イベントレポート 人的資本経営を実践するリーダーに求められる能力とは(後編)~リーダーの自己認識力の向上は、エンゲージメントが高く、イノベーションが生まれるチームをつくる~
リーダーシップ自己認識力
2024.3.14
人的資本経営の本質を理解し実践するため、リーダーの自己認識力の重要性が高まっています。そうした状況を受けて、個性とリーダーシップを開花させる能力開発プログラム「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」(Google社開発)が世界中で高い評価を受けています。
そこで、2023年11月22日(水)に特別セミナーを開催し、日本企業へのSIYの啓発を推進してきたマインドフルリーダーシップインスティテュートの荻野淳也様にご講演いただくとともに、参加された皆さまにワークの一部をご体験いただきました。また、オリンパスの玉澤康至様をゲストにお招きし、同社がSIYを社内展開された事例についてお話しいただきました。
〇登壇者
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート
(Mindful Leadership Institute 略称:MiLI)
代表理事 荻野 淳也 様
理 事 中村 悟 様
オリンパス株式会社
HR Organization Development, Japan Director
玉澤 康至 様
2.企業の取組事例~オリンパス株式会社様
自己認識力強化と組織開発
~マインドフルネス&レゴの取り組み実施の背景とトライアル~
(登壇者)
オリンパス株式会社
HR Organization Development, Japan Director
玉澤 康至 様
(1) 会社概要
オリンパス株式会社は、連結従業員約33,000人のグルーバルな組織です。デジタルカメラや顕微鏡などの事業は譲渡し、現在は医療専門の会社として内視鏡と治療機器を核に事業展開しています。こうした変化の中で最も大きな組織改革は、創立100周年の2019年に発表した企業変革プラン「Transform Olympus」です。本プランにより、「世界の人々の健康と安心、心の豊かさの実現」という私たちの存在意義が明確になり、新たな経営戦略が立てられました。
それに伴って、人事施策においても、「組織開発・人材育成」「人材マネジメント」「働く環境整備」を軸に大きく改革することとなりました。新経営戦略の一つである「企業文化の醸成」を、人事制度改革と運用の浸透を通じて実現するためです。現在も猛スピードで変革している真っただ中です。
しかし一方で、大きくかつ速い変革は、社員の疲弊感を生みがちです。そのため、変革と並行して、グローバル全体で連携して組織開発を進めています。
(2) オリンパスが目指す姿とその施策
私たちが目指す企業文化は「健やかな組織文化」であり、存在意義を実現するために従業員一人ひとりがベストな状態でパフォーマンスを発揮できる文化です。そのためには、「影響力を与えるリーダーシップ」「コラボレーション」「外部・顧客志向」「権限委譲」「チャレンジできる風土」「ワーク in ライフ バランス」の6要素が求められます。
ただ、日本においては、これまでどちらかというと画一的な働き方をしてきました。いわば、特定属性の従業員の活躍を中心とした働き方でした。しかし、これから目指す姿は、多様な人材による多様な働き方です。そのためには、自分自身で何かを選択する自律性が重要になります。それを強化するのは内発的動機で、仕事の意義や目的、自分の何のために働いているのかなどを言語化して自分で意思決定する必要があります。そして、それによって自己実現を叶え、生活との調和を図りながらエンゲージメントを高めていく。そのような流れで「健やかな組織文化」を目指していこうと描いています。
内発的動機を高めて自立性を強化するために、現在、次の4つの施策をさまざま組み合わせて実施しています。
・無駄の排除、シンプル化(無駄な業務やルールを削除、シンプル化によって本来の業務に集中できる)
・選択する機会の提供(自分自身の行動は自ら選択する機会)
・有能感(自らのスキルを強化して課題に挑戦し達成感を味わう機会)
・関係性を作る(人と支えあい貢献し、貢献される関係作り)
(3) 組織開発手法
