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株式会社ゆめみの皆さんに「DAO(分散型自律組織)で働くリアル」を聞いてみた(前編)

企業

2023.9.26


ブロックチェーンやWeb3といったテクノロジーの変化と共に、特定の管理者や統率者なしに組織の意思決定やプロジェクトを推進する「DAO(分散型自律組織)」という組織形態への注目が高まっています。では、そうしたあり方はどのように運用され、そこで働く人達は何を考えているのでしょうか。2018年10月に「アジャイル組織宣言」を発表し、DAO型の組織を稼働させ、「全員CEO」「日本一勉強する企業」といった斬新な取り組みでも注目を集めている株式会社ゆめみのリアルを取材させていただきました。お話をお聞きしたのは、同社にキャリアとメンタルヘルスの悩みに寄り添う「ゆめみ保健室」を設立した佐久間史子さんと、「社員全員でアウトプットする」組織文化づくりをリードする広報担当の妹尾福太郎さん。「ポジティブでもネガティブでも、会社批判でもOK」と言葉通り、ぶっちゃけで語ってくださいました。
DAO(分散型自律組織)=ミッションを中心に設計された非集権的組織。ブロックチェーン上のコミュニティから発しリアルな組織での具現化される例が生まれ始めている
インタビュアー:酒井章(キャリアのこれから研究所プロデューサー)
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1.「全員CEO」は社員の目から見てどう映るのか
酒井:
まず、佐久間さんと福太郎さんのご経歴からお話しいただいてもよろしいでしょうか?
佐久間:
私は、ホテル勤務から始まり、コールセンター、販売員など様々なサービス業を経験し、その後オーストラリアや香港といった海外拠点でも働く機会に恵まれました。IT分野でのキャリアは2006年からトータル17年半ぐらいになります。ずっとWebコンテンツ運用をやって来て、ゆめみに入ってからも大手外食チェーンさんのWeb運用のプロジェクトマネージャーをやっていましたが、必要性を感じ、2022年2月に「ゆめみ保健室」を立ち上げました。
福太郎:
2000年に社会人になって5年間会社員としてネット広告の営業などをやっていました。その後、フリーランスを経て、2006年に起業したのですが、リーマンショックのあおりを受けて会社はたたむことになりました。並行して日本人初のメンズ美容家として、美容領域でのインフルエンサーとして活動するなど生き方を模索する中で、一念発起してPR業界に入り、2社のPR会社で約10年間コンサルタントとして修業を積み、2年前にゆめみに広報担当として入社しました。
酒井:
お二人は、どのような経緯で御社に入られたのでしょうか?
佐久間:
私は、ゆめみに入るまではずっと派遣社員をやっていました。しかし、働いていた会社が、解散や倒産、買収されたりで都度契約終了になっていました。やはり会社で何か作る力がないと今後長くいられないことと、前の会社が解散する時に、上司に「次は正社員になれ」って言われたんですよ。でもその時点で、39歳で際立ったスキルもないし・・と正社員になる自信がありませんでした。ところが、面接した人事の方や一緒に働くメンバーの協力あって奇跡的にゆめみに入社することができたんです。
福太郎:
実はリファラル採用でした。代表の片岡とは学生時代から20年来の友人関係だったんです。それに加えて、自分で会社を起こしたときに創業時のオフィスを間借りさせてもらったり、仕事を手伝った時期があったり、ゆめみに親近感をずっと持っていたこともあり入社することになりました。
酒井:
ありがとうございます。お二人ともゆめみさんとの「ご縁」がおありだったんですね。御社は「日本一勉強する会社」や「全員CEO」といったことを謳われていますが、社内から見てどのように感じてらっしゃいますか?
福太郎:
いちメンバーとしての立場からは、巧みに設計されている組織だな、という印象が強いです。精神論やリーダーのカリスマ性で引っ張るのではなく、仕組みで人を動かし事業を前に進めていく巧みな設計・仕組み化・ルール化がされていて、結果みんなハッピーなのですが、うまく踊らされてるなとも感じています(笑)
佐久間:
私は、以前は社内報奨金制度などには乗せられていましたが、今は立場的にみんなを乗せています(笑)。セルフケアとして必須のメンタルヘルスマネジメント検定III種で8万円、個人のニーズに応じて何を学ぶのかも決めることができるので、IT企業の中でもメンタルヘルスマネジメント検定の受験者が多いんです。
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ただ、最初からこうだったわけじゃないんですよ。「忙しいから勉強なんてやる時間はないよね」と思っていました。でもnoteなどで記事を書いてアウトプットすることが条件で会社が学びの費用を出してくれる制度が生まれて、どんどんみんなが勉強するようになり、以降8年間で周囲が変わっていくのを見て来たように思います。
アウトプットがSlack上で見えるので「あの人もアウトプットしている!」みたいなことが見えるようになっていきました。自分の意思をテキストで起こすことで、周囲に化学反応が起きるんですよね。

