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キャリこれ

マーク・サビカス博士からの学び NCDAグローバルカンファレンス2023に参加して(中編)

連載記事

2023.9.1


6月からスタートした連載「キャリア×グローバル」。この連載を通じて、世界各国のキャリア観やキャリア支援のトレンド等をお届けしています。
今回は、21世紀を生きる人々のために作られたキャリア構成理論の提唱者マーク・サビカス博士へのインタビューをご紹介します。
(NCDAグローバルカンファレンス2023で、博士に取材してきました!)
記事執筆:キャリアのこれから研究所所長 水野みち

1.物語の持つ力
みなさんは、「物語」の持つ力について考えてみたことはありますか?
マーク・サビカス博士は、アイデンティティとは、自分自身の「物語」を生きることだと言います。私たちは社会や家族の物語の中に生まれます。その中で、ずっと他人の物語を生きてしまうと、自分がどうしたいのか、何を大切に生きているのか分からなくなり、虚無感を抱くことがあります。何をよりどころにすれば良いのかが分からなくなるという危機です。
そんな時、自分の物語を語り直し、つむいで行くことで、何が課題なのかが見えてきたり、課題の形が変わっていったりします。自分の物語を語ることは、今ある課題を乗り越えたり、望む世界をつくり出す勇気の源にもなるのです。
~参考:キャリア構成理論について~
キャリア構成理論は、構成主義という新しい視点をキャリア理論に取り入れ、「人は職業行動と職業経験に意味を付与することにより、自らのキャリアを構成する」と考えます。そして、客観的なキャリア(仕事に就いている間の経歴)より、“意味あるストーリー”を生み出す、1つのまとまりとしての主観的なキャリアを重視し、過去の記憶、現在の経験、そして将来の抱負に意味を与える主観的な構成体としてのキャリアに焦点を当てます。
現代人が自分を見失わずに、変化の多い人生をのりきるためには、人生のストーリーを自ら創造しなくてはならないからです。
キャリア構成理論では、アイデンティティ(自分が何者かという問いへの答え)はナラティブ(語り)によって形成され、ナラティブの中に表現されると考えています。
※日本マンパワー 「キャリアコンサルタント養成講座テキスト3 キャリアカウンセリングに関する理論」より引用
私は、NCDAの大会に1999年ごろから参加していますが、ほぼ毎回といっていいほどサビカス博士のセッションに参加しています。サビカス博士のたたずまいや間や表情、声など全てにおいて、本だけでは味わえない「慈愛」を感じるからです。
そんなサビカス博士の在り方は、セッション以外の場でも感じられます。例えば、サビカス博士は、時間があればいつも人目のつくロビーのソファに座り、誰もが話しかけやすい時間を作ってくれています。大会の初めての参加者でも気軽に話しかけることができるようにという博士のオープンさの表れです。
今年の大会でも、サビカス博士のセッションは大人気でした。1日版もあれば、ラウンドテーブルでディスカッションできるものまで、毎日何らかのコマが開催され、多くの参加者でにぎわっていました。サビカス博士が全てを担当するのでなく、お弟子さんが解説部分を複数名で展開するものもあります。
上の写真はサビカスの愛弟子である、Paul Hartung 博士。
Hartung博士は来日したこともあります。

ラウンドテーブルで理論を深める時間

2.サビカス・マジック
そんなサビカス博士の数あるセッションの中で、何と言っても目玉は、サビカス博士による公開キャリアカウンセリングです。
サビカス博士の公開キャリアカウンセリングは、NCDAの中でも「サビカス・マジック」と称されています。
まるで魔法のように、相談者の悩みの点と点が線でつながり、自身の課題の源にあるキャリアテーマや向かいたい方向性が見えてくるのです。相談者は「どうして分かるのですか?当たってます、その通りです!」と込み上げてくる涙をこらえながらサビカス博士に言います。
すると博士は「だって、これらはすべてあなたが言ったことですから。私はただ注意深く聴いていただけです」とほほ笑むのです。
公開セッションが終わると、博士は「今日は、クライエントとしてここに出てきてくれた〇〇さんが私たちの先生でした。ありがとう」と言います。そして周囲の人たちに何を受け取ったのかを聞いていきます。すべてが、とても深い慈愛に包まれた人間性に溢れた時間となります。

