社会人や企業人の学びの潮流を俯瞰するとともに、新たな学びに挑戦する現場のレポートを行い、これからの働き方やキャリアの道筋を描く上で「本質的に考えるべきこと」を解明していくことを目的としてスタートしたシリーズ「学びのこれから」。
第4回は、阪和興業株式会社が本年2022年6月に立ち上げた企業内大学「Hanwa Business School」の事例についてご紹介しています。記事後半では、なぜメタバースで展開されたのか等をお聞きしました。
【後編目次】※クリックすると各章にジャンプします
Q7:Hanwa Business School(企業内大学)をメタバースで展開した理由
Q8: 大学の対象層について
Q9:現時点で感じている課題など
Q10: 企業内大学の可能性 「どうありたいのか」やキャリアを考える場として
Q11:Hanwa Business Schoolを通じて叶えたいこと 究極的な目標は学習する組織
Q12:社員の学びを支援する研修会社への期待
Q7:Hanwa Business School(企業内大学)をメタバースで展開した理由
Q8: 大学の対象層について
Q9:現時点で感じている課題など
Q10: 企業内大学の可能性 「どうありたいのか」やキャリアを考える場として
Q11:Hanwa Business Schoolを通じて叶えたいこと 究極的な目標は学習する組織
Q12:社員の学びを支援する研修会社への期待
★記事前編はこちら
Q7:前半でお話をお聞きしていて、「自分たちで考えて自分たちで動く」という御社の理念が「Hanwa Business School」での学び方にも反映されている点がとても興味深かったです。次に、なぜ「メタバース」として展開されたのかを教えて頂けますか?
当時の社長(現会長)の発想です。「教育というのは、やらされるものじゃなくてやるもの」という考えで、70歳を超えながら中国語や英語を、いまだに勉強しているんです。すごい話ですよね。そうは言っても「若い社員には何か動機付けとなる新しい仕掛けが必要なのではないか」とも言われていました。
また、私ごとになりますが、娘が高校生のときに独学で普通にゲームを作ってしまったんですよ。どうやって作ったのかを聞いたら、アメリカのYouTubeでPython(プログラミング言語)のやり方を全部説明してくれる動画を見て、その通りにやったらできちゃったと言うんです。
娘の事例に限らず、この数年、研修に携わる中で、実はコンテンツの中身よりも「やる気スイッチ」や見せ方が重要なのではないか、と感じていました。
トップのリクエストやこうした経験からメタバースが生まれました。理想形を言うと、例えば研修を受けたらコインをもらえてポイントが付くとかアバターがどんどん教授みたいになっていく。それによって同僚が「すごく勉強している」ことが一目瞭然になり、学習意欲も高まるなどの効果が生まれれば良いなと思っています。
現在の回線容量ではできないのですが、想像できることは近いうちにできるだろうと思っています。ゲーム性を持つとすごく楽しくなるし、見せ方もとても重要です。継続的にプラットフォームに入ってゲーム感覚で空き時間に勉強すると、人は絶対伸びると思います。まず、その基礎を作ったので、これからどんどんアップグレードしていかなければいけないですし、課題もいっぱいです。トップの発想に乗っかって、とても良かったと思っています(笑)。
Q8: 素晴らしいですね。大学の対象層については、どのようにお考えでしょうか?
全社員です。海外については赴任している正社員対象ですが、将来的には現地のナショナルスタッフも対象にしたいと思っています。アバターであれば、24時間365日関係なく集まることができますし、大学なので、サークル活動などもできます。学園祭をしても良いし、ビジネススクールのプラットフォームの中で経済圏ができてNFTなどを使いながら出店もできます。そういった経済圏を使いながら、本当のメタバースの実験を行う可能性もあります。
Hanwa Business School 講堂
現在は外国語学部もあって社員は必死に英語や中国語などを勉強していますが、将来的に言語の自動翻訳が導入されればアバターが日本語で喋ったら各国語に翻訳される可能性も生まれると思います。それによってコミュニケーションがもっともっとフラットになりますし、多様なビジネスのアイデアもそこで生まれるでしょう。研修だけではなくて会議なども開催してもられる環境を想定して大学というプラットフォームを作りました。
社員同士の多様な交流の場にもして欲しいですし、将来的にはお客様にも参加していただけるような多様な場を作っていきたいと思っています。
社員同士の多様な交流の場にもして欲しいですし、将来的にはお客様にも参加していただけるような多様な場を作っていきたいと思っています。
酒井:素晴らしいですね。今年はWeb3.0元年と言われていますが、その実験の場にもなっていきますね。
堀:はい。本当の意味での実験をすればいいと思うんですね。技術的にもわからないところが多々あって、怖い部分もあるのですが、社内のイントラネットなら失敗してもいいので「やってみようぜ!」の精神で取り組んでいます。
Q9:立ち上げをされて、現時点で堀様がお感じになっている評価や課題はどのようなものでしょうか?
