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キャリこれ

NCDAグローバルカンファレンス2023に参加して(前編)~アメリカのキャリアカウンセラー事情~

連載記事

2023.7.31


先月からスタートした連載「キャリア×グローバル」。
この連載を通じて、世界各国のキャリア観やキャリア支援のトレンド等をお届けしています。今回はアメリカのキャリアカウンセラー事情をご紹介します!
記事執筆:キャリアのこれから研究所所長 水野みち

1.テーマは「世界中のキャリア開発」
2023年6月25日~7月1日まで、NCDA(全米キャリア開発協会・National Career Development Association)グローバルカンファレンスへ参加してきました。実に3年ぶりのアメリカです。
今年のカンファレンスのテーマは「Career Development Around the World(世界中のキャリア開発)」でした。サブタイトルは「Making Connections and Increasing Access to Impact the Global Labor Market
(つながりを作り、アクセスを増やすことで世界の労働市場に影響を及ぼそう)」です。
本年度会長Lekeisha Mathewsは、国内だけではなくグローバルなダイバーシティにも注力し、世界に開かれ、つながり合うNCDAにしたいという想いを持って様々な取り組みに注力されていました。グローバルな参加者を歓迎するディナーを開催したり、DE&Iのスペシャルシンポジウムを最終日の翌日に企画したり、ダンスパーティでは世界の曲を流したり、など。
上の写真の女性がLekeisha Matthews会長。パワフル&フレンドリーという印象。小学生の娘と旦那さんも一緒に参加している姿にほのぼのしました。
今回、みなさんも一緒に参加した気分になれるようにNCDAの大会参加レポートを3回に分けてお届けします!
~ご参考~
【2021年のオンライン参加の様子】
https://future-career-labo.com/2021/06/30/mizuno12/
【NCDAについて】
NCDAは、1913年に発足された歴史あるキャリア開発の学会です。発足当時はNVGA(National Vocational Guidance Association)という名前でした。1985年にNCDAに変更。
兄弟組織にはACA(American Counseling Association)やAPCDA(Asia Pacific Career Development Association)などがあります。JCDAもNCDAの最初の国際提携機関でした。
NCDAの歴代会長には、ドナルド・スーパー博士、ナンシー・シュロスバーグ博士、ジョアン・ハリス・ボールズビー博士など、キャリアの理論家や専門家の名前が連なっています。

2.今年のNCDAはシカゴ!
さて、今年のNCDAはオンラインではなくリアル開催。毎年開催地が異なるNCDAのグローバルカンファレンスですが、今年は多様性豊富なイリノイ州のシカゴでした。
シカゴと言えば、ジャズ、バスケットボールチームのブルズ、マイケル・ジョーダン、建築物、壁画、たくさんの博物館や美術館で有名です。開催場所はダウンタウンのベイエリアにあるSheraton Grand Riverwalk Hotel。100以上のプレゼンテーションを3日間開催するには大きなホテルが必要です。
ホテルのレイアウト。3階分が全て貸し切りでした。ホテル内はとても寒い…
到着した当日、ダウンタウンを散策すると、ほとんどのビルがレインボーカラーに照明演出されていました。6月はシカゴのプライドマンスだったようです。LGBTQを誇りに思い、サポート・応援する気持ちを表す月間に町中で参画しているのが印象的でした。
●シカゴ・プライドマンスについてはこちら↓
https://www.choosechicago.com/articles/festivals-special-events/chicago-pride-month/
レインボーカラーにライトアップされたビル
アイスクリームミュージアムの近くの信号機。
こういうのもアートになるところがアメリカらしいです。
カナダの山火事によりシカゴにも有害スモッグが流れてきているらしく、コロナ感染防止ではない理由でマスクをしている人がちらほらいました。気候変動で起きる山火事も深刻です。

3.NCDAへようこそ!
NCDAの大会は、ほとんど全員がキャリアカウンセラーやキャリア支援者なので、とっても温かい人ばかりです。初めて渡米する人にはとてもお勧めの大会です。
受付でも早速「Welcome!」という笑顔でお迎えしてもらいました。名前を伝えると、名札とグローバルディナーの参加チケット、書籍の割引券を渡されます。今年は節約されているのか、バッグやペンなどのノベルティや、印刷された大会情報はありませんでした。大会用のスマホアプリ導入も大きいのかもしれません。
名札は属性により色分けされていました。さらに名札の下に好きなリボンを付けられるようになっていて、自分らしいオリジナルのデコレーションが出来るのも特徴的でした。
【参加者の主な領域】
– 学校のキャリアカウンセラーおよびスペシャリスト
– 高等教育キャリアカウンセラーおよびスペシャリスト
– 個人開業、ビジネス&インダストリー、エージェンシー
– カウンセラー教育者および研究者
名札につけるリボン。自分自身の持つ資格名や属性をつけたり、「変化の源になろう!」などのメッセージをつけたりすることで、初めての人同士でも話題ができます。