組織開発にあたっては、全世界で行っているサーベイの可視化されたデータを見ながら、ポジティブな対話に取り組んでいます。そうして、将来のあり方を自分たちで決める未来づくりにつなげていこうとしています。
ここで私たちが重要視しているのは、対話型組織開発です。単に議論をするだけではなく、仕事の目的や自分たちの価値観など、共通の目的や意義を見い出すようなテーマで取り組んでいます。具体的な手法としては、1on1ミーティング、各種ワークショップ、オンボーティングなどが挙げられます。
成功循環モデルは、まず関係の質、そして、思考の質→行動の質→結果の質というサイクルです。関係の質を良くして、お互いに尊重したり気軽に相談したりするためには、相手の感情や価値観まで理解できるような対話が求められます。そうした関係性の構築ができる施策を進めています。
(4) 組織開発施策
本年度は、キャリア支援施策推進、コラボレーション施策強化、働き方改革と脱サイロ推進を重点テーマに設定しています。具体的には、キャリア支援施策推進であれば、社内公募の通年化、キャリア支援E-Learning、キャリア研修、1on1セミナー。コラボレーション施策強化であれば、レゴワークショップ、スクラムトーク(部門間の対話型ワークショップ)、職場アンバサダー企画など。働き方改革と脱サイロ推進であれば、ABWワークショップ(どういう仕事の時にどこでいつ働くかなどをマネジャーとメンバーが語り合う)、人事制度改定などです。
対話型ワークショップの実施後にはアンケートをとっています。その結果を見ると、さまざまな気づきがあるようです。なかでも多いのが、「今、自分が何に困っているか、悩んでいるかを言葉にできていなかった」というものです。「こう働きたい」「こんなキャリアを描きたい」などを言葉にする機会はありますが、「今、私は何に困っているか」「何を不安に感じているか」「どういう時に楽しいと感じるか」などについてはあまり言語化する機会がないのです。しかし、今の自分の状況をわかっていないと、未来に向けての最初の一歩を踏み出すことができません。逆に、今の自分を言語化することができると、未来に向かいやすくなります。私自身、自己認識・自己理解が非常に重要であることが、2年間の取り組みでわかってきました。
こうした取り組みの最中に、MiLIの荻野さんを講師とする「サーチ・インサイド・ユアセルフ(SIY)」の研修が開催されましたので、私も受講させていただきました。非常にわかりやすく、自分を感じることができ、自分が大切に思っていることを言語化でき、自分の調子がいい状態にするためにどう環境を整えればいいかなどを把握することができました。自社の社員にもぜひ受けてほしいと思いました。
そこで弊社で実施したのが、SIYとレゴを融合したワークです。「新時代をイキイキと生きる自分のアップグレードを考えるワークショップ~マインドフルネスとレゴシリアスプレイ~」と名づけ、トライアルとして半日実施しました。目的は、会社の変革が進み、自分自身の将来について不安を感じる中、自分の過去・現在・未来を内観し、自己認識力を高めることによって、イキイキと生きる自分のあり方を考えるためです。今の仕事を多面的に見て、自分の価値観と照らし合わせることで、本来の自分と仕事の目的とを重ねていくことができ、ストレス軽減と次の一歩の明確化を実現することを目標としました。
当日は、荻野さん・中村さんによるセミナーと、私がファシリテーターを務めるレゴワークショップで、参加者の言語化を促しました。プログラム概要は次のようになります。
(1) はじめにチェックイン
(2) 自己認識力とは(マインドフルネスワーク)
(3) 自己認識力と各能力(セルフマネジメント/リーダーシップ/キャリア)の関係性
(4) 自分を内観する(レゴワークショップ)
(5) 振り返り
(6) 全体シェア
参加者からは、似かよった気づきと感想が寄せられました。
気づきとしては「自己認識力の大切さ」を挙げる人が多く、たとえば「自己認識力、マインドフルネスが自身をとりまくさまざまなことも基盤になるということ」「自分の感情に気づくことの重要さ」「まずは自分を知ることから、と改めて感じました」などの声が多くありました。
感想としては、「自分が受ける理由であった将来・キャリアのモヤモヤに対して、前にすすめるきっかけになりました」が象徴的かと思います。
