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DEI推進の揺り戻しと進化 ~NCDAグローバルカンファレンス2023に参加して(後編)~

連載記事

2023.10.6


アメリカを中心に世界中のキャリアカウンセラーが集う「NCDAグローバルカンファレンス2023」の最終回レポートをお届けします。
テーマは、DEI( Diversity, Equity and Inclusion 多様性、公平性、インクルージョン)
日本から大会に参加した野々垣みどりさん、中藤美智子さん、日本マンパワー五十嵐賢さんによる感想もお届けします。
どうぞ最後までお付き合いください!
記事執筆:キャリアのこれから研究所所長 水野みち

1.激動
この夏、フロリダ、ノースカロライナ、サウスダコタ、テネシー、テキサスという5つの州において、大学やコミュニティカレッジにおけるDEI推進が「廃止」される法案が通ったのをご存じでしょうか。
え?!と思われた方もいるかもしれません。
コロナ禍において、ジョージ・フロイド事件をきっかけに「Black Lives Matter(BLM:人種差別抗議運動)」が盛んになっているように見えました。構造的人種差別をなくそうという訴えも強く、DEIにはさぞかし力を入れている印象だったのではないでしょうか。
しかし今、DEI推進オフィスや多様性のトレーニング、DEIを視野に入れた採用や昇進、入学における優遇措置(アファーマティブ・アクション=積極的格差是正措置)などが州によっては一律禁止されるという事態になっています。
特に、大きな衝撃となったのは、2023年6月の出来事。アメリカの最高裁において、ハーバード大学などへの入学選考で黒人などの少数派を優遇してきたアファーマティブ・アクションに対し、平等な権利を保障する憲法に違反するため、認められないという判決がくだったのです。
今では、前述した州だけでなく、全米22の州でDEIの推進に制限を加える40の法案が提出されているそうです。授業内での人種やジェンダーに関する議論の制限を目的とした関連法案もあります。 NCDA滞在中も関連するニュースが盛んに流れていました。
多くの大学が何十年もかけて取り組んできたダイバーシティ教育が、今、解体しなければならない事態に陥っているのです。
※写真はイメージです

2.DEIのバックラッシュ
反動や揺り戻しのことを、英語では「Backlash バックラッシュ」と表現します。なぜ今、米国においてDEIに対するバックラッシュが勢いを強めているのでしょうか?この動きを起こしている保守派は、次のように主張しているそうです。
「DEIは分裂を招き、スタッフや生徒に “覚醒した “イデオロギーを押し付け、税金の無駄遣いだ」と。
つまり、DEIは逆に差別を助長させているとの主張です。アファーマティブ・アクションは、自ら差別を行ってきたわけではない罪のない白人、特に貧困層の白人に相対的な負担を負わせる「逆差別」だと。また、アジア人層は通常加点対象にはならないため、アジア人入学希望者の権利を脅かすという反対派の声もあります。
一方で、ハーバード大学のコネ入学者(レガシー入学)の70%近くは、白人だったことを明らかにする団体も出てきており、根強い人種問題の対立が浮き彫りになっているのが今のアメリカです。人種を理由に下駄をはかせる必要がなくなるのはいつなのか?「下駄の必要のない社会を目指そう、DEIと声高に言う必要のない社会が理想ではある」ということも論点です。
参考:“DEI Bans at Colleges: What Students Should Know”USNews20230818記事より *記事リンクはこちら
しかしながら、バックラッシュに対する反発も大きく、NCDAをはじめ、大学職員の学会NASPA(Student Affairs Administration in Higher Education) などは政府の動きを受け、今年春頃、DEIについての声明を発表しています。
参考:NASPAの表明 *記事リンクはこちら
長年推進されてきたDEIの取り組みは、人種・民族的マイノリティにとって、大学内で安心できる居場所を作り、インクルーシブな学習環境が構築され、キャンパスにおける学生の成功が公平に高められるのに役立っていることも分かっています。また、多様な学生によってイノベーティブで創造的な学習環境が作られる効果も検証されています。