4.大会を盛り上げるキーノートスピーカーたち
大会は100以上のプレゼンテーションやラウンドテーブル、ワークショップがあり、それぞれ並行開催なので好きなセッションを選んで参加する形式です。
キーノートスピーカーは大会の目玉として約1000名が入る大会場で開催されます。今年も豪華なキーノートスピーカーたちでした。理論家というよりも、専門性の高いバックグラウンドを持つ実践家であり、心に沁みるプレゼンテーションのプロという印象でした。
タッカー・ブライアント氏
タッカー・ブライアントは受賞歴のある詩人。
スタンフォード大学を卒業後、グーグルのプロダクト・マーケティング部門に就任。その後、独立して企業の成長支援に従事。
タッカーは、リーダーシップとイノベーションに変革をもたらす手段として、組織に詩的な概念を取り入れることに挑戦している。オンラインで数百万ビューを集める彼のストーリーは、TEDx、The Prince’s Trust(英国)をはじめ、世界中の数多くの組織で紹介されている。また、マーク・キューバン、ビル・ベリチック、ゲイリー・ヴェイナチャック、アービン・マジック・ジョンソンなど、フォーチュン500に名を連ねる企業の創業者や経営者たちとステージに立つ機会に恵まれている。 ※ブライアント氏プロフィールはNCDAカンファレンスページより引用
●YouTube動画はこちら↓
https://youtu.be/L3-DEmTOeAE
ブライアント氏は、ビジネスでは軽視されがちな感性と、その表現方法としての「詩(ポエム)」の良さを私たちに伝えてくれました。そして、内的エネルギーの発露がいかに大切か、それが人生におけるパーパスの探求につながるということを教えてくれました。
モニカ・P・バンド博士
LPC、精神分析医、NCC、CRC、ACS、CCC、CCCEでもあるモニカ・P・バンド博士。ワシントンD.C.を拠点とするトラウマ・インフォームド・メンタルヘルス・セラピスト、擁護者、教育者であり、メンタルヘルス・ケアの実践、公教育、政策の中で、多様性、公平性、包摂、帰属(DEIB)を統合するための戦略と応用の開発に力を注いでいる。
学術界で経験を積んだ実践家として、すべての人にとってメンタルヘルスの概念をより理解しやすいものにするため、理論や研究をかみ砕いて説明することによって、文化的に対応した実践を推進している。また、マインドフル・ヒーリング・カウンセリング・サービス(Mindful Healing Counseling Services, LLC)のオーナー兼創設者であり、D.C.都市圏で診療所を開設。現在、バージニア州フェアファックスにあるジョージ・メイソン大学の臨床メンタルヘルス・カウンセリング・プログラムで教鞭もとっている。
バンド博士は、米国カウンセリング協会で長年にわたり奉仕的リーダーシップを発揮してきた。特に現在は、Association of Multicultural Counseling and Development(多文化カウンセリング開発協会)のアジア系アメリカ人太平洋諸島出身者問題担当副会長を務めるほか、ACAの反人種差別委員会の発足メンバーでもある。また、Asian Mental Health CollectiveやAsian Mental Health Projectといった素晴らしい組織と協力し、時間と専門知識を分かち合っている。
バンド博士は、AAKOMAプロジェクトなどの優れた非営利団体の専門家としても活躍している。 ※バンド博士プロフィールはNCDAカンファレンスページより引用
バンド博士は、精神分析医として、私たちにとっていかに「つながり」が大切かを説いていました。
Vivek Muthy博士の調査によると、孤独感を味わい続けると、1日に15本のタバコを吸うのと同じくらい死亡率が上がるそうです。孤独から脱するためには、社会的つながりやコミュニティが大切です。そして、助けを求めるという行為は、「つながり」を増やすことにつながります。
一方で、他者に助けを求められないという人は多いものです。
なぜでしょうか?
助けを求められない人にその理由を聞くと、「相手をがっかりさせたくない」「自分で何とかできる」「相手だって自分のことでいっぱいなはず。重荷になりたくない」「なんとか自分でやらなければ。他の人から情けないと思われたくない」「私は頼られる存在だ。逆はない」「自分の弱さを見せると、足をすくわれる」「何の助けを必要としているかさえ分からない」などの答えがあがります。
バンド博士は会場で「これらの共通点は?」と問いかけた後、こう続けていました。
「このように思ってしまう私たちは、自分のことを自分でやるということは自律的であり、強さであり、大人になるにおいて必要な能力だという前提があるのです。しかし、本当にそうでしょうか?」と。
改めて自律と助けを求めることの共存について考えさせられる時間でした。
バンド博士がお勧めする4つの項目は以下の通りです。
1.アウェアネス(自覚的になること):自分の課題、ニーズに自覚的になること。細かく丁寧に自分のニーズを観察しましょう。
2.安心安全な場や人を見つけましょう:自分のことを受けとめてくれて、弱さを見せても安全な相手を見つけましょう。
3.言葉にして、説明しましょう:あなたの状況を話してみてください。
4. 行動を起こそう:アイデアを試してみましょう。そして、それがどう変化したかフォローアップしましょう。
バンド博士いわく、私たちは、あまりにも自律した状態を良しとしすぎていて、自分でなんでもやらなければいけないと思いすぎていることを教えてくれました。
「みなさんは、ニーズが満たされていない時、自分が助けを必要としていることをどれくらい自覚できていますか?ただ寂しい時に傍にいて話を聞いてほしいと言える相手はいますか?そのための声をあげられますか?助けを求められないとしたら、何があなたを引き留めていますか?…」
優しく問いかけられるその言葉によって、まさにセルフアウェアネス(自分への自覚)が高まる、そんな時間でした。
キンバリー・N・フレイジャー博士
キンバリー・N・フレイジャー博士は、米国カウンセリング協会の第71代会長を務めており、米国カウンセリング協会に選出された8人のアフリカ系アメリカ人のうちの1人である。
ニューオーリンズ大学でカウンセラー教育の博士号を取得。ルイジアナ州で専門カウンセラー(LPC)、結婚・家族セラピスト(LMFT)、全米認定カウンセラー(NCC)の免許を取得。ルイジアナ州立大学健康科学センター・ニューオーリンズ(LSUHSC-NO)カウンセリング学科准教授。
2016年から2017年までAssociation of Multicultural Counseling and Developmentの会長を務め、2008年から2015年までメンタリング・プログラムの委員長を務めた。 その他の指導的役割としては、米国カウンセリング協会理事会および執行委員会の委員を務める。 また、Journal of Multicultural Counseling and DevelopmentとJournal of Mental Health Counselingの編集委員も務めた。
また、Journal of Child and Adolescent Counselingの「The Impact of Race, Equity, and Marginalization on Child and Adolescent Populations」という特集号のゲスト編集者を務めた。彼女の研究分野は、社会から疎外された有色人種に対する制度的抑圧とトラウマの影響などである。 フレイジャー博士は、研修、ワークショップ、文化的配慮を適用したベストプラクティスに関するプレゼンテーションを行っている。 ※フレイジャー博士プロフィールはNCDAカンファレンスページより引用
フレイジャー博士のプレゼンテーションには残念ながら参加できなかったのですが、8月以降になると録画視聴が可能になるので追ってレポートさせて頂きます。