2.「全員CEO」のリアル
酒井:
これまで転職率が高かった時期もあったのでしょうか?
福太郎:
ありましたね。2017年がワーストで24%という時期もありましたが、その後の組織改革の結果、直近3年間の平均が4.1%まで落ち着いてきています。
酒井:
2018年から自律分散型・アジャイル型に組織を変えられたのは、そういった事情もあったのでしょうか?
福太郎:
それも含めて、代表が1人の人に責任を集中的に持たせることに対してリスクを感じ、思い切って組織構造を変化させていったのだと思います。
酒井:
そして「日本一勉強する会社」に繋がっていくんですね。「全員CEO」については、どのようにお感じになっていますか?
佐久間:
組織形態が変わった2018年より前に入ってきた人と後で入ってきた人では、感じていることが違うと思います。私を含め2018年より前に入社した人は、それまでもいろんな制度が作られたりなくなったりを経験して来たので「また何かやってるな」とスルーしてしまう部分もあったと思います。一方、その後に入ってきた人たちには、「よし自分たちで決めていくんだ」という意識が生まれて、この両者の間に様々なギャップも生まれていたのかな、と感じていました。
福太郎:
ちゃんと新卒を採用し始めたのが2020年なんです。その世代以降が、佐久間が話したNew Generationというか、今のゆめみのカルチャーや制度に適応&順応して、うまく泳ぐことができる世代になった「分岐点」になっているような気がします。
酒井:
さきほど佐久間さんがおっしゃった「ギャップ」とは具体的にどういうことでしょうか?
佐久間:
例えば給料です。給料を自分で決める「給与プロリク」も2018年より前に入社した人は人事考課があって、チャレンジシートを年に2回書いて評価をもらうという制度のもとで働いていました。ですから、いきなり「自分で決めなければいけない」と言われても、給料を上げるという意思表示を自分ですることに慣れていませんでした。そのような人たちが、組織迷子・キャリア迷子になっていると感じたんです。
酒井:
そこが、佐久間さんが保健室を立ち上げられたことに繋がってるのでしょうか?
佐久間:
結果的にはそのとおりです。今後社員数が500人、1,000人と増えていったときに、先ほどのような組織迷子・キャリア迷子になってメンタルヘルス不調を起こす社員が出てくるかもしれないというリスクを考える人が社内に必要だと思いました。
酒井:
福太郎さんは「全員CEO」については、どのように感じてらっしゃいますか?
福太郎:
最初は冗談かな、と思いました(笑)。名ばかりで実態が伴っていないパターンじゃないかと半信半疑でしたが、今は全員CEOを含め「本当にやりきっている」と感じています。