※写真はイメージです

3.企業の動き
企業側の動きを見ると、グローバル企業はDEIへの推進を強化しているようです。2023年の5月にNASAのビル・ネルソン長官は、NASAにおける多様性、公平性、包括性、アクセシビリティ(DEIA)を推進するため、さらなる一歩を踏み出すことを発表しました。
「今、NASAはかつてない発見、探査、革新の旅で全人類をリードしています。私たちのミッションを成功させるためには、多様性、公平性、包括性、アクセシビリティ(DEIA)を常に最前線に置かなければなりません。スティーブとエレイン(ダイバーシティ大使)のリーダーシップは、NASAがアメリカ全土を反映した労働力を確保し、全人類の利益のために、全米のパートナーを鼓舞し続ける助けとなるでしょう。」
参考:NASAのサイト *サイトのリンクはこちら

4.DEIプログラムの歴史
ここで、アメリカにおけるDEIプログラムの歴史も少しだけふり返っておきたいと思います。歴史の勉強のようで堅苦しいのですが、お付き合いください。
DEIプログラムは、第二次世界大戦後の1960年代に生まれました。奴隷解放運動から100年後です。1961年にジョン・F・ケネディ大統領がアファーマティブ・アクションを政策として導入。人種、肌の色、国籍に関係なく、志願者を公平に扱わなければならないという政策です。
1963年、公民権運動をリードしたマーティン・ルーサー・キングJR牧師がワシントン大行進の群衆を前に「I have a dream(私には夢がある)」という演説を行ったことは有名です。「私の夢は、アメリカに住むすべての人々が、肌の色ではなく、人間性によって判断されるようになることだ」というキング牧師の言葉は、多くの人の夢になり、語り継がれました。
1964年にキング牧師は、ノーベル平和賞を受賞。同年ジョンソン大統領は、雇用や教育の機会均等を定め、人種差別を禁止する法律を制定しました。しかし、その後も人種差別主義者による反撃は続き、1968年4月、キング牧師は殺害されました。
拮抗する状況の中、米国教育省の働きかけもあり、白人の多い教育機関への人種的少数派(黒人、ヒスパニックなど)の学生の入学が奨励されるアファーマティブ・アクションが多くの大学において導入されました。
しかし、いざ有色人種の学生たちが入学しても、差別や偏見により、様々な精神的苦痛が生まれ、乗り越えられずに脱落してしまう学生が多く現れました。キャンパス内で黒人に対する暴力事件や殺人事件までもが起こることも。そこで、大学側は学生や職員に対してしっかりとサポートを行い、当事者だけでなく、周囲への教育も大切だということでDEIのサポートセンターや教育プログラム、個別のフォロー体制が立ち上がりました。
このように、DEI推進の歴史は、50年以上の血のにじむような努力の上で成り立っているのです。DEIは、次第に有色人種の学生サポートから、障がいを持つ学生や、帰還兵、LGBTQの学生など、幅広くインクルーシブな環境づくりにも拡大していきました。
マーティン・ルーサー・キングJR牧師の詳細については、ぜひこちらもご参照ください。
*サイトのリンクはこちら
~ 私が体験したDEI教育 ~
私も2003年頃アメリカに大学院留学しました。ペンシルバニア州という保守的な地域でしたが、DEI教育は全キャンパスをあげて取り組むほど盛んでした。
入学時、入寮時、授業の中でも、DEI教育を盛り込み、私自身も教育を受けたり、コ・ファシリテーターとして推進役に立ったりする機会もありました。それでも、アファーマティブ・アクションに関する裁判は時々話題になることも。校内のいじめや暴力問題への対応はなくなりませんでした。