5.大会の全体像
今年の大会は、ダイバーシティやグローバル、インターナショナルをテーマにしたものが多かったのが印象的で、より開かれた空気感を感じました。また、DE&Iにともなって注目されるテーマも散見されました。例えば、周縁化された人たちが泣き寝入りして辞めるという「Quiet Leave(静かに離職する)」ということや、アンコンシャスバイアスなどにより小さく傷つけられることが積み重なって自尊心が下がる「じわじわとした見えない攻撃」という意味を持つ「Micro-agression」など。
アメリカではトランプ政権下において、正義と平等の国アメリカの「揺り戻し」が顕在化しました。DE&I教育を止める州が出てきたりしています。コロナ禍で差別問題が浮き彫りになってネット上での一大ムーブメントにもなった経緯もあります。
「Black Lives Matter」という言葉をニュースで目にした方も多かったのではないでしょうか。NCDAのボードメンバーも多様化を進めてきている中、改めてアメリカ国民が持つ、多様性、公平性への願いを肌で感じられた大会であり、多様性の本質とは何か、互いにパワーを分かち合い、よりインクルーシブで共感的な未来とは何かを考えさせられた大会でした。
さて、次回中編では、大会と併設されて開催されたマーク・サビカス博士のワークショップの様子をご紹介していきます!
【中編】 マーク・サビカスによるワークショップ
【後編】 ダイバーシティセッションについて
 ※予定

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