いま一番課題感を持っているのは、新しいものに対して、社員が何となく「難しい」という苦手意識を持っていることです。アップデートを何回もしなければいけなかったり簡単に入れなかったりすることも起こっていますが、ZOOMもTeamsも最初は苦手意識が先行していた中、コロナ禍によって普通にやり始めましたし、YouTubeも出てから5年ぐらい経っていろいろな商売が生まれてきましたよね。そのように新しいプラットフォームは登場しておおよそ5年後ぐらいにインフラや設備が整ってきます。
このビジネススクールは今年の6月に導入しましたが、正直のところまだ限られた社員にしか使われていません。今後の課題としては、当社の文化として醸成していく必要があると考えています。
本当になくてはならないプラットフォームにしていく。
教育って、やらされる感だと「やる気スイッチ」が全く入らないので、興味を持って楽しいものだと思ってもらえる工夫が必要です。仕事面ではフラットな評価をしていく一方、学びの場では上司部下関係なくいろいろと学ぶことのできる環境を作っていくことがすごく重要だと思います。まずは3人体制でスタートしましたが、2030年に向けて一つの事業となるぐらいの規模感を持ちながら進めて行きたい、という考えで取り組んでいます。
教育って、やらされる感だと「やる気スイッチ」が全く入らないので、興味を持って楽しいものだと思ってもらえる工夫が必要です。仕事面ではフラットな評価をしていく一方、学びの場では上司部下関係なくいろいろと学ぶことのできる環境を作っていくことがすごく重要だと思います。まずは3人体制でスタートしましたが、2030年に向けて一つの事業となるぐらいの規模感を持ちながら進めて行きたい、という考えで取り組んでいます。
Q10: 自分で学ぶプラットフォームとして企業内大学を作られた中で「何を学ぶか」の前に「何をやるか、どうありたいのか」を考える場、キャリアを考える場の可能性については、どのようにお考えですか?
キャリアも重要だと思っています。キャリア教育についてもアメリカでの駐在経験から学びました。アメリカでは、小学校からキャリア教育をして、将来何になりたいから、どういう勉強をしたいからどういう大学に進むのかを自分で考えさせます。偏差値が良いから良い大学や学部をめざすという発想とは全く異なります。日本でも、小学校や中学校からキャリア教育はやるべきだとすごく思っています。
弊社では、50歳以上を対象にキャリアライフ研修を通じて内省を高めることを今年から始めました。加えて、3年目5年目10年目といった節目の研修で内省する力を養うようにします。年次別にやっていますが、本来ならキャリアは、例えば子供が生まれたり家族ができたりする人生のステージによって一人ひとり異なるものです。
大学にキャリアセンターがあるように、将来的にメタバース空間上や会社の中でもキャリアの相談室を設けて、「こういう勉強をしてみては」とリスキリング的な研修を導入することを考えています。
「こういう役職につきたいんだったら、こういうスキルが必要ですね」といった相談に乗ってあげる。キャリアこそ、その人に合わせてカスタマイズすることが絶対必要だと思います。それを実施するには人も必要になってくるので、シニアの方々が社員の相談に乗ってあげるメタバース上のキャリアセンターになればいいと思います。
ただ、 内省するということは自己解決である以上、壁打ち相手はメタバースやアバターではなくて、相手の表情がわかる対面の方式で行うことが重要だとも思っています。
「こういう役職につきたいんだったら、こういうスキルが必要ですね」といった相談に乗ってあげる。キャリアこそ、その人に合わせてカスタマイズすることが絶対必要だと思います。それを実施するには人も必要になってくるので、シニアの方々が社員の相談に乗ってあげるメタバース上のキャリアセンターになればいいと思います。
ただ、 内省するということは自己解決である以上、壁打ち相手はメタバースやアバターではなくて、相手の表情がわかる対面の方式で行うことが重要だとも思っています。
Q11:さきほど文化醸成という話もありましたが、Hanwa Business Schoolを通じて御社あるいは御社の社員にどうなってほしいと思われるでしょうか?
「自分で取りに行って欲しい」というのが基本です。2030年のあるべき姿に向けて質的ギャップを埋めていきましょうと申し上げましたが、2030年に何が起こるのかなんて、実は誰も予測できないかもしれません。5年前10年前にメルカリの存在は予測できなかったし、Uber Eatsが破壊的なイノベーションを起こすなんて誰も思ってなかったですし、Amazonがこんなに市場を席捲するなんて思っていなかったですよね。なので、まずは「今、何が必要か」という問題意識を自分で設定して質的ギャップを感じて、自分でそれを埋めていく。
これを個人でも組織でもやっていく「学習する組織」が僕の中では究極的な目標です。
Hanwa Business School Hanwa Knowledge Hub
学習する個人であり学習する組織を、誰かに言われることなく、しかも画一的に勉強するのではなく、人によって異なる勉強をして、それが集まった時に足りないものを更に学んで補っていく「個と組織の相乗効果的な学習をする集団」にできればいいなと思っています。
Q12:では最後に、社員の学びを支援する研修会社への期待はどのようなものでしょうか?
研修会社さんへの期待は高いです。我々には、未来に関する研修はわからないんです。
研修は、どちらかというと事象を埋める過去の話になりがちです。だからこそ、研修会社さんは「未来を考えたりつくりだすこんな研修がありますよ」とか「成功するかわからないですけどこういう面白いプログラムがありますよ」と提案するクリエイティブな仕事である必要があると思うんです。一人ひとりにカスタマイズされたコンテンツを提供するという考え方で、我々が着目できない視点ややり方を提案して頂けると、新たな発見が生まれると思います。人的資本経営の考え方に基づいて一周回って禅寺行きましょうとか(笑)。
キャリアのこれから研究所プロデューサー。美大の大学院に飛び込んで
自ら創造性の再開発を実験中
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