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キャリこれ

「本気」で関わり、みんなで「場」をつくれば プレイフルな社会が生まれる【後編】

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連載記事

2023.4.14


社会人や企業人の学びの潮流を俯瞰すると共に、新たな学びに挑戦する現場のレポートを行い、これからの働き方やキャリアの道筋を描く上で本質的に考えるべきことの解明をめざしてスタートしたシリーズ「学びのこれから」。
第7回は、ワークショップのパイオニアでもいらっしゃると同時に、現在では「PLAYFUL」をコンセプトに学びの場や働く場を楽しくする取り組みを実践されていらっしゃる上田信行先生にお話をお聞きしました。
後編をお届けいたします。

4.「リフレクションではなくてセレブレーション」

緒方:先生が「最近はまったこと、巻き込まれたこと」は何ですか?
今年の3月まで、ゼミ生と、毎週1回クライアントもテーマも全部違うワークショップをやってきました。1週間に1回だと、ひとつのワークショップが終わったらすぐに次の準備をしないと間に合わないんです。それがトレーニングになります。できるだけたくさんの体験をして、言語化して、どんどんフィードバックして、場をホールドして盛り上げていく。それは頭だけで考えていても無理で、どうやったらうまくいったのかを「感じ」ながら、それを「言語化(可視化)」していくことが大事なんです。
あと、東京の建築設計事務所の人たちと一緒にワークショップの開発をしています。以前は、クライアントも求めたいもの(建築要件)を明確に持っていましたが、今は具体的にはっきりしない案件が多くなっています。なので、ワークショップをしてみんなで一緒に考えよう、ということをやっています。

さまざまな出来事が毎週起こっているので「毎週はまっています」というのがご質問に対する答えです。もうはまり続けているっていうことですね。

ネオミュージアム内の茶室(美遊庵)でのワークショップ風景
(この日は、全員、名古屋から家族でいらしてくださいました)

緒方:「はまり続けている」って名言ですね
教育の世界でも「リフレクション」ということが大切だと言われてきましたよね。でも、あそこできなかった、ここが出来なかったという、省察というよりは、ネガティブな反省会になってしまうんです。
なので僕は、「いい所をもっと見ようよ」「リフレクションじゃなくて“セレブレーション”という言い方に変えよう」と言っています。あるいは、もうちょっとわかりやすく「自我自賛」。複数形の「自我」で「私たち自賛」。この言葉は、結果を褒めるというより、プロセスプレイズ、私たち頑張ったよねという行動の過程に注意を向けることが大切だと思っています。うまくいったかどうかは、その場の関係性の中で生まれていくわけですから。
リフレクションではなくセレブレーション

緒方:関係性の中で新しいものが生まれていくというのも興味深いなと思っていました。最近自分の仕事は結構「個」になっていて、「自分でやらねば」と思っているところがあるのですが、もしかすると、もっと人を巻き込んだ方がいいものが生まれるんじゃないか、という気がしてきました。
何か仕事をやるとき、まず「これ、誰としようか!」と考えたら良いと思います。自分だけですべてやるなんてことは、特別なケースだと考えて。仕事が来た時に「あの人を引っ張って来ようかな」と思ったら、ちょっと楽しくなる。僕は「友達の数だけ可能性がある」と言っているんです。企業の人もたくさんお友達を、社内でも社外でもたくさん持たれるといいと思いますよ。
友達の数だけ可能性がある

緒方:先生のご本を拝見し、私自身も「Can I do it?(自分にできるかな)」という気持ちになりやすいタイプで、「How can I do it(どうやったらできるか)?」という方になかなか意識が向かなかったことに気づかされました。
僕は、非常にシンプルにプレイフルを「物事をSuper Howで考えよう」と言っているんです。できるかできないかではなくて、どうやったらできるかを考えるということです。大阪の小学校でインクルーシブ教育をやっていらっしゃった木村泰子先生(大阪市立大空小学校初代校長)は「Howは未来ですね」とおっしゃいました。Howで考えると未来があるんですよ。Canで考えると、できない理由ばかり考えてしまいます。
物事をSuper Howで考えよう

