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キャリこれ

テクノロジーの進化に、 若手人事メンバーはどのように向き合っていこうとしているのか?(後編)

インタビュー

2023.8.7


大手企業の若手人事メンバー&日本マンパワー若手社員で、「テクノロジーの進化により、働き方・組織がどのように変化していくのか」そして「人事の仕事はどのように変わっていくと感じたのか」を話し合った座談会。
記事後編をお届けします! *前編は、こちら
【座談会参加者】
荒田翔子さん:
パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 採用部 企画課
大鉢 空さん:パナソニック コネクト株式会社 人事総務本部 アビオニクス人事課
鳥居大路 翔太さん:オリンパス株式会社
HR Tokyo Site Human Resources and General Affairs, Japan
鈴木逸保:株式会社日本マンパワー 人材開発第1営業部
*聞き手・記事執筆 酒井 章(キャリアのこれから研究所プロデューサー)

1.テクノロジーを働くことやキャリアにどう活かしていくか
―――では、ここからはテクノロジーを、働くことやキャリアにどのように活かしていくか、接続していくかについてお話を聞きたいと思います。
パナソニック コネクトさんは、OpenAIの大規模言語モデルをベースに開発した自社向けのAIアシスタントサービス「ConnectAI」を導入されたり、入社式のときに樋口泰行社長がアバターで登場してConnectAIが作成した挨拶原稿で話されたりしていましたが、実際に社員の皆さんも使っていらっしゃるんでしょうか?
荒田:
ChatGPTの話題が急速に広がった時期とほぼ同じタイミングで、自社のAIアシスタントサービス「ConnectAI」が展開されました。私も業務で情報収集をする時や、言葉の一般的な定義を知りたい時など、ConnectAIに質問をしながら業務を行っています。
また、今年度の入社式にも参加しましたがConnectAIを活用したプログラム内容であり、新しい世代の方や世間の方々に当社の取り組みを知って頂く機会にもなったと思います。

―――トップが自ら率先してテクノロジーを活用されているのは、大きな意味がありますよね。大鉢さんも事業部人事としてConnectAIを使われていますか?
大鉢:
私の事業部はアメリカに本部があるので、英語でメールやチャットを送るときにConnectAIに添削してもらったり、組織開発や人材開発の業務を行う時に、一般的にどういうフレームワークで進めていくのかを聞いてみたりしています。
最近、当事業部に配属される予定の新入社員とコミュニケーションを取る機会があったのですが、クライアント企業様への提案をするソリューション研修の中でもConnectAIを参考に使って考えましたと言っている人がいました。これまでの研修だと、どうしていいのかわからないと立ち止まってしまうような場面でも、テクノロジーを活用することでハードルも下がるのか、と私自身も勉強になりました。
―――今の大鉢さんの話を聞いて、今後の研修のあり方も変わってくると思うんですが、鈴木さんはどう感じましたか?
鈴木:
外部の教育ベンダーっていらなくなるんじゃないか、という危機感を持ちながら、もっともっと専門性を高めていかないといけないと改めて考えさせられました。
―――オリンパスさんでも、テクノロジーを活用されていますか?
鳥居大路:
IT部門では、トラブルがあった時にチャットボット(AIによる自動会話プログラム)を活用した運用などを行っていますが、ChatGPTのような生成AIなどは、まだ使っていないですね。

2.人事スタッフとしてテクノロジーとどう向き合い、どう使いこなしていくか
―――では次に、人事スタッフとしてテクノロジーとどう向き合うか、どう使いこなしていくかについてお話し頂けますか?荒田さんは今、採用業務や学校連携などを担当されていますが、今後人事スタッフとしてテクノロジーとどのように付き合っていったら良いか、使っていったら良いか、現時点で感じられていることなどありますか?
荒田:
新卒採用の領域では、すごく尖った特殊な才能をお持ちである方とか、障がいがあるけれどもある領域において非常に強みを持っている方などは、適性試験の点数には反映されない部分も出てくると思います。もちろん、その結果のみでの判断や採用はしませんが、決められた試験や面接では一律に測り得ない力を見つけるような方法を考える必要があると思っています。
例えば、これまでの経験やスキル、価値観といったパーソナル情報がどこかで常に開示され、企業人事がダイレクトにアプローチをしてみるような世界が今後生まれたら良いのではないか、と感じます。会社が成長し続けるためにも、多様な力や価値観を持った人が集まってくれるような、発信方法や採用のしくみを模索していく必要があります。
―――採用のあり方自体が変わっていくということですね。
大鉢さんは事業人事で、今後キャリア採用やダイバーシティの方を担当されていくわけですが、その視点からテクノロジーとの付き合い方をどう考えていますか?
大鉢:
HRBPの立場としては、より事業に近いところで戦略を立てながら、人事の立場でサポートしていくことが大きなミッションになります。
提案をしていく中で、人事って結構数字で語りづらい部分があるために、定性的なデータでいかに説得するかになりがちなんですが、テクノロジーを活用してデータ分析をしたり、強固なエビデンスを示しながら経営幹部に提案したりできる、今までとは違う人事戦略の在り方が生まれるかもしれない、と思っています。
―――特に、人的資本経営の文脈だと、経営と人事の連携がより必要になってくるので、今おっしゃられたようなポイントは非常に重要になってきますね。
鳥居大路さんはいかがですか?プロジェクトマネジメントの面でも、テクノロジーの必要性が増してくるのではないでしょうか?
鳥居大路:
間違いなく感じているのは、いわゆるオペレーション業務的な部分はAIに食いつぶされる。それが間近に迫ってきている中で、働く上で必要となる資質、特にソフトスキルの部分が変わらないといけないと思っています。
単純なマネジメントは今後AIに代替されていくと思うので、部下をモチベートするようなコーチングのスキルやコミュニケーションの部分のスキルを付けていかないといけないでしょうね。また、1から10にすることはAIが得意とする部分だと思いますが、逆に無理だと思われる0から1をつくる能力を高めるために、いろんなことに挑戦して失敗して、知見を深めていかないといけないと個人的に感じています。

