2024年2月21日(水)、新たなアプローチで企業内キャリアコンサルタント資格取得を推進し、そのスキルを有効活用されている企業事例紹介のイベントを実施いたしました。ご登壇いただいたのは、出光興産株式会社キャリアデザイン部の山本義之様および山崎正憲様、キリンアカデミア事務局の森美江様です。皆さまのさらなる施策展開に向けて、ぜひご参考にしていただければ幸いです。
〇登壇者
出光興産株式会社
キャリアデザイン部 キャリアデザイン課
山本 義之 様
山崎 正憲 様
出光興産株式会社
キャリアデザイン部 キャリアデザイン課
山本 義之 様
山崎 正憲 様
キリンアカデミア事務局
森 美江 様
森 美江 様
〇司会
株式会社日本マンパワー
坂室 繁
株式会社日本マンパワー
坂室 繁
目次 ※クリックすると各章にジャンプします
1.企業内におけるキャリコン有資格者の広がり
司会
厚生労働省の「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書」によると、キャリアコンサルタント(以下「キャリコン」という)登録者数は2023年3月末時点で65,879人です。キャリコン登録制度創設1年後の2017年3月末時点で25,518人でしたから、6年間で2倍以上に増えています。2016年4月に国家資格化されて以来、政府としてもキャリコンを重要視していることがうかがえます。
厚生労働省の「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書」によると、キャリアコンサルタント(以下「キャリコン」という)登録者数は2023年3月末時点で65,879人です。キャリコン登録制度創設1年後の2017年3月末時点で25,518人でしたから、6年間で2倍以上に増えています。2016年4月に国家資格化されて以来、政府としてもキャリコンを重要視していることがうかがえます。
なかでも企業内キャリコンが占める割合が増えていて、直近では約40%とのことです。それに伴って、活躍の幅も広がりつつあります。たとえば、「社内副業としてキャリア支援室で活躍している」「マネジャー業務やチームビルディングで生かしている」「社内キャリコン仲間を募って有志で活動している」などが挙げられます。
そうした中でも、本日は「企業内キャリコン資格取得推進の新しいアプローチ」をされている出光興産様とキリンアカデミア様の事例をご紹介します。
2.【出光興産様の事例】
“ライフキャリアドック”と
“キャリアコンサルタント資格取得支援”
“ライフキャリアドック”と
“キャリアコンサルタント資格取得支援”
〇登壇者
出光興産株式会社
キャリアデザイン部 キャリアデザイン課
山本 義之 様
山崎 正憲 様
出光興産株式会社
キャリアデザイン部 キャリアデザイン課
山本 義之 様
山崎 正憲 様
(1) 出光興産株式会社の概要
弊社の「経営の原点」は、創業者である出光佐三が大切にしていた言葉「人間尊重」にあります。この言葉には2つの意味が込められています。それは「人を尊重する」ことと、「自分が尊重される人に育つ」ということです。本日お話しするライフキャリアドックも、この考えをベースに構成しています。
弊社では、中期経営計画となる「2030年基本方針」で、2030年ビジョンとして『責任ある変革者』を掲げています。変革者として責任を持って世の中を変えていこうという意味です。具体的には、化石燃料事業主体からの事業ポートフォリオの転換を図ることを目標としています。その両輪となるのが、事業構造改革投資による「ROIC※経営の実践」と、人的資本投資による「従業員の成長・やりがいの最大化」です。また、それらのベースとなるのが「ビジネスプラットフォームの進化」です。
一般的には「従業員の成長・やりがいの最大化」をベースにすることが多いと思われますが、弊社は「人の成長が会社経営の目標」と定めていますので、このような図になります。
※投下資本利益率。投下資本に対してどれだけ利益を出しているかを表現している財務指標。
(2) 自律的キャリア形成支援施策
自律的キャリア形成支援策の全体像を図に示しました。支援策のすべての基本は「上司と社員本人の関係」と位置づけています。日頃のコミュニケーションと定期的な面談を通して、社員本人はライフキャリア観・目標などを上司と共有し、上司は社員本人に期待・課題・成果のフィードバックをします。このサイクルを回すために、上司・社員それぞれに対して支援を行っています。上司向けの施策を左側に、社員向けを右側に記しています。
ライフキャリアドックの構成内容も、この図に組み込んでいます。ライフキャリアドックとは、出光版のセルフキャリアドックのことです。
社員への支援施策のうちライフキャリアドックに関するものは、「キャリアプランセミナー」「マネープランセミナー」「国家資格キャリアコンサルタント面談」です。
一方、上司への支援施策では「上司向け面談力向上研修」が該当します。詳しくは後ほどお話しいたします。
その前に、2023年度のライフキャリアドックについてご紹介します。全体構成は、「世代別キャリアプランセミナー」「個別キャリアコンサルティング」「上司との面談」の3ステップに分けられます。そうして日常業務へ落とし込んでいく流れとなります。