5.分断
政治の世界をもう一歩見てみると、影響が見えてきます。バイデン大統領は各種バックラッシュによって起こる判決を不服とし、「多様性こそがわれわれの強みであることを忘れてはならない」と呼びかけ、米国における構造的な差別の存在を指摘し、DEIの社会づくりの重要性を訴えているそうです。
これに対し、共和党のトランプ前大統領は判決を賞賛。さらに最近、保守派の新しいリーダーに、フロリダ州のデサンティス知事が台頭。同知事は、トランスジェンダーの権利を認めない法案、人工中絶禁止時期の早期化、銃規制反対など、積極的な保守派政策を次々と打ち出しています。
(※デサンティス知事はイエール大学出身の40代。トランプ氏のライバルと言われ、次期大統領候補として注目を集めています。)
みなさんは、これらの議論を聞いて、DEIに対してどのような意見を持ちましたか?日本でも他人ごとではなく、最近では東京工業大学が2024年4月入学の学士課程入試から「女性枠」ができたことが話題になりました。
(参照:東京工業大学ホームページより https://www.titech.ac.jp/news/2022/065237 )
技術者だけでなく、医者、弁護士などの領域では無意識の偏見により同学力であれば男性が採用されやすいと言われています。是正措置は、企業内や政治における女性活躍推進の動きの中でもその必要性が盛んに言われています。
ジェンダーギャップ指数の高さからも、決して機会や待遇が公平だとは言えない日本社会。むしろ後退しているとも言われる側面も。キャリア支援者としても向き合うべき社会課題ではないでしょうか。

6.NCDA大会でのDEIシンポジウム
話が少し遠回りしましたが、DEI推進を巡る昨今の情勢は、NCDA大会にも影響を及ぼしているため、DEIの歴史と合わせてご紹介しました。今年の大会で、メインカンファレンス最終日に、特別枠としてDEIシンポジウムが開催されたことも、NCDAの主張・メッセージだと言えます。
◆ご参考 NCDA大会プログラム DEIシンポジウムの紹介文
DEIシンポジウムでは、多様性、公平性、インクルージョン、アクセシビリティをめぐるキャリア・サービスの専門家が直面する最新のトレンドと課題について、選び抜かれた情報を提供します。多様性、公平性、インクルージョン、帰属意識、アクセシビリティ(通称DEIBA=Diversity, Equity, Inclusion, Belonging, Accessibility)に関する最新情報です。このイベントでは、DEIパネルがDEIBAに関する現状を説明します。この最も重要な仕事の最前線にいる専門家からベストプラクティスを学ぶことができます。

上の画像はDEIシンポジウムのプログラムより抜粋。州の名前は、会場名を示します。
さて、みなさんは、DEIBAという言葉をご存じですか?調べると、2021年あたりから使われ始めているようです。DEI&B、DEIAなど、組織によって選ぶ言葉や順番を入れ替えていたりもします。

7.DEIBAって何?
Diversity(多様性)は、ご存じの通り、肌の色や国籍、文化、民族、年齢、ジェンダー、障がいの有無などにかかわらず、多様な人がその場に参画できるように、という意味を持ちます。ただの寄せ集めではない、というのがポイントです。
Equity(公平性)とは、多様な人が参画するには、公平な扱いが大切だということを示します。発言権、待遇、機会などが公平に与えられているでしょうか。特に構造的な不公平さ(持つ人はずっと持ち、持てない人はずっと持てない仕組みなど)や、無自覚の偏見によって生み出される不公平さにも注目することが大切です。
Inclusion(包括性・インクルージョン)は、多様性の発展形として、互いの力が最大限に発揮しあえるように違いを尊重し、歓迎し合うマインドや環境づくりを意味します。
Belongingとは何でしょうか。Belongingは“帰属意識”と訳されることが多いのですが、日本語の帰属意識には“組織へ帰属する・従う”という会社中心のニュアンスがちらつくため、誤解されやすいかもしれません。
ここでのBelongingは、安心できる居場所、心理的な所属感・一体感という意味を持ちます。DE&Iの次のステージとして、Belongingは、頭数や数字だけに留まらないDE&I実現のために、心理的な状態にも注目しようという動きです。
Accessibilityは、利用しやすさ、使いやすさ、などの意味があります。ADA法という障がい者差別を禁止する法律のガイドラインが2010年に出されたことで登場しはじめた言葉です。来年日本でも合理的配慮義務が施行されますが、方向性は同じです。ハードルを下げ、障壁を減らし、柔軟性を高めることで、多様な人が必要なものやこと、人に手が届きやすいよう、配慮することを示します。
例えば、建物を出来るだけバリアフリーにするなどをはじめ、情報技術やWEBサイトへのバリアがある人のためにテクニカルサポートをつける、聴覚や視覚障害などを持つ人のコミュニケーションの障壁を取り除けるようにするなど、よりフレキシブルな制度や働きかた、設備を設けるということです。最近では、身体だけでなく、発達障害や学習障害を持つ人への合理的配慮にまで広がりつつあります。