5.「プレイフル」なリーダーになるには

金子:先生のお話を聞いて、「場」を大事にされていて、IではなくWeの関係性の中でプレイフルが成り立っていき個人も組織も豊かになっていく、とすごく感じました。その上でお聞かせ頂きたいのですが・・・今、企業や組織の中でプレイフルスピリットを持って、新しいものを創造したりワクワクするような職場を作り、仕事も楽しみながら成長もして成果を上げていくようなことを、皆さんかなり求められているな、ということを強く感じます。そこではリーダーやチームのマネージャーの影響力が大きいと思います。自分のチームをプレイフルにしていきたいと願っているマネージャーやリーダーの方に「こういうことからまず始めてみたらどうか」といったアドバイスをいただけますか?
すごく大事なことですよね。やっぱり「面白くする」ということかな。プロジェクトリーダーは「プロジェクトそのものにマインドセットを持たせる人」だと思います。Iで考えたら自分の悪いところばかり見えてしまうけれど、Weで考えると視線/アテンションが違ってきます。アテンションはタスクの方に行かないといけないんです。だから「(一人ひとりは)自分のことは棚に上げておいてください」と言います。そうすると、自分は何ができるかできないかを考えずに、そのプロジェクトに自分はどのように関わっていけるかとか、次は何をすればいいかを考えるようになります。
その場合のキーワードは「共同注視(ジョイントアテンション)」です。皆のアテンションをタスクの方に向けるということです。最近、オランダの一部の小学校などで「イエナプラン教育」を取り入れてやっていますが、そこでは、サークル対話が日常的に行われています。これは、お互いの顔をみながら、そして、相手をおもんぱかりながら対話するという姿勢が育まれます。僕はこのサークル対話をヒントにして、創造的対話空間を作っています。それは、サークルの真ん中にプロジェクトがダーン!とあるというイメージで、みんなでプロジェクトを共同注視して、みんなでどう料理するのかを対話しながら考えていこうというものです。
みんなの注意をタスクに向ける「共同注視」
みんなで力を出し合って、自分ができそうなことをサークルの真ん中に放り込むわけです。できなかったら自分のせいにするのではなくて、うまくいかないことは当たり前。その連続であって、それとどう関わっていくか。
「あなた自身は変わりたくなくていいです。でも、プロジェクトはどんどん変わっていかなきゃ面白くないですよ」ということです。プロジェクトが変わって行くと面白くなって巻き込まれていって「自分も変わりたくなってきました」みたいなことになってくると思います。僕にとってのワークショップの目的は創造的対話空間の生成にあります。
僕は、あるとき突発性難聴になったんですよ。専門家に診察してもらったのですが、「先生、僕とコラボレーションしていただけますか?」って提案したんです。僕の突発性難聴という病気を先生と一緒に“共同注視”したかったんです。「この病気を治す方法を一緒に考えて欲しい」と言ったんです。そうしたら、聴こえなくなることの不安に注意が向かなくなり、こっち(=先生とのコラボレーション)の方が面白くなっちゃって。
このプロジェクトを一緒に考えよう、この会社をどう変えていくかを考えよう、もっと面白いことやりましょう、と病気でも会社でも愉快にポジティブに闘ったら絶対よくなる、と僕は信じています。
これからの高齢化社会で、僕と同じような突然の病気などに直面する人がますます多くなっていくと思います。そこで本当に大事なのは高齢者のマインドセットや生きるということに対するアティチュード(態度)だと考えて、同僚の高齢者心理学の先生のプロジェクトに参加して「shared dining」というプロジェクトを始めました。
特に男性の方はお年を召すと引きこもりがちになります。段々栄養のある食事も十分取れなくなって、心身ともに弱っていきます。だから将来コンビニやスーパーの一部がキッチンになればどうでしょう。そこで材料を買って、みんなで作り、食べる。すると、いろんな人と出会うから喋って、すごく楽しい場ができます。材料をシェアする、食べることをシェアする、作ることをシェアするというのはめっちゃ楽しい。喜びをシェアするのです。喜びが循環するのです。例えば自分が作った料理を、食べてもらったら「うまいね、これ」って言われる。すると、もっともっと美味しいものを作ろうと思いますよね。
人間ってそのような楽しさを知っているんです。喜びが循環する、プレイフルスピリットが広まっていくような「プレイフルソサエティ」をつくって行きたいと思います。
喜びが循環する「プレイフルソサエティ」をつくりたい

