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イベントレポート ダイバーシティ経営と自律型キャリア形成(後編)

イベント

特集記事

2023.11.24


2023年9月12日、「ダイバーシティ経営と自律型キャリア形成」をテーマにイベントを開催しました。ゲストとしてご登壇いただいたのは、法政大学キャリアデザイン学部教授の武石恵美子様です。
●イベントレポート前編は、こちら
後編では、ダイバーシティ経営のメリットである「集合知での課題解決」について、図をもとにわかりやすく紹介します。また、表裏の関係という「ダイバーシティ経営とキャリア自律」について、武石先生の研究内容を紹介。最後に、ダイバーシティを推進するにあたりキャリアコンサルタントが貢献できることについても考察を深めていきます!
〇登壇者
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
武石 恵美子 様

 

4.Diversity経営とキャリア自律

 

(1)Diversity経営 ~集合知で課題を解決する~
 前半で、異質性のメリットは「集合知による課題解決」であることに触れました。
「集合知による課題解決」とは具体的にどういうことでしょうか。図を使ってお話しします。
 上の図で赤い外枠を課題領域とすると、簡単な問題つまり課題領域がそれほど大きくない場合、「賢い個人」が全体の課題を解決できるような状況にあるとします。その人がリーダーシップをとって組織を動かしていけばうまくいきます。
 しかし、今は予測困難な時代で、課題領域が拡大した状況にあり、1人では拡大した領域の課題を解決できません。また、「賢い個人」と同じようなタイプの人を集めた「クローン集団」でも、拡大した分の課題領域まで視点が広がらず、やはり課題解決に至りません。
 そこで重要なのは、さまざまな領域で一人ひとりが能力を発揮していくことです。それが「多様性に富む集団」です。それぞれの知恵を結集して、拡大した課題領域に対してみんなで挑戦できる組織になることが重要になります。こうしたことは業態・企業の特性によって異なるとは思いますが、そのために多様な人材が必要となります。
 ところが、「同調圧力」で多様性がなくなってしまうこともあります。
 たとえ「多様性に富む集団」であっても、支配的な強いリーダーが出てくると、多様な人たちがリーダーに引っ張られてしまうのです。忖度して不正が起こる組織のようなイメージです。そうすると、せっかく多様性があるにもかかわらずそれが発揮されず、課題解決ができなくなってしまいます。ですから、いろいろなタイプのリーダー、いわばリーダーシップの多様性も必要ではないかと思います。
●人材のあり方のイメージ
 ダイバーシティ経営における人材のあり方を、ビジュアル的にイメージしてみましょう。
 いわゆる「昭和的」な組織では、同質性・協調・和を大事にするため、企業が人を形づくるのが効率的です。イメージとしては、ブロック塀です。ブロックの形に成形し、ブロックを積んで組織をつくります。違いはそぎ落とされ、同じような形の人たちが組織を運営し、「忖度しよう」「空気を読もう」などの職場の雰囲気につながりかねません。
 一方、ダイバーシティ経営では、一人ひとりが違うことが重要です。みんなが自分の強み・弱みを踏まえて能力を発揮することから、イメージとしては石垣になります。それぞれの強み・弱みをうまく組み合わせることによってパワーにしていきます。それが、ダイバーシティ経営の中で個人に求められる大きな姿ではないかと思います。

(2)キャリア自律 ~個人にとってのダイバーシティ経営~
●個人が多様性を発揮するとは
 それでは、ダイバーシティ経営における個人はどのような存在なのでしょうか。
 個人が「多様性の発揮」をするためには、「自身のユニークさ」に自覚的になることが重要です。自分の価値観を信じて、空気を読んだり忖度したりせず、きちんと発言し行動することが求められます。
 また、多様性は、異なる個人間だけではなく、個人ひとりの中でも広げることができます。それを「個人内多様性(intrapersonal diversity)」と言います。つまり、個人は「多様性の拡張」も求められます。副業も一つの拡張ですし、男性の育児も経験・ネットワークを広げるという意味では拡張といえるでしょう。自分の多様性を拡張するために、自身の可能性を広げて、人との違いをさらに研ぎ澄ましていくことが重要です。
 ダイバーシティ経営の下、個人もこうした多様性の発揮・拡張を考える必要があり、人事側も施策の中でそうした仕掛けを考える必要があるのではないでしょうか。
 こうした「個人の多様性の拡張」は、組織主導で進めては意味がないわけで、従業員自身が自己決定することが重要です。それが「自律的なキャリア」につながっていきます。
ダイバーシティ経営とキャリア自律とは、実は表裏一体の関係です。ダイバーシティ経営を進める組織だからこそキャリア自律が重要になり、キャリア自律が進むと多様な人材が組織内で活躍することになります。そのために、個々人のキャリア決定において組織主導を緩めて従業員に選択権を強めたり、従業員のチャレンジを促したりすることが大切なのです。

