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社員や会社とともに、キャリア支援者は成長しなければいけない(後編)

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連載記事

2024.6.7


急速にグローバル化・DX化が進む中、日々、キャリアサポート窓口で社員に向き合っている第一三共ビジネスアソシエ株式会社の細見隆夫さん・今田純子さんへのインタビュー記事後編です!
■今回のゲスト
細見隆夫さん
(第一三共ビジネスアソシエ株式会社 人事推進部 採用研修グループ)
今田純子さん
(第一三共ビジネスアソシエ株式会社 人事推進部 採用研修グループ)
■インタビュアー・執筆 酒井章(キャリアのこれから研究所プロデューサー)

3.キャリアサポート窓口 設置の経緯と実績
Q8:キャリアサポート窓口が設置された背景や経緯について、もう少し詳しく教えていただけますか?

今田:

まず、国の行政の動きが関連しています。2016年の「職業能力開発促進法」改正から、企業に対し、職業能力の開発に関するあらゆる場面で、キャリアコンサルティングを受ける機会を確保し提供するように促す内容が追記されました。これがキャリアサポート窓口設置のきっかけになりました。
同時に、先ほどお話ししたように、当社に限ったことでもありませんが、21世紀になって社内外の環境変化が激しくなり、それに伴って社員1人ひとりが習得すべき知識やスキルが急速に変化していること、さらにはその習得にスピード感が求められていることも影響しています。それに伴い、キャリアの面でも今までのことをその延長上で同じようにやっていけばこの先も大丈夫、という道筋が描けなくなってきたこともあります。
働き方も変わってきており、出産・育児・介護といったライフイベントや治療と仕事の両立に関する悩みを周囲に相談できず、本来持っている能力を十分に発揮できていない社員をサポートする必要が出てきたことも背景にあると思います。
Q9: そういった社員の不安をサポートする目的で、キャリアサポート窓口が設置されたんですね。活動のスタンスや具体的な内容を教えていただけますか。
今田:
まず、会社のスタンス・キャリアの考え方である「自律的なキャリア形成をしながら自己実現していく」に基づいて社員のサポートをしています。
細見:
個人と会社が共に成長して欲しいというのがわが社の考え方です。そのため、会社のパーパスと個人のパーパスが重なる部分を増やしていけるよう、社員一人ひとりに寄り添ってそれぞれに合ったやり方で活躍し続けて頂けるための支援をしています。
Q10: 去年のキャリアサポート窓口設置後、まずキャリア相談を実施されたと伺いました。詳細を教えていただけますか。

※画像はイメージです

今田:
昨年、第一三共本体の社員を対象にキャリア相談のトライアルをしたところ、大変大きな反響がありました。
相談者としては、20-30代の方が多かったです。国の調査でも若い世代ほど相談が多いので、弊社も同じ傾向にあるのだなと感じています。
Q11:効果測定用に、面談後のアンケートなどもとられたのでしょうか?
細見:
はい、面談直後と3カ月後にアンケートを取りました。3か月後のアンケートでは、「職場の環境変化への対応力」「仕事への向き合い方」「自律的キャリア形成における取り組み」「視点・ネットワークを広げる取り組み」などについての行動変化について聞きました。
その結果、「納得感を高めるように仕事の工夫をしています」「価値観やポリシーを持って仕事取り組んでいます」というように、仕事への向き合い方が変わってきている傾向があります。
自律的キャリア形成の部分では、「新しい知識・スキルを積極的に学んでみようという気持ちになっている」という回答が多くありました。その理由は、漠然としていた自分のWillやCanが、キャリア相談をしたことで明確になったからではないかと考えています。
その一方で、視点・ネットワークを広げる取り組みはあまり進んでいないのが気になります。

4.キャリア支援職として感じていること
Q12: このアンケート結果をご覧になってどのように感じられますか?
細見:
「自分なりに仕事をこれからこうしていこう」という前向きな意識が高まったことは、とても素晴らしいことだと感じています。なので、次はネットワークを広げるための小さな一歩をもっと進めてほしいと願っています。キャリアを形成していく上で人と人とのつながりは大切な要素であり、人的ネットワークから得られるものも大きいですから。
今田:
20代では一生懸命仕事を覚え、30-40代になると自己成長や知識取得への意欲が増す傾向にあることがアンケートからわかりました。
つまり、現業での経験を積んだ上で、「今後成長するためにどうしたら良いんだろう」という想いが高まり、そのタイミングでキャリア相談を受け、「自分に足りない知識や経験を補っていこう」という一連の流れがあるように思います。
Q13:今お話し頂いたマクロ的な傾向の一方で、相談を受けられて個人的に感じられていることはありますか?
細見:
「Will(やりたいこと・ありたい姿)を見つけにくい、Willがぼんやりしている」という相談を受けることが多いのですが、最初からWillを明確にすることはなかなか難しいのかな、と思っています。だから、Must(自分の役割・すべきこと)をこなしながら見つけていってもいい、会社が変化する中で模索しながら見つけ出すWillがあっていいんじゃないかと思います。
Must(自分の役割・すべきこと)をこなす度にCan(できること)を広げ、そして気づいたらWillが見つかる。そのプロセスも良いんじゃないかと思います。私自身もCan(面談スキル)を増やすことでWillを見つけることができ、今の役割を頂いたのだと思っていますので。
そんな社員のさまざまな思いを感じながら、キャリア支援者として社員と一緒に漂い、一緒に探していければいいなと。「一歩進んだじゃん、じゃ、次行こう」という関わり方をしています。
今田:
特に若い世代から、「この部所に行きたいけれど、どうするのが正解でしょうか?自己成長申告シートはどう書けば正解でしょうか?」とキャリアの正解を聞かれることが多いのですが、「キャリアに正解はないですよ」とおこたえしています。
あと、「人と比べる」傾向もあるように感じています。先輩や後輩といった身近な人と比べて、劣っているところがあると「自分にはまだ能力が足りない。もっと頑張らなきゃ」と焦ってしまう。なので、自分の枠の中で正解を探すのではなく、視野が少し広がるような関わり方を意識しています。
Q14:何か小さく失敗するような経験も時には必要かもしれませんね
今田:
失敗というより、キャリアの正解は一つではないんですよね。これまで受験で勝って就職活動で勝ってきたけど、そもそも、キャリア形成は自分の力だけでは決められないものです。上長とのコミュニケーションや周囲の理解といった複合的な要因や支援があってチャンスが巡ってくるんじゃないかな、と。
そう話すと相談に来た人も「あぁ!」と気づいてくれます。
細見:
「自律」という言葉が「独力(ひとり)で」というイメージで捉えられているのかもしれません。頼ることもすごく大切な能力。私は「誰かに頼ることも自律の一部だよ」とお話ししていますね。