8.DEIシンポジウムに参加して
DEIシンポジウムでは、DEIBAを中心に、様々な多様性のテーマやトレンドを取り上げて20分のセッションが同時進行で開催されました。
講演を聞いていると、「私はいつの間にか日本文化に染まっているな~」と実感させられました。というのも、カルチャーの違いを非言語的側面からも突き付けられた感じがしたからです。
講演者たちは肌の色やセクシュアリティ問わずみんな笑顔で声も大きく、パワフル&エネルギッシュ。歓迎と愛のパワーにあふれていました。
セッションの内容はそれぞれ違うのですが、「自分の存在をもっと大切に感じていい」、「私たち一人ひとりに、可能性を最大に発揮する権利がある」「あなたも、私も、かけがえのない唯一無二の重要な存在なのよ」という、エンパワーメントされるメッセージがそこかしこにありました。
Kenya Johnson博士の講演資料より
そんな彼・彼女らを前に、
「自分は自己を小さく見積もろうとしていないだろうか?」
「自分はAuthenticity(自分への本物さ)を持てているだろうか?」
「なぜ、遠慮や恐れが働くのか?
安全が感じられない暗黙のルールを感じ取っている、または過去の経験から内在してしまっているのか?そんな姿を次の世代に示したいのだろうか?」
など、さまざまな問いを突きつけられました。
「自分の貢献を認めてもらうために、無理にネイビーのスーツを着込む必要はない。自分らしくていい。私は自分に誇りを持って周囲と接します。」と話すKenya Johnson博士は、黄色いスーツと派手なアクセサリーやヘアスタイルで自分の文化や好みを譲歩することなく、DEIプログラムを紹介し、まさにDEIBAを生き様で体現していました。
エネルギッシュに講演するKenya Johnson博士
「Identity Safety(アイデンティティの安全性)」 という言葉も紹介されました。自分の属性に劣等感があると、自分はだめだと自己否定をし、可能性に制限や制約をつけ、失敗への恐れにさいなまれ、完璧主義的になる。防衛的になり、ものごとに取り組むことに躊躇しやすく、他者から褒められても素直に受け入れられない状態に陥ることを説明していました。過重労働やバーンアウトを起こすことも。自分にも当てはまるという人も少なくないのではないでしょうか。
これは別名「インポスターシンドローム」とも言われます。自分の力を信じられない症候群です。歴史や文化、構造によって起こる、無視できない心理状態です。
Dr. Kenya Johnsonの講演資料。Auclare Visionという会社でDEI教育に従事。
Johnson博士のDEI教育では、「許容」することと「諦める」ことは違うことを学ぶそうです。一方的に「主張」するのではなく、適切な問いや対話のスキルを身に付け、「適切な対応」と「感情的な反応」の違いなども学びます。自分のコアやエッセンスとつながるワークや、マインドフルネス、自分の中の多様性を取り出して遊びながら探索してみる、というセッションも設けているそうです。
自分の知っているD&I教育とはだいぶトーンも変わり、不平等さを見える化して突きつける深刻なものではなく、願いからつながりを見つけるといった、未来志向型になってきている印象も持ちました。
荷物を下ろして未来を共に創るという軽やかさも、バックラッシュの最中にあるアメリカの、次の世代のDEIBAにおいて必要な姿なのかもしれません。
上の画像はDr. Sujata Ivesによる講演資料。DEIBAを語るには、文化的背景への考慮が大切だということをIntercuturalismを紹介しながら解説。

9.日本からの参加者より
最後に、日本から参加したキャリア支援者、野々垣みどりさんと中藤美智子さんに、DEIシンポジウムやNCDA大会参加について貴重な原稿をご執筆頂きましたのでご紹介します。
(1)野々垣 みどりさん

