MENU

キャリこれ

「人的資本経営と今後の人材戦略のあり方とは」イベントレポート 「人的資本経営」を社員×会社×社会でつくる。【後編】

PICK UP

イベント

2022.12.9


去る10月26日に開催した、日本に急速に広がりつつある人的資本経営の動向を多角的な視点で考察する「人的資本経営と今後の人材戦略のあり方とは」イベント。
イベント後半は、企業現場の取組みについてパネルディスカッションを行いました。
パネルディスカッションの内容を、ダイジェストでご紹介します!
*イベントレポート前編は、こちら

1、キリンアカデミアの取組み

パネルディスカッションに先立ち、森さんと新家さんから、それぞれの企業の取組みについてお話し頂きました。
まず、キリンアカデミア事務局の森さんからご紹介頂いたのは、2019年に開始した企業内大学の有志の活動「キリンアカデミア」です。ビジョンとして「挑戦風土」を掲げており、平均年齢27歳の若手の社員が事務局を務めています。
■企業内大学キリンアカデミア公式HP こちら
その中で、森さんは主にキャリアに関するセミナーを企画・運営されています。森さんの推進力によって50歳前後ミドル層の参加者が増え、また、キャリアコンサルタント養成講座の紹介セミナーを行ったところ、紹介セミナーの参加者から、24名ものキャリアコンサルタントが誕生されたそうです。

2、パナソニック コネクト株式会社の取組み

続いて、本年2022年に設立された新会社パナソニック コネクト株式会社人事部門の取組みを、同社CHROの新家さんからご紹介頂きました。同社は2022年4月、パナソニックグループの持株会社化によって設立された事業会社で 「現場から 社会を動かし 未来へつなぐ」というパーパスのもと、主にBtoB向けのソリューションを提供し、社会課題の解決にチャレンジしています。
■パナソニック コネクト株式会社のHP こちら
ビジネスの特徴としては、お客様の現場と、同社が提供するソリューションの共創を通じて、お客様とともに、よりよい社会、持続可能な未来を実現しようとする点です。人事部門においては「CONNECTer一人ひとりの成功と企業価値の持続的向上」を掲げ、2023年導入予定の「新人材マネジメント」と呼ぶジョブ型人事制度への切り替えに取り組んでいます。

~パネルディスカッション内容~
続いて本題のパネルディスカッションの内容をご紹介します。前半はパナソニック コネクトCHRO新家さんに「経営・組織」の視点からお話し頂き、後半はキリンアカデミアの森さんから「働く個人」の視点からのお話を頂戴しました。また、新家さん・森さんのお話に、西村さんと弊社田中がコメントを入れさせていただくという展開で進んでいきました。

Q1:パナソニック コネクトにとって「人的資本経営を実践する意味」は何でしょうか?

新家:人的資本経営でなにをするか?という問いは非常に難しいと考えています。まずは会社を成長軌道に乗せていくことが大事で、その中で人事の役割としては「人事のエコシステムを切り替えること」だと考えています。
従来、人事施策と事業戦略はどちらかというと切り離されがちでしたが、今年度からは事業戦略を立案するプロセスの中で人事戦略についても議論が出来るサイクルを構築しています。毎年そのサイクルを積み重ねて回すことによって、パナソニック コネクトなりのエコシステムが構築されていくと考えています。すなわち、「会社が変わっていくプロセスに合わせて、人事も経営に入り込みながら、戦略を共に創り上げていく」ことが一番重要、だと考えています。

Q2:人的資本経営における「経営と人事の連携」はどのようにお考えでしょうか?

新家:経営と人事の連携のためには、両者がきっちりと「対話していくこと」が大事だと思っています。人事は今まで制度を運用することが主になりがちでしたが、我々も経営メンバーの中にしっかり入り込み、人事施策として何をすべきなのかを経営メンバーと対話をしていくことがとても大事だと思っています。

Q3:今おっしゃった「対話」とは、具体的にはどのようなことをされるのでしょうか?

新家:例えば、今年度から事業戦略検討の時間を拡張し、人事戦略について議論するプロセスを組み込んでいます。
現状としてはまだまだ人材の情報が可視化されてない状態です。まずはヘッドカウント(量)、その後JD(ジョブディスクリプション)を導入し情報を可視化することで、量と質の観点で施策実行と検証を回せるようにしていくことが大事だと考えています。
つまり、「もとめられる成果を出すために、何をする人が何人必要か、そのレベルはどれぐらいか」の議論を繰り返しながら施策と効果の検証がぐるぐる回るような仕組みを作っていき、そのサイクルを通じて人事施策をレベルアップさせていきたいと考えています。

Q4: 今の新家さんのお話を聞かれて、西村さんはどのようにお感じでしょうか?

