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ウェルビーイングの国スウェーデンより(後編)

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2023.6.13


前編では、小林さんがスウェーデンに移住された経緯や、住んでみて見えてきたものをお聞きしました。後編では、もう一歩踏み込んで、スウェーデンのリアルについて伺いました。※前編は、こちら
お話を伺ったゲスト: 北欧ウェルビーイングプロジェクト代表 小林麻紀さん
インタビュアー: キャリアのこれから研究所所長 水野みち

※小林さんの詳細なプロフィールは、こちら

1:スウェーデンの良くないところをあえてあげると、どこですか?

◆ポリティカルコレクトじゃないと生きにくい
先ほどお話ししたスウェーデン人のピュアさですが、もしかしたら、彼・彼女らが世間知らずだからだと言う人もいるかもしれません。スウェーデンの良くない点をしいてあげるとすると、インテグラル理論(※1)でいうところの、非常にグリーン(※2)な国であることだと思います。
※1インテグラル理論:ケン・ウィルバーが提唱した意識の発達段階で、ティール組織にも用いられている理論です。
※2グリーン:ティール組織で言われる「グリーン(多元型)」とは、より個々人の価値観と多様性、人間らしさが重視される組織や社会を意味します。
ウィルバーは、著書「インテグラル理論」の中で、一見素晴らしいと思われるグリーンでも、ナルシシズムがくっついて硬直している状態をグリーンの弊害として指摘しています。
先ほど、自分が自分でいられると言いましたが、それは彼らのこの民主主義の価値観に沿っている場合のみなんです。とてもポリティカルコレクト(政治的な正しさ・特定の誰かを排除しない態度や表現)な国なのでポリティカルコレクトじゃないとすごく生きにくいです。

◆アイデンティティクライシスを起こすかもしれない
私はスウェーデンに合計8年住んでいますが、いまだにスウェーデン語を話す機会がないんです。なぜなら、スウェーデン人はその場に1人でも外国人がいたら、スウェーデン語ではなく、全部英語に切り替えて話してくれるからです。それが、多文化主義のスタンスとして、全員が全員をハッピーにするための行動なのです。
素晴らしいことですが、どこかで、スウェーデンの人たちが、アイデンティティクライシスを起こしてしまうのではと少し心配でもあります。

◆難民の増加
去年2022年末、政権交代があり、移民政策反対の右派が大躍進しました。寛容だった移民政策に対する異論が大きく影響していると言われます。実は今、スウェーデン人口の2割にあたる約200万人が外国生まれなんです。
想像してみてください。日本で人口の2割が外国人だったら結構なインパクトですよね。以前はフィンランドやヨーロッパ内の移民が多かったのですが、歴史的に難民保護をアピールしてきた国なので、最近は、中東シリアや、アフリカのエリトリア等からの移民も増えています。昨今の国際情勢から、難民の層がものすごくぶあつくなり、そこが今、色々な問題を生じさせています。
旅行で訪れると、スウェーデン人は金髪碧眼、みんな美男美女という印象かもしれません。でも、住んでみると、違う景色も目に入ります。ストックホルムから、地下鉄で15分ぐらい南の方に行くとゲットーのような貧困地域があり、アフリカ系・中東系の移民や難民の方がたくさんいます。そういう街がポコポコと郊外に広がってきていて、失業者らしき人が日中うろうろしている景色もあるのが、今のスウェーデンです。
別に悪いことをしている人達ではないのですが、この社会にインテグレーション(統合)を全くされていない人たちが周辺に追いやられてしまっている、日本人には想像し難い異様な景色でもあります。平等教育が浸透し、機会に溢れる国である一方、それらの価値や機会が実はうまく全員に行き届いていなかったり、一部の移民・難民によって治安や福祉が脅かされるのではないか、という不安の声が高まったりしている現状もあるのです。
<上の写真は、2017年夏頃、難民の強制送還に反対するデモの一コマ。ストックホルムの国会議事堂近く。>