今回の経験をもとに、来期も荻野さんたちと一緒に新しい取り組みをしていこうと考えています。
3.自己認識体験ワーク
(登壇者)
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート
荻野 淳也 様
中村 悟 様
本日は、SIYのプログラムのうち、自己認識力向上のためのワークを体験いただきます。「ジャーナリング」と呼ばれるワークで、テーマを3つ提示させていただきます。それに対して皆さんは、頭に浮かんでくることを書き出してください。
頭に浮かんでくることを自己認識して、それを言葉にしてアウトプットし、客観的に見る一連のプロセスが、自己認識力の向上に非常に有効だと言われています。
1つのテーマについて、書く時間は3分弱です。その間、書き続けてください。もし、何も書くことがなくなってしまったら、自分の内面の状態を書いてください。たとえば、「書くことが何もなくて焦っている」などです。内面を言語化してアウトプットすることも、自己認識の大切なワークです。
アウトプットが終わったら、自分が書き出した言葉を1分半ほど振り返りましょう。どのような発見や気づきがあるでしょうか。その後、グループ内でも気づきや感想を共有してください。
「感じる」と「言語化」には隔たりがあります。普段なんとなく感じていたことを言語化して認識することによって、その隔たりを埋めて行動につなげやすくなります。それを習慣にすることが大切です。
4.プログラムのご紹介
(登壇者)
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート
荻野 淳也 様
日本マンパワー 黒田 留以
荻野
前半の講演でもお話ししましたように、SIYは元々Google社が開発したリーダーシップ能力開発プログラムです。エモーショナルインテリジェンス(EI)の大家である心理学者のダニエル・ゴールマン氏も監修しています。
プログラムのフルパッケージは、理論と実践を融合した14時間のメインプログラムと、習慣化のためのフォローアップです。ただ、最初からフルで導入するのは難しいという会社様もあるでしょうから、エッセンスを凝縮した3時間の講座など、さまざまにカスタマイズしてご提供することが可能です。
日本マンパワーさんを通じても、これまで何社にも導入した実績があります。たとえば、「疲弊したミドルマネジメントのためのマネジメント研修(3時間〜1日)」「マインドフルネスベースのストレスマネジメント、レジリエンス研修(3時間)」「社会人の新たな基礎スキルとしてのセルフマネジメント:3時間〜1日」などです。
その他、組織課題に応じて、組織開発、人材開発、リーダーシップ開発のプログラムをアレンジすることが可能です。
黒田
私どもが荻野さん達と一緒にご提供するプログラム以外にも、日本マンパワーが独自でご提供しているプログラムもあります。キャリア開発の手法を活かして実施しているリーダーシップ開発プログラムです。キャリア開発においては自己理解が必要不可欠ですので、「自分の強み、弱みを知る」「モチベーションの上がるポイント」など、キャリア開発研修で扱うさまざまな自己理解セッションをリーダーシップ開発に取り入れています。
なかでも、「自分の内側の多様性」を深く知ることが大事だと考えています。「自分にはこんなにいろいろな側面があるんだ」と知ることが、さまざまな人が複雑につながる「外側の世界の多様性」を知ることにつながります。リーダーは、外側の多様性をマネジメントする必要がありますので、ぜひ、自分の内側の多様性を深く広く把握していただければと思っております。
また、その取り組みを継続して習慣化することも非常に重要です。たとえば、半年ほどの期間で3時間のワークショップを4~5回実施し、その間に、少人数でのミーティング形式で参加者同士による振り返りを何回か設けていただく。そうしたプログラムデザインで、ご提案しております。
詳しくは資料をご参照いただければ幸いです。
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編集プロダクション (有)エディット 代表取締役
キャリアコンサルタント、JCDA認定CDA
キャリアに関する記事を数多く執筆・編集