MENU

キャリこれ

日本人・外国籍社員合同の入社時研修「キャリアビジョン策定」(後編)

インタビュー

企業

2023.12.25


連載「キャリア×グローバル」では、これまでに北欧やアジアのキャリア観、アメリカのキャリア支援のトレンドなど、日本の外の世界を紹介してきました。今回は、日本の中のグローバルを取り上げます。日本企業で働く外国籍の方が増えてきている中で、私たちはどう一緒に働いていけばいいのか。また、キャリアコンサルタントは、外国籍社員のキャリア支援にどのように携わることができるのか。本記事が、みなさんご自身の向き合い方を考えるきっかけになれば幸いです。
〇お話を伺ったゲスト
株式会社グランビスタ ホテル&リゾート
人事部 キャリアサポート課
山崎 香花(やまざき こうか) 様
〇インタビュアー
キャリアのこれから研究所 所長
水野 みち

4.「人生すごろく『金の糸』」の採用理由
水野:
キャリアビジョン策定に「人生すごろく『金の糸』」を採用した理由はありますか?
山崎:
弊社の入社時導入研修には、以前から、数年後に向けてのアクションプランを立てるというワークがありました。ただ、社会人経験がないとはいえ、新入社員にも20何年間生きてきた人生経験はありますので、その中で自分が得てきたものが何かを自覚しないことには、先々のことも考えられないと考えました。そこで、何かいいツールはないかと探していたところ、「人生すごろく『金の糸』」を知ったのです。「金の糸」であればキャリアを前面に出さずに経験を振り返ることができるので、「これだ!」と決めました。
水野:
経験を振り返らずにアクションプランを立てるのと、「金の糸」で振り返ってから未来を考えるのとでは、何か差は感じられますか。
山崎:
以前は「○○のスキルを身につける」のように、スキルに関する目標が多かったのですが、キャリアを考えてもらうようになってからは、「自分はこういう働き方をしている」「マネジャーになってこういう仕事をしている」「結婚して子どもがいる」など、未来に対する想像の幅が広がっているように思います。
水野:
興味深いですね。ほかに効果の手応えを感じられることはありますか。
山崎:
入社時の研修だけで終わってしまうと、受講者のみなさんも忘れてしまうでしょう(笑)。ですから、たとえばフォローアップ研修や5年後の研修などで「みなさんは入社の時にこう宣言していましたよ」とか、「入社時に考えたありたい姿と今の自分を比べてみてどうですか?」などと問いかけるようにしています。今後はそれを定期的に見直せる機会を設けられればと考えています。

5.外国籍社員を含めた研修の工夫

(1) 教育制度
水野:
入社時導入研修は外国籍を持つ方も一緒に受講されているとのことですが、出身国が異なると、言葉の問題だけでなく、教育制度や文化も異なるかと思います。そうしたことに対してどのように工夫されてきたのか、できればくわしくお聞かせください。
山崎:
工夫したことは大きく2つです。1つは、教育制度です。「人生すごろく『金の糸』」は日本の教育体系に合わせていますので、小中高大と進んでいきます。しかし、世界中が同じ教育体系ではありません。教育年数が異なる場合もあれば、中学校・高等学校という区分がない国もあります。ですから、新入社員の出身国ごとに、どのような教育を受けてきたのかをあらかじめ調べておきます。まずは外務省のウェブサイトで調べた上で、研修当日の休憩時間などを利用して直接本人に確認します。専門学校に行っていた人や大学院に行っていた人もいますので、「どういう状況だったか」をきちんと下調べするようにしています。
そして、「金の糸」のワークを始める前に、参加者全員に対して、日本の教育制度と外国の教育制度の違いを説明します。この説明で、初めて「国によって違うんだ」と知る人もいます。
水野:
一人ひとりのキャリアを尊重すべく、しっかりと下調べされているんですね。
山崎:
私自身も、一人だけ取り残されるのは嫌ですからね。「外国籍を持つ人だから」という意識よりも、「みんなが同じようにワークを楽しめるために」という想いで準備をしています。
水野:
「一人ひとり誰も取り残されない」「私だけ違うという寂しさを感じないように配慮したい」という山崎さんの心根が伝わってきます。