西村:私どもが理想としている「経営戦略と人材戦略をしっかり連動させる」ということを、正に体現されていると感じました。
新しい事業をやる決断は経営的な目線で行うものですが、実際にその事業をやっていくのは人ですので、どのように人材をそこに充て、どのように育成していくのか。そこを、人事が経営戦略と一緒に考えていくということを正にやられていますね。
特に素晴らしいと思ったのが、しっかりKPIやメルクマールを作ってそれを見直してPDCAを回していこうと考えられていることです。取り組みを一過性でやるのではなく、しっかりシステム自体を作って根付かせていくことが重要だと改めて感じました。

Q5:新家さんにもう一つ質問させてください。人材のマネジメントの仕組みの構築の中に「自律的なキャリア形成」という項目がありました。これについてはどのようなことに今後取り組まれる予定でしょうか?

新家:パナソニックの創業者、松下幸之助が残した言葉に「物をつくる前に人をつくる」という言葉があります。現状、この「人をつくる」ということが言葉としては陳腐化してしまっていると感じています。従来のハードウェア事業は得意分野であり、人材要件も明確でしたが、我々がチャレンジしようとしているソフトウェアの領域については社内にノウハウが多く存在するわけではなく、誰かが教えるということがなかなかできません。
したがって、外部から知見のある方に来てもらい、新たに学んだ人がその周りの人のたちに伝播していくような「ラーニングカルチャー」を醸成させていくことが大事だと考えています。この考えに基づき、これまでの一律的な研修ではなく、学びを促進する為の組織を2023年4月に設立予定です。研修機関というよりもラーニングカルチャーを醸成することをミッションとして、会社の中で学び合いの文化を築き上げていくことをミッションに掲げるアカデミーとして現在立ち上げ準備中です。

Q6:今、新家さんからお話があった「ラーニングカルチャー」にこれまで取り組まれてこられた森さんに、お話をお聞かせいただきます。森さんがキリンアカデミアに関わられた経緯や思いなどをお話しいただけますでしょうか?

:はい、二つあります。一つ目は、日本マンパワーさんの講座を受けて取得したキャリアコンサルタントの資格を活かして会社に貢献をできないか、ということを2年3年模索していた時のことです。色々と模索する中で、若手が有志活動でやっているアカデミアに参加して「これだ!」と思い、キャリアセミナーを立ち上げて同世代のミドルシニアを元気にしたい、という想いが生まれました。
二つ目は、50歳のときに受講したセルフキャリアドック研修です。この研修で同世代と対話をする中で、会社と家庭しか居場所がないような人に、何か社外の活動やサードプレイスをキャリアコンサルタントの視点で提供したい、と思いました。その二つの想いで、若者と一緒にキリンアカデミア事務局の活動をしてきました。

Q7:森さんのリーダーシップによって、多くのミドルシニアの方々がアカデミアの活動に参加されていますが、参加者の方は、その後行動変容などはあったのでしょうか?

:日本マンパワーさんと共同でキャリアコンサルタント養成講座の説明会を開催したところ、過去2回で400名近い申し込みがあり、「こんなにキャリアコンサルタントに興味があるんだ」とびっくりしました。そして、この説明会参加者から、合計24人ものキャリアコンサルタント有資格者が生まれました。会社が掲げる「自律的なキャリア形成」に貢献できていると感じております。
また、資格取得後、社内外で様々な活動をする社員が出てています。アカデミアから派生した、そういった活動のサポートもしていきたい、と思っています。
人事部にもちょっと動きが出てきたなと思っています。特にシニア向けの取り組みが増えました。例えばイキイキと働いている人やセカンドキャリアとして出身地に戻って活躍している人にスポットを当てて、その活動や思いを発信しています。手前みそですがアカデミアの影響なのかな、と思っています。

Q 8:アカデミアの取り組みの中で、キャリアコンサルタントが倍増したという話がありました田中さん、今の話を聞かれて、感じられたことなどありますでしょうか?

田中:私もキリンアカデミアさんに登壇させていただいて感じているところは、主体的な学びを促す非常に良い刺激的な取り組みになっている、ということですね。人的資本の価値向上に資する取り組みと言い換えてもいいかもしれません。
●主体的に学ぶためにはどうしたらいいのか
では、逆に主体的に学ばないのはなぜか、学ぶためにはどうしたらいいのかも考える必要があります。それについては、2つのアプローチがあると思います。一つは「学ばないとまずいぞ」という不安の喚起や刺激です。もう一つはポジティブな「学ぶ喜び」の喚起です。
①学ばない不安
「学ばない不安」については、越境的な情報提供、例えば社外の人を連れてきて話してもらうことで「今まで自分が持っていたものの考え方や見方がちょっと通用しないぞ」というような感覚を持ってもらえる疑似的な経験の提供という方法があると思います。
②学ぶ喜び
もうひとつの「学ぶ喜び」は学びの動機づけです。キリンアカデミアの中では「学んだら価値あるものが手に入りそうだ」という実感と「自分にもできそうだ」という動機付けの両方を提供するプログラムがたくさん開催されていて、それが主体的な学びに繋がっていると感じました。キャリコンサルタントの講座もその一つだと感じています。
●キャリアコンサルタントが役に立てること
また、「何が価値か」がわからない、あるいは「できそうなことがわからない」と悩んでいる人に、キャリアコンサルタントが役に立てることは多いと思います。自分で考えても難しいときに、キャリアコンサルタントという「信頼できる他者」との対話を通じて「本当はこれを手に入れたかった」とか「頑張ればできそうだな」というような実感を得て頂けるような学びができると思います。

Q9: 田中さんありがとうございます。人的資本経営におけるキャリアコンサルタントの役割にも触れていただいたと思います。森さんにもう一つ伺わせてください。
キリンアカデミアのビジョンとして「挑戦風土」と書いてあります。本気で風土を変えて根づかせると書かれていらっしゃいますが、この「本気で風土を変える」というのはどのようなことなんでしょうか?