5.今後の計画
Q15:これからの活動として、どういうことを計画されていますか?
今田:
キャリアサポート窓口には5つの機能(キャリアサポート面談、研修セミナー企画運営、社内制度運用促進、各関係部所との連携、情報発信)があります。その中でキャリアサポート相談が今回スタートしたので、今後はその他の活動も含め全体的にさらに充実させていきます。
細見:
今田さんの話と重なりますが、個別の面談という点での対応から、研修という面での対応もしっかり組み立てていかなければいけないと思っています。また、「組織にどう提言していけるか」も大事な要素だと思っています。
Q16:組織・経営にアプローチする戦略はどのようなものですか?
今田:
守秘義務を守った上で、キャリアサポート窓口のアンケート結果やデータ、実際に相談を受けた方々の声に加えて私たちの提言などをレポート化して、人事を通じて経営陣に届けることで、会社に対して「アンテナ機能」を発揮し、経営と現場をつなげる「語り部」的な役割を果たしていきたいですね。

6.変化する環境や会社の中でキャリア支援者が果たす役割
Q17:環境が変化している中で、お二方のようなキャリア支援者はどういう役割を果たしていったら良いと思われますか?
今田:
当社のキャリア支援では、上司が部下のキャリアをマネジメントして相談に乗ることが基本で、私たちキャリアサポート窓口はそこを補完する立場です。上司にちょっと言いづらかったり、上司に聞かれたけれどうまく伝えられなかったりといったキャリアの悩みを受け止めて、第三者的で完全中立な立場としてキャリアの専門的な知識に基づいてサポートしていけたらと思います。
細見:
全社的に社長が発信するビジョンやパーパスに基づいて、現場でマネジメント職と一緒に支えていきます。マネジメント職は縦軸で私達が横軸で一緒に関わりながら個人の成長を支えていくイメージでしょうか、それが会社の成長に繋がって、個人と会社が一緒に成長していく。そんなお手伝いができたら、と思います。
キャリア相談の中で、社員のみなさんの成長を一緒に感じることができ、一緒に感動体験をし、「よかったね!」「よし、行こう!」って一緒に笑えたらいいな、といつも思っています。
Q18:最後に、1時間ほどお話しいただいて、改めて感じられたことはあれば一言お願いします。
今田:
ちゃんと正解が言えたかな、なんて(笑)
細見:
こうやって話すことで、色々自分にも跳ね返ってきたなと。改めて、ちゃんと覚悟してやらなきゃいけないと思いました。「人の成長」と偉そうに言いましたけれど、僕らも成長しなきゃいけないですから。
社員も成長する、マネジメント職も成長する、会社も成長する、それと共に僕らも成長していかなければ。その覚悟をもう一度、させていただきました。もっともっと頑張ります!

〇インタビューを終えて
人的資本経営のキーパーソンはキャリア支援者。そのような私たち編集部の取材意図に、細見さんと今田さんは忌憚(きたん)の無いお話で応えてくださいました。環境変化への焦燥感、ライフイベントや治療と仕事の両立、といった、ここでご紹介くださった社員の皆さんや会社が抱える課題は、第一三共グループに限らずグローバル化やDX化に急速にシフトする多くの企業に共通するものではないでしょうか。
本インタビューを通じて、そうした状況を打破する上で「人を財産と考える」人的資本経営の取り組みは極めて重要であり、その実現のためにはトップのリーダーシップや人を大切にする組織文化といった要件が欠かせないことが浮き彫りになりました。そして、現場のマネジメントと連携しながら社員一人ひとりに伴走するキャリア支援者は、経営と現場を繋ぐ重要な「橋渡し(ブリッジ)」の役割を担っており、その原動力となるのが、目の前の人を応援したい、社員や会社と共に成長していきたい、という強い想いなのだということを、細見さんと今田さんから教えていただいた意義深いインタビューとなりました。

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