デモンストレーション前の様子
サビカス博士のキャリアカウンセリング(通称:Career Construction Counseling)では、次のような問いを相談者に投げかけていきます。キャリアコンサルティングを学んだ人にとってはご存じの内容かと思いますが、2023年度版として少し簡素化されたところもありますので、簡単に問いだけご紹介します。
上の画像はCareer Construction Counseling のマニュアルとワークブック。
オープンリソースとしてサイトにも掲載されています。
子ども向けのワークブックも必見です!
サビカス博士のサイト: www.vocopher.com

~サビカス博士が、キャリアカウンセリングで投げかける問い~

1.あなたがキャリアを構築する上で、私はどのようにしたら、あなたのお役に立つことが出来るでしょうか?
(水野解説:主体を相談者自身に向けるために、あえてこのような表現を使います。
ここでは、何に悩んでいるのか、どういうことがここで明確になると良いか、などを相談者に話してもらいます。その上で、次の問いを聴いていきます)
2.子供のころ、どんな人に憧れましたか?その人のことを教えてください。
(水野解説:アニメのキャラクターや先生など、誰でも良いのですが、親以外であることが大切です。親は、自分で選択していないからです。)
3.頻繁に、好んで見る雑誌やテレビ番組、サイトなどはありますか?
それは具体的に何という雑誌・番組・サイトですか?どんなところが好きなのですか?
4.あなたの好きな本や映画は?具体的なストーリーを教えてください。
5.あなたの好きな格言やモットーは?
6.あなたの一番幼いころの記憶は?あなたが思い出せる3つのストーリーに興味があります。3歳から6歳くらいまでの出来事を思い出せますか?
(水野解説:もし思い出せなかったら、小学校、中学校など少し時代を進めて、思い出せることで良いそうです。その時の気持ちや動詞に注目します)
なお、これらの展開方法やキャリア支援について詳しく学びたい方には、日本マンパワーのキャリアコンサルタント養成講座やJCDA会員向けの更新講習のご受講などをお勧めします。
■キャリアコンサルタント養成講座のご案内は、こちら

3.サビカス博士へのインタビュー
以下は、セッション後にサビカス博士に単独インタビューさせて頂いた内容です。フルバージョンの映像は、キャリアのこれから研究所の新サービス「キャリテラ」や当社の「キャリアコンサルタント養成講座」にてご紹介予定です。
■キャリアのこれから研究所の新サービス「キャリテラ」の詳細は、こちら
※会員登録すると、サビカス博士インタビュー映像(予定)や過去セミナーのアーカイブ映像が視聴できます
(1)クライエントの話を聞くときに意図していること
水野:
You mentioned that stories need a good audience. And what is it that you intend to do when you listen to the client?
サビカス先生は、物語のためには良い聞き役が必要だと言っていました。クライエントの話を聞くときに意図していることは何ですか?
サビカス博士:
First of all, I try to create in the room a sacred space. Because this is a sacred work, talking with a person about their life. So they must trust me, they must feel safe.
And everything I do, tries to communicate respect and I will never hurt you and I will never let anybody hurt you if I can. So they feel safe.
まず第一に、神聖な空間作りから始めます。なぜなら、私たちの仕事は人の人生を扱う神聖なものだからです。クライエントが私を信頼し、安全だと感じられるようにならないといけません。
私は相手を尊敬し、できる限り、相手を傷つけないし、他の誰かからも傷つけられないようにすることを伝えます。そうすることで、安全に感じてもらうのです。

サビカス博士:

And a good audience. If you go to a concert or a theater and the audience keeps applauding. What do you think happens to the performers? They try harder, they enjoy more. They are heard and they are appreciated. If we sit like this, it’s not good.
And the key phrase you said listening to, I always change that to listening for. When if me and you go have a meal tonight, I will listen to you. We will talk and I’ll listen to you. But I’m not working. I’m not being a professional. I’m not trying to help. I’m just we’re listening to each other. Listening for is as a professional. I’m listening to what you’re saying, for certain topics for certain ideas.
そして、良い受け手(オーディエンス)であること。コンサートや劇場に行って、観客が拍手を送り続けると、パフォーマーはどうなるでしょうか?彼らはもっと強く奏で、もっと楽しむ。より聴かれ、感謝される。もし、受け手が腕を組んでふんぞり返って座っていたら、良くないですね。
そして、「話を聴く(to)」というキーワードですが、私はいつも 「意図を持って聴く(for)」と言い変えるようにしています。もし今夜、一緒に食事に行ったなら、私はあなたの話を聴くでしょう。その場では、私は仕事でも、支援者としてでも、カウンセラーとしてでもないのでただお互いの話を聴くでしょう。一方で、意図を持って聴くということはプロのかかわりです。私はあなたの話を、何らかのトピックやテーマを意識して聴くでしょう。
サビカス博士:
So I’m listening for answers to issues. So when I say Who did you admire? I’m listening for your self concept. I’m not listening to.
I’m listening for a person says strong, brave. I’m listening for their reputation or their skills. That’s what I want to hear. That’s what I mean by listening for what do I what I want. More importantly, I want them to hear.
when I ask about manifest interest. When I asked about television shows and websites, I’m listening for one environment, where do you like to be? So when you choose to watch a television show, you are entering an environment. You are placing yourself in some world. when you read a magazine because of vicarious experience in that environment.
So I’m listening for where do you like to be? Where do you like to be? What are your manifest interests? Where is the connection? Inter-est. In Laten inter means in between. So where’s the relation between you and environment?
私は、話を聴く時、クライエントのキャリア課題に対する答えを聴こうとしています。「幼少期に憧れた人は誰ですか?」この質問への返答について、私はクライエントの自己概念を意図して聴いています。問いの答えをただ聴いているわけではないのです。
クライエントが、「私が憧れた人は強かった、勇敢だった」、などと言った時に、私はその人をどう評価しているのか、どんなスキルを持つ人だったと思っているのか、などを語れるように意図して聴きます。クライエントが何を求めているのか、を聴くのです。そして、大切なのは、彼・彼女らが自身の自己概念を聴くことです。
興味については、「あなたの好きなテレビ番組や雑誌、ウェブサイトは?」と聞きます。その際、「この人はどのような環境が好きなのか」を意図して聴いています。好きなテレビ番組を見るということは、好きな環境や状態に身を置くことでもあります。好きな雑誌を読むということも仮想の環境で過ごすことになります。
だから私は、クライエントがどんな環境にいるのが好きなのかを意図して聴いています。どんな場所にいたいのか、明確になっている興味は何か。掲げたものに共通するのは何か?興味(interest)という言葉にはラテン語の「間 inter」という文字があります。環境と自分の間に興味が見つかるのです。
サビカス博士:
Favorite story right now is the script. It’s the plan for what you’re going to do next. So when I asked the person and they tell me a story this morning, I’m not listening to this story. I’m listening “Okay, This is the solution. This is what they’re going to be doing.” And this is so I’m not I’m not hearing listening to the story.
They’re telling as much as I’m listening for how is this their plan? And then favorite thing is advice itself everybody wants advice, give them advice from themselves. You know best.
好きな物語は、脚本を教えてくれます。それは、あなたがこれからやっていきたいことなのです。今朝の(大会での)デモンストレーションでも「あなたのお気に入りの物語はなんですか」と聞きました。ただ物語を聞いたわけではなく、どうしたいと思っているのかを聴きました。「これが解決につながる、彼・彼女らが次にしたいこと」を聴くのです。どうですか?物語を聞いているわけではないですね。
クライエントの話を意図して聴くほど、クライエントはプランを語っているのです。そして、好きなもの自体がアドバイスになります。アドバイスをみんな欲しがりますが、そのアドバイスを自分自身があげられるのです。自分の人生を最も知っているのはあなたですからね。
(2)クライエントが問題に向き合う力を得るためのヒント
サビカス博士:
What do you need to do?
I ask them about three memories during their childhood. Early recollection is not about psycho pathology or psychiatry. Memories are always about today. And how could something from the past be useful today? So I’m listening for perspective. So when I hear that early recollection, I tie it immediately to the problem they brought, these things get tight together. So early recollection gets tied to the problem.
The role model is how I built myself to solve a problem. “These are my interests. This is my plan. This is my advice.” So I’m listening for the one story.
これからどうすれば良いのか?
私は、「あなたの幼少期の記憶を3つ教えてください」と質問します。ここでいう早期回想は精神病理学や精神医学の話ではありません。記憶は常に今の自分を表しています。過去のことが今、どのように役に立つのでしょう?私は観点を聴いています。幼少期の記憶は、クライエントが提示した今の課題と結びつけて聴きます。これらは結びついているのです。回想した幼少期の記憶は課題とつながっています。
ロールモデルは、問題に向き合う力を得るためのヒントになります。このように、私の興味、今後の計画、アドバイスはこれなのか!と、わかってきます。だから、私は一つの物語りを聴いているとも言えます。
(3)早期回想について
水野:
Especially early recollection, many people misunderstand that, like a clinical diagnosis.
特に早期回想は、心理療法のものと誤解されることが多いですね。
サビカス博士:
The early recollection is how am I looking at this situation right now. What in my repertoire of meanings, schemas seems familiar. What is this like?
And as you saw this morning, it’s very clear. It’s like this, not diagnosis. Who are we to make diagnosis perspective? So you could say to the person, you say when we sit down as you’re concerned about this and this, and as you tell me this memory, and sounds so similar.
And then with the sophisticated part is to pay attention to the three memories in order. Because they tell one story. So usually, the first story tells main perspective. The second story clarifies it, and the third story says where some problem could be. So as you heard today, one, two, three… so always listen, it’s called Story sequence analysis. I always listen to the sequence of the three stories, because together they contribute to one big story.
早期回想は、自分が今この状況をどのように見ているか、ということです。自分の人生における意味のレパートリーやスキーマの中で、馴染みのあるものは何かを見つけられるようにします。これはどうですか?という風に。
今朝のデモンストレーションで見てもらったように、それはとても明確です。心理分析ではないのです。誰が診断の視点を決めるのでしょうか(クライエントです)。ですから、クライエントの目の前に座って、何が課題なのかを聴き、幼少期の記憶を話してもらうと、類似点が見えてきます。
洗練された展開としては、3つの記憶の順序に注意を払うことです。なぜなら、それらは一つの物語になっているからです。最初の物語は、主要な視点を教えてくれます。2番目は、それを明確にし、3つ目の物語は、どこに問題があるのかを語ってくれます。今日見てくれたように、私は常に1つ目は?2つ目は?3つ目は?と聴きます。これは物語シーケンス分析とも言われます。私はいつも3つの物語に内在された流れを聴きます。なぜならそれが一つの大きな物語になるからです。