◆グリーンな社会の揺り戻し
先ほど話した移民・難民がインテグレートされていない問題、2011年のシリア難民危機から発生した新しい問題かというと、そうではありません。私はこの分野にとても興味があり、2013年頃からこの問題を追ってきましたが、難民問題以前から、この平行社会のような形態は完成していました。しかし、その統合されていない外国人については公に言葉にされず、問題提起できないという暗黙のルールが下地にありました。実際、この問題に触れると、「まき、それについては(みんな思っているけど)言ってはいけないよ」と諭されたことが何回かあります。
スウェーデンは、表面上は人々を平等に扱ってくれる国ではあるのですが、それによる問題もあるということです。そのせいで、右派の政党の支持率が年々伸びていきました。去年まで、スウェーデンはSDGsでNo1ですと私も言えていたんですが、政権交代により、これまで行われてきたサステナビリティの方針が変わってきています。例えばグリーンエネルギーへの投資が見直されたり、鉄道ではなく高速道路の補正に予算を当てられたり、ということが起こっています。

◆発達に必要なゆらぎ
ただ、インテグラル理論的に言うと、きっとこのダイナミックの中に、その次に進むものがあるのではないかなと思います。スウェーデンが長らくグリーンの文化を作り、維持し、グリーンの政策的立場を取ってきたことで、自分たちの限界に差しかかり、葛藤とともにゆり戻しが来ているこの状況は、直視しなければいけないと思っています。
<上の写真は、2017年夏、Welcome Refugee Stockholmで難民支援ボランティアをしていた時の、牧歌的な一コマ。シリア、イラン、イラクなど様々な国の難民とボランティアが集っている。真ん中が小林さん。
「ほとんどの難民は善良で、きちんと仕事を持ちスウェーデン社会に貢献したいと思っているが、短期間に大量に押し寄せる人々への対処は困難を極めているように見えた。ウィルバーの言う『発達段階』の異なる社会からきた難民の受け入れ方や統合の仕方には問題があった。今の状況をスウェーデンが創造的で平和的な方法で解決することを願う。」小林さん談>

2:スウェーデンから見た日本は?

◆なぜ幸せじゃないのかが分からない
スウェーデンから見た日本は、すごく良い国です。ウェルビーイングがなぜ低いのか分からないというのが感想です。スウェーデンは今でこそ先進国で幸福度も高いですが、もともとはヨーロッパの最貧困地域で、移民の排出国でした。
ただ、エリクソンのような大企業が誕生したり、幸い戦争に200年間参加してなかったり、彼ら自身の努力もあって、今に至ります。その状況に比べると、日本という国は豊かで安定していて、皆さん優しくご飯も美味しく、全てがうまく回っていて、幸せになれない要素がスウェーデンから見るとないんです。

◆自尊心の低い日本人
海外の人から見ると、日本人がなぜ幸せじゃないのかが分からないと思います。ただ、それはおそらく外側の要件だけを見ているからなんでしょうね。とても豊かで安全で、人々は真面目で優秀な国。にもかかわらず、自尊心はなぜか低いのが日本人の特徴だと言われます。
実は、スウェーデンでは7割できたらOKなんです。それも、日本人から見たら6割ぐらいの完成度に見えるかもしれません。でも、6割でも気にしないんですよ。
だから、スウェーデン人から見ると日本人は100%できているように見えるけれど、日本人自身が「120%できていないから自分は完璧じゃない」と思ってしまっているように見えます。

◆自分の首を絞めている?
このことは、自分で自分の首を絞めているようにも見えます。働きすぎの問題も、もう自分の仕事が終わっていて、帰ろうと思えば帰れるのに帰らないというのも日本人ならではの特徴かもしれません。
コロナ禍のマスクの例もそうですよね。強制されているわけではないのに、世間体や同調圧力によって、どこか首を絞められている。社内資料も完璧なものが求められるので、スピードが落ちる。企業の中で働いている人たちは、本当はもっとできるし、自由なのに、出来ない、自由じゃないと思い込んでいるように感じます。

3:スウェーデンのキャリア観は?