:そもそも若手がアカデミアを始めた理由が、同期や周囲の若手が辞めていったことでした。キリンってこんなに良い会社なのになぜやめていくんだろう、みんなが挑戦できたりワクワクできたりするような会社であれば、もしかしたら辞めなくても済んだかもしれない。そういう思いで立ち上げたので、その思いを脈々と受け継いでいく上でも、このビジョンは必要だと感じています。
月1回のミーティングでは、メンバー7人全員が、まずは自分達がワクワクできるか、挑戦できているかを確認しながら企画を進めています。私も若手に感化され、年甲斐もなく熱い思いを語っています(笑)

Q10: 人的資本経営の中でも「組織文化」は非常に重要な項目になっています(※)。パナソニック コネクトでも重要視されていると思います。御社における組織文化についていかがでしょうか?

※補足:「人材版伊藤レポート2.0」32ページより抜粋
「自社の競争優位を支えている社員の行動や思考の傾向を企業文化 として明らかにし、それを維持しつつも、新たな人材戦略の下でさらに進化させていくように努めることで、企業を取り巻く環境が変化する中でも、 持続的な企業価値の向上に繋げることが可能となる。」
新家:はい。私たちの会社は本年4月に発足しましたが、2017年4月に社長の樋口が就任して以来、「改革でまず最初にやるべきことは会社のカルチャーを変えていくことだ」と強調してきました。改革を3階層に分け、1階層目をカルチャー&マインド改革として掲げ、「一人ひとりがイキイキと働ける」ためにカルチャー改革に取り組み続けています。
企業としては成長に向けて新しいことにチャレンジしていく必要があり、時には苦しいこともあります。しかし、その苦しさをチームとして乗り越えていくためには良いカルチャーがないとできません。
その想いでこの5年間、厳しい社内改革を乗り越えてきて今があると思っています。今までの5年間を振り返ると、カルチャー変革に取り組み続けたことは非常に大切なことだ、と再認識しています。これからも企業文化は変わらず大切なものであり続けると思いますので、良いところを育み、正しいことをきちっとできるような会社にしていきたい、と考えています。

Q11:最後に。皆様にとって「人的資本経営」とは何でしょうか?

西村:本日、様々なお話を伺いまして私としても大変学びになりました。政府・経産省としてはしっかり経営戦略を考えた上で、それと連動する形で人材戦略を考えていただくことが重要だと考えています。経営戦略からのトップダウン的な発想がある一方で、キリンアカデミアさんのようなボトムアップ的な取り組みもあると思います。そういう双方向のやり取りが生まれてくるのは、すごく健全なことだなと思います。その中で社員と会社が同じ方向でそれぞれの目標を達成していくことが大事なのだなと、改めて感じました。
新家:私は会社生活の大体30年ぐらいこの人事の仕事をやって来ましたが、今が一番充実して楽しいな、と思っています。人的資本経営や人に対する投資が、投資家含めて社会的に注目される流れがある中で、今まで人事だけで考えてできなかったことが経営の課題として会社全体で捉えてもらえるような環境になってきています。
この追い風の中でしっかりと今まで自分がやりたくてもできなかったことや、会社の成長に繋がるチャレンジをできる時期になってきたのではないか、と感じています。まだまだ答えは見つかってはいませんが、自分なりに考えた人的資本経営を具現化していくと共に、社員それぞれの立場で切磋琢磨しながら取り組んでいくことが大事だと思います。
:私どもの社長はことあるごとに「会社に何かあっても人とブランドがあれば再建できる」と。つまりそれぐらい「人とブランド」はキリンにとって大切なものだというメッセージですね。私達もそれに応えていきたいと思います。
キリンアカデミアの活動が、社員の学び直しやモチベーションアップのきっかけになれば活動の意義を感じます。個人的にはミドルシニアのセカンドキャリアを輝かせたいですね。
田中:以前から、「人への投資を厚くしたり人材価値を上げようとしたりすると、逆に人材が流出するのではないか」という不安の声を人事の方から多くお聞きしてきました。しかし、これからは人の価値を上げようとする会社ではないと、むしろリテンション(人材流失防止施策)が効かなくなるのではないでしょうか。
人に対して投資をして価値を上げることができるような会社に人は来るし辞めない。そう考え、「腹をくくって」施策を打つ必要があると感じています。人的資本経営とは、そういう覚悟を問われることでしょうし、何よりも私自身そうしていきたいと思っています。
★日本マンパワー キャリアコンサルタント養成講座のご案内