野々垣 みどりさん

株式会社エマージェンス 代表取締役 / Master of Arts in Counseling(カウンセリング学修士) / キャリアコンサルタント / 組織コンサルタント /
NCDA  Diversity and Inclusion Committee& Global Connections committeeの委員、元亜細亜大学国際関係学部 特任准教授 / 元日本産業カウンセリング学会(現 日本キャリア・カウンセリング学会)理事

DEIシンポジウムは、NCDAのCommittee on Diversity Initiatives and Cultural Inclusion(多様性への取り組みと文化的インクルージョンに関する委員会 )が主催していたのですが、私もこの委員会のメンバーの一人として、微力ながら開催準備に関わりました。
参加したセッションで印象に残ったのは、DEIBAと、Interculturalismという2つのキーワードです。
DEIBAについては、 「同じテーブルに着席するように招かれたからといって、そこで気持ちよく発言できる保証はないし、自分の考えやアイディアに耳を傾けてもらえ、その価値を認めてもらえる保証もない。」このような状況を、どのように変えていくのか?という問い掛けがありました。
BelongingAccessibilityを含めずに、DEI推進のみに着目をすると、雇用主はDEIを軽視したり、十分やっていると思い込んだり、本当に意味のあるアクションを起こさずに「やっている感」だけを出す場合が出てきます。また、 多くの人たちにとってもDEIだけだと、その必要性を頭では理解しつつも、実際の行動としては距離を置いてしまうことが往々にしてあります。
その結果、DEIが「We (私たち)」という関わる人全ての当事者性がある問題ではなく、「They (あの人たち)」の問題になってしまいがちになり、いまひとつ推進力が足りないために、DEIの実現が難しい面も出てきます。そこで、BelongingAccessibilityを前面に押し出して「次の重要なステップに進もう」ということのようです。
北米ではDiversity(多様性)というと人種やジェンダーなどが議論をリードすることが多いのですが、日本ではジェンダー、年齢や世代、心身の障がい、疾病(がん等)が取り上げられることが多いかと思います。 キャリアカウンセリングの文脈においては、個人の「文化」、文化的背景など、非常に幅広いものを指します。
NCDAに参加している研究者や実践者とのディスカッションの中で、「このような文化的背景の多様性を十分かつ広範に検討せずにDEIプランを策定した結果、期待したほどの効果が得られないことが多い」という話が出ていました。文化的背景は全て、コミュニケーション、相互理解、チームワーク、Belongingなどに影響を与える重要な文化的差異の要素であることを良く理解する必要性があるということ、そのためには個人が持つ文化的背景に対する解像度を高める必要があるという認識を共有することができました。
もう一つの重要なキーワードは、Interculturalism(異文化間主義)です。Interculturalismとは、UNESCO宣言やヨーロッパを中心に様々な施策等の目標になることが多いのですが、北米のキャリアカウンセリングの文脈でもウェイトが高まってきました。
Multiculturalism(多文化主義)では、それぞれ違う文化的・民族的背景を持つ人々がグループとして理解しあったり、交流したりすることに留まりがちですがInterculturalism(異文化間主義)では、一人ひとりが多文化社会の一員として「社会的結束(social cohesion)」のある社会を築くために、より深く関わり合い協働する、ということを指します。
そのためには、違う文化を受容し敬意を持って対応するための知識、意識や態度、考えるスキルが必要となります。対人支援に関わるキャリアカウンセラーは、特にそのコンピテンシーを高める必要性があるということでした。
Interculturalism(異文化間主義)に関しては、シンポジウムでこんな喩えを聞き、心に響いたので、ここで共有したいと思います。
Diversity、Equity、 Inclusionが楽器だとすると、Belongingはオーケストラが奏でる協奏曲(シンフォニー)である。ヴァイオリン、チェロ、トランペット、フルート、ティンパニ…がそれぞれの特性を活かせる環境を用意し、その楽器が協働するためのAccessibilityを確保することによって初めて素晴らしい協奏曲を奏でることができる。より多くの人たちと芸術を創造することができるようになる。」 (NCDA DE&Iシンポジウムより)
NCDA大会の参加は、「日々の実践の中で、NCDAで学んだ知見や気付きを活かしていかれるように精進したい!」と改めて心に誓う機会となりました。その一部でも共有できましたら幸いです。また来年も参加する予定です。ご興味を持たれた方は、ぜひご一緒しましょう。
(2)中藤美智子さん