ネオミュージアムでのワークショップの様子

6.「プレイフルマインド」とは、おもてなしの心

緒方:次は、どのようなチャレンジをされるんでしょうか?
そうなんですよ。あるんです(笑)。
僕のワークショップは、外から見て「頑張ってね」というタイプじゃなくてバーンと自分が入り込んで渦を作っていくような感じです。ただ、音楽の人たちの活動を見ていると、パフォーマンスによって、5万人とか動員できるんです。「音楽家の人たちのように、伝えたいことをたくさんの人にパワフルに伝えたい」という気持ちがあります。
僕は、新しいプレゼンテーションのあり方を開発したい。
「プレゼントフルマインド」という言葉を使って、インターラクティブで参加者のみなさんと共につくりあげていくようなプレゼンをやってみたい。プレゼンテーションってプレゼントじゃないですか。そこには、人に何かメッセージを送りたい!一緒に語り合いたいというマインドに溢れています。
TED talkなどで、一時プレゼンテーションがすごく盛んになりましたけれども、やっぱりone wayですよね。もっと全体を巻き込んだ、プレゼンテーションの新しいステージをつくりたいと思っています。僕は「ステージ拡張理論」という考えを持ってゼミの教育をやってきました。学生たちに毎週ワークショップさせる意味は、ステージ(舞台)に立つという経験をさせているのです。舞台を次々と設定してそこで舞台に立ってパフォーマンスをするということが、意識をものすごく変えるんです。
そして音楽も、もっと使いたい。僕のワークショップの特徴は、盛り上げるために音楽を使っています。音楽って魔法ですよね。大きな音でガーンとかけると、一瞬で空気が変わりますよね。音楽やテクノロジーを駆使したプレゼンテーションをやってみたい。