ステップ1の「世代別キャリアプランセミナー」では、世代別に次の5つのセミナーを用意しています。年齢はあくまで推奨年齢で、年齢制限は設けていません。何度でもエントリー可能で、定期的なエントリーを推奨しています。
・ワークキャリア初期の悩み(社会人経験5年以下)
・やりたいことを見つける!(30歳前後)
・ミドル~ライフとワークの狭間(40歳前後)
・定年までにやるべきことを考える!(50歳前後)
・定年後に向けた計画を考える!(55歳以上)
・やりたいことを見つける!(30歳前後)
・ミドル~ライフとワークの狭間(40歳前後)
・定年までにやるべきことを考える!(50歳前後)
・定年後に向けた計画を考える!(55歳以上)
「上司との面談」については後ほどご説明しますが、特徴的なのは上司の面談力を向上させるための研修を行っている点です。これは、キャリアコンサルタント資格取得の促進にもつながっています。
(3) ライフキャリアドック(出光版セルフキャリアドック)
ライフキャリアドックについてもう少し詳しくご説明します。
導入の目的と考え方は大きく次の3つです。
導入の目的と考え方は大きく次の3つです。
◆自律的ライフキャリア形成支援の施策強化
◆従来のキャリア研修から脱却(出光版キャリア自律にするため内製化)
◆上司の面談力向上も目指して面談における心構えや傾聴のマインドとスキル
をセットで伝えるとともに、構造化された面談とすることで失敗をなくす
◆従来のキャリア研修から脱却(出光版キャリア自律にするため内製化)
◆上司の面談力向上も目指して面談における心構えや傾聴のマインドとスキル
をセットで伝えるとともに、構造化された面談とすることで失敗をなくす
研修内製化の意図は、1回だけの研修で終わることなく、キャリア計画を継続的にフォローアップして伴走するためです。けっして外注研修の効果が薄いというわけではなく、研修テーマによって内製化するか外部委託するかを検討しています。
出光興産株式会社 山本 義之 様
また、上司に対しては、マインドとスキルをセットで伝えることがポイントです。「構造化された面談」とは、「質問紙票」というものを用意して、それに記載された項目に沿って面談を進めることで失敗を可能な限りなくすことを指しています。
ライフキャリアドックの進行スケジュールのイメージを表にしました。横軸は時間です。
スタート時点のAでは、まず4.5時間のオンライン研修を受けていただきます。研修には事前課題を設けています。
その後、1ヵ月ごとに「キャリア戦略会議」という名称の講義および班別討議に3回参加してもらいます。これは、初回研修から3ヵ月をかけて自律的ライフキャリア形成実践に班担とともに伴走するのが狙いです。班担とは班の担当のことで、キャリコン資格を保有する人事部員が担当します。これにより、自分のキャリア戦略=人生計画をブラッシュアップできるようにしています。
スタート時点のAでは、まず4.5時間のオンライン研修を受けていただきます。研修には事前課題を設けています。
その後、1ヵ月ごとに「キャリア戦略会議」という名称の講義および班別討議に3回参加してもらいます。これは、初回研修から3ヵ月をかけて自律的ライフキャリア形成実践に班担とともに伴走するのが狙いです。班担とは班の担当のことで、キャリコン資格を保有する人事部員が担当します。これにより、自分のキャリア戦略=人生計画をブラッシュアップできるようにしています。
そして、次の戦略会議までに、各自でキャリア戦略シートの作成・実践・見直しをしてもらいます。なお、2回目の戦略会議直後くらいまでの間にキャリアコンサルティングを受けていただきます。そうしてキャリア戦略シートがある程度整理できてきたら、上司とのキャリア面談に臨んでもらいます。
一方の上司には、部下とのキャリア面談に備えて、2時間の面談力向上研修を必須で受けていただきます。また、希望者には1時間程度のロープレの機会を設けています。
これらについて、改めてポイントをご説明します。
まず、「キャリアプランセミナー」と呼んでいるキャリア研修とは、先ほど紹介した事前課題、オンライン研修(4.5時間)、キャリア戦略会議(1.5時間×3回)を指しています。事前課題はプロティアン・キャリア動画の視聴です。
まず、「キャリアプランセミナー」と呼んでいるキャリア研修とは、先ほど紹介した事前課題、オンライン研修(4.5時間)、キャリア戦略会議(1.5時間×3回)を指しています。事前課題はプロティアン・キャリア動画の視聴です。
特徴的な工夫としては、班担が挙げられます。3~4人から成る班にキャリコンが参加してさまざまなアドバイスをしたり、質問をして深掘りを進めたりすることで、自己理解を深めてもらうようにしています。
また、「質問紙票」は社員本人にも提供し、上司との面談に備えてあらかじめ回答を準備できるようにしています。その内容についてキャリコンと相談することも可能です。