(3)研究の紹介
 今お話しした「ダイバーシティ経営とキャリア自律の関係」は、私の研究領域の1つです。今日は、近年行った研究を2つとりあげ、簡単にご紹介します。
 まず研究1は、「ダイバーシティ経営と自律支援策の相乗効果」についてです。「ダイバーシティ推進策を実施すると、その効果として、多様な人が能力を発揮できる」という仮説を設定し、さらにそこに、自律的なキャリア支援策を実施すると、相乗効果が得られるのではないかと想定し、分析を行いました。
研究の結論としては、ダイバーシティ推進策だけでなく、自律的なキャリア支援策も一緒に実施することによって、「多様な人材の活躍」「インクルーシブ風土」「キャリア自律行動」を高めることを確認しました。
 研究2は、「キャリア自律を促す人事制度」についてです。個人のキャリア自律意識・行動を促す人事管理制度について調査研究を行いました。
こちらの研究では、一部、有意な結果が見られないものもありましたが、下記のような個人主導型の人事管理制度が、キャリア満足度や仕事満足度を高め、自律的なキャリア意識・行動を高める効果があることを確認できました。
「自己選択型の配置・異動」
「個別プラン型の能力開発」
「基準明確・成果型の評価」
「職場のキャリア支援策」
 働く人が異動や能力開発に自発的に取り組める人事管理制度は、内的なキャリア満足を高めるとともに、自律的なキャリア意識を高め、自律的なキャリア行動を促すと言えます。
 つまり、ダイバーシティ経営の中で個人の自律的な意識や行動は非常に重要で、それを促す人事施策を一緒に組み合わせて総合的に展開することが、ダイバーシティ経営の効果を高め、個人のキャリア自律を促すことにつながるのではないかということです。

 

5.これからのキャリア開発
キャリアコンサルタントへの期待
(1)これからのキャリア開発
  ダイバーシティ経営とキャリア自律に関する研究結果を踏まえ、「適材適所」について改めて考えてみましょう。
これまでは、組織が主体となり「適材をつくって適所に送り込む」形でした。しかし、「組織から個人へ」という流れの中で、今後のキャリア開発においては、「適材適所」のあり方を考え直す必要があります。同時に、人事権がどこにあるかも問い直さなくてはいけません。
それらは、組織から個人に移行するというよりも、組織と個人のパワーバランスをどうするかがポイントです。それぞれの組織に合わせてお考えいただく点になってくるかと思います。
 自律には特に「選択」が重要ですから、選択を機能させるような組織のあり方、人事施策のあり方が検討課題となります。そのためには、次のような施策が求められます。
  1 経営目標・戦略の方向性とのすり合わせ(期待値「Should」の確認、valueとのすり合わせ)
2 「適材」になるためのキャリア開発・学習支援策(成長機会「Can」の提供)
3 「選ぶ」というマインドセットとスキル向上(行動評価、「Will」を支援)
4 「適材になる」「適所を選べる」ための仕組み作り
 また、選択が機能すると組織が持っていた人事権が弱くなりますので、それをどう補完していくのかも課題となります。
(2)キャリアコンサルタントへの期待
 最後に、キャリアコンサルタントへの期待についてお話しします。最近、行政のさまざまな文書でも「自律」「主体的なキャリア」という言葉が使われるようになりました。
 まず、厚生労働省の「第11次職業能力開発基本計画」では、柱の一つに「労働者の自律的・主体的なキャリア形成の推進」が挙げられています。
その基本的施策としては、「キャリアコンサルティングを利用しやすい環境の整備」「キャリアコンサルタントの専門性の向上」「専門家とのネットワークづくりの促進」が明記されています。
キャリア自律を支援する専門家として、キャリアコンサルタントの機能発揮が行政から非常に期待されていると言えます。
※第11次職業能力開発基本計画
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/000760054.pdf
 また、令和4年6月に策定された「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」では、学ぶ場としての職場で、労使が何をできるかをまとめています。そのポイントの一つとして、「自律的・主体的な学び・学び直しの後押し・伴走を行う『キャリアコンサルタント』の役割を強調する」とされています。
従業員の学び・学び直しに向けても、専門家としてのキャリアコンサルタントに非常に期待が高まっています。
 ※「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/000957888.pdf

