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企業内キャリア支援に活かす「ネガティブ・ケイパビリティ(わかろうとする状態をキープする力)」(後編)

イベント

2024.11.5


2024年7月20日、株式会社日本マンパワー会長の田中が執筆した書籍の出版を記念し、企業内キャリア支援者を対象としたイベントを開催しました。
●書籍 『対人支援に活かすネガティブ・ケイパビリティ』
詳細はこちら
イベントでは、田中から、変化が激しく予想困難な現代において注目度が高まっている「ネガティブ・ケイパビリティ(わかろうとする状態をキープする力)」について紹介。また、サントリーホールディングス株式会社キャリアサポート室専任部長(※)の塩見好彦様にもご登壇いただき、ネガティブ・ケイパビリティが発揮されたキャリア支援の事例などをご紹介いただきました。
※ご所属・役職はイベント登壇当時のものです
〇登壇者
株式会社日本マンパワー代表取締役会長 田中 稔哉
サントリーホールディングス株式会社
キャリアサポート室 専任部長 塩見 好彦 様

<略歴>
1978年サントリー入社。営業・マーケティング部門(12年)、グループ会社を含めた人事部門(17年)の経験を経て、2007年にキャリアサポート室を立ち上げ、初代室長に就任。以来、約16年間、企業内キャリアコンサルタントとして、社員のキャリア自律をミッションとした活動に従事。

2.サントリーにおける企業内キャリア支援
イベント後半は、まず塩見様から、ネガティブ・ケイパビリティが発揮されたキャリア支援の事例をご紹介いただきました。

(1) キャリアサポート室立ち上げの経緯
私は、サントリー株式会社でキャリアサポート室の立ち上げに関わり、以来ずっとキャリア支援に関わる仕事をしてきました。キャリアサポート室の設置目的は、従業員一人ひとりの成長とキャリア自律の支援です。2007年に設置しました。
設置の検討を始めたのは2005年頃です。当時、弊社グループの連結売上は2年連続で大幅減収、その後の回復兆しも見えない厳しい時期でした。そのため、さまざまな見直しが叫ばれ、各部署で改革が行われました。
人事部門も同様です。それまで私たちは「組織が求める知識・スキルを身につけてほしい」という組織の視点で制度の策定・運用をしていましたが、「環境変化が激しい中、本当にそれで十分だろうか」と議論されるようになりました。そして、組織の視点だけではなく、個人の視点に立った支援も必要だろうということで設置に至りました。
設置に向けての準備期間には、さまざまな会社様にヒアリングをしました。すると、ネガティブ・ケイパビリティの背景と似ていて、各社とも「多様な価値観が広がっている」「環境変化のスピードが速く激しくなっている」「これから何が起こるか誰も予測できない」と口を揃えておられました。
当時は、インターネットの人口普及率が70%に達する頃です。個人でさまざまな情報を入手することができるようになり、経験の蓄積を基に部下を指導するOJTがうまく回らなくなっていました。それゆえに、「従来とは異なる新たな切り口」が必要とされ、キャリア自律の考え方を導入する意思決定がなされたのだと考えます。

(2) ネガティブ・ケイパビリティとの共通点
先ほどのネガティブ・ケイパビリティのお話をうかがって、キャリア自律支援を早めに導入して良かったと感じています。
たとえば、組織の視点と個人の視点という、相反する考え方です。従来は、組織の視点で効率を重視し、何か問題が起こったら原因を突き止めて解決を求める方法が主流でした。この視点の時間軸は、短期的だと思います。
一方、個人の成長にむけての視点は中長期的です。「将来どうなっていたいか?」という自分像を描いた上で、そこに向かって一歩ずつ進んでいきます。原因追求というよりも、効果を重視します。研修においても、自分らしい答えを出してもらうようなワークショップが増えました。
本当に、キャリアサポート室の考え方はネガティブ・ケイパビリティと重なる部分が多いと感じています。

3.塩見様×田中 クロストーク

(1) キャリア支援に際しての関わり
田中:キャリアサポート室を立ち上げられた当時、塩見さんはどのように相談者に関わろうとされていましたか。
塩見様(以下敬称略):人は無限の可能性を持っていることを信じ切ろうと考え、諸般の事情でそれを発揮できなくなっているのだから、その事情を取り除いたり整理してあげたりすれば、必ず本人が答えを見つけるはずだと思って関わっていました。答えが欲しくて相談に来られるケースでは、なるべく内省してもらえる質問をするようにしてきました。
田中:「どうしたらいいですか?」という相談は、そのこと自体がポジティブ・ケイパビリティですね。「わからないから考え続ける」ことが大切です。