学びを提供する研修会社さんに、どのようなことを期待されますか?
どうしても研修というイメージが、何か具体的な知識を提供する、どちらかというと机に座ってお話を聞くような風景が思い浮かびます。
だから、「研修」という言葉を変えられないかなと思っています。その言葉を開発できると、気がついたら研修の在り方が大きく変わって行くような気がします。例えば「パーティ」という言葉を使ってみるとか。何月何日研修やりますから皆さんどうぞ、と告知するのと、「めちゃめちゃ楽しいパーティしますからいらっしゃいませんか?」と案内するのでは受ける気持ちも違ってきます。会社の上役から「君、ちょっと研修行って来い」って言われて帰ってきたら「何勉強してきた?」と聞かれるでしょう。でも「パーティ楽しんで来い」と言われたら「楽しかった?」って聞かれるでしょ。「何を勉強してきたの」と聞かれるのと「楽しかった?」って聞かれるのとは、気持ちが全然違いますよね。
以前に観た番組で、京都の板前さんが「“美味しかった”と言って帰って頂いたら80点です。でも“楽しかった”と言って頂いたら100点です」っておっしゃっていました。そういう研修のあり方が良いですね。僕はワークショップが研修型になったとき、イメージしていたワークショップとは全然違うものになってしまった、と感じました。
セサミストリートが作っていたワークショップは、まだ誰も見たことない実験的な試みだったんです。実験的マインドがないとワークショップは楽しめない!
実験的マインドがないとワークショップは楽しめない!
もうひとつ大事なのは「食べ物」です。但し、がっつり食べるのではなくて飲み物やお菓子類。“フード”というのは最高のソーシャルメディアなんです。
僕はいつもワークショップの時に、フード・アーティストの人に飲み物やスナックのオーダーと共にコンセプトをお渡しします。そして、その方がどのように作品にコンセプトを埋め込んだのかを話してもらうことで、研修はめちゃめちゃうまくいきます。
つまり美味しいお菓子と飲み物を丁寧にちゃんと作ってもらって、コンセプトも入ってそのプロセスを作ってきた人がご披露すると、ワークショップに参加した人たちに「私達のために、こんなに考えてくださっているのか」と思うんです。あなた方に創造的な体験をしてもらうために、この会をちゃんと準備をしている人たちがいて、おもてなしをしているんです、ということが伝わります。
そのような「おもてなし」によって、会社のカルチャーも変わります。美味しいコーヒーが出たり、オーガニックのフルーツが冷蔵庫を開けたら溢れていたりなど。それが会社のカルチャーコード(規範)を生み出しますし、そのための「道具立て」が大事だということです。「プレイフルスピリット」とは、おもてなしの心みたいなものだと思っています。
「おもてなしの心」が会社のカルチャーを変える

金子:今日は本当にありがとうございました。私の原体験の話をさせて頂くと、父親がジャズのドラムをやって飯を食ってきた人間なんです。そういう家庭に育った自分のDNAがすごく今日は揺さぶられた感じがしてました。父親は元々プレーヤーとしてドラムをやっていたのですが、あるところから子どもなどに教える側に回ったんです。音楽は「音を楽しむ場」であり、そういう場を作ることが自分の仕事なんだということを父親はやっていました。その原体験と今の仕事が結びつき、自分自身のキャリアが意味づけされすごく勇気をいただきました。これから企業の中にもプレイフルが本当に大事になってくるんだ、ということを腹落ちいたしました。
ありがとうございます。嬉しいです。お父様という、そんな近くにすごい人がおられるんなら、僕も弟子入りしたい。
「ジャズ」は重要なキーワードですよ。1人でやっていても面白くない。バンドの中のインタラクションが起きて、作っている音楽にみんなが注視して、自分がちょっとかっこいいコードを弾いてみたときに、「おぬしやるな」みたいなね。それが楽しいじゃないですか。つまり、演奏してるんじゃないんですね。場が演奏させてくれているんです。良い場を作れる仲間がいると、どんどん自分のプレーが上がってくるんです。それがジャズの予定調和じゃない面白さです。毎回スリリングなライブステージを味わっているんですよね。それがライブのパフォーマンスの面白いところで、舞台に上がったら何が起こるかわからないから、そこで思いっきり遊んでくるっていう感じですよね。
そうだ!研修じゃなくて「セッション」という名前に変えたら?

金子:「研修に行ってくる」ではなく「セッションに行ってくる」ですね。
そうそう。「セッションをやりましょう」って言ったら「あなた方も(観客ではなく)演奏するんです」ということになりますよね。

緒方:楽しく有意義な時間をありがとうございました!
インタラクティブなやりとりから新しいものが生まれる「場」って、改めて大事だなと思いました。この2・3年、結構閉じこもりがちな生活だったので、これからは色々な場に顔を出したいと思います!
慎重派で、人一倍、失敗をおそれるタイプなのですが、今日、growth mindsetや共同注視の考え方を教えていただき、新しい一歩を踏み出すのが、ちょっと怖くなくなった気がします!

酒井:本当にこの1時間半があっという間でした。「プレイフル」って時間があっという間に過ぎることなのかな、と感じております。
ありがとうございました。とても楽しかったです!