4.終わりに
いかがでしたでしょうか?
皆さまは、サビカス博士のどういった言葉が印象に残りましたか?
私自身は、「その人の人生の専門家はその人なのだ」と繰り返し伝えるサビカス博士の人間尊重の姿勢に改めて感銘を受けました。
キャリア支援をしている人の中には、相談者の人生を鋭い視点で見立てて助言する専門家を目指す方もいます。しかし、サビカス博士にとって、あくまでも主役は相談者です。キャリア支援者ではないのです。自信や勇気を持つのも相談者です。
私たちキャリア支援者は、相談者の物語と、そこに見える自己概念やありたい自分を温かく誠実に聴くことに徹するのです。サビカス博士は以前からこう言っていました。
「謎解きをするシャーロックホームズは、相談者の役割です。キャリア支援者は、ホームズに対して”何が見えたの?何を考えてるの?”と質問する助手のワトソンなのです。」と。
余談ですが、サビカス博士は「物語シーケンス分析」という言葉を使われていましたよね。この言葉、実は物語の構造研究として、映画やドラマのシナリオや感情の起伏、テーマなどを分析するものです。サビカス博士が、カウンセリング心理学だけでなく物語や脚本の世界にも造詣が深いことが伺えるキーワードでした。
NCDAグローバルカンファレンス2023のご紹介も、次回がいよいよ最終回。
次回は、日本から参加した方々の感想や、ダイバーシティに触れるセッションについてご紹介させていただきます!