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キャリこれ

テクノロジーの進化に、 若手人事メンバーはどのように向き合っていこうとしているのか?(前編)

インタビュー

2023.8.7


先だって、大手企業複数社の若手人事メンバー及び日本マンパワーの若手が参加する他流試合プログラム「企業間越境大学」が開催され、その中で行われた「(Web3やメタバースなどの)テクノロジーの進化が働くことや組織に及ぼす影響」をテーマとした講演が大きな反響を呼びました。
それを裏付けるように、最終回で実施された「10年後のHRのありたい姿」についての提案会では、なんと全チームがテクノロジーを活用する提言をしました。
なぜ、それほどのインパクトがあったのか、テクノロジーの変化によって働き方や組織がどのように変化し、人事の仕事はどのように変わっていくと感じたのか。
プログラムに参加された皆さんに、座談会で率直に語って頂きました!
(当記事は2023年6月28日に行った座談会の内容をまとめたものです)
【座談会参加者】
荒田翔子さん:
パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 採用部 企画課
大鉢 空さん:パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 アビオニクス人事課
鳥居大路 翔太さん:オリンパス株式会社
HR Tokyo Site Human Resources and General Affairs, Japan
鈴木逸保:株式会社日本マンパワー 人材開発第1営業部
*聞き手・記事執筆 酒井 章(キャリアのこれから研究所プロデューサー)

1.まず、現在のお仕事についてご紹介頂けますか?
荒田さん(以下敬称略):
私は2017年に入社をして以来、ずっと人事の仕事をしています。最初の2年弱は、事業場専属の人事として社員の皆さんの支援や労務関係の仕事をしていました。それ以降は新卒採用業務に携わってきましたが、この4月から少しミッションが変わり、現在は障がいのある方の採用や大学との産学連携を推進する仕事をしています。
大鉢さん(以下敬称略):荒田さんと同じくパナソニック コネクト株式会社で人事をしています。仕事としては、航空機内向けエンターテインメントシステムに関わるアビオニクスビジネスユニットのHRBPとして事業人事担当をしています。その中で組織開発、人材育成やキャリア採用をメインに、異動や人の動きについての業務をしています。7月から、ダイバーシティを推進しているDEI推進室の兼務になる予定です。
鳥居大路さん(以下敬称略):私は、入社して最初の職場は総務でしたが、現在は人事で主にプロジェクトマネジメントや、オフィス再編におけるハードとソフトの両方の構築をしています。あと、労働組合の執行委員も兼務していまして、ちょっと尖ったキャリアかなと思います。
鈴木: 私は2014年に日本マンパワーに入社をして、最初は社内で研修スタッフの仕事を約1年半していたのですが、2015年10月から営業配属になり、さまざまな企業の人事の方々のお話を直接聞く機会が多くなりました。
2015年当時と比べますと、お話の内容が、さきほどのダイバーシティ(多様性)をはじめ、すごく変わってきたと感じています。特に最近は、人的資本経営の話題が多いのですが「人は管理するのではなくて投資するもの」という視点から、経営として人に注力していくことに着手されている会社様と、そういうところにノータッチの会社様と二極化しているような印象を受けています。
―――皆さん、グローバル化やテクノロジーといったところに密接な関係がありそうですね。
今日は、人事スタッフという立場と、若い世代のいち働き手あるいは生活者という立場からお話を伺えればと思っています。

