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【キャリこれ所長より皆さまへ vol.1】1月15日設立記念イベントのキーメッセージ&研究会に向けて (前編)

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2021.2.26


~キャリこれ所長よりみなさまへ~
今後、月に一度、「キャリアの“これから”」に対する私の想い・視点・問いを言葉にしてお届けしていきます。
水野みち プロフィール
キャリこれ研究所所長、株式会社日本マンパワー フェロー
NPO日本キャリア開発協会認定スーパーバイザー、ACCN理事、厚生労働省委託事業「SV検討委員会」委員。
【経歴】国際基督教大学卒業。1999年より日本マンパワーでキャリアカウンセラーの養成事業に参画。JCDAの立ち上げ、キャリアコンサルタント養成講座プログラム開発・テキスト執筆、普及推進に携わる。
2005年に米国で最も充実したキャリアセンターを持つペンシルバニア州立大学にて教育学修士(カウンセラー教育)取得。現在は企業内のキャリアカウンセリング、キャリア開発、組織開発、企業内キャリア支援のスーパービジョンに従事。
国家資格キャリアコンサルタント/CDA、MBTI認定ユーザー、組織開発ファシリテーター、産業カウンセラー、Dr.Robert Keganによる認定ITCファシリテーター。
2021年1月15日の設立記念イベントでは、参加者の皆さまと、大切な問いやテーマを共有することができました。改めまして、ご参加くださった方、遠くから応援してくださった方に心より感謝申し上げます。
【イベントレポート前編】https://future-career-labo.com/2021/02/05/unno03/
【イベントレポート後編】https://future-career-labo.com/2021/02/05/unno04/
イベントで皆さまとともに考えた問いは、これからも絶やさず、2月下旬に発足した「キャリアのこれから研究所 研究会」にて深めていきたいと思います。どうぞ、引き続きよろしくお願いします。
また、今回のお便りでは、設立記念イベントのキーメッセージがどのように研究会につながっていくのかを整理する意味も込めて書きました。ぜひご覧ください!

「成長とは純粋になっていくこと」

イベントのインスピレーションムービーに出てくださった現代アーティスト小松美羽(こまつみわ)さんの言葉「成長とは純粋になっていくこと」に対して、ご参加者の方から「純粋になるとは、どういう意味ですか?」という質問を頂きました。
確かに、大人になるということは、むしろ世間を知り、物分かりが良く、要領も良くなり、パターンが染みつき、どこか純粋性を失っていくイメージさえあります。なぜ純粋なんだろう?と思われた方もいらしたのではないでしょうか。
じつは、「純粋性(genuineness)」という言葉はカウンセリングの大家であるカール・ロジャース博士(Carl Rogers)も提唱しており、カウンセリング効果を発揮する上で必要な主要3大条件(受容・共感・自己一致/純粋性)の一つでもあります。
ロジャース博士は、純粋性を「自分の感じていることを歪曲して飾りや見せかけを持つのではなく、自分の中に流れる感情や態度に十分に開かれている状態」と表現しています。晩年、ロジャース博士はこれが一番大切だと言い、技法を教えるのをやめ、関係性の中で現れる自分に意識を向けるグループワークに励みました。このあたりにも何かヒントがあるかもしれません。
実際に、キャリアカウンセリングや組織開発、またはコーチングの場面において、目の前の方(相談者や従業員の方々)が純粋さの方向に向かっていると感じる瞬間があります。それは、相談者や従業員の方が、皮肉やあきらめの声を持つことで自分の何かを守っている状態から、りきみが緩み、意識の矢印が「他者」から「自分」に向き、自分が感じていたこと、恐れや願いなどをありのままに語りはじめられるときです。
例えば、こんな感じです。
「私は、ずっと、人のせいにばかりしていました。親のせい、先生のせい、上司のせい、、、それは、自分に失望するのが怖くて、逃げていただけなのかもしれません。自分に失望するのは今でも怖いけど、それも少し心地よい覚悟に変わりはじめています。小さなことでも自分がやってみたいことに挑戦したいです。」