3.株式会社ゆめみにおける「分散型自律」の実際
酒井:
では、次に組織や制度の話に入っていきます。御社は「アジャイル組織・分散型自律組織」を標榜されていますが、具体的にどのように運用されているのかを教えていただけますか?
福太郎:
分散型自律組織(DAO)は、「全員CEO」という理念のもと、自分で組織のルールを変更したり改善したり、自分で何か購入する時に決裁することができる、そのことによって新しい取り組みを自発的に行えるということが大前提にあります。ただ、1人で全てを決めるというより、周りの人から助言を受けながら自分の実施したいことを決定していく「助言プロセス」を導入しています。ほとんどの企業では、部長や承認者がいると思いますが、ゆめみでは全員が承認者として起案もできるし承認もできるという権限を持つことで、実験的な取り組みや、ゆめみを良くするために行っていきたい行動などを自ら進んでやっていけるようになっています。こうした仕組みによって、組織の中で誰もが決定ができるのが「分散型自律」という意味です。
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酒井:
そのルールは、実際にうまく稼働していますか?あるいは課題のようなものも感じていらっしゃいますか?
福太郎:
今400人弱ぐらいの組織規模になっているのですが、マネジメント専任で担当している人は1人しかいなくて、それ以外は分散してみんなで役割をちょっとずつ分けています。面白いのは、分散した結果、社員1人当たりのマネジメント業務での稼働が、勤務時間全体の平均7%になったそうです。
佐久間:
私は、2018年のときにはプロマネとしてチームを束ねていたのですが、組織が大幅に変わっていく中で「ちょっと待ってください」とお願いしたんです。エンジニアはエンジニア、デザイナーはデザイナーといったように職種分けになったのですが、当時のクライアントとの業務内容では突然仕事が入ってくることが多いので、チームで動かないと今のクオリティが保てないと代表に説明したところ理解していただけました。

4.社員が主体的に学ぶための「しかけ」
酒井:
社員に主体的に学んでもらうために学び放題や自己啓発支援などの制度を導入したものの「笛吹いても踊らない」と悩んでいらっしゃる企業も多いのですが、御社の社員が、学び始める、アウトプットを出し始めるきっかけになられるのは、どのようなところなんでしょうか?
佐久間:
マネージャーがいなくなって仕事を任されることが多くなったことだと思います。今まで仕事の手順を、ABCという具合に上司から指示されていたものを「いきなりCでいけるんじゃないか?」と思った人が、そのCを学ぶためにこれが必要だな、と自律的に考えて使い始めるようになった気がします。「この本を買ってどうするの」みたいな感じでお伺いを立てる手続きが一切省かれて、誰の許可も要らずに勉強ができる環境ができたのかもしれないですね。
酒井:
福太郎さんがおっしゃった「巧みに設計されている仕組みで社員を動かしている」事例は、勉強し放題以外にもありますか?
福太郎:
仕組みとしてうまいなと思うのが「期間限定のキャンペーン」を巧みに組み合わせるんです。「0-1で習慣化する」というフェーズでは、わかりやすいインセンティブを出す社内キャンペーンという形をとって、会社としてちゃんと投資して背中を押す意図が明確で、そういうところは仕組み化がうまいですね。
具体的な例としては、オンボーディングとリモートワークの習慣や生産性を高めることを目的に、「リモートの達人キャンペーン」というものをやりました。100のチェック項目に入力したらエントリーできるようになっていて、ゲーム感覚で参加できて、しかも3ヶ月に1回、1人に現金100万円がプレゼントされるというジャンボキャンペーンなので、もうみんな目の色変えて参加するすごい盛り上がりになりました。
キャンペーン自体は習慣として身に付く頃合いをうまく見計らって一旦終了となります。そのような事例を見ると、代表は半年1年単位ではなく数年単位あるいは5年10年ぐらいの視野で組織設計を考えているように見えますね。
酒井:
仕掛け人は代表なんですか?
福太郎:
これまで仕掛ける発案者は代表が多かったのですね。これから自律分散型で組織を進化させていくような発案をみんなで提案していこう、と働きかけているフェーズを目指しています。

酒井 章(株式会社the creative journey代表、キャリアのこれから研究所プロデューサー)
広告代理店を退職後、起業。同時に武蔵野美術大学造形構想研究科修士課程に入学。研究テーマは「先見の明のある人財のキャリアのデザイン、組織のデザイン、社会のデザイン」。同大学院修了後、引き続き京都芸術大学芸術研究科(超域ラボ)で現代アート視点から「働くひとの芸術祭」構想を研究し修了。