(2) グループ
山崎:
もう1つの工夫は、グループです。キャリアビジョン策定のグループ分けは、外国籍社員の出身国だけでなく、日本の新入社員も出身都道府県が偏らないようにグループ分けをしています。同じ日本でも地域性があるからです。そして、ワーク中に出てきた疑問や問題はグループ内で解決するように促し、ファシリテーターは介入しないようにしています。なぜなら、第三者が指示をしてしまうと主体性が生まれませんし、何よりも新入社員が面白くないだろうと思うからです。ですから、たとえ参加者から質問されたとしても、「グループの人たちだけで解決していこうね」と仕向けるように心がけています。
これまでには、「図書館って何?」「給食って何?」「部活って何?」「体育祭って何?」などの疑問が出ていました。日本の学校では当たり前のことでも、外国では当たり前でないことがたくさんあるのです。
水野:
いいお話ですね。そうしたケースがあることを最初に説明されるのですか。
山崎:
いえ、何も説明しません。研修では基本的に日本語を共通言語としていますが、全体を見渡して対話がうまくいってなさそうな場合は、「何かあったんですか?」と聞くようにしています。そして、「ちょっとうまく通じないんです」などと言われたら、「じゃあ、どうすれば通じるでしょうか。いろいろ考えてやってみましょうか」と声をかけて、私は静かにフェードアウトします。そうすると、グループ内では、ジェスチャーで伝えたり、絵を描いて説明したりが始まります。伝えようとする側も知ろうとする側も本当に集中しています。「金の糸」は本来、経験を振り返って自分らしさを見つけるツールですが、それにプラスして「お互いのことを知りたい」という気持ちが育めているように思います。粘り強くやりとりする中で通じた瞬間は、「やった!通じた!」という喜びがみなさんの表情に出て、拍手が沸き起こることもあります。
水野:
すばらしいファシリテーションですね。
山崎:
下調べはするけれどもお膳立てはあまりしない。簡単に答えを教えず、参加者が主体的に動く中で、自分たちで乗り越え方を考える。それらをファシリテーションの軸にしています。

6.外国籍を持つ方を受け入れるにあたって
水野:
今回は、日本の中のグローバルをテーマにお話をおうかがいしましたが、外国籍を持つ方を受け入れるにあたって、何かお考えはありますか?
山崎:
私はまだ不勉強で難しいことは言えませんが、外国籍を持つ人を「別カテゴリーの人」のような扱いにはしたくないと思っています。ですから、外国人や外国語という表現も使いません。「金の糸」のワークをしていても、外国籍の人ばかりでなく、「みんな違う」ということがわかります。誰一人として同じ人はいないのです。国籍関係なくみんな違うのが当たり前ですから、それぞれが持っている大事な部分をお互いに受け入れて認め合えればいいのではないでしょうか。
水野:
最後に、ホスピタリティ業界という接客業は感情労働の面が大きいと思いますが、そこでお仕事をされている方々へのキャリア支援について、課題感があれば教えてください。
山崎:
ホスピタリティ業界で働く人たちは、お客様の期待に応えるだけではなく、お客様が期待していない部分も大事にして喜んでいただくことが、自分の喜びにつながっています。ただ、現在は人手不足が著しく、激務の連続です。自分の信念や大事にしたいことを忘れてしまうほど、日々の業務に追われています。そうした方々へのキャリア支援は本当に難しいのですが、できれば、一時でも、業務から離れて、「自分の大事にしているものは何だったろうか?」と思い出してもらえる機会を作れればと思っています。
水野:
ありがとうございました。心に沁みました。