2.先だって企業間越境大学に参加された中で、Web3とメタバースについての講演がありました。
これについては、私の想定以上に皆さんにインパクトがあったと感じていますが、どのように感じられたのかお話し頂けますか?
荒田:
私は、これまでデジタルの世界にあまり明るくなかったこともあり、すごく衝撃を受けました。そして、期待と危機感のようなものを感じました。まず期待という点では、私達のチームの最終発表でもメタバースのことを「サードプレイス」という言葉で置き換えて提案しましたが、「自分が他にも輝ける場所があるかもしれない」、「年を取った方ができることが増えるかもしれない」、「都会にいなくても人とより密接に繋がることができるかもしれない」と、世界が広がっていく感じがしました。
危機感という点では、この世界を知っている人は有利だなと思いました。例えばお金を稼ぐ方法も、メタバースの領域に強い人と弱い人では知識の差によって稼ぐ力の格差が生まれていくので、今からしっかり勉強して、デジタルの世界のしくみを理解している側にいなければならない、と感じました。調べれば調べるほど世界が広がっていくだけに「面白いな」で止まってしまいがちなので、まだまだ勉強が足りません。
鳥居大路:
私も講演を受けるまでは、ざっくりとWeb3.0やメタバースというワードぐらいを知っているレベルでした。講演を聞いて、働き方とライフスタイルの両面で変わっていくと思いました。働き方については、いわゆるDAO(分散型自律組織)が出てきて、中央集権だったものが各々が一緒にやりたい人とプロジェクトを立ち上げるようなスタイルになっていくので、個人で活躍する人も今後増えていくのかもしれない、とすごく感じました。
また、オフィスのプロジェクトに携わっている立場として、リアルがメタバースのようなバーチャル空間に代替されるということも容易に想像できるようになりました。その一方、リアルってやっぱり大事だなということは、コロナを経験して痛感した部分なので、全てがメタバースに置き換わるわけではないだろうな、とも思いました。
ライフスタイルや遊び方については、バーチャル空間はすごく面白そうだと思う一方、私自身がアウトドアが好きなので、バーチャルが流行る反動として自然や田舎に対するニーズもより高まっていくし、それに対応した新たなビジネスが逆説的に生まれるかもしれない、と感じました。
大鉢:
私も、この講演を聞くまでは、メタバースとかよくわかってないなという感じでした。でもお話を聞いて、いろんな考え方や世界があるんだな、という学びを得ました。その一方、どのように業務に生かしていくのかは難しいなと改めて感じました。特に人事領域は、人と人との関わり合いの中での業務なので、どうやってバーチャル空間を取り込んでいくのかの判断はすごく難しいと思いました。
先ほど鳥居大路さんもおっしゃっていましたが、弊社も原則3日以上出社を規定付けられたり、Face to Faceでのコミュニケーションを大切にしましょうという発信があったり、メタバースとは真反対の世界観も必要とされています。なので、Web3やメタバースについての知識を、うまく自分のものにしていく上でのハードルもあると感じました。
鈴木:
私も、講演を聞いて初めて知った世界ですが、後から振り返ってみると「これってゲームの世界だったら結構前からあったな」と感じました。でも、なぜ今これだけ盛り上がるんだろう?と思ったときに、以前は会社や仕事への活用の幅が開拓されていなかったものが、今は市民権を得てきたんだと感じています。だからこそ活用の幅も、今後どんどん広がっていくのかな、と思っています。