「…その時は何も言えませんでしたが、後からすごく腹が立ちました。ないがしろにされている、私なんていらないんだと感じはじめたら涙が止まりませんでした。でも気づいたんです。私の怒りの奥には、貢献できていない自分へのうしろめたさ、自分への腹立たしさがあるんだって。もっと役に立ちたいという思いが強いんですね。大切にされて、尊重もしてほしかった。ここで私が怒って退けたら、きっと相手は私の気持ちなんて何も分からず終わるだけですね。よく考えたら相手だって精一杯なんですよね。貢献したかったら、まずは相手を労うことだって出来たのに。」
純粋性に向かうとは、色々なことを思い出す瞬間でもあるようです。生き生きと堰を切ったように話す人もいれば、「そういえば…」とかみしめるように、点と点を線で結ぶように話す方もいます。その状態を「本当の自分とつながった感覚」とか「本物であるAuthentic」と表現する人もいます。私は、これを成熟に向かっているように捉えています。だからこそ、小松さんがインタビューで言った「例え大きな罪を犯した人であっても、何歳からでも、誰でも、人は純粋になれる」という言葉が染みました。

社会や文化の中の自分

「それなら子供の方が純粋じゃないか」と言う人もいるでしょう。そうかもしれません。しかし私たちは、社会でよりよく生きるために、ルールや規範を身につけます。生徒として、会社員として、社会人としての常識、と言われるものです。
社会構成的キャリア理論を提唱するマーク・サビカス博士(Mark L. Savickas)もインタビューで言っていましたが、私たちは特定の家庭や生活・社会・文化の中に生まれるのです。誰もがストーリーの中に生まれてきます。適応が求められ、その場の色や空気に合わせたりもします。自分を守れるからです。それも社会人として、大人になる一つの大切なプロセスです。
組織内で見るとどうでしょうか。私たちは、資本主義をベースにした営利組織で尊重される「べき」を心得ていきます。秩序と安定がもたらす社会の良さも知ります。自らの願いや喜びを抑圧することで得られる保証と報酬も大なり小なり体験します。
しかし同時に、あるいは次第に、唯一の正しい道の「閉塞感」とその「窮屈さ」も味わっていきます。イベントで、パネリストであるサイボウズチームワーク総研講師である高木一史(たかぎかずし)さんがおっしゃった「自分が分断される感覚」がこれにあたるのかもしれません。
最初はうまく適応できている自分が気持ちよくさえ感じられるのに、それに対する「揺らぎ」が出てくるのです。自分の体験が自分に嘘をつけなくし、葛藤が起こります。時には、
いてもたってもいられなくなる。興味深いことに、葛藤が、じつは人を純粋に向かわせるとも言えます。サビカス博士の言葉を借りると、自分の願うストーリーに意識を向ける時期だとも言えます。

発達という視点

成人の意識における成長・発達分野の専門家ロバート・キーガン博士(Robert Kegan、以下キーガン博士)は、発達とは「それまでに持つ自身の視点の枠組みに気づき、その枠組みを超えた視点を獲得すること」と言っています。
例えば、幼児のころは、文化や規範を持っていません。そして、意識が自分から見えた世界だけに偏っています。このことから、赤ちゃんの視点は原始的な狭い範囲の純粋さだと言えます。集団生活を経て、次第に規範を学び、相手の立場を意識することで意識が拡張し、成長していきます。
私たちの持つ一般的な大人の定義はここで止まっていることが多いのではないでしょうか。「世の中のルールを理解でき、規範に沿ったふるまいが出来る人」です。しかし、大人の成長にはさらに先があるとキーガン博士は言います。それは、個人の意識やあり方が再び拡張する段階です。先ほどの「閉そく感」、「規範は大切だと十分わかっているけれど、もっとこうしていきたい」という感覚が成長の兆しです。
ラグビー日本代表としての活躍が記憶に残る廣瀬俊朗(ひろせとしあき)さんが、インスピレーションムービーの取材時に、2015年World Cupを振り返って、「自分たちで決めたからこそ、力が出せた」とお話しされていましたが、同じような感覚だったのかもしれません。監督の指示もルールも色々と分かった上で、グラウンドにいる自分たちで次の一手を選んでいく。視点の枠組みが広がっているからこそ、自分と相手の間に、対話や相互依存という次元が生まれる。そして成長するからこそ自分の中の多様性にも目を向けることができる。
キーガン博士は、さらに意識が拡張すると、周囲の多様性も受け入れ、自分とは異なる考えを持つ人にも親愛と関心を向けるようになると言っています。ルールや規範として多様性を受け入れるのではなく、親愛と関心から受け入れるという視点が意識の広さを物語っています。純粋性に象徴される人の成熟・成長のイメージが少し深まったとしたら幸いです。
後編は、こちら

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