援助成金」や「教育訓練給付制度」などが活用できます。
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産学連携については、企業が大学などの高等教育機関に共同講座を設置して人材育成するときに費用補助する「共同講座補助金」があります。
社内外の成長機会提供では「出向起業補助金」や「スタートアップチャレンジ推進補助金」などで様々な負担を軽減するような措置を設けています。
また、厚生労働省は「学び直し促進ガイドライン」を取りまとめています。

9、最後に

西村:経済産業省としては、人的資本経営コンソーシアムをはじめとして人的資本経営を進めやすくする環境整備などの支援を様々に取り組ませていただければと思っています。ぜひそうした施策も活用しながら社内の人材戦略の立案や個人のキャリア形成の支援に役立てていただければ幸いです。
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