3.最終的に皆さんのチームは、「個人が働きがいのあるカルチャーを作る」という提案をされましたが、そこにどのような思いがあったのか、どういうディスカッションがあったのかなど、お聞かせ頂けますか?
鈴木:
大きく2つあったと思っています。1つは、今の会社や仕事に引っ張られないで新しいチャレンジができるエリアが作れたらいいよね、新しいコミュニティができたらいいよねという想いがチームにありました。
もう1点は、確か鳥居大路さんが強くおっしゃっていたと思うのですが、そこのエリアでの行動や活動が評価されるようになるといいよね、という話になって。サードプレイス空間で活動しても、それが評価されないと場も活動も活性化しないので、プラスの評価をつけることによって場としての意味合いも広まっていくのではないか、といったディスカッションをしながら提案がまとまっていきました。
―――鳥居大路さんは「評価される」という点になぜ着目されたんですか?
鳥居大路:
周りの社員と今まで話をしていく中で、ビジネスパーソンの宿命として評価されざるを得ない、でも「きちんと評価されているのか」については疑問に思うという声もたくさん聞いてきました。
また、我々の会社が職務(ジョブ)型に移行したので、なおさら評価が重要なファクターになっていきます。なので、成果とそこまでのプロセス、つまり成果評価と行動評価の二つがしっかり見える化できれば、評価者もきちんと評価できるんじゃないかと思いました。講演で、ブロックチェーンは透明性がすごく高いというお話を聞いて、そうした技術が活用できるのではないかなと思ってアイデアを考えました。
―――メタバース空間の中で、あるべき透明性のある評価を作ることによって、逆に本業にも還元されることになれば良い、ということですね?大鉢さんはいかがでしたか?
大鉢:
もうひとつポイントとしてあったのが、メタバース空間だと本来の自分の属性がわからず、社長とも近い距離で話すことができたり、上司部下の関係もオフィス(リアル)とは別の関係性をつくれたりするかもしれない、と講演でお聞きしたことです。先入観なく自分のスキルを純粋に活かせる空間、同じ想いを持った人と一緒に頑張れる空間であれば、本領が発揮できる個人の働きがいに繋がるのではないかと話し合ったことがすごく印象に残っています。
会社の中だと、その人が持っているスキルがある程度わかる分、忖度が生じることもあると思いますが、メタバース空間だとそういった忖度が無いので、これまでとは異なるやりがいの感じ方などが生まれるのではないかと話し合いました。
荒田:
すごく印象的だったのは、取り組み案を出し合う段階でテクノロジーやメタバースといった言葉に縛られ過ぎて議論の幅が狭くなってしまっているから広げてみよう、という意見が出たことです。そして、「働きがいってそもそも何だろう」という各人の想いを出し合って本質に立ち戻り、最終的にメタバースを提案に組み込みました。

4.本質に立ち返ったところから、改めて客観的にテクノロジーを考えてみたという道筋はいいですね。本質に立ち返ったときに、改めてテクノロジーやメタバースについてどのように感じられましたか?
荒田:
企業間越境大学のテーマは「10年後のHRをつくる」だったので、現在の人事の仕事の中で、無くなっていく仕事と無くならない仕事は何かを考えました。人事という仕事は無くなって欲しくないと個人的には思っていますが、業務単位で見ると無くなる仕事はたくさん出てくると思うので、その分人事社員は何に時間を充てていくのかを考える必要もあると思います。
そんな状況も踏まえながらチームで検討を進め評価制度とセットになったサードプレイスの整備をすることが、もしかしたら10年後の人事の仕事かもしれないという結論に辿り着くことができました。
鳥居大路:
荒田さんがおっしゃったように、本質に立ち返って考えていく中で、結局テクノロジーってツールでしかないですし、それをどのように人が使っていくのかがすごく大切なんだと思いました。
“働きがいとは何か”と考えた時に、「自由」や「責任」や「承認される」といったキーワードが出てきました。でも、今の働く現場では、人と比べることでしか感じられない尺度が多くて、なかなか本来の働きがいを感じられないのも事実です。
なので、10年後にそうした状況を変えるために何か突拍子もないことをやりたいなという想いが生まれてテクノロジーやメタバースを取り入れた提案をしましたが、でも結局テクノロジーを使うのは人なんだということも感じました。
大鉢:
私も、人事の業務の現場でどのようにテクノロジーの活用するのか、その判断は知識があることが前提だと思いました。まずはツールとしての特徴や強みを知った上で、どこで活かしてどこで活かしていけないかを考えることが重要だと感じました。
鈴木:
テクノロジーって、我々の知らないところでどんどん開発されていて、生活の場に出てくるまでにすごく時間がかかりますよね。知る知らないというだけで情報格差が生まれますし、表層的な知識だと活用の幅が広がらないと思います。Webやメタバースを誰もが簡単にできるようになっていく世の中では、どのように自分たちの目の前の仕事に使えるようにするのか、という思考のトレーニングをしていく必要が人間サイドにあるのだと思います。
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