また、上司との面談で最も大事なのは、「キャリアプランを踏まえた、実際の業務で取り組むことの整理と理解」です。自分がやりたいと言っても、会社との関係性がうまくいかなければ実践できません。ですから、組織との関係性を実践に結びつける必要があります。そのために、事前に上司に面談力向上研修を受けてもらっているのです。傾聴技法や心構えなどの面談手法を教えるほか、面談のビデオも流して参考にしていただいています。
なお、キャリアプランセミナーはプロティアン・キャリアをベースにしています。ご存じの方も多いと思いますが、社員に理解してもらうのは難しいため、「これから大事にしたいキャリア」としてかみ砕いて説明しています。少しだけご紹介すると、主体は「組織に働きかける私」、ありたい姿の実現は「内的キャリア」つまり「心理的成功」です。価値観は「自分は何がしたいのか、どうありたいのか」。一方で、「組織や社会との適応力、役割の発揮」が必要で、上司=会社との信頼関係があって初めて自分のやりたいことができ、心理的成功が得られると説明しています。
その上で、「ワークだけではなくライフのありたい姿(ワクワクしている自分)を探すことが大切」と社員に伝えてしています。
(4) キャリアコンサルタント資格取得の推進
キャリコン資格取得促進の取り組みにあたっては、大きく2つの考え方があります。
まず、自律的ライフキャリア形成支援の施策強化のため、人的資本投資の一環として位置づけていることです。たとえば、研修受講者にキャリコン資格について「興味のある/なし」をアンケート調査し、「興味がある」「わからない」と回答した社員に、養成講座の開催スケジュールに合わせてオンラインで説明会を実施しています。
2つめは、部下面談の重要性や面談スキルの必要性を面談力向上研修で動機づけることで、役職者が資格取得に向けて一歩を踏み出せるようにしていることです。資格を取得すれば一定のスキルと心構えが身につくため、部下の育成に間違いなく活用できると思っています。
資格取得推進の背景には、「社会的な要請」「社内環境要因」「資格の汎用性」の3つがあります。
このうち、2つめの「社内環境要因」については、冒頭でお話しした「2030年基本方針」が関係します。弊社は石油資源関係で利益の大半を上げていますが、今後は事業構造の変革が起き、従来キャリアの踏襲が困難になる人が増えてきます。カーボンニュートラルや石油需要の減退によって、職務や業務内容の変化にさらされる社員が大量に発生する見込みです。ですから、自律的キャリアの形成と支援の仕組みであるライフキャリアドックの定着が必須で、そのためには役職者の傾聴を中心とした技能向上が必要だと考えています。
「資格の汎用性」は皆さまもご存じのとおり全社員に有用で、特に役職者の部下対応(モチベーションやエンゲージメント向上、転職防止)において高い効果が期待でき、社内の人間関係改善効果も見込めます。
資格取得の効果は、直接効果と間接効果に分けることができます。表にまとめましたのでご参照ください。このように、さまざまな効果を期待することができます。
直接効果としては、役職者が部下の話を傾聴することで部下の心理的安全性が向上します。それにより、部下のモチベーション向上、主体性の発揮、組織へのエンゲージメント向上につながります。また、役職者にとっても成果が向上し、エンパワー型マネジメントの実施(主体性を発揮する部下への権限移譲)やチームの活性化による目標達成につながります。役職者自身を含めて。部下の自律的キャリア形成が促進されると考えています。
直接効果が現れれば、プレイングマネジャー業務が低減して役職者の繁忙感が軽減される、チームの一体感が高まるなどの間接効果も出るはずです。
そのため会社としては、キャリコン資格取得は「人的資本投資の一つとして役職者に投資するもの」と位置づけて推進しています。
こうした取り組みは今年度で2年目ですが、キャリアプランセミナーの受講者数は2年間で約500名、面談力向上研修は約400名、キャリコン受験者数(予定を含む)は45名です。面談力向上研修受講者の約30%が説明会に参加し、10%強がキャリコン養成講座を受講しています。
最後に、資格取得のための支援活動についてご紹介します。大きく4つあります。
1つめは、先ほどお話ししました。「面談力向上研修」を受講した役職者に向けて、資格取得の説明会をオンラインで実施しています。日本マンパワー様との共同開催です。資格取得者による養成講座体験談も紹介しています。
2つめは、養成講座が終わるタイミングで、試験に向けた勉強方法をオンラインで紹介しています。参加率はなんと100%です。
3つめは、実技試験対策のロープレをハイブリッドで実施しています。参加者は任意です。週に1回、1回につき1.5時間です。人事部の資格保有者もオブザーバーとして参加しています。
また、受験者からの個別相談にも応じています。
直近の試験では合格率が非常に高く、実技試験は論述・面接とも100%でした。この取り組みにより、確実に資格取得が進んだと考えています。
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編集プロダクション (有)エディット 代表取締役
キャリアコンサルタント、JCDA認定CDA
キャリアに関する記事を数多く執筆・編集
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