 

6.質疑応答
 イベントの最後は、参加者から挙がった質問について、武石先生と日本マンパワ―五十嵐(キャリアコンサルタント養成講座のマーケティング、プログラム開発支援等を担当)の2人で回答していきました。多くの方がご関心を寄せられていた質問を1つとりあげ、ここでご紹介します!
●「何を学べばいいかわからない」という従業員への支援
五十嵐(司会) 参加者から、「私の会社では、『何を学べばいいのかわからない』という従業員が多いのですが、人事としては何をしたらいいでしょうか」という質問が寄せられています。このご質問は、私もよく聞くものです。武石先生はどのように考えられますか。
武石先生 先ほど「多様性の発揮・拡張」のところでもお話ししましたが、組織主導で「あれしろ、これしろ」というよりも、従業員本人が学びたいものを学ぶのが一番です。
ですから、人事がメニューを用意して「学んでください」というよりも、学びたいという気持ちを持ってもらうことが重要ではないでしょうか。
従業員から「何を学べばいいですか?」と聞かれて、答えるケースがあるかもしれませんが、基本的には本人に「これを学びたい」という気持ちがないと、学んだことがあまり身につかないように思います。
五十嵐 私からも少し補足させてください。従業員のみなさんは普段なかなか自分のことを考える機会がないと思います。ですから、自分のことを考える場の提供をするだけでも、良いきっかけになると思います。
 キャリアの考え方に「Will-Can-Must」「Want-Can-Must」がありますが、そのうちのWill・Wantの部分を自分自身で探し伸ばしていくことが大切です。それがなかなか見つからない場合は、さまざまな経験を積みながら、自分の興味があることを探していくと良いと思います。
 先ほど、国がキャリアコンサルタントに期待しているというお話がありましたが、企業でのセルフ・キャリアドック制度(定期的にキャリアコンサルティングやキャリア研修を行う仕組み)の導入も増えています。
 キャリアコンサルティングというと、「何か問題がある人が受けるもの」「部下に指導するもの」というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。私たちのキャリアコンサルタント養成講座を受け合格した方は、日本キャリア開発協会のCDA:Career Development Adviserの資格も取得できるのですが、Career Development は翻訳するとキャリア開発という意味なんですね。
漫然とアドバイスをするのではなく、その方のwillやwantの方向性を明確にし、自分らしいキャリアを実現できるように支援をしていくのがキャリアコンサルタントの役割です。そのため、学び直しやリスキリングを進めていくうえでも、キャリアコンサルティングは大きな役割を果たせると考えています。
 そして、個々人の描くキャリアや価値観は多様なものです。キャリアコンサルタントはその多様性を受容し、一人ひとりにとって望ましい支援をできる存在だといえます。
 皆さまの中には、ダイバーシティというと、性別、年齢といった表層的なものを思い浮かべ、ダイバーシティ推進は、専門部署で進める施策と思っていた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、専門部署以外でも、皆さまご自身の手で、ダイバーシティ推進に取り組み、多様性に富んだ組織作りをしていくことができるのではないかと思います。ダイバーシティやキャリアコンサルタント養成講座の内容に興味がわいてきたという方は、ぜひお気軽に資料等ダウンロードください。