(2) 選択肢や仮決定の形で保留する
塩見:私からも質問させてください。全社的な調整で年間評価結果を下げなければならない時、新任マネージャーから「メンバーにどう伝えればいいか?」と質問されることがあります。私自身も答えを持っていないので困ってしまいます。
田中:今はどうお話しされているのですか。
塩見:3つくらいの考え方を紹介したりしています。1つは、「会社でこういう調整があったのだけれど、今後もがんばってほしい」とストレートに伝える方法。2つ目は、「(メンバーの)あなたもこの評価結果に悩んでいるだろうけれど、(マネージャーの)私も新人の育成など共通のテーマで悩んでいるので今後について一緒に相談させてほしい」などと相談を添える方法。3つ目は、メンバー本人のできている点に焦点を当てて、前向きになってもらう伝え方です。それらを紹介した上で、「あなたはどの方法を選びますか?」と選択してもらうことが多いです。
田中:選択してもらうのはすばらしいと思います。もしネイティブ・ケイパビリティをゼロにすると、「こうしなさい」と言い切ることになってしまいます。選択肢や仮決定の形で保留する部分を少し残しておくことが大切だと思います。

4.質疑応答
イベント最後は、参加者からの質問に田中と塩見様が回答。「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉を初めて聞いた方も多く、質問が相次ぎました。質問の一部をご紹介します。
参加者の質問①:仕事では、何らかの判断をして進めなければならないことがあります。それがネガティブ・ケイパビリティと矛盾する場合、どうすればいいのでしょうか? ネガティブ・ケイパビリティとポジティブ・ケイパビリティのバランスを取ったマネジメントが必要なのでしょうか?
田中の回答:おっしゃる通りです。テーマや状況によって、ポジティブ・ケイパビリティ優位で対処した方がいいものと、ネガティブ・ケイパビリティ優位で対処した方がいいものがあります。一般的な仕事の多くはポジティブ・ケイパビリティ優位ですが、それによる判断が100%正解だと思わない姿勢が、上司にも部下にも必要だと思います。
参加者の質問②:ネガティブ・ケイパビリティの先にあるものは何でしょうか? 最初の仮説を検証してうまくいかなかった場合、諦めずに再度仮説を立ててやり続けるということでしょうか?
田中の回答:ネガティブ・ケイパビリティとは「諦めて何もしない」ことではありません。その時々で決めなければならないことは決めますが、それは最終決定ではないということです。たとえば、選挙で投票したら終わりではなく、候補者がその後どんな言動をしているかを観察し続け、自分の選択が正しかったか否かを考え続けるようなものです。
参加者の質問③:答えが出ないような質問に対して相手から回答を求められた場合、どう対応をしますか? ネガティブ・ケイパビリティの大切さを伝えても、回答を求める人からがっかりされてしまう気がします。
田中の回答:「相手から答えが出ない」と決めつけず、「待つ」姿勢の大切さをお伝えします。ネガティブ・ケイパビリティを支えているのは、相手への信頼と希望です。もちろん、その時の状況で決めなければならない場合も多々あります。その場合はアドバイスなどの回答をしますが、相手に合っているかどうかわかりませんので、かなり慎重になる必要があります。
【編集メンバー 日本マンパワー緒方より】
今回のイベントレポート、いかがでしたか?イベント当日、私も立ち会っていましたが、参加者の質問が普段より多く、参加者の関心度や熱量を肌身で感じました。
また、企業において、素早く問題解決しようとする「ポジティブ・ケイパビリティ」があまりにも当たり前なのか、「ネガティブ・ケイパビリティ」の考え方に対し、イベント序盤では、戸惑いを感じている参加者もいらっしゃったように感じました。
今回お届けした「ネガティブ・ケイパビリティ」の考え方、企業内キャリア支援に携わる方のご活動の何か一助になりましたら幸いです。
また「ネガティブ・ケイパビリティ」についてもっと知りたいという方がいらっしゃいましたら、ぜひ書籍もご購入ください!
●(書籍)『対人支援に活かすネガティブ・ケイパビリティ』
田中 稔哉著 日本能率協会マネジメントセンター2024年6月20日発売

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