◆多様な経験が認められる国
スウェーデンでは、様々な経験をキャリアとして見てもらえます。今までの人生の中で、全然違うことをやってきたから時間を無駄にしたという感覚はありません。
例えば「投資家としてこんな視点でやってきたからこそ、医者としてもその視点は活かせます」など、人としての幅みたいなものをストーリーとしてしっかり語ることができれば、そこを評価してもらえる社会です。むしろ1つのキャリアしかやってきていないとなると、他では対応できないと見られるくらいです。それくらい考え方が日本と違うような気がしますね。

◆女性やLGBTのキャリア
日本では、女性が出産・育児でキャリアを断絶するということが問題視されやすいですよね。スウェーデンでは、雇用主が男性を採用していれば安心かというと、全くそうではないです。男性も女性も、16ヶ月くらいの育児休暇を、夫婦ならば2人でシェアしながら取得しなければならない制度があります。それもあって、女性ならではのキャリア葛藤というものは少ないです。 LGBTについても、理解を推進しなければならないという雰囲気すらなくなってきた感じもします。
※補足:スウェーデンでは、子育てしやすい環境づくりのために「パパクォータ―制」と言って、必ず父親が取らないといけない有給育児休暇期間を90日間設けているそうです。また、国の定める育児休暇は子供が8歳まで取得できるそうです(日本は1歳まで)。

4:小林さんの今後の活動は?
私は、日本人は既にウェルビーイングを達成するために必要な全てを持っていると思っています。ただ、それを制度やマインドセットなどが妨げていて、反対に北欧には日本に欠けたその何かががある、相互補完的関係を築くことができる、と考えているので、その両者の架け橋となることが「北欧ウェルビーイング」の活動の趣旨です。
*北欧ウェルビーイングについてはこちら
今取り組んでいるIDGs(内的成長目標 Inner Development Goals)の動きも、これまでナイーブに扱われていた内面の成長へのアプローチを本腰を入れて取り組みやすくするものだと思っています。IDGsは、欧州委員会も認めるSDGsを推進する動きです。
これまでは、ビジネスリーダーが「内面の成長」に取り組んでいると発言しようものなら、「この人は、精神的にちょっと弱いんじゃないか」と見られることもあったかもしれません。そのため、日本の大企業の意思決定者は、自分の弱さを認められないという問題が多分に発生していたのではないかと思うのです。
つまり、自分の心の影・シャドウを見つめる機会が少ない。少し飛躍するかもしれませんが、パワハラをするような管理職は、過労状態にあったり、強いプレッシャーからストレスを溜め込んでいたりしている人も多いのではないかと思います。
または、転職経験がなく、今の会社での1本道しか想像できず、そこから外れることに非常に恐れを感じている。恐れがこうじて、社内政治を繰り広げたり、弱い目下の人にあたったりということもあるかもしれません。
IDGsは、管理職はもちろんのこと、従業員一人ひとりの内的成長を通じて、組織風土等の問題を解決するきっかけにもなりうると思います。
水野:小林さんの想いと願いを語って頂きました。
みなさんは、何を想いましたか?私は、外から見た日本がウェルビーイングを達成するための全てを既に持っているという言葉に大変勇気づけられる気がしました。そして、必要な内面の変容に意識が向きました。日本もまた、大きな進化の岐路に立っているのかもしれません。

小林麻紀氏プロフィール

スウェーデン在住の起業家、ホリスティック・ウェルネスインストラクター。 一橋大学法学部卒、ストックホルム商科大学General Management修士取得。 大手メーカー、大手総合商社、外資系コンサルタント、海外スタートアップCOOを経験。
一方、副業でヨガ・笑いヨガ・呼吸法のインストラクター資格を取り、2022年には呼吸法・寒冷暴露・瞑想で心身をととのえるオランダ発の究極の健康法「ヴィム・ホフ・メソッド」で日本人女性初のインストラクターとなる。
2022年11月よりイノベーションを促進するためにスウェーデンで新設された「会社員が起業するための6ヶ月の無給休暇」を取得し、幸福先進地域・北欧から、日本のウェルビーイング向上につながるヒントを届けるため「北欧ウェルビーイング」プロジェクトを立ち上げた。
★北欧ウェルビーイングのサイトはこちら


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