3.キャリア領域のソリューションを提供している立場から思う「テクノロジーとの付き合い方」
―――鈴木さん、今3人の話を聞かれて、さまざまな業種業態の方々の研修や、キャリア領域のソリューションを提供されている立場から、今後どのようにテクノロジーと付き合って、活用していったら良いと思いますか?
鈴木:
お三方のお仕事の中に、必要にかられてAIなどのテクノロジーが流れ込んできていることが、よくわかりました。ただ、必要になることでモチベーションが高まる人もいれば、やらされ感のようにテクノロジーに触れている人も一定数いるのだと思います。
なので、テクノロジーに対する興味を喚起したり、個人の「面白そう」とかワクワクとか、「自分はこれをやってみたいんだ」という気持ちを促し育んだりするような働きかけが、もっと必要になるんじゃないかと感じています。なので、企業や組織単位だけではなく、一人ひとりにフォーカスしたワークショップももっと増えていかなければいけない、と思いますね。

4.ジョブ型雇用などの流れもあって、学びがパーソナライゼーション(個別化)していくことに伴い、企業の中にも“学びのコミュニティ”が生まれていくかもしれないですね。
では皆さん、仕事の立場を離れてテクノロジーを使うとしたら、社会の中で実現してみたいことはありますか?
鈴木:
いまは、YouTubeのような動画も、ワンウェイ(一方通行)ですよね。DAOの中で著名人が登壇して、双方向・リアルタイムでコミュニケーションができるプラットフォームをつくるような取り組みの一翼を担えるようなことができたら面白いなと思います。
鳥居大路:
僕は教育に興味があるので、一方的に何かを提供するというより、メタバース空間の中で子どもたちと一緒に勉強をしたり遊んだりしたいですね。
大鉢:
私も勉強に使いたいなと思っています。特に英語などの外国語ですね。英会話ってすごく敷居が高いような気がしますが、言語の壁を越えてコミュニティで一緒に喋って一緒に勉強していくことができるような場がテクノロジーで実現すると、言語へのハードルも低くなってスキルアップも容易になると思っています。
荒田:
私はアートや芸術、中でも演劇にすごく興味があります。演劇って生(ライブ)だからこその良さを売りにしていますが、例えば、映像や配信を観るという体験を越えて、日本にいてもブロードウェイの作品をリアルに楽しめるような世界をテクノロジーで実現できたら良いと願っています。だからこそ、現地に行って生の芸術に触れることは最高だと一層思えるようになるでしょうし、ライブとバーチャルの両面を味わえるような世界が実現できたらいいな、と想像しています。
―――最後に、お話し頂いて、今感じられてることを一言ずつお話しいただけますか?
鈴木:
企業間越境大学のプログラムが終わって少し時間が経っただけで「自分のアンテナが弱ってきている、いかんな」と正直に感じました。アンテナを立てることで情報収集の力を持続できるでしょうから、意識的に立て続けて、どんな変化にもすぐに対応できる人間になりたいと、改めて想いました。
荒田:
このようなアウトプット(意見を言う)場を普段からつくっておかないといけないなと思いました。テクノロジーに関するトピックスをただ眺めて追うだけではなくて、意識的に興味を持って積極的に周りに共有しないと、変化のスピードに置いていかれるな、と強く感じました。
鳥居大路:
今回の座談会に向けてWeb3などの動向をチェックしたのですが、ほんの数か月前に講演で聞いた時よりも、かなりChatGPTなどのテクノロジーは更に普及していると感じて・・・。自分の仕事の質を変えていかないといけない、茹でガエルにならないように自分もしっかりスキルを磨き直さないといけない、と思いました。
大鉢:
本日の場では、ConnectAIの事例を取り上げて頂きましたが、多くの会社でそれぞれにテクノロジーの開発が進んでいくのだと思います。なので、アンテナを張りながら、外部との関わりを積極的に作っていきたい、と改めて思いました。

5.座談会を終えて
お話し頂いた皆さんの言葉からは、未知のものに素直に驚きながら、それを恐れることなく果敢に取り入れ、しかし「働きがいとは」という本質を決して見失わずに来るべき変化に対処していこうとする、あるいはテクノロジーを活用しながら変化を自ら起こそうとする想いを感じました。
こうしたあり方が10年後の企業や働き方を寄り良いモノにしていくのかもしれません。
「知性とは、驚く能力のことである」というのは、フランスの哲学者ロラン・バルトの有名な言葉ですが、未来を担う皆さんから、私たちがAI(人工知能)と向き合っていく、人間としての知的な在り方への気づきを得ることができるのではないでしょうか。