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社員や会社とともに、キャリア支援者は成長しなければいけない(前編)

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連載記事

2024.6.7


人的資本経営の本質は何か。それは「人を財産として大切にすること、そしてその価値を最大限に引き出し企業価値を高めていく」という本来の在り方に立ち返ることではないだろうか。
その意味で、働き方やキャリアを取り巻く環境が大きく変化する中、最も重要な役割を担っている人的資本経営のキーパーソンであるキャリア支援者のお話は欠かせない。そのような想いから企画した本インタビュー。
グローバル化やDX化に急速にシフトする中、昨年設立されたキャリアサポート窓口で、日々社員に向き合っている第一三共ビジネスアソシエ株式会社の細見隆夫さんと今田純子さんにお話をお聞きしました。
■今回のゲスト
細見隆夫さん
(第一三共ビジネスアソシエ株式会社 人事推進部 採用研修グループ)
今田純子さん
(第一三共ビジネスアソシエ株式会社 人事推進部 採用研修グループ)
■インタビュアー・執筆 酒井章(キャリアのこれから研究所プロデューサー)

1.キャリア支援に携わるきっかけ
Q1:まず、細見さんからキャリア支援をされるようになったきっかけについてお話しいただけますか?
細見さん ※以下敬称略
私は約15年前、45歳の時にカウンセリングを学び、傾聴によって人が変化し成長することを実感しました。また、仕事の現場に戻ったとき、傾聴スキルが営業活動や若手社員とのコミュニケーションにもとても役立つことに気づいたんです。傾聴を心掛けることで、若手社員が成長していくのを見て、とても嬉しくなりました。
そんな折、ラジオ番組でサントリーフーズのTOO活動※を知りました。これは自分の会社でもできるかもしれないと思い、当時の勤務先だった東海支店で色々な方々に働きかけて、協力者を巻き込みながら、「ポジティブチェンジの部屋」というよろず相談室を作らせていただきました。
※TOO(となりのおせっかいおじさん):役職勇退後のベテラン社員がその経験を活かして若手社員の相談やマネジャーへのアドバイス、職場交流会の開催など職場の潤滑油としての役割を務める取り組み
そんな取り組みを評価いただいたのか、去年2023年、第一三共グループ全社に向けて「キャリアサポート窓口を開設するので、東京(ビジネスアソシエ)に是非仲間として来てもらえませんか」というお声がけをいただき、現職に従事することになりました。
Q2:今田さんがキャリア支援の道に進まれたきっかけは何でしたか?
今田さん ※以下敬称略
私がキャリアコンサルティングの勉強を始めたきっかけは、高校の同窓生から「今田さんの考え方って、相変わらず枠から出ないよね」と言われたことです。ハッとしました。
ちょうど子どもが思春期に差し掛かっていた頃のことでした。そこから、「自分は、母親として子供の話をきちんと聴けているだろうか、『こうあるべきだ』みたいな価値観を押し付けていないだろうか」と自問するようになりました。
また、私の世代は、今とは違い企業で正社員として働き続けている女性が周囲にあまり多くはなく、私も企業で働き続けてきましたが、出産や育休といったライフイベントの苦労を身近に話せる人がおらず、自分の中でもがきながら何とか消化してきました。
そういった経験もあって、自分の子どもであれ他人であれ、私の生きざまみたいなものを、押し付けではない形で何か役立てられないだろうかと思うようになり情報収集していたところ、「カウンセラー」という職種をたまたま見つけ、「鏡になって返すことで相手に気づきを提供する」という考え方に共感し、カウンセラーの勉強を始めました。

2.事業環境や会社の変化
Q3:では次に、御社についてのお話をお聞かせください。いま、どのような事業環境の変化があって、それに伴って事業戦略や人事戦略がどのように変化しているのかをお聞かせ頂けますか?
細見:
第一三共株式会社の設立は2007年。創薬企業として100年近くの歴史をもつ三共株式会社と第一製薬株式会社の共同持株会社として設立されました。
弊社は、歴史的に、降圧剤や抗菌剤といった循環器疾患領域や感染症領域の薬を取り扱ってきたのですが、近年、一気にがん治療薬の領域にシフトしました。
それに伴い、組織や人にも大きなトランスフォームが要求され続けています。こうした状況の中で、会社のパーパスと個人のパーパスをどのように合わせて働いていくか、どう生きていくかが社員一人ひとりに改めて問われている状況です。
今田:
私は入社して30年近く経ちますが、弊社がまさかがん治療薬をコアとする製薬会社になるとは思いもしませんでした。今、オンコロジー領域専門のMR(製薬会社の営業担当者)という職種が生まれたり、これまで以上に患者さんに寄り添う姿勢が求められたり、会社の変化を感じています。
また注力領域のシフトと同時に進んだのがグローバル化です。この10年ほどで海外での売上を大きく伸ばし、2022年度には海外での売上が日本の売上を上回っている状況です。
※画像はイメージです
Q4:グローバル化することで会社の中でどのようなことが起きましたか?
今田:
今ではグローバル会議が当たり前で、研究開発も海外拠点との連携が常態化しています。
細見:
我々のいる国内コーポレート部門でも海外メンバーが徐々に増えてきましたし、外国人のマネジャーも出てきています。
Q5: 会社のグローバル化を、社員の方々はどのように受けとめられていますか?
細見:
二極化しているように感じます。英語を身につけなければ、変わらなければ、会社の変化についていけないという切迫感から、英会話などを必死で勉強している人たちがいる一方で、波に乗りきれず不安感を抱きつつも身動きが取れないでいる人もいるのは確かです。
今田:
今の仕事を続けていけるんだろうか、組織変革があって全く違う仕事をやれと言われるんじゃないか、英語が喋れないと居るところがなくなるんじゃないかといった、さまざまな不安を抱えておられるように思います。
Q6:グローバル化の他にDX化へのシフトもありますか?
細見:
あります。自律的なキャリア形成支援施策の一環で、ITパスポートやデータサイエンティスト検定の資格取得を会社として強く後押ししています。具体的には、会社が学習コンテンツを提供したり、受検料を補助したりしています。また、業務効率化の側面でもどんどんDX化が進んでいます。
グローバル化の波と同じく、DX化の波にも乗らなければと、社員も必死でキャッチアップしている様子が伺えます。
※画像はイメージです
Q7:人的資本経営も推進されていらっしゃいますね?
細見:
はい。弊社はもともと、人をとても大事にする企業文化があります。キャリア入社した社員から、充実した福利厚生など制度面も含めて「人に優しい会社ですね」と言われます。
また、第一三共グループの人的資本経営の考え方でも、「人」を最重要な「資産」であると位置づけています。第一三共グループにおける「人的資本」の定義は、①「個人の強みの強化」、②「強化領域への継続的人材供給」、 ③「人や組織のシナジーを創出するための体制・制度・施策」の3つの要素をかけ合わせたものと定義しており、①はさらに、高い専門性、高いエンゲージメント、自律的な行動の要素から成り立っています。
キャリアサポート窓口は、3つの要素の中の「自律的な行動」を支援する意図から設置されたものです。
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