中藤美智子さん

グローリンク株式会社 代表取締役 国家資格キャリアコンサルタント
JCDA認定キャリア・デベロップメント・アドバイザー。2011年日本マンパワー養成講座受講。2012年CDA取得。組織と個人が強い絆でつながり、共に成長していく社会の実現を目指し、企業でのキャリア開発支援、従業員のキャリアコンサルティングを行なっている。

今回、NCDA大会へリアルでの初参加となりました。今回の参加の目的は大きく2つありました。1つは、普段とは異質な環境で多様な人と関わることで、異文化を体験し、視野・視座を広げ、高めること。2つ目は、海外で取り上げられているキャリアの文脈について知見を得て、キャリア支援者としての考え方をアップデートすることです。
1点目の目的「異文化体験」について、まず立ちはだかるのが「言葉の壁」でした。確信を持てたのは、参加者の中で私が一番英語力が乏しいこと。圧倒的な言葉のマイノリティ。
ただ言葉がわかったとしても、事例の意図や社会的・文化的背景がつかめないから理解不能。いかにこれまで同質空間にいて、相手の立場や背景を意識していない言葉や事例の選択をしてきたかということに気付かされました。日本のカウンセリングの場でも多様な文化的、社会的背景を理解し、自分自身が先入観や無意識の偏見などがないか自覚していないといけないと感じました。
そして、海外でのキャリアの文脈についてはSocial Justice(社会正義) 、Diversity, Equity, and Inclusionの観点がどのテーマにも含まれていました。
中でも注目したのが、privilege(特権)への意識。特権を認識し、疎外されている集団にキャリア支援者として何ができるのか、そのような視点を新たに持つきっかけになりました。
プレゼンなど学びの時間以外は、様々な委員会やParty、Dinnerが用意されていて、学びと交流の両輪で充実した4日間。何より、私のつたない英語でもウェルカムで受け入れてくれた方々が多く、さすがカウンセラーの集まりだなと感じました。また日本人の方も数名参加され、仲間がいることの心強さも感じました。
ご一緒させていただきました皆さま、ありがとうございました。来年のサンディエゴでまたお会いしましょう!
(3)五十嵐 賢

五十嵐 賢

株式会社日本マンパワー キャリアコンサルティング事業本部 CDA事務局
国家資格キャリアコンサルタント、CDA(Career Development Adviser)、認定心理士
日本マンパワーにて行政機関における就業支援、企業内のキャリア開発支援等の事業を経て、キャリアコンサルタント養成講座のマーケティング、プログラム開発支援などを行っている。

4年ぶりにNCDA大会に参加してきました。まずはこれだけ大きなキャリアに関する対面の大会があることが感激です。感じたことをまとめると次の3つです。
1.多様性の幅が大きい:日本ではまだあまり議論が活発ではない国籍、人種、ネイティブ・アメリカンなどの先住民族、LGBTQなどの議論や事例が豊富だと感じる。
2.組織内キャリアについては議論が少ない:学校におけるキャリア教育、国籍や人種ごとの就転職、退役軍人などのケースは豊富だが、組織内でのキャリア開発・発達については、転機についてはあるものの、議論はまだまだ少ないと感じた。
3.高齢化は今後の課題か:セミナーや参加者との会話の中から、一部のアジア地域(日本や韓国)をはじめ米国中部の一部の州では労働者の高齢化が進んでおり、日本と同様の課題を抱えている様子であった。先進国を中心に今後の共通の課題になると思われるが、大会での発信はあまり見られなかった。
まだ日本からの参加者が少ないため、これを読んでいる方々から参加される方が増えることを期待しています。特にダイバーシティや社会正義など日本で議論が成熟していない分野での知見は豊富に得られるのではないでしょうか。また、特に、高齢化を踏まえた組織内外のキャリア発達について、私たち日本など、アジアを中心に発信し議論が活発になっていくことを願っています。

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